第3号

政府開発援助の会計検査
−法的問題点と政策的妥当性−
中川 淳司

中川 淳司
(東京工業大学助教授)

 1955年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了,法学博士。埼玉大学教養学部非常勤講師を経て,90年から現職。国際法学会,American Society of International Law,国際開発学会に所属。

 主な著作は「国境を越える資源開発の法過程」「資源国有化紛争の法過程」など。

 はじめに

 政府開発援助の適正な実施を援助国が管理する手段の一つとして,援助国の検査機関による相手国における会計検査(実地検査)の実施が考えられる。我が国においても,1986年のいわゆるマルコス疑惑をきっかけに政府開発援助の適正な実施に対する関心が高まり,会計検査院による実地検査の実施が論議された。しかし,日本政府は(一)相手国の主権の尊重,(二)相手国の自助努力を支援するという日本の援助の基本的な姿勢,という二つの理由を挙げて,相手国における会計検査の実施については一貫して消極的な立場をとっている。例えば,昭和63年4月1日の参議院予算委員会において,当時の外務省の英経済協力局長は次の通り答弁している。

 「・・・実施主体である相手国政府というものに対して検査を行なう,つまり日本の公権力の行使が行なわれるということは,やはり相手国の主権の問題にかかわる。・・・相手国の政府機関そのものに対して会計検査を行なうということは,そういう自助努力を支援するという日本の援助の基本的な姿勢からも,また相手国の主権の尊重という関係からしても不適当であろう,こういう考えを持っております(注1)。」

 そのため,現在は,相手国の了解が得られた場合に限り,日本の援助担当機関の担当官立ち会いの下で会計検査院の係官による検査を実施するという方法がとられている(注2)。このような方法ははたして妥当であろうか。本稿は,国際法学の立場からこの方式を批判的に検討する。それと同時に,政府開発援助の適切な管理体制の構築という政策的な観点から,援助国による会計検査の実施に関して今後のありかたを提案する。

 具体的な検討に入る前に,問題を限定しておく。

 政府開発援助の会計検査という場合,本稿では援助国の検査機関による相手国における会計検査を指すものとする。援助国の検査機関が援助国国内において援助担当機関に対して会計検査を実施できることについては異論がない。また,援助国の在外公館や援助実施機関の海外事務所に対しても,その所在地は外国であるが,国際法上本国の排他的管轄権が原則として認められ(注3),援助国の検査権限は当然に及ぶと考えられるから,ここではとりあげない。したがって,本稿で問題にするのは,援助の相手国において援助国の検査機関が会計検査を実施することの国際法上及び政策上の妥当性である。

 1 援助国による検査の実施は相手国の主権を侵害するか

 a 主権概念の国際法上意義

 まず,会計検査の実施が相手国の主権侵害になるといわれる場合の「主権」概念の国際法的意義から検討する。今日,主権は国内的には国家の最高の意思決定権能を(それがいかなる主体に帰属するかに応じて国民主権なり君主主権といわれる場合の用法),対外的関係においては国家が他国に従属しないこと(対外的独立)を意味すると一般に理解されている。ただし,このような主権概念は歴史的に不変のものではない。国際法上,主権概念の意義については歴史的な変遷があった。19世紀においては,最高の意思決定権という国内的な意味での主権の概念を対外的側面にも適用して,国家の基本権(fundamental right),自己保存権(right of self-preservation)といった概念構成に基づき,主権を国際法に先行する絶対的な権利と構成する見解が支配的であった。国際法が法的拘束力を持つ根拠として,国家の自己拘束(Selbstbeschränkung)を説いたドイツの国際法理論はその代表である(注4)。それと同時に,国家は条約等によって明示的あるいは黙示的に同意していない限り何ら国際法上の規制を受けないとする原則(明示的な法的禁止以外の残余は国家の自由が許容された領域であるという意味で,残余原理 residual principle と言われる)が唱えられ(注5),主権に対する国際法上の制約は極限まで縮小された。このような絶対的な主権概念の下では,一国の領域内における他国の公権力行使は当該領域国の主権を侵害する行為として原則として禁じられ,(一)当該国の事前の同意がある場合,(二)条約その他の実定国際法上の根拠がある場合に限って,例外的に公権力行使が認められることになった。

 20世紀に入ると,国際条約数の飛躍的増加に象徴される国際協調の進展の結果として,このような絶対的な主権概念はしりぞけられ,主権は対外的に国家が他国に対して従属しないことを意味するに留まり,それ以外に国家が対外的な関係においていかなる法的機能を認められるかについては,国際法がその内容を規律するという考え方が支配的となった。主権を国際法に先行する絶対的な権利と構成した19世紀とは主権と国際法の関係が逆転したのである。したがって,一国の領域内で他国が公権力を行使する行為についても,ア・プリオリに主権侵害として違法とされるのではなく,あくまでも実定国際法に照らして領域国の権能と他国の権能の調整が図られ,合法性が判断されることになった(注6)。ただし,19世紀に支配的であった絶対主権論はナショナリズムにアピールするものがあり,政治的な文脈では今日でもしばしば用いられている。しかし,こうした主権概念の政治的な使用と国際法上の主権概念は区別する必要がある。

