第5号
「決算検査報告書」 管見
鈴木 豊
鈴木 豊
(亜細亜大学教授)
1945年,東京都生まれ,明治大学大学院商学研究科博士課程単位取得修了,昭和43年度公認会計士第3次試験合格,現在,亜細亜大学・日本経済短期大学(部長)教授,会計監査論専攻,日本会計研究学会,日本監査研究学会等に所属。主な著書等「会計上監査論—監査の質的管理の研究」,「行財政改革と監査(共訳)」,「地方自治体監査(共著)」,「比較税金学」等
はじめに
国の最高検査機関たる会計検査院の会計検査は,国家予算の増大により,また国民の側からの公正性および公平性の要請からもその目的および機能について近年種々の提言を含む議論が生じている。これは,わが国のみならず諸外国でもまた企業会計における会計監査においてもその質的問題という観点では同様の課題となっている。「会計検査」あるいは「会計監査」は,その全過程を経て最終結果として「検査報告書」あるいは「監査報告書」が作成される。この報告書の良好性は,検査あるいは監査の全過程からの結果である。そこで本稿では,会計検査の基礎的概念および品質管理(Quality Control)を諸外国の例および会計監査論の立場も参照しながら検討し,わが国会計検査院の「決算検査報告書」によって外部利用者の視点をもってその会計検査実践を推量し,会計検査報告書の現代的課題を明らかにしたいと思う。
Ⅰ 会計検査の類型
国家の会計検査院の会計検査の役割について,その目的や機能に関連して一般的類型化を試みることが可能であろう。
まず,会計検査の目的は,種々の要素によって異なるが,特に国家の制度的な歴史によって影響を受けるものであり,また,いわゆる会計と監査の関係史,そして政治,財政,経済制度および国民性にも影響を受けているが,一般的な目的類型はつぎのようである。
(第1類型)不正誤謬の発見・防止検査
(第2類型)決算,財務会計検査
(第3類型)合規性(準拠性)検査
(第4類型)経済性検査
(第5類型)効率性(能率性)検査
(第6類型)有効性(業績評価)検査
(第7類型)政策妥当性検査
諸外国,特にアメリカ,イギリス,カナダ,オ—ストラリアでは,第1から第6類型が種々の定義付けはあるが実施されつつある(注1)。
わが国会計検査院においても,第2・3類型が大きな割合を占めているが,第4・5・6類型ヘと重点変化を示している。なお,第7類型については,行政上の政策自体の検査であり,これは政策,施策,政府事業自体の公正性,公平性,民主性等についての判断を必要とするアプローチであり,本質的な政府会計検査の最終目標ともいえるであろうが,現在は,検査対象の是非という根本的な要件から議論されている。
会計検査の機能も,会計監査論で論じられる批判的機能がその中心とならなければならない。しかしながら,検査目的の類型の中には,必ずしも批判的意見たる正否あるいは適否の意見になじまないものもあり,つぎのように類型化することが合理的と思われる。
(第1類型)批判的機能
(第2類型)指導的機能
(第3類型)社会的評価機能
第2類型の指導的機能は,会計監査論で論じられる第2次的機能であるが,会計検査では,特に,経済性,効率性目的に有用であろう。第3類型の社会的評価機能は,有効性検査あるいは政策妥当性検査に有用である。すなわち,この領域は,その評定(判定)基準が,通常,標準指標や統計的指標が用いられるために全体的,社会的なレベルでの評価が中心となると考えられるからである。
検査意見のレベルの問題は,会計監査論では,発見された指摘事項たる限定事項の重要性の大小によって無限定適正意見,限定付適正意見および反対(否定的)意見として確定的(確証的)意見として表明される。しかし,会計検査では,特に,目的の第4・5・6類型については,前述の機能とも関連して,確証的意見レベルではない種々の意見水準が考えられる。類型化するとつぎのとおりである。
(第1類型)確証的意見レベル
(第2類型)指標的意見レベル
(第3類型)情報提供的意見レベル
有効性検査および政策妥当性検査においては,特にこの第2・3類型が有用となるであろう。すなわち,第2類型は,標準あるいは基準指標により有効性の評価を行う場合や,さらに第2類型レベルの意見が困難な場合には,情報提供的レベルも,行政あるいはその効果に対して関心あるいは関係のある受検機関(被検査機関)にとっても有用なものとなる。
検査報告書は,前述したような意見の種類により相違してくる。すなわち,意見報告のみではなく,経済性・効率性・有効性・政策妥当性に対する評価では,問題点の指摘と改善あるいは情報提供もあり得る。検査報告書の意見レベルの類型によりつぎのように分類される。
(第1類型)意見報告書
(第2類型)改善勧告報告書
(第3類型)情報提供報告書
また,様式については,会計監査論は,短文式報告書が通例であるが,会計検査の目的第4・5・6類型においては,主として長文式報告書が用いられる。
Ⅱ 会計検査基準と品質管理基準
会計検査報告書は,会計検査の最終成果であり,これには,調査官(検査を担当する者)が実施した検査基準,検査手続,検査証拠そして検査意見というすべての検査過程が要約されて記載されている。会計検査報告書の良否は,そのまま検査過程の良否でもある。会計検査課程の良否は,会計監査論において近年,重要な課題となっている品質管理(Quality Control)いかんにかかっている。そこで制度的背景はあるが,一つの参考として米・英・加の特に会計検査実施および検査報告のQCの基準と手続,特に有効性の検査手続を検討してみる。
1 アメリカにおけるQC基準と手続
アメリカにおける会計検査の基準は,会計検査院(GAO)と公認会計士協会(AICPA)が主として設定,研究している。アメリカにおける検査証拠と効率性・有効性検査プロセス(表1),報告のQCレビューチェックリストおよび勧告事項の要約表作成の要点はつぎのとおりである。
(1) 検査証拠
まずAICPAとGAOで一般的に用いられる証拠はつぎのものである(注2)。
①物理的証拠(physical)
②供述的証拠(testimonial)
③文書的証拠(documentary)
④分析的証拠(analytical)
効率性・有効性検査と財務会計検査における証拠の収集に違いはなく,その用いられ方に違いがあるのであり,十分性(sufficiency),適格性(competence),目的適合性(relevance)という検査証拠の要件に合致していることが必要であるとされる。
(2) 報告に関するQCレビューチェックリスト
検査報告書のQCレビューのポイントはつぎのとおり(注4)。
A.様式
① 文書化された報告書が検査結果に対して提示されているか?
