第17号

ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ
—サッチャー政権の財政改革—
栗原豊久

栗原豊久
(会計検査院外務検査課調査官)

 1955年生まれ。81年会計検査院へ。農林水産検査第2課,大蔵検査課などを経て,現職。

Ⅰ はじめに

(NAOの成立)

 近年の行財政活動の複雑,膨大化に伴い,政府事業の経済性,効率性及び有効性の評価が益々重要となっている。英国では,こうした評価活動の重要性についての認識が高まり,経済性,効率性及び有効性検査を行う規定を盛り込んだ会計検査院法(National Audit Act 1983)が1983年に制定された。これに基づき同国会計検査院(National Audit Office。以下「NAO」という。)では,経済性,効率性及び有効性(Value for Money(以下「VFM」という。))検査を積極的に実施している。そして,その成果は,同国議会の予算作成,決算審議等の場においても貴重な資料として活用されている。

(FMI検査報告)

 英国でのVFM検査報告の一例として,「ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ」報告を紹介する。

 この報告は,1986年10月14日に,1983年会計検査院法第9条の規定により,決算書の提出手続とは関係なく(決算書は会計検査院の会計検査を受けた後,大蔵省から下院に提出される。),会計検査院長から直接英国下院に提出されたものである。

 本報告は,管理運営費用について目標達成度はどのくらいか調査し,評価すること,目標が正しく設定されているか調査し,評価することによって管理運営費のVFMを高めるために書かれたものである。管理運営の効率化,最適化に関する目標設定,目標達成度に着目してVFM検査を行っている。また,「ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ」自体が,目的・目標設定が,政府事業を行う上で重要であることを強調している。

 そして,ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブの延長線上に,現在のNAOのVFM検査(意図した目標と実際のプロジェクト・プログラムの目標達成の関係の検査)がある。

 本報告の特徴は以下の点にある。

1 1979年にサッチャー首相が誕生してから,サッチャー首相が強力に押し進めてきた行財政改革の中心を占めるファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブについてのVFM報告であること。国民,議会が注目しているファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブのような政策について,政府の取組みがどのくらいであるか,政府事業の執行を会計検査を通じて常にモニタリングしている会計検査院が公正・中立に評価することは会計検査院の役割であり,その役割を果したこと。

2 1983年会計検査院法が1984年に施行されてから2年9カ月余り経過後に報告されたものであり,以降のNAOのVFM検査報告のウェイトを何処に置くか(経済性・効率性から一歩進んで有効性の検査を積極的に行う。)の方向づけをしている点。

3 金額的に計ることが難しく,実際に計数化できない,定性的な行政の有効性,効率性についての報告であり,報告事項が,批難金額中心から,有り得るであろう有効性・効率性の向上・改善に移行している点。

(FMI遂行下における状況)

 英国の行財政改革の歴史は,古くは60年代のフルトン委員会等に遡ることができる。しかし,フルトン委員会勧告で,公務員大学の設置等として実施されたものもあるが,本レポートにあるように,勧告に対する公務員の態度は否定的で,政府の効率性・有効性向上への取組は消極的であった。そして,1970年代に英国病とまで言われた社会経済状況の中で,変革を求めて政権を引き継いだサッチャー政権は,ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブを提唱し,ビジネス界の考え方や,競争原理の導入による行財政改革を敢行した。そして,この流れはネクスト・ステップ,プライベート・ファイナンシャル・イニシアティブへと続いている。

 この行財政改革の中で,サッチャー首相が行った会計検査改革は,

①大蔵省に属する会計検査院(The Exchequer and Audit Department)を政府大蔵省から独立した会計検査院(National Audit Office)としたことにより,より公平・中立性を確保したこと

②NAOが随時にVFM検査報告を議会に提出出来ることとしたことにより,調査報告がタイムリーにホットなうちに報告され得ることを確保したこと

③従来の管理人事院からの決定に代わり,会計検査院長がNAOの職員の採用・待遇を決定できることとしたことにより,職員の待遇向上・専門特化等を通じ,より調査能力向上を確保したこと

などがある。

 そして,生まれ変わったNAOに,この行財政改革を見守り,調査し,議会へ報告する,政府から独立した機関としての役割が与えられた。

 行政の執行は,内閣の専権事項であり,議会も侵すことができない。しかし,行政の執行は,会計検査でチェックされ,内閣の専権事項として行われる行政自体についても,積極的に調査され,その情報は随時に議会に報告され公表されることとなった。

 NAOでは,1983年法が施行される以前からVFM検査を行っていたが,会計行為と直接的に結びつかない行政情報へのアクセスは,十分とは言い難かった。サッチャー政権による行財政改革という時の流れに乗って,行政情報へのアクセスを高め,議会の関心の高い,国民の関心の高い事項に関するVFM検査が行われるようになった。この流れを方向づけた報告が,このファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブの検査報告である。今から10年以上前に,決算検査とは異なるミクロではなくマクロに着目した,いわば行政監察的な視点に重点を置いた会計検査報告がなされたことがNAOのその後のVFM検査報告のあるべき方向を示している。

Ⅱ ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ(訳)

第1章 背景とNAOの調査範囲

背景

1.1 公共部門での効率性と有効性の向上は,従来から政府,議会そして公共部門自体においても,重要な関心事である。例えば,政府外部の調査では,1966年にフルトン卿の下に組織された公共サービスの構造,任用及び研修を含む管理を調査対象とする委員会による調査などがあった。この任用,級別定員制,中央管理,研修及び人事管理の勧告に加え,この委員会は効率性向上に着目して,上司の命令について個々の職員が責任を持つという管理の原則が,各省庁の組織に適応されるべきであると勧告した。効率性を向上・改善する他の手段と同様にこのことが提唱された。政府はこの勧告で述べられている事項を認め受け入れた。1976年と1977年の支出委員会は,各省庁に質問をし,管理の改善を通じて,より大きな効率性を確保するための報告(1976−77年会期の11回報告)を行った。責任を与えられた,分権化された管理単位の導入は,この委員会が重点を置く一つであり,フルトン委員会レポートで提案された事項について,「各省庁は真剣に受けとめていなかった」と,支出委員会は報告している。政府の支出委員会に対する回答は,このアプローチがうまく適応されたとしても限界があるというものであった。

1.2 1981年に政府は,白書を発行した。それは「各省庁における効率性」についてである。このなかで,政府は公共サービスを通じて良いマネージメントを確立するための政策を導入し,効率性を改善させ,浪費を省き,納税者にとって良い提案をすることを奨励するための検討をした。同じ時期に様々なステップが,財政管理の水準を高めるため大蔵省,公共サービス省(後に内閣府の管理人事院(Management Personnel Office「MPO」という。))及び支出を行う各省庁からなされた。例えば,環境省でとられたMINIS(Management Information System for Ministers)や,多省庁にまたがる効率性調査協会(Institution of The Multi-Department Efficiency Reviews)の設立,公共購買イニシアティブの導入及び投資評価技術に対する助言の導入のようなトップ管理システムの開発もこのステップに含まれている。

1.3 大蔵省・公共サービス委員会は,1981年度の会期において,各省庁における効率性,有効性の向上・改善に係るアレンジについて質問を行った。この質問は1981年度第3回報告としてまとめられており,その結論は,「各省庁の幹部職員に対する,あるいは政府全般に対する効率性と有効性の達成への明確な方向づけがなされていない。予算や人事などの資源利用に関する経済性への関心は高いが,余りにも事業に対する方向づけへの試みが少ないので,事業実施上の目的を設定することができない,あるいは結果やアウトプットを評価することができない,また,それ故に資源の適正使用についての手引きを作成することができない」というものであった。委員会は26の勧告を行った。これは,プログラムの管理,作成及び見直しに関すること,中央省庁,特に大蔵省,MPOの役割,そして,主に人事と効率性に関する勧告であった。