 それでは現在の国際法上,相手国における援助国検査機関による会計検査の実施は,相手国の主権侵害を構成することになるか。この点を,特別の条約規定が存在しない場合と存在する場合を分けて考察する。

 b 特別の条約規定が存在しない場合

 この場合は,諸国家を拘束する一般国際法に基づいて,相手国に対する会計検査が相手国の主権侵害を構成するかどうかが決定されることになる。一般国際法上,国家は自国の領域内において排他的な管轄権を原則として認められ(領域管轄権 territorial jurisdiction),他国による管轄権の行使を排除することができるとされる。属地主義(territoriality principle)と呼ばれるこの原則は,国家の領域支配という事実に支えられた実効性を持ち,管轄権の根拠のうちでは最も原則的で支配的な地位を認められている。ただし,属地主義も管轄権を行使するための唯一の根拠ではなく,一定の場合に領域管轄権の排他性に対する例外が認められている。第一に,外交使節,領事等,特定の地位を持った個人や団体に対しては,国籍国の排他的管轄権が認められている(いわゆる外交特権及び免除)(注7)。第二に,船舶や航空機等の移動手段に対しては,その所在国ではなく当該船舶,航空機等の国籍国が管轄権を行使できるとされる(注8)。第三に,国家は国籍を根拠として自国領域外の自国民や自国系企業に対しても管轄権(対人管轄権 personal jurisdiction)を行使しようとする(国籍(ないし属人)主義nationality (or personality) principle)(注9)。第四に,海賊,ハイジャックなど特定の普遍的な犯罪行為に対しては,領域の内外,国籍の有無のいかんを問わずあらゆる国が普遍的な管轄権を行使できるとされている(普遍主義 universality principle)(注10)。最後に,属地主義によっても国籍主義によっても正当化されないが,ある行為のマイナス効果が自国に及ぶのを食い止めるために,国家が外国において管轄権(防御的管轄権 protective jurisdiction)を行使することがある(防御主義 protective principle)(注11)。

 これらのうちで第三,第四,第五の場合には,管轄権を行使しようとする国と領域国の間で管轄権の抵触が生じ,いずれの管轄権を優先させるかが問題となる。その場合,属地主義に基づいて領域国の管轄権が原則としては優先するので,これに対抗して対人管轄権,普遍的管轄権,あるいは防御的管轄権を主張する側が,領域国の管轄権を排除して自らの管轄権を優先させることを正当化する根拠を提出しなければならない。

 援助国が当該援助に関して相手国において会計検査を実施しようとする場合,こうした正当化根拠が果たして存在するか。

 会計検査実施の正当化根拠として考えられるのは,当該援助が援助国の政府機関の決定に基づいて実行されたこと,当該援助で提供された資金なり資機材の出所が援助国であること,及び派遣された専門家その他の人員が援助国の国籍を有すること等,当該援助が援助国の行政作用としての性格を有することである。しかし,他面において,当該援助は援助国と相手国との合意に基づいて相手国の領域内で実施され,相手国も当該援助に必要なローカルコスト(人員,資機材,土地等)を負担する。しかも,援助国から提供された資金,資機材等の所有権は,相手国がそれらを受け入れた時点で相手国に移転する(注12)。また,援助国から派遣された専門家その他の人員も,外交使節団のメンバーなど一般国際法上特別の特権及び免除を認められる人員を除けば,相手国の領域内においては相手国の領域管轄権に服するものとされる。したがって,少なくとも相手国国内における援助の実施過程を見る限り,これを援助国の排他的な管轄権が認められる行政作用とみなすことは困難である。相手国と援助国の会計検査管轄権(audit jurisdiction)が,少なくとも潜在的には競合する可能性はあっても,相手国の会計検査管轄権を排除して援助国が会計検査を実施することが一般国際法上正当化されるとは言いがたい。

 c 条約規定が存在する場合

 次に,特別の条約規定が存在する場合を考えてみる。一般国際法の解釈としては以上のように言えるとしても,条約規定に基づいて領域管轄権の排他性を制限し,他国の管轄権行使を認めることは−−一般国際法上の強制規範(jus cogens)に抵触しない限りは(注13)−−可能である。例えば,かつては非西欧諸国が欧州の列強との条約で,保護関係(protectorate),租借(lease)その他の名目で,自国領域内の一定の地域における列強の管轄権の排他的行使を認めた例があった。また,現在の例として,例えば,日本は日米安保条約に基づいて国内に米国が軍事基地を設け,駐留軍兵士に対する裁判権を含めた一定の管轄権を行使することを認めているが(注14),これも条約に基づく領域管轄権の制限の一例である。

 条約規定に基づく領域管轄権の制限と他方当事国の管轄権行使の許容性に関して,国際法は一般国際法上の強行規範との抵触を禁じるのみで,それ以外の明示的な制約は設けていない。したがって,実際にいかなる規定を条約に盛り込むかは,条約当事国の交渉を通じてアド・ホックに決定されることになる。一般的に言って,条約によって領域管轄権を制限されることになる当事国は,そうした制限を受け入れることに対して抵抗する。制限が受け入れられるか否か,また,いかなる制限が受け入れられるかは,したがって,管轄権を相手国国内で行使することを求める他方当事国が相手国をいかにして説得できるかにかかってくる。説得のために他方当事国はさまざまな手段を動員するが,中でも最も重要な手段は一貫した政策であろう。とりわけ,政府開発援助のように類似の条約がさまざまな相手国との間で締結され,かなり定型的な条約関係が形成される場合には,一貫した政策の果たす役割は大きい。こうした場合,個別の条約締結交渉において当事国が自国の一貫した政策を動員することができれば,個別的な事情を根拠として相手国を説得する場合に比べるとはるかに容易に自らの要求を相手国に認めさせることができるだろう。

 以上,条約慣行について一般論として述べた点は,政府開発援助の場合にもよくあてはまる。政府開発援助の実施に先立って,援助国と相手国は条約(注15)を締結する。先に述べた通り,この条約において援助国が相手国に対して会計検査を実施する旨規定することは国際法的には可能であり,一貫した政策指針に基づいて実際にこうした規定を設けている援助国がある。例えば米国の場合,援助の実施に先立って相手国と締結する条約において,通常以下の規定を設けている。