② 検査機関の規定した様式および手続が,報告書作成に当たってフォローされたか?
③ 検査が,一般に認められた政府検査基準に合致してなされたことが報告書に記載されているか?
B.配布
① 検査報告書の控が,検査を必要としている,あるいは調整している当該機関の,あるいは政府の適当な公務員にも配布されているか?
② 検査報告書の控が,検査の発見事項および勧告事項に対して行動をとるべき被検査機関の担当責任公務員に配布されたか?
③ もし,法律によって制限されなければ,公的検査にとって控は有用であったか?
C.適時性
① 検査報告書が,一定の日に要求されている場合に,この要求に合致していたか?
② 検査報告書は,検査結果について対応をとろうとしている被検査機関の立法府および管理責任者にとって十分であったか?
③ 検査期間中に非常に迅速に矯正活動をとろうとする公務員と主要な検査発見事項について議論したか?
D.内容
① 検査報告書は,検査目的を要約した報告事項となっているか?
② 検査が実施されたその内容,場所,期間が報告書に記載されているか?
③ 検査報告書は,検査の諸要素(会計・準拠性・経済性・有効性評価)が,各々の範囲について実施されたことを提示しているか?
④ 検査報告は,可能な限り簡潔に明瞭にそして理解する上で充分に完全に報告しているか?
⑤ 問題点について明瞭で,単純な用語が使用されているか?
⑥ 検査発見事項と結論が客観的に提示されたか?
⑦ 報告書における意見と結論が明らかに検証されたか?
⑧ 検査報告書は,過去の非難よりも改善点について主たる強調点を示しているか?
⑨ 被検査機関の考え方が,最終報告書において,検討され提示されたか?
⑩ 重要な管理責任者の業務実施状況について,検査報告書に記載されているか?
⑪ 報告書・資料は実際的に公正に表示されたか?
⑫ 検査報告書は,確信された提言を行うための十分なそして詳細な根拠的情報を記載しているか?
⑬ 検査報告書は,検査において指摘された問題点の基礎的な原因について情報を記載しているか?
⑭ 検査報告書は,報告された問題点を矯正するための活動に対する勧告内容を記載しているか?
⑮ 検査報告書は,検査官あるいはその他の専門家のさらなる研究および検討が必要とされる問題点や質疑を検証しているか?
(3) 勧告事項の要約表の作成要件
GAOにおける勧告事項の要約のポイントはつぎのとおり(注5)。
① 4ページに制限せよ。
② 情報の繰り返しは避けよ。
③ 基本要素間に明瞭な連けいが確立されていることを確保せよ。
④ 「目的」,「簡潔な結果」,「主要な発見事項/GAO分析」および「勧告事項」の基本要素の連けいは並列的でなければならない。
⑤ 主要なメッセージを明瞭に,正確に,公正に示せ。
⑥ 公平的,分析的,職業専門的調子を維持せよ。
⑦ 非常に技術的な用語を避けよ。
(ⅰ) 専門用語の代りに通常知られた用語を用いよ。
(ⅱ) 避けがたい専門用語は単純な用語で定義せよ。
⑧ 通常的に用いられない略語を避けよ。
(ⅰ) 最初に使われた時の頭文字は説明せよ。
(ⅱ) 「委員会」あるいは「機関」のような略語への代替を検討せよ。
⑨ 長く狭いよりも簡潔に,そして複雑で理解困難なものを示す場合はグラフ/チャートを用いることによって基本メッセージに対する読者の注意に焦点を合せよ。
⑩ GAOの指標や理由を示せ。
⑪ バランスのとれたセンスを維持せよ。
⑫ くどい表現を避けるために弾丸的に用いよ。
⑬ 第三者構文を用いよ(「われわれが勧告」したよりも「GAOが勧告」する)。
2 イギリスにおけるQC基準と手続
イギリスにおける会計検査の基準は,会計検査院(NAO)と地方政府については監査委員会(AC)が主として設定,研究している(注6)。イギリスにおける検査証拠,検査官倫理基準およびVFM検査の有効性検査チェックリストはつぎのとおりである。
(1) NAOのVFM検査証拠
検査証拠の合理的基礎はつぎの3つの要素であるとされる(注7)。
① 目的適合性(Relevance)
証拠としての情報は,最新時の有効なデータであり,課題事象と論理的,実質的な相互関係のあるものでなければならない。
② 信頼性(Reliability)
証拠の有効性あるいは完全性について何らかの疑いのある原因が無いこと。
③ 十分性(Sufficiency)
