第3号

プログラム評価とわが国会計検査院による事業・施策の有効性の検査
桜田 桂

桜田 桂
(会計検査院第二局防衛検査第二課副長)

 1958年生まれ。80年会計検査院へ,鉄道検査第1課,大蔵省出向,審議室などを経て,現職。

 本稿は主として米国で財政監視・財政統制の手段として広く実務に取り入れられている「プログラム評価」について,その沿革と米国会計検査院(GAO)における具体的な評価実例などからその特徴を明らかにするとともに,わが国の会計検査院が従来から行ってきているいわゆる「有効性の観点」からの検査実例を取り上げて,「プログラム評価」との異同点を探り,両者が公共部門の財政監督のために果たしている役割について比較・考察するためのささやかな材料を提供しようとするものである。

 なお,本稿は,1990年1月に,会計検査院で特別研究官をお願いしている金本良嗣東京大学経済学部助教授に筆者が同行してワシントンD.C.にあるGAO本部を訪問した際,GAOのプログラム評価技術局(ProgramEvaluation Methodology Division; PEMD)などの担当者に取材した資料等に基づいて構成している。

 Ⅰ プログラム評価の特徴

 プログラム評価とは

 プログラム評価Program Evaluationは,主として米国において1960年代以降連邦政府の財政監視・財政統制の一手段として開発されてきた評価形態であり,政府が実施する行政施策・事業について,同一の目的・目標を持って遂行されている事業群の全体(これを「プログラム」と称する。)について,その目的・目標の達成度に重点を置いて評価するものである。その特徴は,「評価対象」としては,同一の目的・目標を持った事業群の全体を考えていること,「評価の観点」としては目的・目標の達成度がどの程度であったかに置いていることである。

 プログラム評価は,この2つの点において,同様に公的セクターの評価形態であるプロジェクト評価とも,また,いわゆる会計監査や経済性・効率性の観点からの評価とも異なるものであると考えられる。

 まず,プロジェクト評価とプログラム評価の違いであるが,プロジェクト評価は,個別具体的な事業,例えば○○市△△地区下水道整備事業,××県○○職業訓練校における職業転換訓練事業といった,限定された範囲を評価の対象とするものであって,少なくとも直接的にはその範囲を超えて他地域・他施設における同種事業を含めて評価したり,それらを念頭に置いたりするものではない。つまり,プロジェクト評価はプログラム評価の一構成要素,あるいは評価作業の一局面を形作ることはあるかも知れないが,イコールではない。

 また,この「評価対象」の違いは,捉える対象の範囲の大小の違いにとどまらず,評価の「深さ」の差とでも云うべき点にも関係してくる。即ち,プロジェクト評価により明らかにされる(できる)問題点は,主として個々のプロジェクトの運営上の問題点や改善すべき事項に限られるのに対して,プログラム評価による目的・目標の達成度の評価は,その事業群全体に共通する重要度の高い問題−多くは「制度」上の問題−を明らかにするとともに,場合によってはそこからさらに踏み込んで,目的・目標自体に含まれる問題点−目的が曖昧,不明確,相互矛盾,時代にそぐわない等々−を浮き彫りにすることが少なくない。

 次に,会計監査や経済性・効率性の観点からの評価とプログラム評価の違いであるが,これはまさに「検査の観点」の差である。共通の目的・目標を持った事業群の全体,即ちプログラムを評価対象とする評価であっても,評価の観点がその目的の達成度を測定・評価しようとするものでない限り,プログラム評価とは言い難い。

 例えば,評価対象である事業が法令・予算その他の行財政上の諸制度に違背していないか,事業のコストをもっと節減できないか,あるいは行政サービスの質・量をもっと向上できるのではないか,といった観点からの評価は頻繁に行われているが,それだけではプログラムの実施運営の適切さ・良否・優劣を問題にした分析ではあっても,プログラムの目的達成度を測定し,評価するものではないからである。

 プログラムについて

 米国でプログラム評価という場合の「プログラム」には明確な定義があるわけではなく,GAO等の実態をみる限り,その規模には相当の幅があるようである。しかし,大まかにみると,わが国の行政施策の中で「事業」と称する活動単位に比較すると,より広範囲な,共通の政策目的を備えたいくつかの事業の集合を指していると思われる。もっともわが国で「事業」と呼ばれるものの中にも様々なレベルのものが含まれていて,予算規模や施策の階層構造に占める位置付けも著しく区々となっているため,例外も少なくない。

 この点に関しては,かつてPPBSの論議の中では,プログラム体系自体が階層的な構造を持っていて,プログラム・カテゴリー,サブカテゴリー,エレメント等と細かく分類されると云った点が詳細に検討されたところであるが,プログラム評価の実務の面では,個々具体的な行政の場において○○プログラムや△△事業という語を用いているか否かは,いわば,形式に過ぎないのであって,本質的な問題ではない。重要なことは「プログラム評価」という名称で実施されている評価活動は「何らかの共通目的を持った活動・業務(の集合)」を対象としている点にある。

 そうした意味において,プログラム評価をわが国で実施する場合,必ずしも「事業」なり「施策」という名称にのみ捉われず,目的・目標の共通性に着目し,その本質的な意味を考慮した上で,評価対象の範囲を定める必要があろう。

 PPBSとプログラム評価

 プログラム評価を論ずるとき,その生成・発展の沿革から,1960年代に登場したPPBSとの関連に触れざるを得ない。

 PPBSは周知のとおり,1961年に就任したケネディ大統領が抜擢したマクナマラ国防長官の主導の下に国防予算の改革の目的で導入された予算方式であり,その後1965年8月にジョンソン大統領が連邦政府の全省庁への導入を命じるに至り,大きな潮流となった。その特徴は,

 ① 行政の目的・目標及びその達成手段の階層関係をプログラム構成(Program Structure)として体系的に組み立て,

 ② 行政の計画過程と予算過程を結びつけることにより合理的な予算編成過程の実現を目指し,

 ③ プログラムの評価のための手法としてシステムズ・アナリシスを導入し,政策の代替案の比較・評価を費用効果分析等を用いて行う。

などの点にあったとされている。しかしながらPPBSを試行的に実務に取り入れて行くにしたがって,多くの問題点や障害があることが次第に判明し,このため結局は1972年に至りニクソン大統領が中止を指示するに及び,制度としてのPPBSは失敗に終わったと評されているところである。

 そしてPPBSが挫折した要因については主に2点あったとされている。

 ① 全ての事業についてシステムズ・アナリシスを義務付け,代替的な政策案の作成とその評価を必要としたため,その作業量が複雑・膨大になり実務上処理が不可能となった。

 ② 代替案の評価が技術的に困難な面があった。すなわち,全ての事業についてその有効度や効用のレベルを定量的に測定したうえで,予算(費用)との関連で評価しようとしたこと,及び事業実施前の評価であるため不確実な将来の予測を必要としたことなどから,分野によっては評価が非常に難しく,かりに強引に評価しようとすると結果が不確かなものとなってしまう傾向があった。

