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第8号 巻頭言

地方分権を考える
平松 守彦

平松 守彦
(大分県知事)

 1924年生まれ。東京大学法学部卒業。商工省入省の後,国土庁長官官房審議官,大分県副知事を経て,79年より現職(四選)。九州地方知事会長。

 主な著書は「一村一品のすすめ」ぎょうせい,「テクノポリスヘの挑戦」日本経済新聞社,「東京で出来ないことをやってみよう」文春ネスコ,「グローバルに考えローカルに行動せよ」東洋経済新報社,「地方からの発想」岩波書店,「一身にして二生」新潮社がある。

 1 はじめに

 私は昭和24年に商工省に入省して以来,中央官庁でマクロ的な産業,経済政策の立案に取り組んできた。その後縁あって昭和50年に大分県の副知事として郷里に帰り,昭和54年には知事に初当選し,現在四期の三年目を迎えている。福沢諭吉の言葉ではないがまさに「一身に二生を経る」思いである。

 私は通産省で産業公害,工業立地,エレクトロニクス部門の仕事を担当し,国土庁では国土総合開発計画の策定などの業務にかかわってきた。しかし,今あらためて地方の立場に立って国の行政を見直してみると,国の行っている全国一律の行政は地方の実情に合わない点が多い。それぞれの地域の自然条件や立地条件が異なるなかで,全国一律の農業政策や福祉政策では十分な成果をあげられないのも当然であり,また中央政府の地方に対する過干渉は地域の自立や創意を削いできた。これからは「地方分権」という角度で中央政府と地方政府の役割をあらためて考え直さなければならない時期にきていると思う。

 大分県で少年時代を過した福沢諭吉は明治10年の著書「分権論」のなかで,国権といわれるものに「政権」と「治権」があると書いている。政権(government)と治権(administration)をはっきりと区別し,いわゆる条約締結権,法律制定権,貨幣鋳造権は政権に集中し,住民の身の回りの道路,衛生,教育,福祉というようなものは治権として地方政府に集中すべきであると説いている。これはトックビル(フランスの政治学者,1805〜1859)のアメリカンデモクラシーから引用したものであると,私の恩師である東大名誉教授の丸山眞男教授にうかがったことがあるが,この考え方は現在でも通用する至言であると思う。

 (1) 東京一極集中と地方分権

 今日東京一極集中ということがいわれている。東京一極集中はなぜ起きるか。その大きな原因の一つに我が国の政治体制の特徴である中央集権があると思う。私が知事になったころは2ヶ月に3回くらい上京すればよかったが,最近では月に3回くらい行かないと事が済まない。1年間に36回も上京する。そこで1泊すると72日間は東京に滞在するということになる。つまり年に2ケ月半を東京で過すということになる。年末の予算陳情,企業誘致のためのトップ会談,全国知事会議など,東京に行く仕事は年々増えている。私だけではない。地方にある銀行の頭取や会社の社長もやはり上京回数が年毎に増えているのである。こうして地方から多くの人が東京に恒常的に集まるようになると,やがて東京にホテルが増え,様々なサービス業が発達し,人が集まる場所が増えて一極集中が進んでいく。したがってどうすればよいか。第一番目はデレギュレーション。東京に行かなければ許可や認可ができないというようなことをできるだけ廃止する。第二番目は転都である。最近は「首都機能の移転等に関する法律」もできたが,首都圏から60キロの範囲内に,60万人の人を移すのに15兆円もかかるとされている。しかも今のままで霞ケ関を移すのであれば,第二の東京ができるだけで,九州に住んでいる人にとってはかえって不便となる。この構想の立案者ともいえる堺屋太一さんは明治維新のケースになぞられて,転都によるアナウンスメント効果が期待できるといっているが,明治維新の時には徳川幕府が倒れて「御一新」ということで,東京への転都が行われた。しかし今回は霞ケ関の中央官庁の権限が十分地方に分権されないままで転都が実行されることになるおそれがある。これでは転都によるアナウンスメント効果で地方分権が行われるとは思えない。したがって,転都については私は積極的でない。

 それでは地方分権を進めるにはどうすればよいか。第三番目の道として私は姿なき転都,すなわち徹底した地方分権であると思う。最近は政治改革の一環として地方分権が唱えられるようになり,去る6月には地方分権を進める国会決議も行われた。しかし,地方分権に関してはこれまでも地方制度調査会,行革審などで地方分権,パイロット自治体,道州制など,様々提案されてきたが,その具体化ということになると,どれも実現にはほど遠い。例えば最近よくいわれている道州制を例にとってみても,戦略的な視点がなく,どうやって現在の府県制,市町村制から道州制に移行させるかということになると,はっきりした方法は示されていない。