1.4 1982年9月に政府は委員会の報告に対する回答を行った。そこでは,政府の目標が自ら遂行する政策が良い政策であるべきであるのと同じように,各省庁の公共サービスの管理向上・改善は政府の目標であるべきであると述べている。この政策は予算と人員を制限し,経済性と効率性を追求する財政的枠組みの一部を成している。これに加え,また,Value for Money(経済性,効率性,有効性の向上・改善。)を達成するため,政府は管理環境を改善すること,そして,コストとともに活動,機能,政策の調査が必要な,管理目標の設定を促した。政府は,委員会の26の勧告のうち20の勧告について,全面的にあるいは部分的に受け入れた。

1.5 プログラムの提案,管理及び見直しに関する委員会の勧告に関連して,政府は1982年5月の大蔵省とMPOによる提案を重視した。それは,財政管理のより高水準な,システム的,包括的適応を可能とするものであった。これは,後にファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ(以下「FMI」という。)といわれ知られることとなった。

導入,範囲及び目的

1.6 サッチャー首相は,1982年5月に,各省庁の大臣に対する書簡を通じてFMIを正式に導入した。この書簡は,首相に属する仕事や,目的達成に関する首相の個人的関与を強調し,首相が,大臣達の重要な管理責任の一部とみなすアレンジの開発に,大臣達が興味を持つことが必要なことを強調した。ほとんど同時に,大蔵省の第2事務次官が,各省庁の事務次官や他の省庁の長がFMI計画を準備するに際して,各省庁と大蔵省とMPOとの適切な調整の必要性に気づいた。これは通常は大蔵省の主計局により調整されるものであるが,大蔵省,MPOは小さなユニットつまりファイナンシャル・マネージメント・ユニット(FMU)を発足させた。この機能については2.5で触れることにする。

1.7 FMI導入文書(1982年5月のサッチャー首相の書簡)は,大蔵省とMPOにより準備された。これにはイニシアティブの目的は,各省庁において,全ての管理職が以下のことを備える組織や,システムをプロモートさせることであると定義している。

(a)目標とその目標に関連したアウトプットやパフォーマンスを評価し得る見識。また,可能である場合は,測定するための手段に関する明確な見識。

(b)アウトプットの詳細な調査と経済性,効率性,有効性に関する調査を含む資源の有効利用に関する責任の正しい定義づけ。

(c)情報(特に,費用について)の入手,研修の実施,そして,管理職の責任を効果的に実行するために彼らが必要とする専門家の助言の入手。

1.8 FMIは,全ての省庁が管理職のプログラム管理方法を調査し,また,管理責任,財務管理について最も良い規範を作成するよう要求している。また,FMIは,大蔵省とMPOの協力の下に財政管理の改善計画プログラムを開発し,その定義づけをすること,そして,1983年1月末までに大蔵省及びMPOとこれらのプログラムについて議論することを各省庁に求めた。FMIによると,プログラムは,以下のことを含むべきこととなっていた。

(a)全ての省庁の活動をカバーするFMI開発計画の概要。

(b)仕事を適切に行うために,必要な情報を全ての管理職に提供する情報システムの開発,発展,向上。

(c)管理職が使う予算や人員等の資源の管理や,可能であるならば,管理職の事業遂行結果に対する責任を組織的に特定するアレンジ。

(d)管理運営費用に関する予算管理システム。

(e)実際的であるならば,行動の指針とアウトプット測定法の開発。

1.9 FMIは,中央省庁を対象としている。補助金を交付する省庁は対象となるが,ノン・デパートメンタル・パブリック・ボディ(国庫補助金を受ける団体で,サッチャー政権発足当初に設けられた機関。民間の効率性を取入れる意図の下に設立された。各省庁の監督を受けており,日本の公団・事業団のような機関。以下「NDPB」という。)自体は直接対象になっていない。しかし,各省庁は,省庁が学んだことをNDPBが考慮に入れるよう指導することを期待されている。

1.10 1983年9月及び1984年7月に,政府はFMI目標に合致するシステムの各省庁の導入,あるいは開発状況についての調査報告書を発表した。

1.11 1983年9月の報告は,各省庁のプログラムを要約するとともに,この計画の共通的特徴について次のように述べている。

(a)目標設定,優先度の決定及び資源の配分に関し,大臣と幹部職員の考慮の役に立つ,より良い情報を盛り込んでいること。

(b)一般的にパフォーマンスの達成度を判断する目標を含んだ,予算管理アレンジの開発を通じ,運営費用の管理を向上すること。

(c)支出を管理する,あるいは支出へ影響する範囲を明確化することによってプログラム支出管理をより効果的にすること。プロジェクト評価と費用効率の評価方法を開発,改善すること。また,省庁の個々の責任の明確化,及び省庁の外部機関である場合は,その支出機関の責任の明確化。

(d)管理に関する変更の必要性と,ライン管理職に日常業務をより効率的に執行させるなどの,日常業務の高レベルでの執行を可能とさせる職員の研修。

 報告書では,既に始めている新システム開発は,完成までに相当な時間を必要とするだろうとしている。また,大蔵省等の中央省庁は進展をモニターし続けるが,この仕事を上手くやっていくために,正式モニター報告は最小限に止められることとしている。

1.12 1984年7月の報告は,過去数年来,進展状況は良いと述べている。そして,以下の主要な3事項の開発,改善を述べている。

(a)大臣と幹部職員の要求に合致する計画を作成すること。

(b)プログラムを管理すること。

(c)予算管理システム。

 この報告は,各省庁が,管理システムを強化するために作成しているアレンジに十分集中し仕事をしていると述べている。しかし,イニシアティブが成功するためには,各省庁の姿勢自体の変更も必要である。より良いVFMの達成には,政府事業の管理アプローチがより必要であり,各省庁では,費用意識をより高めるために必要な計画,組織作り,連絡調整及び動機づけが必要である。このように研修と人事管理の重要性が増してきている。

NAOの調査範囲

1.13 イニシアティブが始まって3年が経過した現在,会計検査院長は,FMI原則達成のためのアレンジの開発に関し,各省庁によってなされた進展状況を調査することが適当であると考えた。この調査は以下のことを含んでいる。

(a)各省庁のFMI開発についてのサンプル調査。現在までのFMI実施上の提案を明確にすること。それらの実施の進展度調査。そして,それがFMIの一般的目的に適合しているか。

(b)現在の提案の中で,各省庁が自らの活動,プログラムの全てについて,目標を設定しているか。そして,各省庁が設定した目標に向けてのFMIの進展度の測定手段を確立しているか。

(c)個々の省庁,あるいはFMIを指導する大蔵省等の中央省庁により,FMI導入経費を埋め合わせる,また,経済性,効率性,有効性に関するFMIアレンジに貢献する,全ての改善を評価する試みが,どのようになされているか。

 大きな規模の省庁から小さな規模の省庁までの,また,行政責任が多様に分かれる12の省庁を調査対象とした。選ばれた省庁は;

農林水産食糧省(Ministry of Agriculture, Fisheries and Food)

関税及び物品税庁(HM Customs and Excise)

国防省(Ministry of Defence)

雇用省(Department of Employment)

環境省(Department of Environment)

警察庁(Home Office)

国土庁(HM Land Registry)

法務省(Lord Chancellor's Office)

支出長官庁(Paymaster General's Office)

人口調査庁(Office of Population Censuses and Surveys)

スコットランド省(Scottish Office)

貿易産業省(Department of Trade and Industry)

 全ての政府省庁を代表するサンプルを構成しているかという観点からすると,適当でないかも知れないが,NAOは,この調査範囲はNAOの指摘事項に基づく結論を正当化するには十分なものであると考えた。