証拠は,検査官として同じ結論に合理的人間を導くために十分なものでなければならない。その判断基準は,(イ)検査官の知識,(ロ)重要性,(ハ)リスクの程度,(ニ)説得性,(ホ)権威,(ヘ)異議の可能性であるとされている。検査証拠の種類として挙げているものは,①文書的証拠,②分析的証拠,③陳述的証拠,④物理的証拠,⑤ファィル調査,⑥分析,⑦質問,⑧視察,⑨外部文書,⑩スペシャリストの助言,⑪実態調査である。
(2)NAO検査スタッフの職業専門的および倫理基準
NAOの倫理基準はつぎのとおり(注8)。
① 一般基準
すべての検査担当スタッフはこの基準に準拠しなければならない。
② 妥当性および誠実性の基準
業務の実施および被検査機関との相互関係において職業専門的および個人的行為に関して高度の基準を保持しなければならない。
③ 独立性の基準
スタッフは,被監査機関に対して独立性がなければならないし,独立的態度を保持しなければならない。
④ 客観性の基準
スタッフは,公平的に,客観的にその業務を実施しなければならない。
⑤ 建設性の基準
スタッフは,その業務および相互関係について建設的および積極的アプローチを適用しなければならない。
⑥ 熟練性の基準
スタッフには,職業専門的適格性と知識の維持と発展が要求される。
⑦ 合理的な注意の基準
スタッフは,検査業務の計画および実施,証拠の収集と評価,発見事項の報告のすべてについて合理的な注意を払わなければならない。
⑧ 機密性の基準
スタッフは,検査業務過程において収集された情報の機密保持に注意を払わなければならない。
⑨ 業務の経済性,能率性,有効性の基準
スタッフは,業務実施に当たりNAOが,被検査機関の資源を利用することに関する経済性,能率性および有効性を改善するために努力しなければならないことが要求される。
(3) NAO・VFM検査の「有効性」のチェックリスト
NAOの有効性検査のチェックリストはつぎのとおり(注9)。
A. 目的
① 組織の目的は明確か?
② 目的は政策方針に変換されているか?
③ 政策方針は当該組織の職務と目的に合致しているか?
④ 目的は明確に定義されているか?
⑤ 目的は適切な上級レベルで承認されているか?
⑥ 目的は明確な問題として位置付けられているか?
⑦ 目的は正当な前提に基づいているか?
⑧ 目的の決定は,適切で信頼できるデータに基づいているか?
⑨ 目的はさらに具体的にあるいは短期間で実施可能か?
⑩ 正当な中間的目的あるいは目標を準備してあるか?まだであるならば準備すべきである。
⑪ もし,全体のプログラムについて具体的な目的が確立されていなければ,一部分について意思決定が行い得るか?
⑫ 組織内部の他のプログラムの目的間で何か相違があるか?
⑬ 目的が伝達され,明確に理解されているか?
⑭ 目的の財務上の影響は何か?
⑮ 目的達成のための時間はセットされているか?それは適切で現実的か?
B. プログラム
① 目的は,適切なレベルで正しい権限によってプログラムの形に変換されているか?
② これらのプログラムは,政策目的と明確にリンクされ,合致しているか?
③ プログラムコストは査定がなされているか?
④ このプログラムは,目的達成のための最も費用対効果の大きい手段であるか?
⑤ 代替的プログラムは考慮されているか?
⑥ サービスの代替的レベルのコストは考慮されているか?
⑦ 当該プログラムは,関連スタッフに明確に伝達されているか?
⑧ 当該プログラムは,明確化された目的を達成するために,手続・コントロール・指示の形に正しく変換されているか?
⑨ プログラム間に何か不一致はあるか?
C. 測定
① どのような実施の測定基準と指標が作られているか?
② これらは,すべての目的の達成のための基準か?
③ これらは,正しく諸要素を測定するか?
④ これらは,完全であるか?適時性があるか?正確であるか?信頼できるか?機能しているか?
⑤ そこには,有効性の測定基準を条件としないプログラムがあるか?
⑥ もしそうであるならば,臨時的な基準を作成してあるか?
⑦ 比較することができるものは
(ⅰ) プロフェッションあるいは専門職業団体による基準
(ⅱ) 他の機関の同種の活動
(ⅲ) 前期の実施傾向
(ⅳ) 公表された指標
D. レビュー
① 目的のレビューおよび方法の監視は最近実施されたか?
② そのようなレビューの結果はどうであったか?
③ 当該機関は,外部的変更,例えば規則に照してその目的についてレビューされたか?
④ 当該機関は,プログラムの有効性を,例えば,内部評価チーム,外部コンサルタントによって評価されるか?