 (2) 九州府構想

 そこで,私は地方分権は戦略的にやるべきだと考えている。まず国の出先機関である通産局,財務局,地方建設局,農政局,運輸局などを束ねて,九州であれば九州府をつくり,公選の九州府長官を置く。そこに中央官庁の権限を移譲する。同じ国の機関であるから中央官僚の抵抗も少ないし,機構的にも長官が一人増えるだけである。この九州府と各県知事が相談しながら,九州全体の予算を決め,水利権や産業廃棄物の問題など県をまたがる広域的な問題を調整する。さらに九州府長官をデモクラティックコントロールするために,ヨーロッパのEC議会にならい,各県の婦人代表,教育界代表,経済界代表,市町村,議会代表などで構成する九州議会をつくる。九州府,九州議会ができれば,九州の人々は東京に行かなくても九州内で事が済む。その後,九州府の権限を都道府県に順次移していくか,それとも道州制にするかは,一つの選択肢である。

 2 政治改革と地方分権

 政治改革の行き詰まりからついに宮沢内閣が解散に追い込まれた。政治改革は第一に選挙制度の改革,第二に政治腐敗防止法の制定,第三に地方分権の確立の三つができないと実現しない。なかでも選挙制度改革については,小選挙区制,比例代表制,その併用制,連用制などいろいろと提案されてきた。しかし選ばれるべき議員が議論し,選ぶ側の声はほとんど聞こえてこない。選ばれる側の政党なり国会議員が,自派に有利なシミュレーションを行ってそれぞれ主張しており,党利党略,派利派略によって議論が進められてきた感が強い。カネのかからない政治が政治改革の目標であるとすれば,選挙制度だけを変えてみても実際にカネがかからないようになるかどうか疑問である。そういう意味では政治腐敗防止法を先行して成立させることのほうが,先決であろうと思うが,そもそも政治家とカネの問題が生じる根本的な要因は,中央集権体制にある。利権が生まれ,中央官僚といわゆる「族議員」と呼ばれる国会議員との間で癒着が生じ,問題が起きる構造になっている。中央官僚と族議員の癒着が起きないようにするにはどうすればよいか。それは小さくて軽い中央政府にすればよい。だから,ここでも地方分権が必要ということになる。

 しかし,地方に権限を分散すると,地方でも汚職が起こるということを心配する向きもある。これについて福沢諭吉は「分権論」のなかで,もし思い切って地方分権をした場合,『或いは雑踏混乱をいたして一時は人の耳目を幻惑することもあらんといえども,全国の地心たる中央の政府に政権の存するあれば,亳も憂うるに足らざるのみならず,その雑乱と認むるものは,即ち,国の元気の運動して腐敗せざるの兆候なれば,これを賀し,これを祝せざるべからず。政治の妙巧と言うべし』と述べている。つまり,国が地方に権限を移譲し,財源を分譲すると,国が効率的に行うのと異なり,あるいは混乱が起こるかもしれないけれどもこれは国が元気である証拠だから,少々の混乱があっても思い切って地方に権限を移譲すべきであると主張している。地方では住民の監視が行き届き,透明度は中央政府よりも高い。だから私は積極的に地方分権を行うことにより,アメリカの連邦政府と州政府のような関係,すなわち国は国防,外交,通貨管理を担い,住民の身の回りの道路,医療,教育,福祉は地方公共団体が分担するというような形が日本でも望ましいと考えている。「United States of America」ならぬ「United States of Japan」を実現することが政治改革の本命である。

 3 地方分権の受け皿としての第二国土軸

 これまで地方分権についていろいろと述べてきた。しかし,最近の地方分権の議論で抜け落ちている大切な視点は地方分権は手段であって目的ではない,ということである。地方分権の結果,住民の生活が豊かにならないと意味がない。そのためには,地方分権の推進と並行して,地方分権の受け皿づくりが必要である。

 今日の日本経済の問題は首都圏に対抗できる地方経済圏が日本のどの地方にもなく,首都圏が無制限に拡大し「大東京化」が進んでいるということである。膨張し続ける首都圏に対抗できる新しい広域経済圏をつくらなければ,東京一極集中はおさまることはない。そこで私が提唱しているのが第二国土軸構想である。これは東京から東海道,山陽道を通り,九州につながる第一国土軸と並行して,東京から伊勢湾,紀伊半島を通り,紀淡海峡から四国を横断し,豊予海峡から大分,長崎,熊本にいたる第二国土軸をつくり,これを基盤として人口3千万人の環瀬戸内経済圏を構築する。東北でも東北第二国土軸を基盤とした東北経済圏,日本海側でも第三国土軸を基盤とした環日本海経済圏をつくる。地域と地域をヨコに結ぶ循環型交通体系を整備し,そのうえに地方都市を育成して,若者が喜んで定住するようにする。こうすれば,各地域に地方分権の受け皿となる広域経済圏ができあがる。60万人の人口を首都圏の60キロの場所に移転させる「転都」の費用は15兆円。これに対し,第二国土軸の建設費用は私の試算によればその半分の7兆円にすぎない。どちらが東京一極集中の是正と地方分権の推進に効果があるだろうか。

 4 一村一品運動と民活

 中央政府と地方政府との間の議論とともに,これからは国,県と民間の役割分担も大きな問題である。私は知事に就任して最初に一村一品運動を提唱した。この一村一品運動はいわば民活である。

 この運動の原則は三つある。一つはローカルにしてグローバル。地域にある産品に磨きをかけて,世界に通用する産品をつくる。杵築のハウスミカンや姫島の車エビなど多くの一村一品がこの運動を通じて生まれてきた。ローカルなものであればあるほどグローバルに通用する。