1.14 個々の調査結果は3章から14章にかけて詳述されている。(第4章以下略。)

第2章 中央省庁の役割

一般的事項

2.1 FMIは,1982年5月にサッチャー首相により発表された。ほとんど同時に,大蔵省は,FMIが開発すべき指針を提案し,FMI計画の準備に関する各省庁の調整は,大蔵省とMPOのチャンネルを,及び大蔵省とMPOの共同所管のファイナンシャル・マネージメント・ユニット(FMU)による助言も通して,基本的には行うべきであると発表した。これらのアレンジは,資源管理のための各省庁のシステム開発という大蔵省とMPOの所掌事務の範囲及び権限内の事項を対象としている。

2.2 大蔵省の財政管理責任は,経済的,人的資源についての予算作成,予算執行及び監督のための各省庁のシステム開発を促進させることも含んでいる。大蔵省の中の主計部門(主計局)は,各省庁の管理・運営費用とプログラムの支出についての調査及び管理に責任を持っている。そして,大蔵省とMPOの専門的な助言を行う部局と各省庁とのコミュニケーションを助けることも,この主計局の責任である。大蔵省主計局は,FMIの目標に沿うための計画の開発と討論のための場を各省庁に提供することにも責任を持っている。大蔵省は,また,特別支出,産業との関係,退職年金,マンパワー,定員の等級分け,そして,これらに直接関係する各省庁との調整を含む公共サービス管理の局面の多くに責任を持っている。

2.3 MPOは国内の公務員の採用,研修,効率性の向上,人事管理,そして,幹部職員の任命を含む管理と組織機構に責任を持っている。これらの任務を遂行するために,MPOは管理の実施に関しアドバイスを行い,各省庁の職員研修に関し調整を行い,公共サービス大学を通じ中央研修を実施している。そして,MPOは,多省庁間見直計画(Multi−Departmental Review)の人事見直し以来開発されている,全てのレベルでの人事管理を改善させるためのプログラム測定法を開発している。

2.4 大蔵省とMPOは,それぞれの補完する,また,共通な関心が両者の良い連携を必要としていることを認識している。それ故に,彼らは「公共サービスにおける効率性と有効性」白書(Cmnd8616第4パラグラフ)に記述されている協議をより有効に行うため,定期的に協議を行っている。

ファイナンシャル・マネージメント・ユニット(FMU)

2.5 FMUの設立は,各省庁独特の環境に対しFMI原則を普及するために,各省庁に対する統一した実践的助言の必要性を,大蔵省とMPOが認識したことを意味している。FMUは,MFI計画を作成する際に,事務次官や省庁に助言を与えることや,他の省庁や民間部門から採用された良い管理方法を普及することや,FMIの遂行を容易とさせるのに必要な中央手続きの変更を明確化させることを仕事としている。FMUは特定の期限を切って設立された。最初は一年の予定で3人のコンサルタントを含む6人の定員とされていた。1983年1月までに,その人的制限などの一定範囲の制限内で運営されるため,NAOの調査対象となったスコットランド省,警察庁,労働省そして関税及び物品税庁の4団体を含む限られた省庁と財政管理計画を協同して作成することとされていた。残りの主要な省庁について,FMUはその省庁に直接的に関与することなく助言を行うこととなっていた。

2.6 1983年1月の見直しに基づいて,大蔵省とMPOは1984年4月までFMUを存続させることにした。大蔵省とMPOは,トップ・マネージメントとプログラム支出のような達成困難と思われる領域に関し,各省庁の手助けをし,FMIの最も良い実践事例を普及する,そして,FMIのより広い理解とサポートに貢献するというFMUの1983年度の事業目標を承認した。

2.7 1984年7月の更なる見直しに基づいて,中央政府は,FMUが1985年5月からジョイント・マネージメント・ユニットに置き換えられるべきであると考えた。新しいユニットは,FMUと同程度の規模で,中央政府のFMIを含む公共サービスの管理改革一般プログラムに関し,効果的リーダーシップを発揮し,貢献するというFMUの役割も引き続き行うことになった。新しいユニットの役割には,省庁の計画を助け,エフィシエンシー・ユニットのコンサルト,調査サービス及び多省庁間の予算調整に対する各省庁の回答策の実施を助けることも加えられた。(2.26パラグラフ)

エフィシエンシー・ユニット

2.8 エフィシエンシー・ユニットは1979年度に首相の効率性に関するアドバイザーを補佐するために設立された。FMIに関する,エフィシエンシー・ユニットの主目標は,各省庁が,毎年のVFM改善目標設定において,効果的なトップ・マネージメント・システムの確立を促進することである。

NAOの指摘事項

一般的事項

2.9 上記に概略を述べた事項の実施状況をNAOは調査した。財政管理を改善,向上するため,各省庁が行っている改革の奨励及び改革のモニターを調査の対象とした。各省庁は,アカウンティング・オフィサー(Accounting Officer事務次官が,大蔵省よりアカウンティング・オフィサーに任命される。)とプリンシプル・ファイナンス・オフィサー(Principal Finance Officer局長クラス。)が,彼らの省庁に配分された資源のVFMを達成する責任があると認識している。大蔵省等のFMI推進の中心となる中央政府の責任は,支出を行う各省庁の補佐であり,彼らを代理することではないと考えている。大蔵省等の仕事は,資源の利用に関し,効率性と有効性を改善,向上する各省庁自身の努力を刺激し,努力を奨励し,その遂行を監視することである。NAOは,また,FMIの3つの主要な要素であるトップ・マネージメント・システム,予算管理システム,事業達成度の測定について,大蔵省等による貢献度を調査した。

各省庁の進展過程のモニター

2.10 大蔵省主計局は,FMI導入文書への回答で各省庁により提出されたFMI計画の評価をした。この大蔵省の調査では,各省庁の計画が以下の5つの主要問題について,どのように取り扱っているかを調査している。

(a)大臣及び幹部職員を含む全ての管理職に信頼できる有用な情報を提供すること。

(b)管理情報と全レベルの管理職に適切な責任を明確に分け与えることのマッチング。

(c)予算の計上とランニングコストの管理。

(d)アウトプットの測定方法の開発及び明確な目標の形成を含む財政管理のより広範囲に及ぶ改善のための明瞭な各省庁プログラムの作成。

(e)研修(外部研修を含む。)と職員配置についてのプログラムの関係。

 これらの調査は,詳細な参考資料に基づく独自の評価活動により導き出されたFMUのコメントと,大蔵省,MPOの専門アドバイザーとのコメントを反映している。また,この調査は,各省庁の大臣と幹部職員とに取り上げられるべき事柄を明らかにし,そして,その結果は報告書としてまとめられた。

2.11 大蔵省主計局は,大蔵省の公共支出へのアドバイス,公共支出のプログラム間の配分,財政年度を通しての計画と実支出の調和のモニター及びVFMの達成についての大蔵省の役割をサポートしている。これらの目的のために,大蔵省は支出プログラムの費用とアウトプットの可能な限りの分析,また,タイムリーな支出についての正確な情報を求めている。それ故に,大蔵省は公共支出サーベイと重要な新支出の提案についての調査を向上・改善するため,より良い情報を作成する新省庁システムに注目していた。これらのシステムが向上・改善したので,大蔵省とMPOは詳細なケースに対応するよりは,省庁システムの効率性や正確な情報の流れに注意を集中するために,各省庁に対する制限を緩和しようとしている。

2.12 見直しに基づいて,大蔵省主計局は,各省庁から提出された提案に対して全般的に満足している旨表明している。しかし,その中の多くは,満足できる水準にするためにさらなる努力が要求されている。一般的に,大蔵省は,各省庁の見積もった新システム開発に要する時間は現実的ではないと考えている。政府は1983年9月に各省庁の計画概要を発表した(Financial Management in Government Departments;Cmnd9058)。

