第3号

庶民金融と会計検査(特に沖縄の模合について)
小澤 潔

小澤 潔
(会計検査院法規課係長)

 1954年生まれ。77年会計検査院へ,農林検査第4課,上席調査官(融資機関担当)付などを経て,現在事務総長官房法規課係長。

 Ⅰ はじめに

 金融制度は,国民経済の成長に重要な役割を果たしているが,それは国民経済の発展に伴って発達してきた。このため,金融制度は,その国又は地方の経済の発展段階や経済的風土などに影響され,国又は地方により異なった姿を示している。

 わが国の金融制度は,明治維新を機にめざましい発展を遂げ,明治15年の日本銀行の設立により,通貨制度・銀行制度の整備が図られるとともに信用制度が確立された。

 しかし,庶民の間には,こうして近代的金融制度の整備が図られる以前から,貧困者を扶助・救済したり,飢饉・天災等不測の事態に備えたり,また,寺社に参詣し神仏を祭ったりするため,知人や親戚が寄り合い,金銭を集め,これを必要とする者に供与するというような形態の金融方式が存在した。

 この金融方式は,「頼母子講」,「無尽」などと呼ばれ,13世紀(鎌倉時代)頃から行われており,もともとは相互扶助のための非営利的な性格を有するものであった。

 金融制度の近代化に伴い,無尽は明治34年から営業的に行われるようになり,これを行う無尽会社は,その後日本独特の庶民金融機関として発達していった。そして,昭和26年の相互銀行法の制定により,無尽会社は相互銀行に姿を変え,平成元年に至ってその大部分は普通銀行に転換した。

 このようにして,金融制度が近代化されていく過程で,頼母子講や無尽は一般にはほとんど行われなくなった。

 しかしながら,沖縄地方においては,今なお,前近代的な無尽が行われている。これは,「模合」(もあい)と呼ばれており,沖縄の金融を考えるうえで無視できないほど大きなウェイトを占めている。

 昭和54年に沖縄相互銀行(現沖縄海邦銀行)が実施した調査(以下「相銀調査」という。)によると,模合に運用される資金量は約1185億円に上るとされている。これは,当時の沖縄における金融機関全体の預貯金額1兆458億円の11%に相当するものであり,いかに模合が沖縄の金融のなかで大きな地位を占めていたかがわかる。もっとも,このデータは10年余も前のもので,現在どのくらいの資金が模合に運用されているか定かではないが,その後も模合が盛んに行われているところから,現在も多額の資金が模合に運用されていることは確かであろう。

 このように,模合は,沖縄における金融制度の一環として地域社会に根ざし,また,地域社会に与えている影響も大きい。

 そこで,本稿においては,一般にあまり知られていない模合の仕組みと機能を紹介するとともに,模合を巡る諸問題,模合と政策金融に対する会計検査(融資検査)との関係などについて考察していくこととしたい。

 Ⅱ 模合の仕組みと機能

 1 模合の仕組み

 「模合」という語は,もともと船をつなぎ止めるという意味のモヤイから転じて出てきたものといわれている。制度の仕組みは,前記のとおり,頼母子講や無尽と同じである。すなわち,資金を調達しようとする者が知人,友人又は職場の同僚等を集めて組を作り,加入者は一定の日に一定の掛金を拠出し,拠出金は入札等によって落札者(加入者のうちの1人)に給付金として給付され,これが加入者全員に一巡すると終了する仕組みである。

 模合は,沖縄における金融・投資機関の未整備に加え,依然として残る村落共同体意識,門中制度(注1)などの特殊な社会構造を背景として広く行われている。

 模合の金利は,金融機関等からの借入れに係るものが長期・短期のプライムレートなどを基にして他律的に決められるのに対して,組に加入する者自身の判断によって自律的に決められる。そして,沖縄では投資機会が少ないことから営利を目的とした模合が多数行われ,一般に,模合の利用者は,金融機関からの借入金利に比べてかなり高い金利(注2)を負担している。