⑤ もし,そうであれば,その発見事項はどうであったか?
E. 報告
① どのような実施情報が,管理者に提出されるか?
② この情報は,ちょうど良い時に適切なレベルに提示されるか?
F. 実績———証拠の評価
① 全体目的の適合性について目的は有効的であるか?
② 当該プログラムは,公表された目的を達成しているか?
③ 非効率的あるいは不十分な手続き・コントロールの徴候があるか?
④ 何らかの非有効的な原因が認識されたか?
⑤ 当該機関は,必要な改善的な行動のすべてをとったか,あるいは何らかのプログラムをたてたか?
⑥ 目的あるいはプログラムから結果する何らかの副作用があるか?
⑦ 目的はあるいはプログラムから生ずる財務上あるいは業務上の影響があるか?
⑧ 代替的方法は,同じ目的に到達しそうか?
⑨ 適切な財源が,当該プログラムに配分されているか?
⑩ アウトプットは目的に合致しているか?
⑪ 当該プログラムの影響は,必要性に合致しているか?
⑫ サービスの質は変ったか,これは評価可能か?
⑬ このプログラムの結果は,他の要因によって影響を受けたか?
⑭ 目的の達成を阻む組織について何らかの非財務的な制約があるか?
G.結果
① 政策目的は達成されたか?
② 当該プログラムは有効性があるか?
3 カナダにおける有効性検査の基準
カナダにおける会計検査の基準は,会計険査院(OAGC),包括検査財団(CCAF)および勅許会計士協会(CICA)が主として設定,研究している。カナダにおけるVFM検査の評定証拠および有効性の判定基準はつぎのとおりである。
(1) VFM検査の評定証拠(注10)
VFM検査のすべての局面について一般的に認められる一団の判定基準は存在せず,つぎのような種々の証拠から導かれる。
① 法規および政策表明書
② 職業専門団体あるいは協会によって作成された実施基準
③ 当該あるいは類似の受検機関で作成された統計あるいは実践基準
④ 同種のVFM検査で認識された判断資料
すなわち検査証拠は,十分性と適当性により質と量が決定され,間接収集証拠よりも直接収集証拠が,決定的証拠よりも説得的証拠を検査官は必要とするであろうとされる。
(2) 有効性の判断形成のために有用な特性
有効性の判断基準についてC.C.A.Fはつぎの12の要素をあげている(注11)。
① 業務管理の方向性(Management Direction)
② 目的適合性(Relevance)
③ 適切性(Appropriateness)
④ 目標結果への到達(Achievement of Intended Results)
⑤ 承認(Acceptance)
⑥第二次的影響(Secondary Impacts)
⑦ コストと生産性(Costs and Productivity)
⑧ 反応(Responsiveness)
⑨ 財務結果(Financial Results)
⑩ 業務環境(Working Environment)
⑪ 資産の保全(Protection of Assets)
⑫ 監視と報告(Monitoring and Reporting)
以上,アメリカ・イギリス・カナダの品質管理は,基準書として会計検査基準とともに公表されており,一般的に「検査報告書」の読者にとつて有用となろう。
このような検査基準と品質管理基準の関係は図1のように図示されよう(注12)。
わが国においても内部的には存在するであろう品質管理基準および手続を確立公表することが必要である。
Ⅲ 「決算検査報告」の分析
わが国会計検査院の「決算検査報告」は,「正確性の側面」,「合規性の側面」,「経済性・効率性の側面」および「有効性の側面」からの検査の結果であり,意見として「不当事項」,「意見を表示し又は処置を要求した事項」,「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」および「特に掲記を要すると認めた事項」を掲記している。ところで,企業会計における会計監査論では,前述したように決算にかかわる財務諸表監査が中心であり,目的類型の第1・2類型であり,機能類型では,第1類型が,主要的なものであり副次的機能として第2・3類型がある。意見類型は,第1類型が主で,第3類型が副であり,したがって報告書類型は,第1類型が主であり,第3類型が副となっている。そこで,本節では,「決算検査報告」について,ⅠおよびⅡの会計検査基準を参考に,意見を「形態別意見類型」,「原因別意見類型」,「観点別(目的別)意見類型」および「機能別意見類型」に分類してその特徴を検討することとする(注13)。
1 形態別意見類型
過去6年間の形態別分類による意見の傾向は表2〜5のとおりである。
(1) 不当事項
収入に関するものは,租税・保険料の徴収不足が常に大きな割合を占めており,その他に現金を領得される不正行為が頻発している。
支出に関するものでは,最も大きな割合を常に占めているものは,工事の積算の不適切性,保険給付の不適正,補助金の金額の過大性,貸付金の金額の過大性および医療費の負担額の過大性である。この他,予算経理上の不当事項としては,旅費による不正が多い。収入・支出以外のものでは,すべて,現金等を領得する不正行為である。
(2)意見を表示し又は処置を要求した事項
①第34条により是正改善の処置の要求をしたもの
これは,違法又は不当であるとの意見を表示し,今後の再発防止の処置ができるものである。