 「被援助国は,当該援助に基づいて取得した資材や役務の受領や使用の状況を適正に示す帳簿・記録を一般に認められた会計原則に従って作成・維持するとともに,これらの帳簿・記録について,定期的にUSAIDの監査を受けなければならない。」

 USAID(米国国際開発庁)は米国の政府開発援助実施機関であり,ここに言う監査は米国会計検査院(GAO)による外部監査ではなく,援助実施機関自らが行なういわゆる内部監査にあたる(注16)。ただし,USAIDの場合,監査を実施するのは,大統領によって任命され,職務の遂行に当たって相当程度の独立性と中立性を保障されたUSAID監察総監(Inspector General)であり,その実態は外部監査にきわめて近い(注17)。

 ひるがえって,日本の場合を見てみると,日本が援助に際して相手国と締結する交換公文においては,こうした規定は設けられていない。援助の類型によって多少の違いはあるが,援助プロジェクトの実施確保に関わる規定としては,相手国が日本からの給付を適正に使用するよう誠実に努力することを約束する旨の規定(適正使用条項)(注18),あるいは相手国に援助プロジェクトの実施状況について日本側に報告することを義務付ける規定(報告条項)(注19)が設けられるに過ぎない。

 このような違いが生じるのは援助国によって援助プロジェクトの管理に関する政策に大きな違いがあるためである。そこで,次に,援助プロジェクトの管理に関する日本の政策を検討する。

 2 日本政府の方針の政策的妥当性に対する疑問

 日本政府は,相手国との交換公文において提供した資金,資機材等の適正な使用を相手国に義務付けたり,報告書の提出を相手国に義務付けたりすることはあっても,相手国に対して日本の会計検査院による実地検査を認めさせる政策をとってはいない。この政策の正当化根拠として,先に紹介した外務省経済協力局長の答弁は,(一)相手国の主権の尊重に加えて,(二)相手国の自助努力を支援するという日本の援助政策の基本方針を挙げている。前者については前節で検討した。そして,相手国における会計検査の実施を控えることは国際法上の主権概念からは当然に導かれる結論ではなく,あくまでも個別の条約にいかなる規定を盛り込むかというレベルでの政策的な判断の問題であることを見た。したがって,日本政府の方針の妥当性は,ここで挙げられた第二の正当化根拠(「自助支援」)が妥当であるか否かによって判断されることになる。

 「自助支援」という基本方針を敷衍すれば,それは,援助はあくまでも相手国の自助努力を支援するものである以上,一旦日本から相手国に渡った資金,資機材,施設等は相手国が自らの責任において管理すればよい,日本政府がその使いみちについてとやかく言うべきではないという考え方である。この考え方は,プロジェクトの採用に当たっては原則として相手国からの要請を待って判断するという方針(要請主義)にも通じるものであり,日本の援助政策において一貫して支持されてきた方針である。1990年版の「援助白書」(『我が国の政府開発援助』)は,次の通り,この方針を明確に表明している。

 「我が国は,援助に当たって途上国の自助努力を支援することを重視し,援助の内容についても,我が国自身の考え方を押しつけるのではなく,先方の要請をベースに我が国が取捨選択するという対応を基本とするとともに,原則として,援助に政治的な条件をつけることを内政不干渉の見地より差し控えてきた・・・。」(注20)

 援助の目的が相手国の経済開発の促進にある以上,自助支援が援助政策の基本方針とされることには筆者も異論がない。しかし,相手国における会計検査の実施を控える根拠としてこの方針を援用することに対しては,いくつかの疑問がある。第一に,基本方針と実態とのずれがありはしないか。第二に,援助資金を負担する日本国民の納得が得られるか。第三に,相手国の援助管理能力,特に会計検査能力は確かか。

 a 基本方針と実態とのずれ

 自助支援といい,要請主義といい,我が国の基本的な方針は援助の実態を正確に反映しているとは言い難い。

 自助支援,要請主義を言葉通りに受け取ると,相手国が援助の案件の形成から実施に至るまで全面的に運営し,我が国は相手国の要請に従って資金等を提供するだけの消極的な関与に留まるかのような印象があるが,これは正確ではない。先に引いた「援助白書」も認めているように,我が国は相手国の要請に対して,それをそのまま受け入れるのではなく,調査団の派遣等の手段で案件としての妥当性を詳しく検討した上で(基本設計調査),これに応じるかどうかを決定している(注21)。また,一部の案件についてであるが,相手国との政策対話,開発調査(注22)の実施等を通じて援助案件の発掘,提案に努めたり,災害緊急援助等特定の分野の援助については我が国から積極的に援助を申し出ることも行なわれている(注23)。援助案件発掘,決定段階における日本の方針は,正確には「要請主義」ではなく,「要請プラス審査主義を原則にしながら,部分的に対話主義・申し出主義を採用している」というものである。