2.13 1983年のFMI計画の最初の見直し後も,大蔵省は,計画の考案,実行について各省庁の進捗状況をモニターしていた。そして,1984年1月に,政府はさらに,プログレス・レポート(政府各省庁のファイナンシャル・マネージメントに関する進展;Cmnd9297)を公表した。この報告は,各省庁における計画の見直しに加え,1983年の白書で見解が公表されて以来,大蔵省とMPOが引き続き実施しているモニター状況を述べている。大蔵省のアウトプット測定方法の開発とその適用,行動指標の各省庁への指導,MPOの人事管理研修と財務管理研修の向上・改善法の開発,FMUの個々の省庁への助言と良い管理実例の普及,そして,エフィシエンシィー・ユニットによる,VFM向上のための事業目標設定における各省庁のトップ・マネージメント・システムを十分効果的に運営させるための助言も含んでいる。

2.14 1984年7月に大蔵省は,大蔵省主計局が引き続き各省庁のFMIの開発をモニターし続けるべきであること,また,大蔵省の幹部職員に各省庁が定期的な調査報告をすべきことを確認した。NAOによるこれらの報告書の調査によると,最初に大蔵省は,各省庁の計画とシステムの評価を集中的に調査した。そして,その後,情報の向上が,大蔵省主計局の仕事を助ける方法及びVFMに関し,どのような改善が達成されたかを調査した。NAOの調査により,大蔵省主計局が,FMIアレンジの正式な調査対象にしている省庁は極めて少ないことが分かった。大蔵省は,主計局の担当が非公式ベースでの担当省庁との密接なコンタクトを保つことが必要であるとしているが,それ以上に,正式にFMIを含む特定の提案への各省庁の転換に貢献することは困難なことが多かった。

トップ・マネージメント・システム

2.15 FMIの正式導入以前に,多くの省庁がよりよい情報を大臣や幹部職員に提供するアレンジを開発し始めていた。これらの中で最も良く知られているMINIS(Management Information System for Ministers。大臣に対する管理情報システム。)は,1979年以来,環境省において開発中のものである。MINISは,大臣に対し設定された目標達成,それに要する資源の適正配分を行うのに必要な情報と,その仕事に必要な費用の情報を提供している。「公共サービスの効率性及び有効性」(Cmnd8616;1982年9月)という白書では,MINISのように,トップ・マネージメントに関し,以下の3基本原則を反映する情報システムを個々の省庁が開発すべきであると述べている。3基本原則とは,①政策と管理の目的が明白であるべきこと。②目的遂行責任,また,目的達成過程での資源の管理責任とが明らかにされるべきこと。③責任遂行に必要な情報が提供されるべきこと。この3基本原則に加えて,各省庁は,ラインにいたる全てのクラスの管理職に,これまでに得られた彼らの仕事を適切に遂行するのに必要な情報を揃えておく必要がある。

2.16 1984年3月までFMUは16省庁とトップ・マネージメント・システム(TMS)の開発,実施に関し,連携を取り仕事をしていた。この過程で,FMUはTMSの多くの局面について,より広い議論のために,FMUの意見とその意見の相対的長所を概括する多くの報告書を作成した。1984年3月にFMUは報告書(トップ・マネージメント・システム 1984年5月発行)を準備した。この報告書は,前記の報告書とセミナーでの各省庁の代表とMFUの討論を取りまとめている。また,この報告書は,関係省庁が管理支出及びプログラム支出の大部分をカバーするシステムを持っていて,そのシステムはまた,過去のパフォーマンスと,省庁により期間は異なるが,将来の計画をカバーする情報を備えていると述べている。このシステムは依然として実験的であり,省庁は更なる発展と練度の向上が期待されている。その主なものは;

(a)明確にプログラムの目的と責任が特定されていること。

(b)特に効率性と有効性の向上のために,目標に対する進捗状況が測定できるよう具体的行動目標を設定すること。

(c)①政府内のトップ・マネージメント・システム,②予算作成過程で確立されている公共支出サーベイ(PES)制度と予算作成過程,③ラインに至るまでの予算を含む管理計画の3者の連携の確立。

2.17 FMUの継続的作業により,5省庁のケース・スタデイを反映した1985年1月の報告(トップ・マネージメント・システム 1985年6月発行)が作成された。この報告によると,各省庁の関心事はシステムそのものの開発と導入から,パフォーマンスの向上と,VFM向上に向けての計画作成,マンパワーと他の資源(プログラム支出を含む)の適正配分,また,その後の進捗状況調査に関し,各省庁の最高のマネージメント・システムをどのように洗練されたものにするか,また,最も効果的に使用するかに移ってきている。この報告は;

(a)毎年の政策とプログラムのパフォーマンス(政策とプログラムのパフォーマンスに関連する管理費用を明確に区別)両方の見直しに利用されるトップ・マネージメント・システム及び公共支出サーベイへの準備(未だ発展の緒についた所である。)が増加傾向にあることに注意を引いている。

(b)「省庁は理路整然とした,一貫した情報を全てのレベルの管理職に与えるための手段を講じている。」と,述べている。

(c)1年を通してのパフォーマンス計画,関連予算の詳細なモニターは信頼できる管理規則の課題であるが,各省庁が,トップ・マネージメントがVFM達成のための主目標の追求に関し,年間を通して定期的に,主要な要素の進展に貢献するアレンジの開発を行っていることを認めている。

2.18 JMU(パラグラフ2.7)は,現在,TMSの開発と実行に直接的に結びつく仕事はしていないとNAOに語った。これは目的を記録することとTMSを導入することに関する各省庁の状況を示している。それにもかかわらず,JMUは,各省庁のTMSサポート部門の設置などに関する開発,発展やプログラム目標の達成を評価するアレンジの開発について助言を行っている(パラグラフ2.32)。

予算管理システム

2.19 FMI導入文書は,マネージメント機構の開発,発展とその機構内の資源の管理の双方について,運営,管理に対する政府の貢献を強調している。全ての省庁を,費用と業務責任に重点を置いた組織にするために,各省庁を分析し,調査範囲を調べなければならない。各省庁の実行計画には,予算作成とランニングコスト管理システムの開発が含まれていた。FMI導入文書は,全ての財政管理システムは個々の省庁に配分された予算と人員との資源の範囲内で運営されるべきであることも述べている。それに加えて,管理職は単に年度資金のみに関心を持つのでなく,例えば,職員の雇用による将来の年金支払発生による債務の発生や過去において積み立てられた資本金の使用等,運営費用全体に関心を持つべきであると述べている。また,各省庁のシステムは,投入費用とそのアウトプットを関連づけて作成されるべきであると述べている。

2.20 公共部門での予算管理技術は,新しいものではない。アレンジの多くは,毎年秋の大蔵大臣の財政に関するオータム・ステートメント(特にその中の,パブリック・プラン。)を詳細に説明する各省庁の公共支出サーベイ,毎年の議会予算と決算,そして,各省庁における予算執行等支出上限の設置を含むものである。ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブの根本的特徴は,統合された管理システムの中に予算を組み入れたこと,各部署に予算を割り振り,その部署に責任を持って予算を執行させようとしていること,予算とアウトプットの評価を関連づけさせたことである。

2.21 予算管理システムの向上,発展のために,大蔵省等の中心となる省庁は,既存の専門家集団,例えば大蔵省の財務会計監査部門のような集団からのアドバイスを各省庁に行うことも必要となっている。加えて,1982年のMPOの調整により行われた各省庁間におけるランニングコスト調査では,調査対象6省庁の実務上の経験に関する情報が得られた。そして,FMUは,大蔵省等の主要省庁と密接な連携を保っており,また,予算と会計システムの向上,発展のために助言を行うコンサルタントを雇用していると述べている。