 こうしたPPBSが持っていた実務上の障害を越える(回避する)試みとしてその後アメリカではニクソン大統領が提唱したMBOやカーター大統領の提唱によるZBBなどの新しい予算制度が試みられたが,それらとはまた別にPPBSから派生したものとしてプログラム評価があった。PPBSのシステムズ・アナリシスにおいては政策効果の測定・分析の技術開発の努力が続けられたが,その試行錯誤の中から,事業の執行あるいは完了した時点において事業の実施結果を測定・評価することに焦点を当てる,プログラム評価が派生してきたのであった。

 プログラム評価は事後評価であるために,代替案の作成が基本的に不要であるという点においてPPBSの実務上の問題点の少なくとも一つをクリアしていたのである。

 また,予算編成制度の改革という方向に重点を置いていたPPBSと異なり,プログラム評価は事後的に実施される評価であるため,その施策・事業のサイクルの中で果たす機能としては次期の計画と予算に対するフィードバック機能を担うものであったことに特色を有していた。

 プログラム評価の制度化

 一方,1960年代後半から70年代にかけての米国の連邦財政をめぐる大統領と議会の対立がプログラム評価の事後統制・事後監査手段としての重要性を高める一因となった。ジョンソン大統領の唱えた「偉大な社会」計画や「貧困との戦い(antipoverty)」プログラムの出現によって,連邦政府の役割が拡大し,高速道路の建設や給料の支払といった伝統的な事業から,貧困層への健康,教育,福祉などの社会的便益を供与することによって,貧困問題を改善するものへと大きく領域を拡げていった。これに伴い連邦政府の規模も著しく増大したが,こうした動きに対して議会は危機感を募らせ,財政を統制するための数々の法律を作ることとなった。

 まず,1965年初等中等教育法が制定され,担当省庁にプログラムの実施と効果に関して議会への報告が義務づけられた。

 1967年経済機会法のプラウティ上院議員の提案による修正は,「貧困との戦い」プログラムの目的達成度についてGAOが評価することを命じ,1970年立法府組織再編成法は,議会の要請により政府のプログラムと活動の結果について評価を行うことをGAOの業務として明確にした。

 1974年議会予算留保統制法は,議会の定めた予算を大統領が年度途中で使用できなくすることのできる留保(Impoundment)権限に対して,議会の側から一定のブレーキをかけたものであった。同法の制定により大統領が予算権限の使用延期や権限取消をしようとするときには,議会に特別教書を提出し,GAOがこれを審査したうえで議会が認めた場合に限り,留保権限が実行できることとなった。また同法はGAOのプログラム評価の権限を強化し,

  • 連邦政府の施策の評価の方法を開発し議会に勧告すること
  • 委員会が,各省庁が行ったプログラム評価を調査することを支援すること

などの権限を与えた。

 こうした1960年代から70年代にかけての一連の議会による数々の法制定の動きにより,プログラム評価の制度化が進められ,特に議会の機関であるGAOに対しては連邦政府のプログラムを評価し,その結果を議会に勧告する法的権限が与えられることとなったのである。

 数ある公的機関の中で,特にGAOがプログラム評価を実施することとなった背景として指摘されているのは次の点である。「貧困との戦い」プログラムのような「ソフト」のプログラムの便益の測定は難しく,有効性の測定を試みる研究者もまれであったが,GAOの調査官だけは従来から具体的な数値の正確な把握に慣れていたため,プログラム評価を始めることとなった際にも困難な便益の測定に取り組み得る素地があったのである。

 以上のような沿革を持って次第に形作られてきたプログラム評価は,プログラムの効果(目的達成度)及び要した費用を,予め決められた要求レベル(=計画など)と比較して評価するのが本来の包括的な評価のあり方ではあるが,他方PPBSの挫折を教訓として,より実践的な実行可能性のある評価方法が採用されている。

 具体的には,費用の検討を省いたり,効果・便益と費用とを対比するいわゆる費用効果分析ないしは費用便益分析までは踏み込まずに,専ら政策目的達成度だけに着目する方式などがしばしば実務においては採られている。この点については,本誌第2号において金本論文でも言及されているところである。

 教育・福祉分野におけるプログラム評価

 以上述べたように,プログラム評価は米国において,社会的弱者の保護などの「社会施策」の見直しを図るための手法として開発されてきた経緯から,どちらかというと教育・福祉といった対人サービスあるいは「ソフト」行政サービスを対象として展開し,その手法も洗練されてきている。なお,わが国においても,こうした米国における手法の開発の歴史を受けて主に教育(学)や社会福祉(学)の分野でプログラム評価の研究・活用が進んでいる。

 Ⅱ GAOにおけるプログラム評価

 GAOにおけるプログラム評価

 米国会計検査院(GAO)は,周知のとおり連邦議会の最大の付属機関であって幅広い評価活動を担っているが,その主な業務は,現行のGAOの内規(General Policy Manual)等によると次のとおりである。

(1) 会計検査院長が必要と認めるとき連邦政府のプログラムや政府企業を次の観点により検査する。

 ① 会計・財務報告が連邦の各省庁の財務運営をどれだけ完全に開示しているか

 ② 経理処理が法令制度に従ってなされているか

 ③ 公的な資金が経済的・効率的に管理され,支出されているか

 ④ プログラムがその意図した目的をどれだけ達成しているか

 ⑤ 財務会計制度が一貫して運営され,会計原則,会計基準及び手続が守られているか

(2) 議会または関連委員会の要請により,

 ① 調査し,報告する

 ② 議会の関連委員会を支援し,要求された情報を提供する

(3) 会計経理の原則,基準,手続の制定

 各省庁の会計及び財務管理制度の整備に対する協力

 このうち,(1)-④が,GAOでProgram Results Auditと呼んでいるプログラム評価であり,また,(2)の議会(の委員会)の要請に基づく調査にも多くの場合プログラム評価が含まれている。

 なお,GAOにおけるプログラム評価の導入と展開の経緯については,本誌第2号の金本論文に簡潔に記されている。

 ところでプログラム評価,Program Results Auditは現在GAO内部でどのような位置付けとなっているか,GAOが定めている規則類の説明を若干紹介したい。

 政府会計検査基準(Government Auditing Standards)

 政府会計検査基準はイエローブックの名で広く知られているところであるが,本基準は政府の組織,プログラム,活動,機能,さらに政府資金を受けた契約者,非営利団体等の検査(audit)の基準であって,以下の検査に適用されるものである。