 援助が実行に移されてからのプロジェクトの管理の面でも,実態は「自助支援」とは言い難い。次節で改めて検討するが,実際には,プロジェクトの実施段階において,日本側は相手国によるプロジェクトの実施を管理するさまざまな措置を講じている。例えば,無償資金協力のうちのかなりの案件については,相手国が調達企業との間で締結する契約の締結促進のために調査,助言等を行なう,いわゆる実施促進業務が国際協力事業団によって行なわれている(注24)。もっとも,実施促進業務は相手国が予定された事業期間内に援助案件を完了させるのが困難なことを見越して実行されるものであり,その意味では例外的な業務である。しかし,通常の援助の場合でも,契約の認証,モニタリング,事後評価,更には終了後の案件に対するフォローアップ,アフターケアと,援助実施の各段階で日本政府あるいは援助実施機関によるプロジェクトの管理が実施されている。こうした援助過程を全体として見る限り,援助は日本と相手国の密接な協力を通じて実施される共同事業であって,「自助支援」という方針から連想されるような,相手国が主体となって進める事業を日本が消極的に支援するという性格のものではない。もっとも,筆者は「自助支援」,「要請主義」という基本方針自体が誤りであると言っているわけではない。援助の究極的な目標は,言うまでもなく相手国が開発を達成し,もはや他国の援助を必要としなくなることである。その意味で,援助は相手国の主体的な自助努力を前提としてあくまでもこれを側面から支援する目的で実施されるべきである。これらの基本方針に問題があるとすれば,それは援助の究極的な目標と具体的な援助案件の実施にあたっての方針を混同している点である。究極的な目標が相手国の自助支援にあるとしても,そこから直ちに相手国の要請があった場合に限って援助を実施する。あるいは,具体的な援助の実施をすべて相手国任せにしてよいということにはならない。適当な案件が見つからなかったり,案件の実施が遅れたり,提供した資金,資機材等が適正に使用されないということになれば,自助支援という目標自体の達成が危うくなる。そこで,日本政府も援助実施機関も,実際には援助の発掘から事後評価に至る全過程を通じてさまざまな援助管理策を講じているのである。日本政府の掲げる基本方針はこうした実態を正確に反映していない。のみならず,実際にはさまざまな援助管理策を講じているにかかわらず,会計検査院による実地検査のみを控えることは,この方針のみでは正当化されない。

 b 日本国民の関心と自助支援という基本方針との調和

 基本方針としての自助支援から直ちに要請主義や援助実施過程におけるプロジェクト管理手段の消極性が導かれるわけではない。とすれば,こうした方針を維持し,相手国における会計検査を差し控えることを正当化するためには,別の根拠が必要である。しかし,日本政府はそうした根拠を提示していない。否むしろ,相手国に対するより積極的な援助管理手段が必要であるという結論を導く要因が存在する。その一つが,援助資金を負担する日本国民の関心である。

 援助を通じて相手国に渡る資金は日本の国家予算から支出されるものであり,ひいては日本国民の税金なり郵便貯金等から出ている。国民一人当たり年間一万円に相当するODA支出(注25)の使途が適正であるかどうかについて国民は当然関心を持ち,予算の適正使用をチェックする会計検査の実施を期待する。仮に,会計検査の対象が日本の援助担当機関及びその海外事務所と在外公館に限られ,相手国に提供された資金,資機材の最終的な使用,利用の確認には及ばないとすれば,国民のこうした期待は十分に満足されないことになるだろう(注26)。

 このことから直ちに相手国に対する会計検査の実施が正当化されるわけではない。問題は,こうした国民の関心,期待と相手国の主権尊重,自助支援という方針との間でどうバランスをとるかである。しかし,日本政府の見解を見る限り,そこでは相手国における会計検査の実施を控える政策的配慮のみが前面に出ており,このようなバランスが十分に考慮されたとは言い難い。

 c 相手国の管理能力

 政府開発援助の会計検査可能性の問題は,一面において,援助国と相手国との間で会計検査管轄権をどう配分するかという問題と解される。日本側の実地検査が排除されるとした場合,その代償として相手国検査機関が適正な会計検査を実施することが当然求められることになる。相手国による会計検査が適正に実施されるとすれば,日本側はその報告を受け取れば足り,日本側がことさら実地検査を実施する必要性は乏しいということになる。しかし,相手国による会計検査の信頼性,中立性に疑問なしとしない。特に,開発独裁といわれるような,特定の支配者に政治権力が集中している相手国の場合には,会計検査機関の中立性はしばしば脅かされる。これは日本が援助を実施している特定の相手国に限られる事情ではなく,援助を受けている途上国について一般的に指摘されている点である。この問題に対して,昨年の9月には国連開発技術協力部(U.N.Department of Technical Co-operation for Development, UNDTCD)と最高会計検査機関国際組織(International Organization of Supreme Audit Institution, INTOSAI)の共催で「対外援助プログラムの会計管理と会計検査(Accounting and Audit of Foreign Aid Programme)」に関する専門家会議が開かれた。そこでは,「極めて多くの(援助)受入国が会計責任(accountability)及び事業運営の目的のために必要とされる情報を提供することができない」という事態が指摘され,その原因の分析と対応策の検討が行なわれた(注27)。会議の報告書は,相手国の財務管理能力が多くの場合に不十分である原因として,(一)財務担当官の教育・訓練施設の不十分さ,(二)財務担当官の待遇の悪さ,(三)財務・会計制度が旧式であること,(四)会計専門職員の養成が十分に行なわれていないこと,(五)相手国政府に事態を改善しようという意思が欠けていること,という点を指摘した(注28)。そして,その結果,援助国に会計検査報告の提出を求められても,提出が遅れたり,あるいはまったく提出されない事態がしばしば起きており,そのため,提供された資金,資機材等が本来の目的以外の使途に転用されるといった不都合な事態をチェックできない場合があるという問題点を指摘している(注29)。報告書の指摘するように,これが極めて多くの援助相手国に共通する事態であるとすれば,相手国の会計検査管轄権を尊重すればよいという議論の妥当性は疑わしいと言わざるをえない