 第二番目は自主自立,創意工夫。どれを一村一品にするかは住民が決める。これまでの行政では一村一品補助金制度というものをつくって,産品をつくらせる。しかしうまくいかないと,買い上げてくれということになる。その典型が農政であり,これまではあまりにも公共セクターの力が強く,農民の創意工夫が削がれてきた。こうした「おんぶにだっこ」の行政ではよいものはできない。一村一品運動をしないというところはやらなくてもよい。そのかわり,過疎になって救いを求めてきても県は助けようがない。「県は自ら助くる者を助く」である。一村一品運動はあくまで地域の自主性,主体性で進める運動だ。だから一村で三品のところもあれば,二村で一品のところもある。すべてがうまくいっているわけでもなく,なかには失敗したものもある。だが,その失敗が住民の貴重な経験となり,新しいものに挑戦しようとする意欲が根づいていく。民間のリスクとアカウントで進めることがこの運動のポイントである。

 それでは行政は何をするかというと,技術開発とセールスプロモーション。例えば杵築のハウスミカンを品質改良するための研究開発や,カボスの香りをいつまでも保つための貯蔵方法の研究,カボスワインやカボス石鹸など1.5次産品の開発などである。また大消費地の東京に一村一品を売り込んでいくことも行政の役割である。例えば,大分県には今や全国的に有名な「吉四六」「いいちこ」という二つの焼酎のブランドがあるが,十数年前は大分県人でさえ知らない焼酎だった。私はこの麦焼酎に目をつけた。「麦焼酎は二日酔いしない」「カボスの果汁を垂らしてカボチューとして飲むとうまい」と,上京のたびに麦焼酎を持参し,一流の料亭に持ち込んで,売り込んでいった。その結果,大分県産麦焼酎の全国シェア(焼酎乙類課税移出数量)は昭和54年に全国の2%あまりであったものが最近では全国の50%を占めるまでに急成長した。まさに知事もセールスマンである。これらのマーケッティングを組織的,効果的に進めていこうというのが,昭和63年に第三セクターで設立した大分県一村一品株式会社。地元の百貨店や大手商社,金融機関に参加してもらい,東京にも支店を出して,一村一品のマーケッティングや卸売を行っている。現在売上高は7億円。設立当初の赤字も解消し,黒字会社となった。当面,年間売上10億円をめざしている。

 第三番目は人づくり。一村一品運動は単なる物づくり運動ではない。物づくりを通じて地域に誇りをもつ人材を育成する。東京に行かなくても自分の地域で頑張るという,チャレンジ精神をもった人材を育てるのがこの運動の究極のねらいである。そこで,昭和58年から県下12地域に「豊の国づくり塾」を開設し,地域づくりの実践的な勉強を進めてきた。この塾を卒業した人は900名を超えた。さらにこの塾と連動させながら,高齢者を対象とした高年大学校や女性のための婦人大学校,優れた農業経営者を育成する農業平成塾や豊の国商人塾など,各分野における人材育成も進めている。

 大分県は一村一品運動を通じて,フランスのラングドック・ルシヨン地方,英国のウエールズ,中国の上海,武漢など世界の各国と交流をしてきた。最近は韓国,マレーシア,フィリピンなどアジア諸国との交流も活発化している。将来,九州が独立した経済圏を構築することができれば,マレーシアのマハティール首相が提唱しているEAECのように,九州とアジアを結びつけた九州アジア経済圏構想を進めていきたいと考えている。

 5 第三セクターの在リ方

 公共セクターと民間セクターの中間的な制度として,第三セクターがある。大都市であれば十分ペイできる事業でも,地方では建設主体となる民間企業の規模が小さいため事業が進まないということが多い。そこで,民間資本の弱い地方では公共セクターが民間企業と一緒に出資することによって事業化を促進する第三セクター方式が有効である。大分県ではリゾート開発,情報通信などの新規分野,公共的な事業を中心にいろいろな第三セクターが設立されている。例えば,別府市の隣の日出町に2年前にオープンしたテーマパーク「ハーモニーランド」。県,地元町,サンリオなどの出資により建設された第三セクターによるリゾート施設である。また,大分空港のビル管理,運営を担っている大分空港ターミナルも第三セクターによって運営されている。さらにテクノポリス構想を推進する母体である大分県地域技術振興財団,大分県高度技術開発研究所,実用的なキャプテンサービスを提供しているニューメディア株式会社,21世紀における高度情報社会の在り方を研究するハイパーネットワーク研究所というように,その分野は広い。ただ第三セクターがうまくいくかどうかのポイントは人材である。公共セクターの悪い所と,民間セクターの一番悪い所がくっついてしまっては,たちまち第三セクターの経営は行き詰まってしまう。

 第三セクターも地域づくりも要は人材が鍵を握っている。私が進めている県政の究極目標は,頭は世界的に考え,行動はしっかり地域に根づいた人材を育成すること,つまり,「グローバルに考え,ローカルに行動する人づくり」ということに尽きる。_

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