 次に模合の方法について紹介したい。

 代表的な模合の方法には,「配当式」と「積立式」の2通りがある。

 ① 配当式

 落札者が入札に際して支払った入札金を,未だに落札していない加入者全員へ当該回次で配分してしまう方法である。この方法の場合,落札者は入札金を落札回次だけで全額支払うので,掛金そのものは落札前も落札後も同額となる。また,落札者の受け取る給付金は,加入者の数に1口当たりの掛金額を乗じた額より入札金額を控除した額となり,一方,未だに落札していない加入者が支払う掛金も,実質的には,1口当りの掛金額から配当を受ける金額を控除した額になる(表1)。

表1 配当式の例

 落札者(加入者)ごとの実質支払利息又は受取利息について計算してみると表2のようになる。

表2

 例えば,3回次に落札した加入者Bの場合は,98,000円(c-a)を支払い,86,000円(b)の給付金を受け取ることになる。つまり,Bは12,000円の利息を支払って,86,000円を調達したことになる。

 ② 積立式

 落札者が,入札に際して支払うこととした入札金を,落札回次以降,掛金に加算して最終回次まで支払う方法である。落札者は,全加入者数に1口当たりの掛金額を乗じた金額に既落札者の支払った掛増金を加えた額を給付金として受領することになる(表3)。

表3 積立式の例

 落札者(加入者)ごとの実質支払利息又は受取利息について計算してみると,(表4)のようになる。

表4

 配当式,積立式いずれの方法によっても,模合の2回次以降については,加入者のうち資金を必要としている者から落札し(注3),その結果,各回次における入札金の額が異なるので各回次ごとに利回りが異なる。一般的に,給付を受けようとする競争の程度は回次を重ねるごとに低くなり,入札金の額も少なくなっていくので,利回りも漸次逓減していく。

 2 模合の機能

 模合を起こす場合,発起人である座元は,自己が必要とする資金を調達するために必要な数の加入者を集める。多額の資金を調達するには,多くの加入者が必要となる。加入者を多く集められるかどうかは,座元の信用力に比例する。加入者を集めることができれば,自動的に座元は初回に無利息で給付を受ける権利を取得する。しかも,座元は,金融機関から融資を受ける場合のように担保を供することもない。座元にとって,これだけ有利な条件で資金を調達できる方法は他にはない。

 模合は,座元と加入者との間,加入者相互間に金銭債権・債務関係が生じるにもかかわらず,主として相互の信用のみで行われ,債権保全の手だてがほとんど設けられていない(注4)。

 この点が,模合の金融制度としての特徴であるとともに,模合の機能として最も重要な点である。つまり,模合は,担保の裏付け無しで短時日のうちに多額の資金調達が可能となるという機能を有しているのである。

 Ⅲ 模合を巡る諸問題

 模合に関しては,従前から,その制度の特性に起因するものとしていくつかの問題が指摘されているところである。

 その代表的な問題点を次にあげることとする。

 1 模合事故に関する債権保全の問題

 もともと模合は,村落共同体のなかで生まれ,村落共同体を基礎としてその機能を発揮してきたものである。そして,村落共同体が失われた現在では,本土において頼母子講,無尽といった模合類似の制度はほとんど見かけなくなった。しかし沖縄においての模合は,村落共同体が失われつつある現在においても,都市部,農漁村部を問わず盛んに行われている。むしろ,経済活動が活発な都市部のほうが盛んなほどである。これは,模合の目的が,社会のニーズに応じてもともとの親睦・相互扶助から金融・投資へと変わってきていることによるものと思われる。

 このように模合の目的・機能が変わってきているのに,模合の基本的仕組み,とりわけ債権保全の手だてという面は旧態依然としている。

 村落共同体を基礎として行われたかつての模合では,仮に,加入者が掛金を払い込まなかったり,座元が給付金を使い込んだりということになれば,それなりの社会的制裁が期待できたことから,その運営は円滑であった。

 ところが,現代の模合では,人的つながりがその前提となっていないため,給付金の不払いなど模合が崩れるような事態が生じると,それが直ちに加入者の債権の回収困難という事態につながる危険性が高い。