主な内容で,頻度の高いものは,工事の積算の過大性,保険給付の過大性,医療費負担および給付の過大性,そして収入あるいは手数料収入の過小性である。
②第36条により意見表示をしたもの
これは,法令,制度又は行政に関し改善を必要とする事項について意見を表示するものである。
主な内容のうち,頻度の高いものは,保険給付額の過大性,事業計画の不適切性および収入,手数料収入の過小性である。
③第36条により改善処置を要求したもの
これは,法令,制度又は行政に関し改善を必要とする事項について改善の処置を要求するものである。
このうち,頻度の高いものは,保険給付額の過大性,補助金の過大性である。
(3)指摘に基づき改善処置を講じた事項
収入に関するものでは,租税の課税不足,手数料収入等の不足である。
支出に関するもののうち,頻度の高いのは,工事の積算の過大性,補助金の過大性,貸付金の過大性,事業計画の不適切性,役務・経費・器具予算等支出経費の過大性である。
(4)特に掲記を要すると認めた事項(「特定検査対象に関する検査状況」を含む)
主なもので特色のあるのは政府開発援助(ODA),工事事故,国有林野事業,税率軽減制度についてである。
収入・支出の指摘事項の形態別類型について過去6年間集計すると表6のとおりである。特徴をみると,それぞれの項目のうち,割合の大きいものは,「保険料の徴収不足」が46.1%,「補助金」53.8%,「貸付金」11.8%,「医療費」9.7%,「保険給付」4.2%,「工事」2.4%である。全体の割合でも,「補助金」41.1%,「貸付金」9.1%,「医療費」7.4%,「不正行為」19.0%である。これは,予算のうちの割合の高いものに対する指摘であり,今後も増加傾向があるであろう。
2 原因別意見類型
会計検査院でコンピュータに入力してある発生原因別分類による意見を昭和60年から平成元年までをまとめると表7のとおりである。A欄は,各指摘事項の第1原因のみによって各年度を分類集計したものであり,B欄は,第1原因から第3原因に分類したものの5年間の集計をしたものである。
A欄からその特徴をみてみると,第1原因別では,「調査・検討不十分」が24.2%と最も多く,次いで,「審査不適切」の18.5%,「指導・監督不適切」の14%,「理解不足」の12.5%と続いている。この他では,「会計法令・経理原則無視」5.0%,「故意」4.5%,「不注意・怠慢」6.2%,「監督・検査不適切」3.2%,「規定・基準不備」47%となっている。また,比率は僅少でも注目すべき原因としては,「補助目的無視」1.0%,「管理不適切」2.0%,「連絡調整不備」1.0%,「管理体制不備」0.8%がある。
つぎにB欄の第1原因から第3原因による発生原因類型の特徴はつぎのとおりである。
比率の大きいものとしては,「調査・検討不十分」19.5%,「審査不適切」18.6%,「指導・監督不適切」18.1%,「理解不足」11.9%でA欄とほぼ同じである。このほか,注意すべきものとしては,「規定・基準不備」,「不注意・怠慢」,「会計法令・経理原則無視」,「故意」,「管理不適切」,「監督・検査不適切」,「連絡調整不備」,「管理体制不備」,「審査体制不備」などがある。
貸付金等の指摘事項の発生原因を5年間の集計でみると表8のとおりである。原因として最も大きいものは,「低額設置等」49.3%であり,ついで「貸付対象外」24.6%,「目的外使用」5.8%である。このほかに,原因として注目すべきは,「事業の不実施」,「貸付目的の不達成」,「管理不適切」,「無断処分」,「負担金の財源不算入」,「支払条件違反」,「寄付金の財源不算入」などである。
補助事業や補助金等の指摘事項の発生原因を過去5年間で分類すると表9のとおりである。
全体的に特徴をみてみると,発生原因のうち割合の大きなものは,「補助・貸付対象外」,「対象要件の算定誤り」,「低額実施」,「補助目的の不達成」,「事業の一部不実施や変更」,「目的外使用」,「事業費の過大計上」などである。
発生原因をさらに,会計監査論上の「誤謬」・「不正」・「内部統制組織の不備」という概念を広く解釈して,例えば平成2年度の指摘事項を再分類し,その件数および該当人数または機関数で合計してみると表10のとおりである。
ここでの特徴は,不正という場合に,職員による現金領得と経費の架空計上が主要なものとなる。一方,徴収すべき租税,保険料などで受益者(支払者)の意識的な要因により結果的に不正となるもの,および,保険給付,医療費負担,補助金,貸付金,積算に関連して受益者(受取人)側での意識的な要件の操作により入金額を過大として結果的に不正となるものである。つぎに内部統制組織の不備は,主として各省庁,機関による業務に対する責任感の欠如および理解不足による誤謬や事業実施から結果として収入が不足したり支払が過大になっているものである。誤謬は,本来,無意識的な単純ミスである。
発生原因別類型をみると業務管理上の不備,広義には内部統制組織の不備がその大きな割合を占めており,また結果として受益者側の利得になっているものも多いと思われる。これらは,責任追求という観点とその制裁についての検討が必要と思われる。さらに,同種発生原因が繰り返し頻発するのは受検機関における内部統制組織の不備が指摘されるべきことである。
3 観点別意見類型