2.22 1984年3月に,FMUは業務報告(予算管理システム:1984年5月発行)を発表した。この報告は,予算管理システムの実践を普及させることを目標としていた。この報告書は,プログラム支出システムにも適用されている民間企業における優れた実践を紹介し,また,ランニングコストにも重点を置いている。この報告書は,トップ・マネージメント・システムと一致した代表的な予算管理システムが必要であることを強調している。また,この報告では予算管理システムは,支出目的のより明確な定義づけ, 事業責任遂行のための目標変更に必要な継続的な見直しの両方に貢献していると述べている。これに貢献するために,パフォーマンスとアウトプットの測定,判断方法が関連づけられる必要がある。支出の管理とパフォーマンス測定法を相互に関連づける必要は,システムのデザインを行う場合及びシステムを実行する場合の全ての段階で留意する必要がある。報告書は,多くの省庁の実施システムの概要とその経験を述べている。

2.23 1985年1月に,FMUから出された報告書(「省庁における資源配分」:Principal Finance Officer「PFO」の役割。1985年6月発行。)は,PFOの責任が,VFM目標を確かなものとすることであると強調している。つまり,VFM目標は,プログラム支出に関してばかりでなく,プログラム実施上の管理効率に関しても設定されるべきであると強調している。

2.24 FMIの中心となる大蔵省等の省庁は,1985年5月に公表された各省庁のランニングコスト(職員給与,旅費,研修等を含む。)をコントロールするためのアレンジを含む予算管理の向上,発展を期待した。1982年のランニングコストの多省庁の見直し(MDRパラグラフ2.21)に基づいて,各省庁は個々の省庁が独自に上限を設定したランニングコスト報告システムを導入した。そして,このシステムを,議会に報告する予算(1986年度支出予算,サマリーとガイド(Cmnd9742))で発表した。1986年度公共支出白書(パブリック・エクスペンディチャー・ホワイト・ペーパー。Cmnd9702)は,個々の省庁に設定されるべき単一総計ランニングコスト制限に言及している。そして,これは予算制度の向上・改善を含む,財政管理の向上,発展と一致するように意図されているとコメントしている。このアレンジは,全ての段階の管理職に,最も効率的な方法で彼らの責務を果たすよう,インプットを色々組み合わせて選ぶ,十分な柔軟性を与えるであろう。白書はまた,ランニングコスト管理が十分に働くようになったら,このアレンジから人事管理の分離を再検討することについても述べている。

予算に関する多省庁間見直計画(MDR)

2.25 1985年度に,多省庁の見直計画を実施したチームを指導した政府会計サービス調査局長は,支出計画と管理の効果的手段,また,資源の配分とVFMの達成双方を向上・改善する管理手段としての観点から予算の利用促進法を調査した。調査は6省庁を対象としている。関税及び物品税庁,労働省,健康及び社会保障省,貿易産業省,警察庁,国防省そして,ノン・デパートメンタル・パブッリクボディのマンパワーサービス委員会である。調査は,予算作成を成功裡に導く原則と実践を確立するために,各省庁の最も改善された分野であるランニングコストに注意を置いて行われた。予算管理システムの向上は,明らかにFMI原則の実施に関し重要である。従って,FMI原則を実施するためのシステムの向上を調査するに当たり,NAOはこの多省庁間見直計画と予算管理システムとが関連させて実施された事業に着目した。

2.26 1985年8月に完了した見直しの第1段階では,調査対象省庁の予算システムの向上過程を評価することが主な任務であった。その結論は,省庁はおおむねシステムの向上を促しているということである。つまり,ライン管理職は費用についてより気を使うようになっていて,また,彼らは費用を節約するための規則を制定している。しかし,潜在的価値を最大限利用するために留意すべきいくつかのものがまだあった。一つには,トップ・マネージメントのサポートと関与であり,二つめには,インプットとアウトプットを十分に関連させる必要性があることを認識することである。また,大蔵省等のFMI推進を行う中央省庁の支援も必要である。

2.27 最終報告(予算の多省庁に渡る見直し:要約1986年3月発行。)では,この予算の多省庁間に渡る見直しについて,一般的指摘事項と結論を要約し,行動計画の示唆とともに予算システムの向上を加速し,管理効率を改善するために取るべき行動を示唆した。この報告は,NAOの本件実地検査の完了後に報告されたが,NAOによる公的部門の予算管理システムの向上・改善に対する多大な貢献を反映したものとなっている。後記では,MDRの主な特徴を述べる。

2.28 この報告書によると,「MDRの目標は,支出計画と管理の有効な手段としての,また,管理職に資源配分の改善と彼らの責任遂行上のVFMを向上・改善させることを助ける手段としての予算作成手続を確立することである。」と,している。報告書は,事業目標に対し,VFMをもたらす手段として予算を捉え,また,Cmnd8616(パラグラフ2.4)で述べられている見解,つまり十分な予算制度は使われる資源の費用(インプット)と計画された事業の達成度合い(アウトプット)との双方の管理を含むことを述べている。

2.29 1986年4月,この報告書を推奨する中で,首相は,この報告が公共支出におけるVFMの向上を達成するための,以下の4つの極めて重大な原則を指摘していると述べている。

(a)幹部からラインに至る全ての管理職が,予算の作成と見直しに対して,責任を与えられるべきこと。

(b)予算は政府の公共支出の毎年の見直しと連動されるべきこと。そして,これらの支出計画を事業に反映させること。

(c)予算はアウトプットとパフォーマンスの指標を含むべきであり,そして,設定された目標に対して,何が達成されたかを定期的に評価すべきこと。

(d)幹部職員は,彼らの職務の優先順位を設定し,資源管理を良くし,パフォーマンスを見直すために,幹部職員の責務と省庁の責務を体系づけ,それらの責務を明確に定義すべきこと。

 このアプローチが,政府の全ての分野に適応される必要があり,サッチャー首相は,大臣とその省庁の公務員がこれを達成するために協同して職務を遂行していることを信じている。

2.30 JMUは,NAOに対して,MDRの通常の規範に従って,大臣によって受け入れられた行動計画を作成し,そして,進展状況をモニターする基礎としてこの行動計画を使うと述べた。

達成度の測定

2.31 FMI導入文書は,全ての段階の管理職が,管理職の目的を明らかに認識する必要を強調するばかりでなく,その過程を評価する必要があり,可能であれば,目的に対してアウトプットやパフォーマンスを測定する必要性を強調していた。大蔵省等のFMIの中心となる省庁により進められた提案の多くは,支出の経済性,効率性,有効性を各省庁が見直し,評価し,向上・改善し,それを大臣等へ報告する過程での各省庁への助言を含んでいた。最近になって,大蔵省は,行動指針の測定に関し,各省庁の行動をモニターして,50を越えるケース・スタディを公表した。各省庁は,また,公共部門のパフォーマンス測定法について少なからぬ学才的調査を実施することができた。大蔵省による更なるモニターにより,主に14のケーススタディに基づく,大蔵省の運営調査部門の大蔵省ワーキング・ペーパー(FMI推進省庁によるアウトプットとパフォーマンスの測定:各省庁の進展度)が1986年2月に発行された。この報告では,アウトプットやパフォーマンスの測定法は,事業や支出のタイプに依存すると述べられている。ランニングコストに対する測定法を開発することについては,多くの進歩がなされた。特に,組織内に多くの機能を持っている大きな省庁では,同様な職務を行っているユニットのパフォーマンスを比較,検討し,情報管理システムとして使用される有効な評価測定法を開発するのは容易である。各省庁はプログラム支出のインパクトを評価,測定する方法を確立するために,多くの労力,費用をかけている。しかし,個々の事例には,個々に内在する困難が多く存在しており,測定法の確立は容易ではない。目標はいつも広く定義づけられ,目標達成の測定法開発への進展状況を直接的に測定することは容易ではない。多くのプログラムが,多様な目的を持っているため,他の要素からのプログラム効果と区別することはしばしば困難である。しかし一方,最終生産物のいくつかの指標は入手可能であり,多くの指標は,中程度に,ほどほどに使用可能である。