  • 連邦政府の各省庁の監察総監(Inspector General)が行う検査
  • OMBなど連邦政府の他の検査担当者が行う検査
  • 1984年単一監査法に基づく州及び地方政府に対する検査
  • その他の法令に基づく連邦政府の援助を受けた団体の検査

 政府会計検査基準では検査は次のように区分している。

図表

 政府会計検査基準では,プログラム評価について次のように定義している。

「プログラム評価は

 ① 議会が定めた,必要とされる成果や便益がどれだけ達成されたか

 ② 組織,プログラム,活動,機能の有効性

 ③ 事業主体がプログラムに適用される法令に従ったか

について評価するものである。」

 具体的には,

「① 提案されているプログラム,あるいは現行のプログラムの目的が適切で,ふさわしく(当面の問題に)関連したものであるかを調査する

 ② プログラム成果の必要とされるレベルがどれだけ達成されているかを調査する

 ③ プログラムと個々のプログラムの要素の有効性を調べる

 ④ 十分な業績を達成するのを妨げている要因を特定する

 ⑤ 必要な成果をより効果的に,より低コストで達成するプログラムを遂行する代替案について責任者が考慮したかどうかを調査する

 ⑥ そのプログラムが他の関連プログラムと補足しあう関係にあったり,重複したり,矛盾していないかを調べる

 ⑦ プログラムをより良く運用する方法を探す

 ⑧ プログラムに適用される法令に従っているかどうか調べる

 ⑨ 有効性を測定し報告するための制度が適切かどうかを評価する」

 包括的検査マニュアル(Comprehensive Audit Manual)

 包括的検査マニュアルは,GAOの職員用の内規であって,政府の組織,プログラム,活動,機能を検査・評価するに当たっての基本的な方針・基準,必要条件について記しており,そこではプログラム評価(audits of program results)について次のように記述している。

「プログラム評価は各省庁のプログラムや活動の,必要とされる成果や便益が達成されているか,議会が定めた目的がかなえられているかを評価することである。

 プログラム評価には次の事柄を確かめることも含まれる。

・管理上の問題のために望まれる成果が(十分)達成されないのではないか

・プログラムの目的をより効果的に,低コストで達成する代替案

・プログラムが作られたときには企図していなかった便益や損失が結果として生じていないか」

               (中略)

 「プログラムの成果の検証・調査という意味よりは広い。最広義の意味では,プログラム評価には費用との関連で達成される成果(費用対効果)に止まらずプログラムの目的が妥当で,かつ,適切であるかを含む。」

 なお,本マニュアルは,現在では4つの個別マニュアルに分割されているが,プログラム評価に関しては同様の記述があるようである。

 以上見てきたようにGAOにおいては,プログラム評価が,法制度上,その主要業務の一つとして明確に位置付けられており,実際の評価活動の中でも重要な地位を占めているということができよう。

 プログラム評価の体制

 GAOのワシントンD.C.にある本部組織は,院長の下に評価の支援部門として18のOfficesと,連邦のプログラムを大別して4つに区分されたプログラム局と,3つの評価技術局がある。職員数は約5,000人である(含地方支局)。

 プログラム評価は他の種類の検査(評価)と同様に評価実施部門である4つに分かれているプログラム局(Program Divisions)で行われるが,そこでは主としてプログラムの運営管理の視点から評価を行っているとのことである。これに対してプログラム評価技術局(PEMD)では評価技術面の調査を行う。これには大きく分けて,描写的分析(descriptive analysis),原因分析(causal analysis),規範的分析(normative analysis)の3種があるがそれらの詳細は定かでない。

 またPEMDは約80人の調査官(evaluator)の他,多くのPh.D.を含む社会科学の分析専門家と自然科学の専門家を抱えている。GAOが毎年議会等に提出しているレポートのうちPEMDが担当するものは3%程度と多くはなく,他の各プログラム局を評価技法上の観点から支援しているものとみられる。

 GAOは,議会の付属機関であることから,"Serving the Congress"を標榜しており,評価活動の85%程度が議会の委員会や委員からの要請に基づき始められている。このため要請された評価や調査のテーマや内容によって,また要請者の関心の方向によって,自づと評価の形態も決定される面が少なくない。

 Ⅲ GAOの評価事例

 GAOでは毎年約900件程度のレポートを作成し,議会や連邦政府の関係省庁などに配布している。わが国会計検査院ではGAOのカウンターパートとして従来より交流を続けており,これらのレポートについても数多くの送付を受けている。そこで,ここでは上記レポートのうち,特にプログラム評価の典型例と思われるものをいくつか選んでその概要を紹介したい。

 なお,前章で,評価の形態にFinancial AuditsとPerformance Auditsがあり,後者はさらにEconomy and Efficiency AuditsとProgram Results Auditsに区分されていることを示したが,しかしながら実際の評価に当たってはこの線引きは必ずしも明確ではない。特にProgram Results Auditsは前述した定義にあるように代替案との対比を行うものも多く,そうした場合,同程度のコストで目的達成度が大きいものがないかどうか,あるいは逆にある一定水準の目的達成を果たすためにより低いコストで済まないか,と云うEconomy,Efficiencyの観点がしばしば入ってくるのである。

 このためもあってか現在ではGAOはその評価報告書を評価形態に分類したものを明らかにしていないようである。

 そこで,ここでは,

 ① Programの目的達成に係る評価を試みているか

 ② 評価は総合的,包括的なものを指向しているか

という視点から選んだ2つの評価実例を紹介することとする。

 事例(1) 都市開発事業補助プログラムの評価

  (1) UDAGプログラム

 都市開発事業プログラム(Urban Development ActionGrants, UDAG)は,経済的に疲弊した都市に対して連邦政府が補助することにより,その荒廃化傾向を緩和することを目的としたプログラムであり,住宅・都市開発省(Department of Housing and Urban Development, HUD)が所管している。このプログラムは,連邦政府から補助金の交付を受けた都市が,実際にプロジェクトを実行する民間デベロッパーに融資を行うことにより経済開発プロジェクトを促進するものである。

 UDAGプログラムでは,補助対象プロジェクトの選定手続が2段階となっていて,先ずプログラムに参加するための都市の資格審査があり,次に補助金の交付を受けるプロジェクトが選定されることとなっている。前者の資格要件と後者のプロジェクト選定基準は,共にプログラムの資金配分に大きく影響している。

 このうち,都市の資格要件は次の7種の「疲弊度」で測った当該都市の経済的疲弊のレベルに基づいている。

① 1940年以前に建てられた住宅の比率

② 貧困者比率

③ 人口増加の遅れ

④ 失業率

⑤ 住民1人当たりの所得

⑥ 雇用増加の遅れ

⑦ 余剰労働力地区の指定

 具体的にはこの7指標のうち3指標以上について予め設定した基準値を満たすような都市が補助金交付の有資格団体である。

 一方,プロジェクトの選定基準においては,補助の資格要件と同様に設定した都市自体についての「疲弊度」の7指標に加えて,プロジェクトがもたらすと予想される民間投資,雇用創出,地方税収などの経済開発指標をも考慮することとなっている。