観点別意見のうち,「合規性」,「経済性・効率性」,「有効性」の検査意見に到達した検査評定プロセスを過去5年間の「検査報告」より,会計監査論的概念により検査要点(目的),判定基準(評定),検査技術および手続(手続),立証資料(証拠)および結果としての報告(意見)に分類してケーススタディーを試みると以下のようになろう。
(1) 合規性検査
<ケース①)> 租税の徴収額の過不足
(a)検査目的——租税の徴収
(b)評定基準——税法および税額計算
(c)検査手続——証憑突合,計算突合
(d)検査証拠——課税資料
(e)意 見——徴収・支払額の批判的意見
<ケース②> 健康保険・厚生年金保険の徴収額不足
(a)検査目的——保険料の徴収
(b)評定基準——法および保険料計算
(c)検査手続——証憑突合,計算突合
(d)検査証拠——被保険者資格取得届,報酬月額算定基礎届,報酬月額変更届
(e)意 見——徴収額の批判的意見
<ケース③)> 付添看護料の支給の適正化
(a)検査目的——付添看護料の支給額
(b)評定基準——法および看護料計算
(c)検査手続——証憑突合,計算突合
(d)検査証拠——医師の意見書,承認申請書,支給申請書,看護補助者名寄資料
(e)意 見——付添看護料支払の不適正の批判的意見
<ケース④> 第三種郵便物制度の適正な運用
(a)検査目的——第三種郵便料金
(b)評定基準——法および適合要件の合致性
(c)検査手続——証憑突合,実査
(d)検査証拠——認可申請書,変更認可申講書,定期刊行物の見本
(e)意 見——郵便料金の過少額の批判的意見
<ケース⑤)> 宅建業者の営業保証金の時効完成分の歳入処理
(a)検査目的——時効完成営業保証金の歳入処理
(b)評定基準——会計法および時効完成要件
(c)検査手続——証憑突合,実査
(d)検査証拠——供託金政府所得調書,宅建業者に関する資料
(e)意 見——時効完成営業保証金の歳入処理の批判的意見
合規性検査過程は,「会計経理が予算や法律,政令などに従って適正に処理されているかという観点であるので,判定基準は明確であり,検査上の留意点を明確に示し,チェックリストあるいは検査マニュアルなどによって画一的,常規的に実施することが可能であろう。また,内部監査組織との共同化によっても有効であろう。
(2)経済性・効率性検査
<ケース①)> 防波堤築造工事等のケーソン製作費の積算の改善
(a)検査目的——ケーソン製作費の積算計算
(b)評定基準——港湾・空港請負工事積算基準,フローティングドックの運転日数および休止日数,施工機械の能力,施行技術
(c)検査手続——証憑突合,実態調査,質問
(d)検査証拠——1層当たりの施行日数内での鉄筋組立作業,型枠据付作業,コンクリートの打設可能性
(e)意 見——各層の適切施工高の決定の批判的意見
<ケース②)> 電話帳作成のコンピュータ入力方法
(a)検査目的——電話帳編集システムの異動更新処理
(b)評定基準——電話帳発行要綱およびマニュアル,電話帳編集システム,コンピュータ入力作業
(c)検査手続——証憑突合,実態調査,計算突合
(d)検査証拠——異動更新処理状況,電話帳編集システム異動更新処理請負契約(単価契約)
(e)意 見——異動更新処理の不適切支払金額の批判的意見
<ケース③)> JR直営店舗事業の収支及び管理の改善
(a)検査目的——直営店舗事業の収支管理
(b)評定基準——収支率,損益分岐点
(c)検査手続——証憑突合,比率分析
(d)検査証拠——収支管理表,店舗の要員配置・立地条件・顧客動向資料
(e)意 見——収支改善への批判的意見
<ケース④> JRの私鉄等の定期乗車券の委託販売に係る手数料の収受の改善
(a)検査目的——定期乗車券の委託販売の手数料
(b)評定基準——連絡運輸契約,委託販売契約,収支割合
(c)検査手続——証憑突合,計算突合,実態調査
(d)検査証拠——私鉄単独定期券販売の実態調査,委託販売等の私鉄の履行状況,一括販売システム経費,定期乗車券販売の直接経費集計表
(e)意 見——委託販売の手数料収受要求額の批判的意見
経済性・効率性検査過程は,「より少ない費用で実施できないか,同じ費用でより大きな成果が得られないか」という観点であるので,その判定資料たる標準指標の整備と費用効果の分析技術の開発が重要である。
(3) 有効性検査
<ケース①> 住宅団地内施設用地の利活用の促進
(a)検査目的——施設用地の土地活用
(b)準拠基準——住宅・都市整備公団住宅および施設建設計画規程
(c)評定基準——施設および用地の必要度
(d)検査手続——証憑突合,視察,実態調査
(e)検査証拠——建設計画,団地内および周辺環境実態,社会情勢変化・需要度化・施設経営者の募集実態,出生率の低下
(f)意 見——住宅用地,駐車場用地等への利用の可能性,建設計画の変更等効果の発現を図る要求の批判的意見
<ケース②> 市街化区域内国有農地等の有効利活用の促進
(a)検査目的——国有農地等の利活用
(b)準拠基準——農地法,自作農創設特別措置法
(c)評定基準——農地存続の必要度
(d)検査手続——証憑突合,実査,質問,実態調査
(e)検査証拠——農耕貸付地,未貸付地,転用貸付地の台帳・図面および賃貸契約書,買受け計画書,旧所有者の調査書,所得申告書,固定資産課税台帳
(f)意 見——国有農地の処分,宅地化,利活用化を促進させるための措置を図るべしとの批判的意見
<ケース③> 国営干拓事業の干拓地の有効利用の促進
(a)検査目的——干拓農地の有効利用
(b)準拠基準——土地改良法,土地改良事業計画