 相銀調査によると,模合により被害を受けたことのある加入者の割合は27%にも上っている。

 このような危険があるにもかかわらず,沖縄では,一般庶民が模合に加入して住宅資金,学資,医療費などを調達する場合が多い。これは,信用力の乏しい一般庶民にとっては金融機関の融資条件が比較的厳しく,その借入れだけでは必要とする資金全額の手当ができず,不足資金について高利の模合で調達せざるを得ないという事情によるものと考えられる。また,庶民や中小零細企業にとっては,金融機関から融資を受ける際の手続が煩雑であり,時間もかかることなどから,金融機関を利用せずに,手軽に利用できる模合に頼るというケースもある。一方,加入者のなかには,模合の利回りが一般の預貯金よりも有利(注5)であることから,利殖を目的として参加している者もいる。

 模合の事故は,掛金が高額で,金利が高く,回転の速い金融模合(注6)に多いようであるが,模合が崩壊した場合に座元や連帯保証人が責任を負って返済するケースは非常に少ない(注7)といわれている。このような場合は,加入者全員で欠損を分担し,模合を解散して,当該模合の加入者で新たな模合を起こし,相互に助け合っていくことが多いようであるが,座元や加入者の責任はあまり明確にはされていない。

 上記のように,模合は乱立と崩壊を繰り返し,その権利関係はきわめて複雑になっていて,加入者の債権保全上多くの問題をはらんでいる。

 2 模合崩れと訴訟

 模合によって発生した債権・債務を巡って,近年,民事訴訟が起こされる件数が増加しているが,模合の持つ性質,成立ちから裁判になじまない事例が多い。

 訴訟での解決が望めないことから,加入者のなかには債権をいわゆる街の金融業者に売却する例もでてきており,強引な取立てが行われることもあり,サラ金と同様の問題も出はじめている。

 3 利息制限法との関係

 金銭の支払いを内容とする消費貸借の利息について一定率以上の取立てを禁じ,借主の保護を図るため利息制限法が設けられている。

 この法律では,元本10万円未満の場合は年20%,10万円以上100万円未満の場合は年18%,100万円以上の場合は年15%の制限利息を定め,この利率を超える利息契約は無効としている。

 ところで,模合の多くは,この制限を超える利息で資金を貸し付けているので,この利息制限法との関係が問題となる。

 これに関する判決例を調べてみると,「無尽契約は一種の無名契約上の債権債務を生ずるにすぎず,その利息は消費貸借契約もしくはそれに更改的に変更されたものということができないから,利息制限法の適用はない。」(昭和35年10月5日・神戸地裁)としたものや「組合類似の性質を有する無尽講掛戻金債務には利息制限法の適用はない。」(昭和46年5月27日・東京高裁)としたものがあり,一般的に,利息制限法の適用はないとされているようである。

 しかし,営利を目的に組織的に行われる金融模合については,仮に利息制限法の適用の余地はないとしても,それに代わる何らかの規制が必要であろう。

(補 足) 模合については,利息制限法との関係に限らず,いわゆる街の利殖機関の取締りを目的とする「出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律」との関係も問題とされている。

 Ⅳ 模合と政策金融に対する会計検査(融資検査)との関係

 以上Ⅱ及びⅢにおいて,模合の仕組みや機能をはじめ,模合のはらむ問題点などを概観してきた。模合には,庶民金融としての優れた機能を有する一面がある一方で,事故が多発するなどそれを巡るトラブルの発生も絶えないことがわかる。

 ここでは,このような特性を持つ模合と会計検査の関係について触れてみることとしたい。

 会計検査の対象は,国や政府関係機関等の業務に随伴して行われる会計行為である。そして,会計検査は当該会計行為の当否をチェックするものであるが,これは会計経理上の不適切な点を指摘し是正させるものであると言い換えることができる(注8)。

 したがって,模合と会計検査との関係を考えることは,すなわち,模合が有している問題点が会計検査における指摘事項にどのようなかたちでつながっていくかを検討することにほかならない。

 これについて,沖縄における政策金融に対する会計検査(融資検査)との関連で考えてみたい。

 1 模合と政策金融

 沖縄では,倒産寸前に模合を起こす事業者が多いという。事業者が不渡りを出すと,手形交換所から不渡りの通知が行われ,金融機関は,その事業者に対する融資を行わなくなる。通常,この段階で事業者は運転資金の調達ができずに倒産してしまうが,沖縄では,この段階で,事業者が自分の郷里に帰って模合を起こして資金を調達し,倒産を防ぐ場合が多い。