 日本政府の唱える自助支援という方針は,一般的な政策目標としてはそれなりの妥当性を持っているが,以上の問題点を踏まえると,相手国における日本側の会計検査を控える政策に関して十分に説得的な根拠を提供しているとは言い難い。それでは,この問題についてどのような点を考慮していかなる政策を打ち出すことが妥当か。

 3 政府開発援助の会計検査に関する妥当な政策

 相手国における会計検査の実施を控える政策を正当化するために日本政府が挙げた,(一)相手国の主権の尊重,(二)相手国の自助努力を支援するという日本の援助の基本的な姿勢,という二つの根拠は説得的とは言い難いことを見てきた。それでは,この問題についていかなる政策をとることが妥当か。

 相手国において会計検査を実施することの政策的妥当性は,主権尊重,自助支援といった抽象的,基本的な理念に依拠するのみでは決定できない。この問題は,政府開発援助の実施管理体制の実態を踏まえ,実施管理のためのさまざまな手段とその相互の関連を考慮に入れながら,会計検査がどの時点で誰によって実施されるべきかを考える,総合的なアプローチに基づいて検討されるべきである。

 a 政府開発援助の管理体制

 前節でも触れたように,日本政府は政府開発援助の各段階においてさまざまな形態の実施管理の手段を講じている。以下,一般無償資金協力の場合(注30)を例にとって日本の政府開発援助の管理体制を見てみよう。

 一般無償資金協力の場合,プロジェクトの開始から終了までの流れ(プロジェクト・サイクル)は,案件の発掘(プロジェクト・ファインディング)−事前審査(アプレイザル)−実施−事後評価(エヴァリュエーション)の四段階に分けられる(次ページのを参照)(注31)。

図 一般無償援助のシステム

 案件発掘段階−要請主義の原則に基づき,相手国の要請を待って,プロジェクトとしての採否が検討されることになるが,要請が出される前に,図の一番上に挙げたようなさまざまなルートを通じて案件の発掘が行なわれ,そこでは日本側の意向が強く作用する。言い換えれば,プレ事前審査が日本の在外公館,案件発掘調査団,相手国との年次協議等の場で行なわれる。

 事前審査段階−相手国の正式の援助要請が出された案件について,外務省による要請書類の書面審査,あるいは必要に応じて国際協力事業団を通じての現地調査を含めた基本設計調査が行なわれる(注32)。これらの事前審査を経て,大蔵省及び関係省庁との間で当該案件の妥当性や援助額について協議が行なわれ,日本政府側の方針が一応決まる。その後,相手国との間で具体的な援助の内容,援助額等が交渉され,交換公文の内容が決まる。交換公文は閣議決定を経て署名され(注33),プロジェクトは実施段階に入る。

 実施段階−プロジェクトの実施主体は相手国政府である。日本から提供された資金及び自国通貨で拠出する資金(ローカル・コスト)(注34)で必要な資機材,設備,役務等を調達することになる。相手国政府は受注企業と契約を締結すると同時に,当該契約書を日本政府に送付する。日本の外務省は送付された契約書の内容を検討して,援助対象として適格であることを確認する(契約の認証)(注35)。これが契約の発効要件となっている。

 なお,受注企業の決定,契約締結交渉等,実施段階の具体的な作業は相手国政府によって進められるのが原則であるが,一般無償資金協力は原則として閣議決定の行なわれた年度内にプロジェクトを完了することになっており(注36),相手国によってはこれが困難な場合があるので,国際協力事業団を通じて契約締結,入札,契約実施等の促進のための支援業務,いわゆる実施促進業務がしばしば行なわれている(注37)。同時に,契約実施状況の管理(モニタリング)も行なわれている。

 事後評価段階−援助案件の効果を確保するために,(一)一部の大規模案件につき,建設終了時評価(国際協力事業団が実施,昭和59年度以来),(二)適宜選択された案件についての建設終了後一定に時間を置いた後の評価(外務省,在外公館,国際協力事業団等が実施,昭和56年度以来),(三)終了案件の一部について現地調査を行ない,施設,機材の使用状況や補修,補充の必要性等を調査,検討するフォローアップ調査(国際協力事業団が実施,昭和57年度以来)等の事後評価が実施され,その結果は昭和57年以来公表されている(注38)。

 b 政府開発援助の会計検査

 以上のように,援助案件の発掘から終了後のフォローアップに至る全過程において援助の適正な実施を管理するためのさまざまな手段が講じられている。それでは,政府開発援助の会計検査は,この管理体制の中でいかなる位置付けを与えられるか。

 (1) 会計検査の時期

 会計検査が予算の適正な執行を確認するという性格を基本的に持つ以上(注39),会計検査実施の時期は予算の執行後,プロジェクト・サイクルで言えば,事後評価段階ということになる。「評価(evaluation)」というものの性格上,ある案件についての評価が以後の他の案件に生かされるというフィードバックは当然認められる。しかし,それはあくまでも検査結果の事後的な利用の問題であり,会計検査がプロジェクト・サイクルの最終段階で実施されることに変わりはない。