2.32 1985年1月の報告書,「ポリシー・ワークとFMI。」(1985年6月発行。)では,パフォーマンス測定法の開発に関する省庁の状況に関し,FMUのモニター結果が述べられている。この報告は,各省庁がどの支出プログラムを実際に達成しているかを評価する方法を調査していた。結論は各省庁との広範に渡る議論と多くのケーススタディに基づいている。報告書では,政策目標達成測定法に関し,数多くの進展がなされたとしているが,政策目標については多くの分野で政策目標が正確でなかったり,また,前提条件が特定されていなかったり,継続的にチェックされていなかったりしていると述べている。そして,政策の有効性についての組織的検討がなされていないと述べている。報告書は,新しい政策提言と現在の政策の見直しが,何が,いつ,いくらで達成されるべきかの目標を掲げるべきであり,パフォーマンスのモニター方法とチェック方法を確立すべきであると提言している。また,各大臣もこの提言を受け入れている。

2.33 FMU報告の勧告の実施をモニターし,促進,奨励するために,JMUは,政策提言と見直しについて,4つのケース・スタディを実施した。JMUは,また,政策評価を実施する管理職に,手引きを用意した。

中央アレンジの機能

2.34 主な12省庁の幹部職員に対するJMUの1985年の調査で,大蔵省と内閣府のFMIの中心となるMPOとの,FMIの発展についての助言は十分には調整されていない,そして,大蔵省とMPOとの間の責任分担は明確ではなかったことが判った。JMUは,NAOに対し,JMUがFMIの中心となる大蔵省等の担当部局に対し,正しい役割,その実行責任を伝え,管理方法の改善,促進についての責任を明らかにさせたと述べた。JMUは,現在では,FMI推進担当部局が,個々の責任を明確に認識し,広範囲に渡る政府事業に対するJMUの調整活動の絶えざる努力に感謝していると確信している。

第3章 農業水産食糧省

背景と調査範囲

3.1 農業水産食糧省(以下「農業省」,あるいは「MAFF」という。)は,農業,園芸,水産に関する中央政府の政策実施とイングランドにおける前記に関する政策の実施に責任があり,また,連合王国における多くの食料問題の政策実施に責任を持っている。スコットランド,ウェールズと北アイルランドの農業部門や農業生産調停委員会(Intervention Board for Agricultural Produce;IBAP)とともに,農業省はECの農水産政策に関しても責任を持っている。農業省の1985年度の予算は6億17百万ポンドである。そして,管理部門と技術の提供とアドバイス,そして,省内の調査機関の維持に2億17百万ポンドを充てている。残りの4億ポンドは補助金であり,この補助金のうち1億ポンドは,主にIBAPを通したもので,ECからの資金で賄われている。

3.2 農業事務次官は,彼と8人の主に局長クラス(グレード2)の事務方計9人で構成する最高運営委員会により政策の実施・運営に要する資源の管理に関する事項の調整を行っている。この委員会は通常毎月1回開催されている。事務次官とその直近の本省幹部職員は,60の課を管理している。41の課は主に農業省の直接的事業を行っている。19の課は総務,人事等の中央管理や他のサービス部門である。これら60の課は,通常,課長(アシスタント・セクレタリー(グレード5))が長であり,部長(アンダー・セクレタリー(グレード3))の下に,部としてまとめられている。1985年4月現在,MAFF職員は1万1400名を数えた。このうち約44%は農業開発アドバイス・サービス(Agricultural Development and Advisory Service「ADAS」)や水産部門の専門家,技術者,科学者である。ADASの多くの職員を含む全職員の約75%は地域的,部門的ネットワーク,あるいは専門的分野に従事し,ロンドン以外の地域で仕事をしている。

3.3 1981年11月,管理コンサルタントは,農業省の財政計画と管理システムについて報告を出した。コンサルタントは農業省は政策目標を明確にし,可能であるならば,これら目標の達成に向けてそのパフォーマンスを測定する意義深い方法を開発すべきであることを勧告している。この目的の達成のためには,管理責任の再定義と管理職にその責務に要する資源の使用に関し明確な責任を持たせるべきであり,この目的達成のための転換を促すために管理情報システムを向上・改善すべきであるとしている。農業省は,広範に及ぶ勧告を受け入れた。そして,農業省は,新しい財政管理チーム(FMT)により行われたアレンジの実施のために調整を行う,事務次官等からなる前記の最高運営委員会の下に,委員会(財政管理実施グループ Financial Management Steering Group(FMSG))を設置した。

3.4 1982年5月のFMI導入文書は,農業省(MAFF)に財政管理向上・改善に資する行動計画を作成するよう要求している。MAFFが既に検討している計画は,イニシアティブの目的と一致している。そして,農業省は以下の開発を含むプログラムを提案している。

(a)トップ管理計画システム(MINIM:MAFFにおける省内情報)

(b)管理会計情報システム(MAIS)のサポートを含む運営経費の分権化された予算管理(DBC)システム

(c)他の管理情報システム(MIS)

3.5 NAOは,農業省の補助金と,動物保健,助言と普及,調査開発についてのスキームに責任のある部署におけるFMIの進展状況を調査した。実地検査は,1985年の秋に,本省とその地方支部であるケンブリッジ,ハンチングトン,ノーウィック,オルバームトン支部において,農業省システムと運営について行われた。調査に当たっては,グレード3からグレード7(本省局・部長クラスから課長補佐クラス)までの農業省職員の面接調査も行った。

NAOの指摘事項

3.6 農業省は,1983年にMINIMに着手した。このMINIMには,実践的な年間戦略計画が示されている。この計画は毎年改善されてきている。1985年度を対象とする1985年版MINIMは,62のプログラムと152のサブプログラムを大臣により承認された8項目の農業省の事業目標毎に分類している。計画は,個々のプログラムの目標とそれに使われる資源を金額と人員数で示し,年度については,当該年度と翌年度のプログラムの細目を前年のプログラムの細目と対応させて記載している。農業省のオリジナルのユニットと必ずしも一致させる必要はないが,個々のプログラムに関連している情報は,その実施に責任を持っている政策グループの長(通常はグレード3の局・部長)により,公共支出サーベイと可能な限り緊密な連携を持つよう作成されている。

3.7 MINIM文書に基づいて,大臣と農業省の幹部は,プログラムの深度と資源の消費について見直しを行った。これらの見直しで,農業生産調停委員会(IBAP)について,事業達成度の測定を容易とし,必要費用と必要人員の算出を容易とするプログラム目標の定義づけを含む新たなMINIMに,旧来のMINIMを変換させる必要があることが確認された。IBAPが英国の4人の農業大臣の指揮,監督を受けるために,新たなMINIMの具体化は,大臣の指揮,監督を容易なものにするよう,目標の定義等を完全なものにするために示される。MINIMの見直しは,また政策自体を明確にすることとなるMINIMについての資料要求から,政策自体の明確化までの行動を必要としている。そして,効率性に関する調査が必要である分野の特定化という事項も含んでいる。

3.8 達成度の測定に関して,1981年にコンサルタントは,効果的計画が選択に関して重要であり,その選択された計画は,明確な目標と数量化された目標が必要であると提言している。これに対し1982年に農業省は,アウトプットとパフォーマンスの目標達成度についての測定方法の見直しを始めた。1984年5月には最高運営委員会は,1985年度版MINIM作成のためにアウトプットとパフォーマンスの測定方法の進展状況を調査した。この調査結果において,プログラム管理者は,1985年版MINIMの作成において鍵となる達成度測定法(KMAs)を制定するように指示された。この仕事は困難であるが,農業省は管理職に手引書と事例を用意し,その後も,模範となる事例を作成するように努めている。1985年における,MINIM報告に基づいたプログラムの見直しに基づいて,農業省の4人の大臣は,鍵となる達成度の測定法(KMAs)が開発され,達成度が測定され,そして,目的遂行に際し,KMAsが効率性とともにプログラムの目標にも結びつけられる必要があると述べている。