 このように,模合は,事業者にとっては,倒産防止の重要な手だてとしての意味を持っているのである。

 沖縄では,従業員4人以下のいわゆる零細企業が,全事業所の約75%を占めている。このような零細企業にとって模合は最後の資金調達の手段として役立っているのである。

 ところで,政策金融といわれているものの多くは,一般の金融機関から調達を困難とする資金を融通することを目的としている。このような点において,模合は政策金融と同様な機能を果たすことがある。例えば,上記のように,模合は事業者の倒産防止に役立つ場合があるが,政策金融のメニューのなかにも中小企業倒産防止対策資金などこれに類する役割のものが用意されているところである。

 沖縄における政策金融であるが,地域産業の育成や農林漁業の生産力の維持増進,中小企業の事業の振興などを図るため,当該事業に必要な資金について,一般の金融機関から調達することが困難なものに対して質的又は量的な補完を行うことを目的として,いくつかの制度が設けられている。

 具体的には,沖縄振興開発金融公庫(以下「沖縄公庫」という。),商工組合中央金庫,労働福祉事業団,中小企業事業団及び雇用促進事業団などが,それぞれの設置根拠法等に基づいて行う融資であるが,その代表的なものは沖縄公庫の融資である。

 沖縄公庫は,昭和47年5月,沖縄の日本復帰と同時に設立され,戦後わが国に設けられた各種政府系金融機関が行っていた業務のうち,日本開発銀行,国民金融公庫,中小企業金融公庫,農林漁業金融公庫,住宅金融公庫,環境衛生金融公庫及び社会福祉・医療事業団の分を沖縄県の地域に限定して一元的に行っている(注9)。

 沖縄公庫の貸付先のうち,生業資金(注10),環境衛生資金及び農林漁業資金の貸付先には,中小零細事業者が多く,模合に加入している者もいる。これは,これらの事業者は,概して担保力や企業の信用度が低く,金融機関からの借入れも必ずしも円滑にいかないことから,運転資金の調達などについては,模合に依存する傾向があることによるものと考えられる。また,商工組合中央金庫などの貸付先でも中小零細事業者については,上記と同様,模合に加入している者が少なからずいるものと推定される。

 そこで,これらの貸付先と模合との関わりについて考えてみることとしたい。

 政策金融はもともと市中金融を補完することを目的としていることなどから,政策金融機関(以下「融資機関」という。)では事業資金全額の貸付けは行わず,一定の事業費については自己調達した資金で賄わせることとしている。このため,貸付けを受ける事業者は,当該自己資金を市中の金融機関から調達する場合が多いが,沖縄では模合がこの自己資金の調達手段となることもあり得る。つまり,模合が政策金融と協調して事業資金を供給するような役割を果たすことも考えられるのである。また,運転資金が政策金融の対象とされることもあるが,相銀調査では,事業者が模合に加入している場合,事業運転資金を掛金に充てるケースが多いと推定されていることから,結果として,この貸付金が模合の掛金に充てられることも考えられる。この場合は,政策金融が模合の資金を供給することになる(注11)。その逆で,融資機関への償還金が模合によって調達されることもある。

 このように,沖縄では,政策金融といえども模合と表裏をなす関係にある場合がある。

 2 模合と融資検査

 会計検査の基本的な観点は,正確性,合規性,経済性・効率性及び有効性とされているが,融資検査においても例外ではない。

 これらの検査の観点については今更説明するまでもないが,融資検査の場合について換言すれば,

 (a)貸付対象としての適格性

 (b)貸付金額の正当性

 (c)貸付金の使途の妥当性

 (d)貸付対象事業の合目的性

 (e)債権保全措置の確実性

 (f)融資機関における貸付原資調達の経済性・効率性

などに着目して検査を実施するということになる。

 そして,このような観点で実施される融資検査の目的としては,

 (a)貸付原資となる財政投融資資金等の公的資金の使途の適正化

 (b)国損の防止

 (c)貸付原資の効率的運用

 (d)融資機関の経営の安定

などを図ることが考えられるところである。

 そこで,これらの検査の観点や目的を念頭に置いて,模合を巡ってどのような問題が生じる可能性があるかを検討することとしたい。

 (1)貸付目的に係る問題

  ① 貸付対象としての不適格性

 政策金融といえども,その償還財源は事業収益で賄うことが前提である。しかし,事業経営が悪化するなど収益による償還が不可能となった場合,一般に事業者は,金融機関から運転資金を借り入れ,この資金繰りのなかで償還を行う。