 (2) 事後評価との関連

 会計検査が事後評価段階で実施されるとすれば,同じ段階で実施される他のさまざまな事後評価の方策との関連が問題となる。先に触れたように,援助案件のかなりのものについて,建設終了時評価,一定時間経過後の評価,フォローアップ調査等の事後評価が実施されている。これらの事後評価は,援助案件の終了後に当該案件が当初の予定通りに達成され,予定された効果を挙げたか,また,当該案件の効果が持続しているかを見るものであり,案件の事後的な評価という点では会計検査とある程度共通する性格を持っている。しかし,いくつかの点で,会計検査とこれらの事後評価は性格を異にしている。第一に,主体の違い。事後評価が原則として援助を実施する官庁,実施機関によって行なわれる(内部監査)(注40)のに対して,会計検査は内閣,国会からも独立の地位を認められた会計検査機関によって行なわれる(外部監査)。この主体の違いは,評価の中立性・客観性(あるいは少なくとも評価の中立性・客観性に関する国民の印象)を大きく左右する。第二に,観点の違い。事後評価は援助行政の一環として援助が所期の効果を挙げたかどうかを確認するものであり,そこでは主として当初の計画と最終的な結果との比較,そして,それが食い違っている場合にはその原因の究明が行なわれる。これに対して,会計検査は基本的には予算の適正(合規性,経済性・効率性,有効性)な執行を確認し,当該機関の会計責任を客観的に検証するものである(注41)。もっとも,近年,会計検査の分野においても,事業成果の産出過程における公的資源の管理状況及び産出される成果を評価する,いわゆる業績検査(performance auditing)の手法が導入されるようになっており(注42),その結果,事後評価(内部監査)と会計検査の観点は次第に接近してきている。

 以上から判断すれば,会計検査と援助担当機関による事後評価は,主体の面でも観点の面でも完全に重なりあうものではない。会計検査は,独立の機関によって会計責任の検証を主たる目的として実施されるという点で独自の存在理由を持つものであり,事後評価(内部監査)の充実に伴ってその実施の態様が変わることはありえるが(注43),事後評価が充実すれば会計検査が不要になるというものではない。

 (3) 行政監察との関連

 会計検査とは別に,政府開発援助に対しては行政監察が実施され(昭和62年度−無償資金協力及び技術協力,昭和63年度−有償資金協力),その報告書も公表されている(注44)。行政監察は,対象となる政府機関等からは独立した機関(総務庁行政監察局)によって実施される点では会計検査と共通している。しかし,行政監察は,(一)行政監察局は内閣の指揮監督権に服する機関であり,その意味では内部監査に近い性格を有する点(注45),(二)会計面に留まらず,業務全般を対象に行なわれる点,(三)監察を要する特別の事情が生じた場合に実施され,原則として一回限りのものである点,で会計検査と異なっている。

 (4) 会計検査の態様

 以上から明らかなように,会計検査は政府開発援助の管理体制の中で独自の存在理由を認められるものであり,援助の適正な実施に対する国民の期待に応えるためにも確実に実施されるべきである。では,それをいかなる態様で実施するか。援助の管理体制を総合的にとらえ,さまざまな管理手段相互の関連を重視するという観点からは,この点は,特に,(一)援助担当機関による内部監査の充実度,(二)相手国の管理能力,特に会計検査能力の充実度,との相関関係によって決定されるべきである。そこで,最後に,これらの要素との関連で今後我が国としてとりうる政策の選択肢を挙げ,その妥当性を検討する。

 第一に,交換公文で日本側の会計検査の実施を義務付けるという政策。第二に,米国式に,交換公文で日本側援助担当機関による相手国における会計検査を含めた内部監査の実施を義務付けるという政策。第三に,相手国会計検査機関と日本側会計検査機関との共同検査を義務付けるという政策。第四に,相手国会計検査機関に日本の会計検査手法,検査基準を伝えて,我が国としてはそれにのっとった検査結果の報告を相手国から受けるに留めるという政策。第五に,現状維持。これらのうちで,第一の選択肢に対しては相手国及び日本側援助担当機関の強い抵抗が予想され,その実現は困難であろう。第二の選択肢の成否は,日本側援助担当機関が,米国の監察総監のように,内部機関でありながら独立性の高い監査機関を設けられるかどうかにかかっており,大規模な機構改革を必要とする点でこれも実現可能性は低い。政策的妥当性と実現可能性を考慮すれば,第三あるいは第四の選択肢,あるいは両者の併用が適切な選択肢であろう。先に引いた国連開発技術協力部と最高会計検査機関国際組織共催の「対外援助プログラムの会計管理と会計検査」に関する専門家会議でも,現状改善の方策として,他の方策と並んで(一)会計責任に関する援助国の相手国に対する要求基準の統一と明確化,(二)共同検査を初めとする援助国会計検査機関と相手国会計検査機関との協力関係の確立,が提案されている(注46)。関係諸機関の間でこれらの提案の実現に向けて努力が開始されることを期待したい。

(本稿は,日本証券奨学財団の研究助成を受けて行なわれた研究成果の一部である。)

注:

1)参議院予算委員会会議録,昭和63年4月1日。

2)『けんさいん』3号(1990年)8頁。なお,会計検査院は昭和63年に外務検査課を新設し,政府開発援助の検査体制を強化するとともに,昭和63年度会計検査報告において初めて政府開発援助に関して「特に掲記を要する事項」を指摘した。『会計検査のあらまし 別冊 この10年のあゆみ(1980〜1989)』(会計検査院事務総長官房調査課,1990年),249−251,347頁。

3)在外公館については一般国際法上本国の排他的管轄権(治外法権(extraterritoriality)とも言われる)が認められている。援助実施機関(国際協力事業団,海外経済協力基金)の海外事務所についても,援助国の政府出資法人として,援助国の管轄権が属人的に及び,会計検査院の検査対象に含まれるとされている。

4)J.L.Brierly, The Basis of Obligation in International Law(Oxford, 1958), p. 13ff.