 1987年の法改正により,このプロジェクト選定基準は従来に比べてより経済開発指標を重視するものに変更された。

 なお,UDAGプログラムの予算額の推移は表1のとおり。

表1 UDAGプログラムの連邦予算

  (2) GAOの評価結果

 1987年住宅・地域開発法はGAOに対してUDAGプログラムを次の点で評価するよう求めている。

① HUD長官が補助金を交付するに当たって用いている経済社会データが最新かつ正確であるかを評価する

② ①のデータを他の利用可能なデータと比較する

③ 交付された補助金がどの程度経済開発活動を刺激しているかを評価する

④ 連邦政府が,他のデータを収集すべきか,現行のデータをもっと頻繁に収集すべきか,について議会に勧告を行う

 このうち特に③が,典型的なプログラム評価といえよう。

 上記に対するGAOの評価結果を要約すると,

 ① HUDが,このプログラムの補助資格要件やプロジェクト選定基準として使っているデータのなかには,時間が経っていたり,不正確なものもある。しかしながら,利用可能なデータの中では適当と認められる。

 ② 仮に他の指標(データ)を使うこととしても,最新性,正確さ,利用可能性の面で現行の指標(データ)と同様の限界がある。また仮に,そうした別の指標を使ったとしても,プロジェクト選定の結果にはほとんど影響しないと予想される。

 ③ プログラムの目的である経済開発の具体的な指標である民間投資,雇用創出,地方税収,住宅新改築戸数の4指標について,計画と実績を対比したところ,実績が計画を下回っている状況が目立った(表2表3)。

表2 経済開発指標でみたUDAGプログラム
表3 経済開発指標と補助額の比率でみたUDAGプログラム

 また,1987年の法改正の影響を分析したところ,従来に比べてプロジェクトの結果経済的便益が生じる見込みのある都市が重視されるようになり,逆に疲弊度の著しい都市は以前ほど重視されなくなった。

 (3) プログラム評価としての特色

 ○ GAOの評価の法的根拠と実施担当部局

 この評価例は,GAOの権限を定めた諸法や1987年住宅・地域開発法の規定を受けてGAOが実施したものであって,評価報告書が上院銀行・住宅・都市委員会及び下院銀行・財政・都市委員会の各委員長宛に提出されているほか,同じ報告書のコピーがHUD及びOMBにも送付されている。

 GAO内の資源・地域・経済開発局(RCED=HUDを担当する評価局)が評価を実施した。

 ○ 事業目的達成度の把握

 本評価は,プログラムの目的である疲弊した都市の経済的再開発がどれだけ達成されたかについてダイレクトに測定・評価している点に最大の特徴があり,プログラム評価の典型例となっている。以下,やや詳しく評価方法をみてみる。

 ① 評価手法は計画対比法,つまり,事前に事業主体が定めた計画値・目標値を評価においても業績規準値とみなして,実績値をこれと比較する考え方を採っている。

 なお,計画と実績の対比は原則として次の3種類のデータについて行っている。

ア ある指標の,対象プロジェクト全体の合計値(「比率」の指標の場合は総平均値)での比較

イ ある指標の,対象プロジェクトの中でのメジアン(中央値)での比較

ウ 実績が計画を達成できなかったプロジェクト数の割合

 ② 評価基準として,民間投資,常用雇用,地方税収,受託新改築戸数の4つの基本的な指標を使い,プログラムの実施によって誘発・促進されることが期待されている経済開発活動の程度を測定している。これら4指標は,いずれも対象となっている都市開発活動補助プログラムのアウトカムまたはインパクトを表示する指標であるので,プログラムの「有効性」を把握しているわけである。

 ③ アウトカムの把握と同時に,インプットである経費との関連についても分析している。即ち前述の4種類のアウトカムを表す各指標とUDAG補助金額との比率を評価基準とした分析も併せて行っている。

ア 民間投資/UDAG補助金

イ 常用雇用1人当たりのUDAG補助金

ウ UDAG補助金1ドル当たりの地方税収

エ 住宅新改築一戸当たりのUDAG補助金

 これらは非常に単純化された形の費用対効果分析である。

 ④ データとしては,計画値及び実績値はともに補助金交付先である都市からHUDに提出された資料(補助申請書及び進捗状況報告書)上のデータを基本的にはそのまま利用している。但し,原データに不備な点がある場合はそのプロジェクトを分析に当たって対象から除いている。

 ⑤ 計画値と実績値がかい離していることについて以下のとおり要因分析を行っている。

ア プロジェクトの計画値が誇大で非現実的なものが見られる。これは申請に当たって補助金獲得を目指してより大きな効果をHUDに印象づけようとしているためと考えられる。

イ プロジェクトの計画値は現実的であったが,計画を達成できなかったものについて,計画不達成の理由の一つとして上げられることは,HUDが都市と民間デベロッパーに対して協定に盛り込まれた条件を遵守するよう十分監督しなかったことである。

ウ 報告されるデータはしばしば不正確であり,HUDもそれを改善しようとしていない。

エ プロジェクトの計画値が,補助申請が受理された後に変更されることがあり得る。

 ⑥ GAOが評価しなかった点ないしは評価の限界にも言及している。

 例えば,民間投資や常用雇用といった便益(効果)が,プロジェクトによる純増であるのかどうか,つまり,単に一つの企業や地区から他へシフトしたに過ぎないのではないか,あるいは,プロジェクトが実施されなくとも投資が行われていたのではないかという点にまでは踏み込んで評価していないが,その旨を報告書に明示している。

 ⑦ 1987年の法改正に基づくプロジェクトの選定基準の改正が補助金の都市間配分に与えた影響を分析している中で,都市開発の便益を重視する立場と,できる限り疲弊した都市を対象としようとする立場のトレード・オフの関係を明らかにしている。これは,プログラムの目的が抱えている内部矛盾を洗い出したものであり,GAOが政策決定を支援する情報を提供している好例である。但し,何れの立場が良いかといった価値判断は控えている。

 事例(2) 職業訓練協力プログラムの評価

 (1) JTPAプログラム

 職業訓練協力法(Job Training Partnership Act, JTPA)に基づき,労働省雇用訓練庁(Department of Labor Employment and Training Administration)では,

①経済的に不利な立場にある者

②就職するのに重大な障害を持つ者

に対して種々の訓練プログラムを行っている(以下「JTPAプログラム」と略する。)。このうち中心となるのが一般成人(22才〜)及び青少年(14才〜21才)を対象とするプログラムである。

 JTPAプログラムでは,訓練サービスが,「それによって便益を受け,最もそのサービスを欲している者」に提供されねばならないとされているが,資格要件に関するそれ以上詳細な規定は特にない。