 ところで,このようなケースでは,運転資金を金融模合で調達している事業者の場合,政策金融に係る償還資金をリスクの大きい金融模合で調達することもある。そうなると,事業者の経営基盤を安定させるという政策金融の目的の一つが達成できないことになる。

 したがって,事業運転資金の調達を全面的に模合に頼っているような事業者について,これを改善させないまま融資機関が貸付けを行った場合には,貸付対象としての適格性が問題となってくる可能性がある。

  ② 貸付金の目的外使用

 政策金融に係る貸付金はその使途・目的が限定されている。これは設備資金に限らず,運転資金についても同様である。運転資金の場合,その使途は,原則として事業資金に限られることになる。

 事業者が模合に加入している場合,その掛金には前記のとおり事業運転資金が充てられるケースが多いとされる。しかし,模合は資金運用の一種であり,その掛金は純然たる事業資金とは考えられない。

 したがって,融資機関から貸付けを受けた運転資金を摸合掛金に充てることは,貸付けの目的外に資金を使用することになる。

 (2)債権保全に係る問題

  ① 延滞発生と資金の固定化

 融資機関において,貸付金は運用資産の大宗を占めている。そして,その原資は財政投融資資金をはじめとする公的資金である。このため,貸付原資はより有効に使用しなければならないことはいうまでもない。

 金融模合の実質は無担保の高利金融であることから,事故が発生する危険性が高い。このため,金融模合に加入している事業者,特に運転資金を模合で調達しているような事業者に対し,融資機関が貸し付けた場合,模合崩れなどによる資金ショートから延滞が発生する可能性が高い。延滞が発生すると,貸付資金は固定化してしまい,融資機関では,これを回収して新たに貸付原資に回すという資金運用ができず,ひいては資金の効率的使用が不可能となる。

  ② 貸付金債権の償却と国の損失

  ①で述べたとおり,金融模合に加入している事業者,特に運転資金を模合で調達しているような事業者に対し,融資機関が貸付けを行う場合,模合崩れなどによる資金ショートから延滞が発生する可能性が高い。それが,延滞発生という段階で済んでいるうちはまだよい。模合加入者の場合には,本来の貸付対象事業は順調であるのに,模合崩れによって倒産する可能性もある。

 このため,融資機関では債権保全のために十分な措置を講じておく必要がある。仮に,このような措置を執らないまま貸し付けた場合(無担保で貸し付ける場合など),それが貸付金の回収不能につながることが多いものと思われる。

 貸付金が回収不能となった場合,融資機関では,これについて最終的には償却の手続を執ることになる。貸付金償却額は損失として経理され,結果として,国は,融資機関に対して補給金等のかたちでその損失を補填することになる(注12)。

 正常に償還が行われる貸付金は将来的に回収されるものであり,仮にそれが目的外に使用されていたとしても直ちに国の損失(国損)とはならないが,回収不能となった貸付金はそれが直ちに国損と結びつく。

 債権保全の問題は,政策金融に係る会計検査を実施するうえで,最も重視すべき問題である。

 (3)資金の効率的使用に関する問題

 政策金融の財源は財政投融資資金をはじめとする公的資金であり,それが効率的に使用されなければならないことは既に述べたところである。

 ところで,模合は加入者に一時的に多額の資金を調達する機会をもたらす。このため,模合加入者は,これを貸付金の繰上償還の財源に充てることがある。

 かつて,沖縄公庫では,農業協同組合を経由して農業者に貸し付けられた資金が,農業者から農業協同組合に繰上償還され,本来ならば公庫に償還されるべき多額の繰上償還金が農業協同組合に滞留し,結果として公庫の資金が効率的に使用されていなかった事態が発見されたことがある。