5)1927年のローチュス号事件に関する常設国際司法裁判所の判決は,この残余原理を鮮明に述べた先例として今日もしばしば引用される。判決は,国際法は独立国家相互間の関係を規律するものであり,したがって国家の独立への制約を推定してはならないという論理を用いた。そして,事件の一方当事国であるトルコによる公海上での外国人に対する管轄権行使を禁止する国際法の規則の不存在を認定した上でトルコの勝訴を言い渡した(P.C.I.J., Series A, Vol. 10, pp. 30-31.)。なお,参照,河西直也「国連法体系における国際立法の存在基盤」(大沼保昭編『国際法,国際連合と日本』(弘文堂,1987年),77-121頁),86-87頁。

6)こうして,主権の具体的な内容は実定国際法によって規定されることになった。この意味での主権の具体的な発現形態を管轄権(jurisdiction)と呼ぶ用語法が近年有力となっており,本稿もこれに従う。なお,参照,山本草二『国際法』(有斐閣,1985年),190頁。

7)ウイーン外交関係条約第22条(在外公館の不可侵),第29-31条(外交官の特権免除),ウイーン領事関係条約第31条(領事館の不可侵),第43条(裁判権の免除)等を参照。

8)船舶,航空機は移動し,公海あるいはその上空にあることも異なる国の領海,領空内に入ることもある。そこで,船舶,航空機については登録国の国籍を賦与し,現在地のいかんを問わず国籍国の排他的管轄権を認めるというルールが一般国際法上成立した。なお,国連海洋法条約第91条(船舶の国籍),第94条(国籍国の管轄権),国際民間航空条約第17条(航空機の国籍),第12条(航空規則遵守の確保に関する国籍国の義務)を参照。

9)D. Bowett, "Jurisdiction; Changing Patterns of Authority over Activities and Resources" 53British Year Book of International Law1(1982), pp. 4-14.

10)Id., p. 13.ただし,ボウエットを初めとする英米法系諸国の学説では,海賊行為に対する処罰等,特定の対象を除いて,普遍主義の適用は属地主義の優位を侵害するとして,これに反対する見解が支配的である。

11)Id., p. 11.

12)有償資金協力の場合は,正確には所有権の移転ではなく,借款契約に基づいて援助国から相手国に貸付が実行されることになる。しかし,この場合も,提供された資金を用いて相手国が購入した資機材等の所有権が相手国に存することに変わりはない。

13)国内法上の強行規範の場合と同じく,一般国際法上の強行規範に抵触する条約は無効である。なお,参照,ウイーン条約法条令第53条(一般国際法の強行規範に抵触する条約)。

14)在日米軍の地位に関する日米協定第17条を参照。なお,本条によれば米国の専属的裁判権が認められるのは,米国の法令によって罰することはできるが日本の法令によっては罰することができない行為のみであり,他の行為については米国と日本の裁判権が競合することになる。その場合には,他の米国軍人に対する犯罪,公務執行中の作為または不作為から生じる犯罪等に対して米国の裁判権の優越が認められている(同条3項)。

15)日本の場合,援助形態によって多少の違いはあるが,通常,個々の援助事案ごとに交換公文(exchange of notes)という名称の取り決めが交わされる。交換公文は国会の承認(日本国憲法第73条3号)を必要とせず,公文の署名と交換によって直ちに発効する,いわゆる行政協定であると解されている。しかし,名称,形式のいかんを問わず,それが国際法上の権利義務関係を成立させる政府間の合意という意味での「条約」であることには変わりがない。なお,参照,柳井俊二,「条約締結の実際的要請と民主的統制」『国際法外交雑誌』78巻4号(1971年)37-39頁,44頁。

16)檜垣敏夫「ODA監査−USAIDの場合(一)」『会計と監査』(1988年1月号)25-27頁。なお,内部監査と外部監査の区別について,参照,行政管理研究会編『現代行政全集 第3巻 行政管理』(ぎょうせい,1984年),380-388頁。

17)檜垣,前掲注16),25頁。

18)一例を挙げると,1986年2月24日の日本とバングラデシュとの食糧倉庫建設プロジェクト(一般無償援助)に関する交換公文の日本側公文第6項(1)(f)は,次の通り規定する。

 バングラデシュ人民共和国政府は以下のために必要な措置をとるものとする。

(f)本贈与に基づいて建設された食糧倉庫及び購入された資材が,本プロジェクトの実施のために適切かつ実効的に維持され使用されること。

19)一例を挙げると,1986年3月6日の日本とルワンダとの国際収支支援のためのノンプロジェクト無償資金協力に関する交換公文の日本側公文第5項(1)(d)は,次の通り規定する。

 ルワンダ共和国政府は以下のために必要な措置をとるものとする。

(d)日本政府に対して,本贈与及びそれから生じる利息が第3項(2)の規定に基づいて引き出された場合には遅滞なく,また,日本政府が提出を求めた場合には直ちに,日本政府が受け入れられる形式で書かれた報告書を提出すること。報告書には,本勘定に基づいてなされた契約書,証明書その他の書類の写しを添えるものとする。

20)『我が国の政府開発援助 1990年版 上巻』(国際協力推進協会,1990年),26頁。

21)同上35頁。

22)開発調査は,相手国の要請に基づいて相手国の総合的な開発プロジェクトのマスター・プランを作成したり,個別のプロジェクトの妥当性を検討するための調査を行なうものである(外務省監修『経済協力参加への手引き』(国際協力推進協会,1989年),69-76頁)。これ自体,国際協力事業団によって技術協力として実施される援助の一形態であるが,調査結果に基づき相手国が新たな援助案件を要請することが期待されており,広い意味では案件発掘段階に日本側が積極的に関与する手段と解することができる。