3.9 NAOは,農業省が,困難ではあるが,多くのプログラムにおいて,意義のある事業の達成度測定方法の確立に立ち向かっている事実を認める。例えば,政策に関するアドバイスに主に従事する部局の業績を測定することは,一般的に困難であると認められているが,これと同様な農業へのアドバイス・サービスの有効性を測定することは明らかに困難であるが,農業省はこれに立ち向かっている。しかし, NAOは,VFMの向上・改善が,特に予算,人員等の資源に関し厳しい状況にある場合には,プログラムのアウトプット測定法を開発・改善することが必要であることを認める。NAOは,それ故に農業省の軸となる事業達成度測定法を向上・改善させる努力を認め,そして,例えば,現在の農業統計をより有効に使える範囲を調べることなどを勧告した。

3.10 農業省の幹部職員は,NAOに対し,MINIMは特に有効であると語った。それは主に,農業省幹部はプログラム目的を明確にしなければならなかったこと,MINIMが彼らの資源消費に関してより注意を引き起こさせたことからである。しかしながら,地方支部に勤務する中間管理職は,運営段階ではMINIMを特に有効であるとはしていなかった。

3.11 NAOは,MINIMが農業政策の目的に関連して,包括的,構造的に農業省の目的と費用の見直しをするための情報を大臣と幹部職員に与えるという点において適切,有効であると考える。これらの見直しは,現在に至るまで,政策に関して,あるいは他のプログラムとの優先度に関して,根本的転換を促すまでには至っていない。しかし,これらの見直しは,FMIの根本的事項についての,つまり,政策が経済的,効率的に,有効に運営されることを確保する手続きの本質的な部分である。

予算管理

3.12 農業省は,イングランド東部地域支部について3年間のパイロット調査を行った。これに基づいて,最高運営委員会は1986年度に人件費を含む管理支出に関する予算管理について,支部への分権化システムを導入することを承認した。このシステムは,ゆくゆくは全ての費用を対象とすることとなるが,1986年度では,特定分野(主に施設と情報分野)は除き,農業省の人員の約78%が従事する事業分野を含むこととなった。予算管理の分権化から除かれる主な部門は,本省の管理部門と中央に集権される人事部門や個々の予算管理職員による慎重な管理を要する部門である。

3.13 予算管理分権化システムは,農業省のライン管理を担当するグレード5の職員(予算センターマネージャー(BCM),本省課長クラス。)が管理する通常の予算部署で運営される。BCMの予算は,彼らの職務を遂行するために必要であるとして要求された予算,人的資源の見積もりに基づいて決定される。BCMは,彼らの予算を,上司を通じて最高運営委員会メンバーに提出する。そして,承認されると農業省の予算(サプライ・エスティメイト)にまとめられる。このシステムは,BMCが,毎月,承認予算をモニターするのに有効である。

3.14 BCMが,必要とする予算,人的資源の見積作成のために,予算管理分権化システムは,計画要素の多く,BCMが従わなければならない公共支出サーベイに主に出ている要素とMINIMの過程で合意された最新の事業目標を知らせる要素を含んでいる。これらの事項は,農業省の組織,機構を対象としている。

3.15 農業省は,予算執行者に承認された限られた流用しか認められていない予算の範囲内で支出を執行するように要求している。これらの制限は,政府支出の手続きを監督する必要上,人事管理の執行上,そして,予算管理が経験により規制を緩和してもかまわない状況となるまで,中央の管理にとどまるべきであるという考えから必要である。

3.16 NAOの調査により,1986年度の予算は計画された方針で作成されたことが確認された。NAOが面接をした農業省の職員は,計画時における前提条件の妥当性に疑問を持ち,人員管理の影響が効率性,経済性の向上・改善に結びつくか疑問は残るとしながらも,計画は実行に移し易いと証言している。NAOの調査で,MINIMに基づいた目標と予算の結びつきの強さの程度は,個々の項目で異なることが分かった。例えば,家畜の病気に関するサービスと農業開発アドバイスサービスにおける国土,水資源のサービスは両者とも良く関連づけられているが,後者のサービスは前者より設定された目的が数量化されていない。他の場合では,例えば地域管理の実施などでは,予算と事業目標の関連づけが弱かった。農業省は,「政策作成職員とライン管理職がこれらの関連を向上させるだろうと期待している。」と,NAOに語った。

情報システム

3.17 MINIMと予算管理分権化を助けるために,農業省は管理会計情報システム(MAIS)に基づくコンピュータシステムを開発した。1985年4月に,このシステムはその前の財政会計システムに代わって採用された。そして,このシステムでは東部地域支部の予算分権化パイロット事業に充てられる予算を対象とし,月例支出報告を1985年4月から始めた。農業省では,この月例支出報告を遅らせる問題点が発生した。

3.18 1984年1月に財政管理実施グループ(FMSG)と地方支部長は,全ての地方支部とその部局の管理職が必要としている情報を見出すために委員会を発足させた。この委員会では,NAOが,地域内と地域間の両方に関して,パフォーマンスを比較する本質であると考えているアウトプットの測定法を検討することも含まれている。この委員会の最終報告は1986年2月に出されることになっている。

研修

3.19 1983年からと85年の間にかけて財政管理チーム(FMT)が,一般的FMIについてのセミナー,特別な管理会計情報システム(MAIS)と地方分権予算管理に関する研修基準の包括的プログラムを作成したことをNAOは確認した。これには幹部職員を含む約600人の職員が関わっている。また,コンサルタントが研修計画を開発するために使われた。

FMIシステムの実行

3.20 コンサルタントの1981年の財政管理に関する見直しは,農業省に有益な時宜にあった基礎(この基礎に立って,FMI目標に合致する行動が確認される。)を与えた。大臣の強力なサポートとともに,財政管理実施グループ(FMSG)とFMTの設立は,政府の中でもFMIの推進的取り組みを行っている農業省の現状を物語っている。そして,農業省職員との議論により,農業省のFMIへの積極的姿勢をNAOは感じた。農業省職員は実施に際し注意深い,段階的アプローチを行い,必要な場合はコンサルタントを採用した。実際に使われるシステムの開発が強調され,この目的のために,FMTは彼らの見解を具体的に明らかにすることにより,利用者の要求に合うように努めている。農業省のシステムは向上・改善しつつあり,今までの進捗状況は計画に対する重大な遅れもなく良好である。これから更に,注意を払っていく必要のある分野は,MINIMと運営レベルのアウトプットの測定方法である。

FMIアレンジの有効性

3.21 農業省は,VFMの向上・改善によりFMIに貢献する節減について,全てについては評価していない。また,農業省は,計画に対する有意義な数字が考案されるか強い懐疑を抱いている。これは,どのような計算についても,1981年のコンサルタント報告に基づく向上・改善が,別々に発生するために,この個々に発生する向上・改善を予想しなければならないことによる。しかしながら,農業省は,FMIは継ぎ接ぎだらけであるとしても,農業省に本質的インパクトを与え得ると確信している。そして,FMIの主要な便益は,政策決定にいたる過程で,運営費用を考慮に入れ,管理職の理解を助けるための情報を与え,予算,人員の適正な資源管理を明確にすることにあると述べている。また,農業省は,FMIを遂行するための全ての費用を,農業省の事業目標別に区分することはできないと述べている。しかし,1985年度が終わる1986年3月までの,FMIに直接的に必要な費用は,140万ポンドに上ると計算している。