 この事態は,会計検査により発見され,是正されたが(注13),模合の給付金がこの繰上償還の財源の一部に充てられていたという事実もある。

 以上のように,模合が沖縄の金融制度の一端を形成しているということから,政策金融に関わるものをざっと概観しただけでも,それを巡って会計検査上問題となると思われる点がいくつか散見されるところである。また,政策金融以外の分野,例えば補助事業などの分野においても,模合を巡っての問題が生じる余地は十分に考えられる。

 Ⅴ むすび

 沖縄で模合が発生してから既に数百年が経過しているが,この間その基本的な仕組みはほとんど変わっていない。これは,この金融制度が沖縄の風土によくマッチし,また,十分にその機能を果たしてきたからにほかならない。

 模合は,沖縄というきわめて狭い地域で行われるローカルなものであるが,それだけに沖縄の金融を考えるうえで無視できないものである。

 会計検査に当たっては,その前提として,検査の対象となった事業が実施されている地域の特性を理解することが肝要であるが,とりわけ沖縄における政策金融について会計検査を実施するに当たっては,模合の存在を念頭に置く必要があろう。

〔追 記〕

 本稿は,そのテーマがきわめて地域限定的な事柄に係るものであるが,行政施策の背後にあるどのような事柄でも会計検査の手掛りになり得るということを読者の方々に理解していただきたいと考え,あえて本誌に寄稿した次第である。また,執筆に当たっては,模合に関する資料について筆者なりに収集し,分析したつもりであるが,模合の実態そのものが把握しにくく,加えて,参考とした資料も若干古いことから,事実に反する記述があるかもしれない。

 読者の方々にご批判・ご指導をいただければ幸いである。

 なお,本稿中Ⅱ,Ⅲの記述内容は,主に沖縄県模合実態調査(沖縄相互銀行・昭和54年)に基づいている。Ⅳの記述内容は,筆者の個人的見解が主であり,一部を除いて具体的な調査結果等に基づいているものではない。

[注]

1) 沖縄の人々は祖先への崇拝心があつく,一族一門(門中)の意識が強い。門中で奨学金制度を設けたり,複数の門中で共同して公民館を設けたりする例もある。

2) 相銀調査によると,模合の金融利回りは平均20.8%(年利)とされている。

3) 親睦を目的として行われる少額の模合では,入札の方式を採らず,抽選や談合(話合い)で落札者を決める場合がある。

4) 相銀調査によると,座元に保証人をつけているのは40%以下とされる。

5) 相銀調査によると,模合の預金利回りは平均15.9%(年利)とされている。

6) 金融を目的とした模合で,投機的な要素が強い。

7) 模合事故に際して,座元や連帯保証人が責任を負って債務を負担する場合は20%程度といわれている。

8) 会計検査の対象とされる会計経理には,国及び政府関係機関等の現金・物品の出納・管理など典型的な会計行為のほか,例えば,政府関係機関の場合には,資金の貸付け・回収等の行為なども含むとされる。

9) 沖縄公庫の平成2年3月末現在の融資残高は9285億余円で,沖縄県内の全金融機関の融資残高に占めるシェアは27%に及ぶとともに,その貸付先もほぼすべての業種に及んでいる。

10) 国民金融公庫の貸付資金に相当するもので,主に個人事業者や小規模企業に対し貸し付けられている。

11) 沖縄公庫の場合は,後述するように事業者が模合を利用することは必ずしもその経営基盤の安定にはつながらないことなどから,模合に関わりがあると思われる融資については慎重に対応しているようである。

12) 公庫等政府関係機関において決算上利益が生じた場合は,これを国庫に納付しなければならないこととされており,この国庫納付金の計算に当たって,貸付金償却額は損益計算上の益金から控除すべき項目とされている(公庫の国庫納付金に関する政令第1条等)。逆に,決算上損失が生じた場合は,予算の定める範囲でこれを国が補填する措置が講じられている。

13) 昭和59年度決算検査報告253頁〜255頁参照。

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