(c)評定基準——干拓農地の必要度
(d)検査手続——証憑突合,実査,視察
(e)検査証拠——営農計画書,予定事業計画書と実績事業費,地元負担金計算,配分見込価格計算,農業収支計算書,農業経済調査報告,農林水産統計,労働事情,県境経違,立地条件実態
(f)意 見——干陸計画の早期策定と干拓地の利用の多角化についての批判的意見
<ケース④> 住宅取得資金の宅地取得資金貸付けの適正化
(a)検査目的——宅地取得資金貸付けの適正性
(b)準拠基準——住宅新築資金等貸付制度要網,貸付条例
(c)評定基準——宅地取得および住宅建築の実施度
(d)検査手続——証憑突合,実査,視察,質問
(e)検査証拠——借受申込書,図面,貸付契約書,売買契約書,売買代金支払実態,貸付対象土地の売却実態,住宅未建築実態,貸付目的外使用実態
(f)意 見——貸付義務違反者への取得・建築の指導,期限前償還請求,申込書および条例の整備の批判的意見
有効性検査過程は,「事業が所期の目的を達成し効果を上げているか」という観点であり,事業全体の視点から当該事業の効果発現を判定するものである。したがってここでは,判定方法,判定基準,判定証拠が妥当性・正確性・客観性,中立性を持っていなければならず,より説得力のある証拠収集の技術と評価方法の開発が要請される。
以上,「検査報告書」より推量したわが国会計検査院の検査実施過程は,準拠基準,手続,証拠評価は,「局検査報告委員会」,「検査報告調整委員会」および「検査官会議」のプロセスを経て,厳密に,合理性をもって実施されているようである。しかし,会計監査論においても理論体系および実施体系構築の困難な経済性・効率性・有効性の3E検査については,検査官および調査官の適格性,独立性,検査基準,QC基準の精緻化,および受検機関との連係化が早急に解決されるべき課題であろう。
4 機能別意見類型
機能別意見は,報告書における意見が,正否および当否を結果する「批判的意見」か,調査官のプロフェッショナルとしての「指導的意見」か,あるいは「情報提供的意見」かによる分類である。会計監査論では,監査本来の批判性から指導性および社会性(情報提供性)へと拡大しつつある。会計検査においても同様の傾向がみられる。すなわち(1)「批判機能的意見」としては,「不当事項」および「意見を表示し又は処置を要求した事項」が,(2)「指導機能的意見」としては,「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」が,(3)「情報提供機能的意見」としては,「特に掲記を要すると認めた事項」および「特定検査対象に関する検査状況」が,おおむねこれらに該当すると思われる。
検査評定プロセスは,(1)および(2)は,前述3と同様であるが,(3)についてケーススタディを行うとつぎのとおり。
<ケース> 政府開発援助
(a)検査目的——政府開発援助の使途および効果
(b)準拠基準——交換公文,借款契約
(c)評定基準——援助の必要度と遂行度
(d)検査手続——証憑突合,往査,視察,実態調査,質問,確認
(e)検査証拠——援助計画書,公文書・契約書,援助対象物,技術の利用実態,相手国内貨予算書
(f)意 見——援助計画,進ちょく状況把握,監理能力等改善の提言
機能別意見類型は,会計検査院の機能の拡大化と高度化にとって重要な分類であり,指導助言的機能および社会的情報提供機能への重点移行をさらに検討すべき時期にきていると思料される。
Ⅳ 「決算検査報告」の課題
検査報告にかかわる中心概念たる検査基準,検査証拠,検査手続,検査意見,品質管理基準を管見してきたがこれを基にわが国「決算検査報告」の現代的課題を検討するとつぎのようであろう。
(1)検査報告書の利用者
「決算検査報告書」は,法的には内閣に提出されるものであるが,その本質上は,最終的には国民の行財政に対する判断資料とならなければならないものであり,この国民の側の目的適合性に合致するものでなければならないという視点をさらに検討すべきと考えられる。そのためには,検査範囲の必要性の明確化,検査基準の明示,指摘事項の性質,用語法などを研究する必要があろう。
(2)会計検査の機能
会計検査の機能を現在の中心的な批判機能をさらに指導機能および情報提供機能へ拡大していく必要がある。そのためには,指導および情報提供基準を明らかにしておかなければならない。
(3)会計検査意見の類型
(2)との関連において,意見も批判的意見とともに指導的意見,情報提供的意見に分類し,同時に意見の水準の幅をもたせた類型を検討する必要があろう。
(4)内部統制組織の充実と評価
指摘事項の発生原因別類型からも判るように問題点の多くは,受検機関におけるアカウンタビリティあるいは内部統制の意識の欠陥によるものが多い。検査の前提は,受検機関の良好な内部統制組織であるので,内部牽制制度,内部監査制度の充実を図る方策を検討すべきものと考えられる。そしてさらに機能の拡大とともに受検機関および会計検査院の各々および相互関係において情報伝達周知システムを構築する必要があろう。
(5)経済性・効率性検査の促進
経済性・効率性検査は,現在においても緻密性と論理性をもって実施されているが,さらに,受検機関において内部統制組織の充実化を推進させることによって合規性検査の割合を低め,効率性検査を拡大する必要がある。
(6)有効性検査の促進