第4章以下略

Ⅲ 結び

(FMI導入の経緯)

 サッチャー首相は,政府の財政状況を改善すべく,1979年6月,首相となると同時にサー・デレク・レイナー(マークス・アンド・スペンサー重役)を首相特別顧問とするエフィシエンシー・ユニットを設置した。以降,政府にある無駄や非効率性をビジネス界からの知識で取り除き,どれほどの結果が得られたかで判断されるビジネスの世界を行政に持ち込もうと努めることになった。

 保守党政権発足後,ヘーゼルタイン環境大臣が,環境省において行ったMINISは,同じ行政サービス水準を保ちながら,4年間で29%,15000人の人員削減に成功した。

 このようなことから,行政・財務管理システムの見直しは,国民の関心事となっていた。

 1982年3月,議会の大蔵省・公共サービス委員会は,政府の効率性,有効性の向上・改善を図るべく,政府事業に,MINISやMINISに類似するトップ・マネージメント・システムのような財務管理システムの開発を促す報告を行った。この報告書に答える形で,ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブは着手された。

 ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブは,1982年5月に,サッチャー首相から,各省庁の大臣に配布されたメモ「財務管理:大蔵省,MPOメモ」に端を発する(FMI導入文書)。このメモでは,各省庁は,大蔵省及びMPOと協議の上,担当省庁の予算の使途,予算の成果を明確に把握できる財務管理改善計画を作成し,1983年1月までに提出するよう求めている。サッチャー首相が求めているのは,政府事業の単なる費用削減,規模の縮小ではなく,政府事業の効率性,有効性に結びつく行政の質的改善,つまり,行政サービス管理の改善であった。費用をかけて事業を行う必要があるかを知ること,またその事業遂行について少ない費用で,大きな便益を得ることは,納税者の要求であり,このためには,政府事業であっても,民間の競争原理,マネージメントを取り入れることが必要とされた。

(調査結果総括)

 この報告の調査結果をNAOは以下のように述べている。

 「政府はFMIを3原則に適用しようとした。一つは政策と事業執行の目的が明確であること。第二は目的達成や目的達成のための資源の配分の責任が定義づけられていること。三つ目は責任を遂行するのに必要な情報が入手されること。政府はこの原則が人的資源と金銭的資源面において全ての管理職に適用されるべきであると考えた。これらの原則は新しくも政府事業特有のものでもないが,良い事業管理の必要条件であると考えた。従って会計検査院長として私は,公務員制度のなかに情報を入手し易くし,これら3原則に従い事業を実行するために研修をし,動機づけを行うこととした政府の決定を歓迎する。

 NAOの調査の目的は,FMIに対する各省庁の事業管理システムの開発状況を調査し,FMI原則に従って新しいシステムが管理職の手助けをしているかを評価することであった。私院長の結論は新しいシステムは進展があったということであり,NAOの調査した省庁においては重大な欠点はなかったというものである。

 FMIの目標は,中央省庁における支出の管理によってVFMを向上させることである。FMIのアレンジは十分な結果をもたらすに十分な時間を未だ費やしていない。そのためにNAOの調査にはこのような時間を費やさなくては結論づけられない局面の調査は除いている。しかし,それ以外にもアウトプット,事業の達成度及び公共支出のVFMの調査と同じようにFMIについても本質的困難性が存在する。しかし,FMIが事業管理の質を向上させるばかりでなくFMIの向上が,VFMの向上として帰結するようこの仕事を継続していくことが重要である。」

 FMIは,予算の上限目標の設定,定員削減計画の作成という方法は,取っていない。行財政改革を行うのに必要なのは,政府にある無駄や非効率を取り除くのが必要であると強調する。ビジネスの世界では,利益が目標であるが,政府の場合は,良い政策が目標である。良い政策を行うには,個々の政策を評価する必要がある。ビジネスの場合は,利益は損益計算書に数字で表わされる。ビジネス界のように目標を数字で表わすためには,良い政策を目標毎に分り易くする必要があり,目標をブレークダウンすることにより,予算上限の設定,人員削減の設定を行う必要はなくなる。つまり,良い政策に必要な予算を計上し,その執行に必要な人員を配置すれば,政府の無駄や非効率はなくなる。このためには,FMIはより推進されなければならないし,その結果は,公開されなければならない。

(議会の審議)

 NAOのファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ報告は,下院決算委員会(PAC)で,NAOの調査に基づき審議された。審議に先立ち,NAOは,下院決算委員であるMP(国会議員)に対し,NAOの調査資料に基づき,説明を行った。このため,PAC報告は,NAO報告とほぼ同じ内容となっている。

 これは,NAO報告が,単に情報としての意義を持つ以上に,政府に対する勧告実行性に関し,インパクトを与えていることを示している。

 つまり,国会(下院決算委員会)の場で,報告対象となった農業省等のアカウンティング・オフィサー(事務次官が大蔵省より任命される)は,国会議員(決算委員会委員)に対して,直接答弁をしなくてはならなく,行政事務を行う事務方のトップである事務次官の答弁は,重いものであり,勧告の実行を担保し得るものであるからである。

 実際に,ファイナンシャル・マネージメント・イニシアティブ報告について,FMIの進捗状況,問題となる状況が,アカウンティング・オフィサー等から明らかにされ,これに基づく勧告が行われた。

 また,PAC報告による向上・改善の勧告に対する政府の回答は,大蔵省覚書(Treasury Minutes)として,報告対象となった省庁と大蔵省が協同して作成することとなる。大蔵省が協同で関係各省と回答を作成するということは,大蔵省が予算作成の責任を持つため,回答事項が予算に盛り込まれることが容易であることを意味し,勧告の実行可能性にインパクトを与える。

 ファイナンシャル・マネージメントのように定性的な問題の場合は,事態の解決が完結しない場合が多い。しかし,PACの審議,それに対する大蔵省覚書の作成は,問題解決への方向を見いだすには有効である。問題があることは確認できるが,それに対する解決策は,NAO独自では見い出せない場合,議論の提起を行うことにより,政治を行う国会,行政を行う内閣の関係者を巻き込み解決策を模索することができる。

(VFM報告の性格)

 本院の検査報告の場合,不当事項や処置済事項等関係者内部で処置される事項の報告があるが,NAOの場合はこれらがVFM検査報告として議会に提出されることは少ない。なぜならば,関係者内部で処置が完結しているので議会で議論する余地がないからである。VFM検査報告は本院の特記事項のように関係者内部で処置できない事項である場合が多い。

 近年の行財政活動の複雑,膨大化により政府事業のVFM評価は,容易ではなくなっているが,それ故にVFMを評価することはますます重要となっている。

 NAOのVFM報告による政府事業の評価,また,PAC,それに関係省庁,大蔵省等による議論が,英国の行政の経済性,効率性,有効性の向上・改善に貢献している。

略語集

VFM Value for Money
NAO National Audit Office
FMI Financial Management Initiative
MPO Management Personnel Office
MINIS Management Information System for Ministers
FMU Financial Management Unit
NDPB Non-Departmental Public Body
TMS Top Management System
PES Public Expenditure Survey
JMU Joint Management Unit
PFO Principal Finance Officer
MDR Multi-Departmental Review
Cmnd Command paper
MAFF Ministry of Agriculture, Fisheries and Food
IBAP Intervention Board for Agricultural Produce
ADAS Agricultural Development and Advisory Service
FMT Financial Management Team
FMSG Financial Management Steering Group
MINIM Ministerial Information in MAFF
MAIS Management Accounting Information System
DBC Decentralised Budgetary Control
MIS Management Information System
KMAs Key Measures of Achievement
BCM Budget Center Manager
PAC Public Account Committee
MP Member of Parliament

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