 このプログラムは,主として州知事が定めたサービス提供区(Service Delivery Areas)が事業主体となって,州を通じて受け入れたJTPA資金によって実施している。

 1989年度のJTPAプログラムの予算は約19億ドルが計上されたが,このうち,同法に定めるところによりその40%以上が14才〜21才の青少年向けに使われた。また一般成人及び青少年プログラムの平均登録者数は約40万人である。

 (2) GAOの評価

 職業訓練協力法はGAOに対し,JTPAプログラムの補助金受給者が法の目的を有効に達成しているかについて評価し議会に報告することを定めている。そして上・下両院の関連委員会からの要請を受けてGAOは,JTPAプログラムに参加している青少年,特に非就学青少年の特徴,その受けたサービス及び得た成果について以下の点を分析した。

① JTPAプログラム参加者と参加資格人口全体を比較して,プログラムが就職することがより困難なグループをターゲットにしているかどうか

② 参加者が受ける訓練サービスの種類,訓練サービスの種類と得られる成果との関連

③ 非就学青少年参加者と成人参加者の比較

 このうち②がプログラム評価の中心となる。

 以下に主な論点に関する評価結果を要約する。

 ① JTPAプログラム参加者を就職困難度(後述)により3分類したときの各グループの構成比率は,同プログラムへの資格を有すると考えられる人口全体を同様の困難度によって3分類したときの構成比率とほぼ同じであった。これは,同プログラム参加者の構成が就職困難なグループ中心にはなっていない,言い換えればプログラムが就職困難なグループをターゲットとして絞り込んでいないことを意味する。

 ② JTPAプログラムに参加した青少年の訓練後の成果を労働省の定めた基準に照らしたところ,訓練によって何らかのプラスの成果を得たものの比率では労働省の基準と同程度であり,就職率(就職者数/訓練修了者数)では基準を上回り良好な結果と認められた。

 ③ 職業訓練で受講した技能レベルと,訓練後就職したときに従事する労働の技能レベルとの間には,訓練生の個人的属性の如何を問わず正の相関関係が見られる。

 すなわち技能レベルに関しては訓練が有効であったと言えるかも知れない。

 ④ 非就学青少年,特にそのうち就職容易グループには,低級技能労働のOJTを必要以上の長期にわたり受けている傾向がみられる。労働省が最大240時間以内の訓練で十分としているレベル労働に対して,平均347時間をOJTとして費やしており,この結果雇用主に過大な賃金補助が支払われる結果となっている。

 (3)プログラム評価としての特色

 ○ GAOの評価の法的根拠と実施担当部局

 この事例は,GAOの権限を定めた諸法及び職業訓練協力法の規定を受けてGAOが実施した評価であって,評価報告書は上院労働・人的資源委雇用生産性小委員会及び下院教育・労働委員会の各委員長宛に提出されているほか,同じ報告書のコピーが労働省及びOMBにも送付されている。GAOの人的資源局(HRD=労働省を担当する評価局)が評価を実施した。

 ○ 本評価の特色

 本評価は,プログラムの目的である,訓練受講者が得るべき成果の達成度を訓練サービスの種類との関連において分析している部分(成果測定)と,現に訓練を受講しているグループが,プログラムが本来ターゲットとして想定したグループと一致しているか否かを分析している部分(ターゲティング)から成っている。

 以下に評価の特色を上げる。

 ① 「ターゲティング」の評価においては,法律上ターゲットとすべき層の定義が曖昧であるため,GAOが独自に作った就職困難度*の指標により訓練受講生を分類した上で分析している。

 就職困難度の指標の開発に当たっては,最近の調査研究の結果,専門家の意見,センサス局の人口統計データを用いたGAO自身の重回帰分析結果などを使用している。

 また同指標によるカテゴリーの適切性を追加確認するために,センサス局の人口統計データを使って各カテゴリー毎に就職後の年収と定着率を追跡調査している。

 *就職困難度:労働市場においてハンディと考えられる特性として,

高校中退者/少数民族/生活保護受給者/扶養児童を抱えた片親/最近の労働経験がないこと

の5要素を定めたうえで,訓練受講生がこのうちいくつの要素に該当するかにより,就職容易グループ,中間グループ,就職困難グループに分類したもの

 ② 「成果測定」の評価手法は計画対比法であるが,計画(値)としては労働省が定めた業績規準値,例えば就職率41%,などを用いて,これと実績値を対比している。

 ③ 評価基準としては訓練受講者の就職率,(就職を含む)プラスの成果を得た受講者の比率,初年度賃金,就業した労働の技能レベルの各指標を使い,プログラムの実施によって受講者が得る便益の度合を測定している。

 この4指標は何れもプログラムのアウトカムを表現する指標であり,「有効性」を把握するのに使われている。

 ④ プログラムが「人間に対する投資」という性格を持っているため,包括的な評価基準の設定や,成果に影響を及ぼすと考えられる諸要素等の寄与度の特定など様々な面で困難があり,必ずしも定量的な評価とはなっていない。

 ⑤ 個人の属性と得ることのできた成果との関係,個人の属性とプログラムとの関係についても分析している。つまり訓練受講生を就職困難度や人種・性別によって区分した上で,各グループ毎にその受けている訓練サービスの種類や,訓練によって得ることのできた就職などの成果の度合を調べ,グループ間の差異を分析している(図1)。

 ⑥ ⑤で述べたように属性−成果,属性−プログラムの関係は分析しているが,成果を決定する2つの要素である属性とプログラムの寄与度の分離・特定までは踏み込んでいない。

 また,個人的属性とは別個に成果に影響すると考えられる外的な環境要因−例えば地域の雇用情勢や経済環境−についても考慮はされていない(図1)。

但しこうした評価上の限界についてはそのレポートの中に敢えて明示してある姿勢が特筆される。

図1 属性ープログラムー成果

 Ⅳ わが国会計検査院による有効性の評価

 わが国会計検査院は日本国憲法及び会計検査院法に基づき国,政府出資法人,補助事業者などの会計を検査しており,その結果は毎年度決算検査報告として内閣に提出され,国会へ報告されているのは周知のとおりである。

 会計検査院では評価(検査)の観点として次のものを掲げている。

① 合規性・正確性の観点

② 経済性・効率性の観点

③ 有効性の観点

 このうち有効性の観点は「事業が所期の目的を達成し効果を上げているか」と説明されており,本稿の一方のテーマであるプログラム評価とほぼ同様の評価形態といえよう。

 そこで以下に有効性の観点からの検査の実例を紹介することとしたい。具体的には,近年の決算検査報告から8つの有効性の観点からの検査事例を取り上げて,それぞれの事例において,評価のポイントとなる以下の①〜⑤の点に絞って簡単にまとめてみた。