有効性検査は,会計検査において現在,最も大きな課題であり,前述のように会計検査院においても厳密性,合理性そして公平性を念頭に実施されつつあるが,さらに広く,深く進めなければならない。そのためには,客観的かつ中立的な評定方法,評定規準,検査証拠,検査手続の開発が展開されなければならない。
(7)会計検査システムと行財政システムの統合・共同
会計と検査は,アカウンタビリティを中心に一体化したものであり,会計検査機能の拡大化あるいは重点移動とともに本来統合化されなければならず,それは事前評価および事後評価そしてフィードバックヘと連結するものだからである。そのためには会計検査院と行財政当局との一層の相互交流が望まれるのである。
(8)会計検査基準と品質管理基準
わが国会計検査院検査の検査報告の審議過程は,検査官会議の第1〜3読会,検査報告調整委員会,局検査報告委員会の第1〜3読会において,諸外国に比しても高度の品質管理をもって行っている。しかし,さらに会計検査に社会性・国民性を持たせるためには,会計検査の基準,評定基準および自己規制を含む品質管理基準の設定と公表が望ましい。前述したように諸外国では,公表されているものもあり(注14),また,検査の生産性向上を図る上にも重要である(注15)。検査における生産性原則は,①組織,②リスク,③不安,④監督,⑤報償,⑥訓練,⑦測定,⑧自動化,⑨報告,⑩経験が主要要素とされており,自己評価を含むQC手続の検討が必要である。
(9)調査官の適格性
3E検査では調査官の能力・知識・熟練性の教育研修が主要な課題となっており,そのためには学会との共同研究開発の促進および外部的な技能者・監査人の利用が必要となるであろう。
(10)検査技術・手続・証拠の開発
会計検査は,会計監査と同様に判断資料たる証拠の収集と評価のプロセスであり,循環検査の実施,継続的検査の実施および証拠の類型化・収集技術の開発・研究の促進が必要となるであろう。
むすびにかえて
わが国会計検査院検査は,諸外国の例に比してもその手続および評定プロセスの信頼性は非常に高いものと考えられる。それでもなお現在,公会計および検査が議論されるのは,国家と国民の権利と義務の一般化したコンフリクトがあるためであり,これは会計監査論の情報の送り手と受け手との関係における課題と質的には同様である。しかし会計検査においては,立法,行政そして財政と広範囲な調整を図らなければならないという困難性を含んでいるのが現実である。財務諸表監査を中心とする会計監査の職業専門家の団体が,内部的な理論の構築と実践および学会との協同による理論の精緻化によって,その質的向上を目指しているのと同様に,会計検査においても前述するように公会計検査制度の理論の構築および精級化を学会,実務界とともに積極的に推し進め,それら課題をひとつひとつ時間をかけて解決していくほかはない。それ故にここに,会計検査の社会的必要性の高揚および質的向上を目指すことが最も急務な課題であるゆえんである。
(以 上)
注:
1) 拙稿「公監査基準の構成について」,会計第138巻(1990年)12月号,森山書店,pp.89−103.
2) M.A.Dittenhofer, Applying Governmental Auditing Standards,1990,Matthew Bender §30.04[2]
3) ibid.,§30.04[2]
4) ibid.,§20.10
5) G.A.O,"Guide for Writing Executive Summaries,"1986,pp.21−26.
6) 拙稿「イギリスの地方自治体監査」日本監査研究学会・地方自治体監査研究部会編「地方自治体監査」所収,1990年,第一法規出版,pp.156−169.
7) N,A,O,"Audit Manual",1987 Chapter C 3 Appendix 2.
8) N.A.O,"Auditing Standards".
9) N.A.O,"VFM AUDIT:EFECTIVENESS CHECKLIST",pp.6−12.
10) P.S.A.A.C"Public Sector Auditing Statement 4—Value For Money Auditing Standards",March 1988.
11) C.C.A.F,"Effectiveness :Reporting and Auditing in the Public Sector",June 1987.pp. 84−102.
12) 拙著「会計士監査論—監査の質的管理の研究」,中央経済社,昭61年,pp.59−77.
W.G.Kell and R.E.Ziegler,Modern Auditing,second ed,John Wiley & Sons, 1980,pp.37−40.
13) 会計検査院「昭和60年度〜平成2年度決算検査報告」,「昭和60年度〜平成元年度会計検査のあらまし」,「会計険査のあらまし−[別冊]この10年のあゆみ」
14) 拙稿「パブリックセクター(政府・自治体等)監査の質的問題点」会計ジャーナル,1988年4月,第一法規出版,pp.25−32.
拙共訳「行財政改革と監査—米国GAO監査基準改訂版の全訳と解説」,白桃書房,昭62年
15) William E.Perry, Improving Audit Productivity, John Willy & Sons, 1984.pp.11−37