23)『我が国の政府開発援助 1990年 上巻』(前掲注20)),35頁。

24)総務庁行政監察局編『ODA(政府開発援助)の現状と課題』(大蔵省印刷局,1988年),57-59頁。

25)1990年版の援助白書(前掲注20),7,57頁)によると,1989年度の日本の政府開発援助援助実績総額(支出純額ベース)は約1兆2368億円(89.65億ドル),国民1人あたり約1万43円(72.8ドル)であった。

26)会計検査に限ったものではないが,より一般的に援助の効果,効率性に関する国民の関心について,ODA行政監察報告(前掲注24))は,次の通り述べている。

「……このように政府開発援助(ODA)が拡充され,極めて大きな国家の事業となれば,当然に問われるが援助の効果,効率性の問題であり,援助資金の大半が国民の税金で賄われている以上,援助の実施,具体的な効果,その必要性等について,国民の理解と支持が得られることが重要となっている。」(13頁)

27)UNDTCD/INTOSAI, Results of the meeting of the UN/INTOSAI Group of Experts (Vienna, Austria, 12 to 21 September, 1990).

28)Id., pp. 5-6.

29)Id., pp. 8, 16-17.

30)一般無償資金協力は,農業,保健・医療,環境等の基礎生活分野,あるいは教育,研究訓練等の人作り分野等のプロジェクトに対する無償資金協力(贈与)であり,無償資金協力の中核を占めている。ちなみに,1989年度の場合,無償資金協力の実績総額約2,028億円のうち,一般無償資金協力は約1,463億円と,無償資金協力全体の約72%を占めた(『我が国の政府開発援助 1990年版 上巻』(前掲注20)),79-80頁)。なお,主として有償資金協力,特に二国間直接借款を対象としてであるが,日本の政府開発援助行政について実証的分析を加えた研究として,参照,後藤一美「我が国の援助行政の実態分析」『国際政治』64号(1980年),61-81頁。

31)『経済協力参加への手引き』(前掲注22)),10-24頁,『ODA(政府開発援助)の現状と課題』(前掲注24)),21-97頁を参照。

32)基本設計調査は,要請のあった案件について,(一)援助することの妥当性,有効性,(二)計画内容,規模の妥当性等を吟味し,日本政府として要請に応じて援助を実行するか否かを決定するために,調査団を派遣して(一)主として基礎的情報の収集にあたる事前調査,(二)援助案件の内容確定,概算事業費の積算を含めた本格調査を行なうものであり,一般無償資金協力の場合,全案件中約6割の案件について実施されている(同前35-37頁)。

33)第一節でも触れたように(前掲注15)),交換公文は条約の一種であるが,その大半は行政協定であり,原則として国会の承認を必要とせず(ただし,多年度にわたる資金供与のコミットメントを含む案件等一定のカテゴリーの案件については国会の承認が必要とされている(柳井,前掲注15),66頁)。),署名と同時に発効する。したがって,交換公文の署名をもって日本の援助義務は国際的に成立し,援助は実施段階に移ることになる。

34)一般無償資金協力の場合,ローカル・コストとして通常相手国側が負担することとされるのは,(一)敷地の確保,造成等,敷地までの配電,給排水,アクセス道路等の整備,(二)施設の管理・運営に必要な職員の給与,電気・水道代等の経常費用,資機材のメンテナンス費用等,である(『ODA(政府開発援助)の現状と課題』(前掲注24)),65-66頁。

35)契約の認証に際して,検討されるのは,(一)資金の使途が適切か,(二)契約額,支払方法等の契約内容の妥当性,(三)調達企業の適格性,等の項目である(『経済協力参加への手引き』(前掲注22)),21頁)。

36)ただし,やむを得ない事情が認められる場合には,財政法第14条の3に規定する繰り越し明許費として,1年間に限って予算の支出を延長できることになっている(『ODA(政府開発援助)の現状と課題』(前掲注24)),57頁)。

37)前掲注24)及びそれに対応する本文を参照。

38)『経済協力評価報告書』(各年度)を参照のこと。なお,事後評価が実施され,その結果が『評価報告書』で公表される案件の割合は,これまでのところ,評価対象となりうる全案件の約3割であった。

39)会計検査が「予算循環過程の最終段階を構成するものである」と言われるのは,この点を指している(会計検査問題研究会『業績検査に関する研究報告書』(1990年),1頁)。

40)事後評価は原則として援助担当機関自身によって行なわれるが,評価の中立性・客観性を確保するため,有識者,民間団体,外国人専門家等の第三者に委託して実施される評価もあり,近年その割合が次第に増えている(『我が国の政府開発援助 1990年版 上巻』(前掲注20)),209-211頁)。

41)『業績検査に関する研究報告書』(前掲注39)),1-11頁。

42)同前5-7頁。

43)例えば,第一節で触れた米国の場合,米国国際開発庁(USAID)の監察総監による内部監査が充実しており,また,その中立性・客観性が相当程度保障されている。そこで,米国会計検査院(GAO)による外部監査は,「議会等の要求や自らの判断に基づいて特定のプロジェクトを検査することもあるが,一般的には,広い視野からプロジェクトを横断的に見て,共通的な問題点を摘出することに重点を置いている」と言われる(檜垣,前掲注16),24頁)。

44)『ODA(政府開発援助)の現状と課題』(前掲注24)),『ODA(政府開発援助)の現状と課題Ⅱ(有償資金協力』(大蔵省印刷局,1989年)。

45)この点をとらえて,行政監察は内部監査とも外部監査とも区別される「準外部監査」と称されることがある(『現代行政全集 第3巻 行政管理』(前掲注16)),380-381頁)。

46)UNDTCD/INTOSAI, supra n. (27). pp. 10-12, 15-17.

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