① 事業の目的体系,あるいは目的−手段の連鎖の体系をどのように把握しているか

② 評価基準(指標)としては具体的にどのようなものを使っているか

③ 事態が適当であるか否かの境界線としての「業績規準値」(=評価基準の具体的な数値)は設定しているか,設定しているとすればその値の根拠

④ その評価基準によって達成度を測定したところの「目的」は何か

⑤ 評価結果

 なお,決算検査報告には,こうした施策・事業の測定・評価の部分に加えて,会計検査院による原因分析及び事業主体が措るべき事態や制度についての改善処置に関しても記述がなされている。

 事例(1) 自動車輸送統計調査業務を適切に行うよう改善させたもの(昭和63年度)

(概要)

 運輸省(地方運輸局長)は,自動車輸送統計調査を統計調査員を任命して行わせているが,訪問調査が原則であるのに,郵送調査で行っている調査員が多数あった。

(目的の体系把握)
(評価基準と業績規準値)

(評価結果)

 全数郵送調査が40%,一部郵送調査が37%あった。また,郵送調査の回収率は65%と訪問調査方式の回収率実績87%より低かった。

 事例(2) 国の補助を受けて設置された自転車駐輪場の管理運営等を適切に行うよう改善させたもの(63年度)

(概要)

 建設省は駐輪場を設置する市町村に補助金を交付しているが,その中には駅前の放置自転車が解消されず,設置した駐輪場が低利用となっているものがある。

(目的の体系把握)
(評価基準と業績規準値)

(評価結果)

 調査162箇所中14箇所で,駅周辺の路上等には相当数の自転車が放置されており,かつ一方では,未利用の駐輪スペースがある。(14箇所の駐輪スペースは計16,200台に対して8,300台が未利用)

 事例(3) 地籍調査事業の実施について適正な遂行と事業効果の早期発現を図るよう是正改善の処置を要求したもの(61年度)

(概要)

 国土庁は,地籍調査事業を実施する市町村に補助金を交付している。市町村は調査・測量の結果を地籍図・地籍簿とした後,主務大臣または都道府県知事の認証を受け,さらに土地登記簿の変更登記がなされる仕組みとなっているが,調査・測量はしているものの,県知事に対する認証請求や登記所への送付を怠ったため,効果があがっていないものがある。

(目的の体系把握)
(評価基準と業績規準値)

(評価結果)

 知事認証や登記簿登記がなされていないものが調査251市町村中44市町村で見られた。

 事例(4) 鶏卵価格安定対策事業について事業実施の適正化を図るよう改善の処置を要求したもの(61年度)

(概要)

 農林水産省は,鶏卵価格が一定水準を下回ったとき関係団体(基金)が生産者に価格差補てん金を交付する事業に対して,補助金を交付しているが,計画生産を遵守せず,登録羽数を超過して飼養している生産者に補てん金を交付しているものがあった。

(目的の体系把握)
(評価基準と業績規準値)

(評価結果)

 一定の登録羽数を超えて飼っている生産者には価格差補てん交付金を交付しないこととなっているのに,チェック不十分によりそうした「超過羽数飼養者」にも交付していた。

 955人中242人が超過羽数飼養者で,242人分の超過羽数は218万羽(24%オーバー)に上っていた。

 事例(5) 農地所有者等賃貸住宅建設融資利子補給事業の実施を適切に行うよう改善させたもの(61年度)

(概要)

 農地所有者が市街化区域内農地に一定の要件を満たす賃貸住宅団地を建設する場合,建設省が建設資金を融資する農協等に利子補給金を交付しているが,利子補給契約締結後5年以上経過した住宅団地を調査したところ上記要件を満たしていないものがある。

(目的の体系把握)
(評価基準・業績規準値)

(評価結果)

 団地が小規模であったり,賃貸住宅の比率が低かったり,水田の宅地化に貢献していなかったりして,当初の要件を長期にわたり満たしておらず,効果があがっていない事業があった。(調査305団地中124団地)。

 事例(6) 地区再編農業構造改善事業の基本目標を達成させ,その事業効果の発現を確保するよう意見を表示したもの(60年度)

(概要)

 地区再編農業構造改善事業は,関係農業者が自主的に締結した作付・栽培協定の実践を通じて①農業生産の担い手の育成・確保,②農用地の適正な利用・管理,③農業生産の再編成などを図る目的で各種の補助事業をその内容としているものであるが,その中には上記各目的を達成していないと認められるものがあった。

(目的の体系把握)
(評価基準と業績規準値)

(評価結果)

① 農業生産の担い手とは認められない農家が,市町村が目的を達成しているとみなした調査7,449戸のうち2,570戸あった。

② 担い手への農用地の利用集積が不十分と認められる農家が4,584戸中2,389戸あった。

③ 農業生産の再編成が十分達成されていない地区が見られた。

 事例(7) 田園都市中核施設整備事業の効果があがるよう改善させたもの(60年度)

(概要)

 自治省では田園都市中核施設(教育・文化,スポーツ・レクリエーション,産業振興等の施設)を整備する市町村に対し,交付金を交付しているが,中核施設による広域市町村圏全体にわたる広域サービスシステムの形成という目的が十分果たされていないものがある。

(目的の体系把握)
(評価基準・業績規準値)

 事例(8) 重要野菜に係る野菜価格安定対策事業を適切に行うよう改善させたもの(62年度)

(概要)

 農林水産省は,重要野菜価格が一定水準を下回ったとき関係団体(基金)が生産者に生産者補給交付金を交付する事業に対して,補助金を交付しているが,出荷計画とのかい離が大きく適切でないと認められるケースについても補助金が交付されている。

(目的の体系把握)
(評価基準・業績規準値)

(評価結果)

①・・81件中45件が目的を達成していない

②・③・・・136件中44件が目的を達成していない

 有効性の検査の特徴

 以上の事例からわが国の会計検査院における有効性の観点からの評価の特徴としては次の点が上げられよう。

 ① 目的体系の把握に当たっては,法令等で明文化されているものに限定していて,会計検査院自身による目的の解釈を付け加えることはない。

 ② ①とも関連するが,評価基準の選定においても,事業主体などがコントロールし,あるいは関与することの可能な指標が選ばれている。

 この理由はこれらの検査事例が,いずれも関係省庁等に対して事態の改善を要求したり,あるいは指摘を受けて改善の処置が採られたものであって,事業主体がコントロール可能な事態であるからこそ指摘を受けての改善が可能であることによる。

 ③ しかしながら,事業の性質上,あるいはより高次の目的の達成度を評価しようとする場合などでは,事業主体等が必ずしもコントロールできない指標が評価基準として選ばれる例もある。

 例えば事例(2)では,事業の目的である「放置自転車の解消」の達成度を,駅前放置自転車の台数によって直接的に,また駐輪場の利用具合によって間接的にそれぞれ測定しようとしたものであるが,前者の放置自転車台数という指標は,例えば住民意識というコントロールし難い要素にも強く影響されると考えられるものの,目的の直接的な測定を重視して敢えてこれを評価基準として使用している。

 また,事例(6)は,事業の目的があいまいであったことから,会計検査院自身が事業主体である農水省の施策を十分勘案しつつ独自の評価基準を定めて評価を行ったケースである。

 事例(8)では,従来農水省においては,数ヵ月間程度である出荷期間(=数箇月)を通算して出荷計画と出荷実績の開差が±5%以内の場合に交付対象としていたのに対し,会計検査院が,より高次の事業目的から独自に判断して,1箇月毎の計画との開差±5%以内という評価基準と業績規準値を設定したものである。

 ④ 業績規準値は,その設定如何によって評価に恣意性が入り込んでしまうため,慎重を要するものであるが,それを回避するため事前に事業主体などが定めた計画値を用いるものがある。このような評価(による指摘)を会計検査院では計画不達成と呼び慣わしている。

(事例(4),(6))

 ⑤ 有効性の観点からの検査の典型例として事業で建設,築造した施設が長期にわたり未利用・低稼動となっているという事態があり,昭和50年代の検査ではそうした態様の指摘が数多くなされたが60年代に入ってからはそうした「モノ(ハード)」の遊休だけではなく,ソフト面の努力・配慮が欠けているため事業の本来の目的が達成されていないという指摘も少なからず見受けられている。(事例(1),(3),(4),(7))

 ⑥ GAOの評価事例にしばしば見られるeligibility(資格要件)の問題,すなわち,その施策によって現に便益を受けている層やグループと事業がターゲットして考えていた層やグループとの関係を論ずるという評価方法の事例は,我が国会計検査院ではあまり多くない。

 上記事例の中ではわずかに事例(6)の,「農業生産の担い手」の評価がこれに該当しよう。ここでは市町村が「担い手」と判断した農家について,独自の基準でふるい分けをしたうえで,一部については本来の事業目的からみてeligibleでないと認めたものである。

 Ⅴ プログラム評価と有効性検査

 これまで,GAOのプログラム評価及びわが国会計検査院の有効性検査について,事例を交えて別個に紹介してきたが,本稿のまとめとして両者の比較・検討を行い,これを通じてわが国の有効性検査の位置付けを試みることとしたい。

 (1) 評価・検査の根拠

 GAOのプログラム評価活動の制度上の根拠は,しばしば評価の対象であるプログラム自体の根拠法の中に明文化されていることが多い。前に紹介した2つの評価実例でも1987年住宅地域開発法及び職業訓練協力法の中に,GAOにプログラムの有効性の評価を求める旨の条項が盛り込まれており,当該プログラムの施策のサイクルの一環としてGAOの事後評価が予め組み込まれていることがわかる。また,ほとんどの場合議会の委員会からのGAOに対する要請が評価の契機となっている。

 このように,GAOのプログラム評価は明確な法の要請に基づくものであるが,反面,GAOの自由な発意によるものではなく「他律的」な側面が強いのが特徴である。

 確かに前述したとおりGAOは「院長が必要と認めるとき」にプログラム評価を行う一般的権限を持っており自発的な評価が可能ではあるが,実態はGAOの評価の8割強が議会からの要請に基づくものとなっている。また,個々のプログラムの根拠法に盛り込まれた評価の根拠条項も,いわば制度化された議会の要請ということができよう。

 但し,GAOの議会連絡担当部局によると,逆にGAOの側から議会に対して,行政の問題点について示唆することもあるとのことであるから,「議会の要請」即ち「他律的」とは断定できないかも知れない。形式だけではなく実質においても「他律的」に評価が開始されているのかどうかは,さらに調査が必要と思われる。

 これに対してわが国会計検査院の場合は,会計検査院法に検査一般についての包括的な根拠規定があるだけであって,どの様な観点から検査を行うかは独立機関としての会計検査院自身の判断に任されていると考えられる。有効性の観点からの検査もまた然りであって,行財政の状況,検査に対する社会的な要請の高まり等々の諸情勢を勘案し,長い時間を掛けて検査院内部において明確な「検査の観点」の一つの柱として定着してきた評価形態である。また,どの様な事業(プログラム)を対象として有効性検査を実施するかは,検査院の「自律的」な決定によるものである。

 両者のこうした違いは,それぞれの国の統治機構に占める会計検査機関の位置付けの差に主として起因するものと考えられる。

 米国では伝統的に大統領対議会という形の拮抗する勢力の対立の図式があり,大統領に対する議会のチェック機能を担う機関としてGAOが位置付けられている。このためGAOにはあくまでも議会の意向に沿った活動が要求される。GAOが"Serving the Congress"を標榜する所以である。

 これに対し,わが国では会計検査院は内閣から独立しているが,国会にも属しない独立機関として位置付けられているため,法律にのみ従い,他者から影響されることなく検査活動を実行することとなる。

 (2) 評価・検査の目的

 米国のプログラム評価の眼目は,議会による目的達成度の把握・確認にあり,財政資金の行方の追及にはない。GAO,したがって議会が知りたいことは,例えば「疲弊した地域」や「社会的弱者」などが,プログラム実施によってどれだけ潤ったか,という点にあると考えられる。というのは,そうした地域やグループにつながりを持った委員会や個々の議員にとって,「誰が,どれくらい便益を享受しているか,あるいは享受していないか」という点は大いなる関心事であろうからである。

 GAOが評価に当たってしばしばeligibility(資格要件)を重視する理由もここにあると思われる。法律が本来想定していたプログラムの便益享受者と実際のそれとを対比してeligibleか否かをチェックすることは,関連する議会の委員会もしくは議員にとって重要であるからである。

 プログラム評価はこのように政策効果の確認に主たる関心があるため,投下された財政資金自体の使途の追求,あるいは連邦財政への影響度の分析といった考えはあまり強く現れてこない。

 これに対してわが国会計検査院の有効性検査は「事業が所期の目的を達成し効果を上げているか」と説明されているとおり,目的達成度の測定・評価という点においてプログラム評価とほぼ同義ではあるが,その評価の最終的な狙いは国の財政の適切な執行,投下された財政資金の使途のチェックの一点に収束している。換言すれば,有効性検査は,他の観点からの検査と同様,抽象的・一般的な国の財政,国庫(fisc)を守るための手段ということができよう。つまり,会計検査院による目的不達成という事態に対する指摘は,そうした事態が,ひいては「投下した財政資金が効果を上げていない」,あるいは「無駄になっている」ことに結び付くが故に批難さるべきとの考え方を採っているのである。

 (3) 評価対象の捉え方

 GAOのプログラム評価は,分析の範囲をプログラムの全体に拡げた包括的な評価を指向しており,目的の直接的な把握にトライしている例が多い。その反面,事態の要因を分析して事業主体の責めに帰すべき部分を特定しようとする姿勢は殆ど見られず(技術的にそれが不可能な例も多い),わが国の会計検査からみると「踏み込み」が必ずしも十分でない事例も多い。しかしながらそうした分析・評価の限界点をレポートの中に明示している姿勢は評価に値する。

 また,各種の統計や研究機関の既存の調査研究成果などにも数多く当たって公平な評価を心がけている。

 わが国会計検査院では,施策の包括的な評価というよりは,問題点の見受けられる限定した局面や部分について,深く踏み込んだ厳密な評価を行う傾向が強い。これは,検査の結果事業主体の会計責任を追及したり,改善のための処置を採るよう要求したり,公式な意見を表示したりすることから,社会経済情勢の変化などの不可抗力と認められる環境要因を排除し,局面を限定する必要があるからである。会計検査院では事業主体の責めに帰すべきことがはっきりしており,且つ,事態や事態の原因である制度等に対する現実的な改善策が採り得る指摘でなければ,原則として決算検査報告に掲記していない。

 しかしながらこのことは有効性の検査に当たって施策の包括的な評価がなされていないことを意味しない。検査の結果は毎年度の決算検査報告に結実されるが,報告に文章化されているものの背後には膨大な作業量を伴う分析・評価があって,その段階では施策全般にわたって広範且つ深く事態を見極めようとする努力が払われているのであるが,この点はほとんど外部には知られていない。

 またデータ・情報の収集に当たって,会計検査院では,実地検査により極力施策に関する原データを収集する方式を採っており,データの正確性・厳密さの点では高いレベルにあると思われる。

 但し伝統的に経済性・効率性の検査に重点を置いてきた関係上,費用(インプット)面でのデータの収集にはノウハウが蓄積されているが,効果や便益(アウトプット・アウトカム)面でのデータ収集は技術的に困難な面もあり,今後さらに手法の開発が必要な分野である。

 (4) 公共部門の財政監督に果たす機能

 およそ公共部門の検査・監査と称する活動はいくつかの機能を併せ持っていると考えられるが,ここではそれを大きく

① 統制機能−会計責任の追及

② フィードバック機能

③ 情報提供機能

の3種の機能に分けてみることとする。

 そしてGAOのプログラム評価及びわが国の有効性検査がそれぞれ如何なる機能を重視しているかを整理したものが,表4である。

表4 プログラム評価及び有用性検査の機能

 プログラム評価の場合は,統制機能は考慮せず,議会に対する情報提供機能に徹している。このため評価報告書には,プログラムの背景,内容,問題点,評価結果,分析の視点と方法論について冗長ともいえるほど詳細に記述されており,必要に応じて評価報告に対するプログラム実施機関のコメントも掲記している。また議会が制度改正の検討材料とすべく評価を要請するケースや,評価の結果としてプログラム実施機関に勧告を行うケースがあり,こうした場合には,行政へのフィードバック機能を果たしていることとなる。

 一方わが国の有効性検査では,主眼はあくまでも統制機能であって会計責任の追及をメインに置いている。しかし個々具体的な会計経理の不当性を指摘するのではなく施策全体の評価であるため,統制機能と同時に事態の改善のための処置を要求し,または意見を表示するという行政へのフィードバック機能をも重視している。情報提供機能については一部の指摘を除き,さほど重視していないのが現状である。

 Ⅵ まとめ

 わが国会計検査院の有効性の観点から行う検査は,「施策の所期の目的を達成し効果を上げているか」という見方で今日会計検査院の実務に定着している。一部には,有効性の検査といっても現状では施策の限定された局面ないしは下位レベルの施策の目的の達成度を対象とした検査にとどまっている,との指摘も散見されるようである。しかしながら,単なる問題点の紹介ではなく,事態の背景の説明,原因の分析,具体的で実行性のある改善策の提示を揃えた上での指摘である点に着目すれば,十分プログラム評価に匹敵し,あるいは分析の深さにおいてこれを凌駕しているといっても過言ではないというのが両者を比較した上での筆者の感想である。

 それでは,GAOのプログラム評価から得られるものは何か,という点であるが,これについては本誌第2号の金本論文に簡潔にまとめられているところであり,他言を要しないが,実務者の立場から重要と思われる点について,まとめるとすれば,次のとおりである。

① 統制機能を重視する余り,却って会計責任の追及が可能(あるいは容易)な施策や施策の側面のみに検査の対象を限定する結果となる嫌いがあるので,過度に厳密な原因分析や指摘金額の計算に陥る事なく,大きな問題を捉えようとする姿勢が大事である。

② このためには,国会での論議や,政策を巡る各方面での議論や意見を幅広くサーベイした上で,社会性を持った問題に取り組む必要がある。

③ 実地検査を通じて施策・事業の現場を実地に確認し,実態を把握する検査の進め方は,目的・効果の測定という有効性検査の中核をなす部分に対しても非常に有効な検査方法である。

④ 情報提供機能に着目するならば,複雑・専門的で一般には知られていないが財政に影響を与える諸問題につき,客観的な立場から分かりやすく分析してこれを明らかにする方向が今後は重要になろう。

⑤ 多くの情報を正確に記述しつつ,同時に分かりやすく報告することは難しいことではあるが,今後とも決算検査報告をはじめとした会計検査院としての「アウトプット」をより分かりやすくする工夫が求められよう。

参考文献

  • 会計検査院決算検査報告(各年度)
  • 会計検査問題研究会「業績検査に関する研究報告書」平成元年1月
  • 金本良嗣「会計検査院によるプログラム評価−アメリカGAOからなにを学ぶか−」会計検査研究第2号
  • 山谷清志「合衆国連邦政府における行政統制システムの動向」李刊行政管理研究No.37
  • (財)行政管理研究センター「政策研究のフロンティア」第3章「政策評価とその問題点」
  • (財)行政管理研究センター「政策形成と行政官の役割」第6章「政策評価と行政統制理論の動向−行政監察とプログラム評価−」
  • 斎藤達三「自治体の事業別予算」1990
  • 片岡寛光「合衆国会計検査院による行政監察」早稲田政治経済学雑誌第269号
  • GAO,GAO 1966-1981 An Administrative History
  • GAO,Government Auditing Standards 1988
  • GAO,General Policy Manual
  • GAO,Project Manual
  • GAO,Comprehensive Audit Manual
  • GAO/RCED-89-143 "URBAN ACTION GRANTS: An Analysis of Eligibility and Selection Criteria and Program Results"
  • GAO/HRD-90-46BR "JOB TRAINING PARTNERSHIP ACT: Youth Participant Characteristics, Services and Outcomes"
  • Mosher,The GAO: The Quest for Accountability in American Government, 1979
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