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第7号

JR連結決算分析序説
——JR連結財務諸表作成の試み——
藤井 秀樹

藤井 秀樹
(京都大学助教授)

 1956年生まれ。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。近畿大学商学部講師,同助教授を経て,1990年より現職。会計学,会計システム論及び公企業会計論専攻。日本会計研究学会,日本経営財務研究学会,日本簿記学会及び公益事業学会(評議員)に所属。主な著書に「発生主義会計とその基礎慨念の再検討」『会計』第139巻第5号,1991年5月;「水道事業会計の現状と問題点」『都市問題研究』第43巻第8号,1991年8月;「ECにおける会計調和化とフランス会計」『社会科学研究年報』第22号,1992年3月がある。

 Ⅰ はじめに

 JR鉄道7社(JR北海道,JR東日本,JR東海,JR西日本,JR四国,JR九州,JR貨物の7社),新幹線鉄道保有機構(以下たんに「保有機構」という),日本国有鉄道清算事業団(以下たんに「清算事業団」という)の9事業体(注1)を,本稿では便宜的に「JRグループ」と呼ぶ。

 本稿の目的は,経営分析の観点からJRグループの実態に接近するべく,その第一歩として,公表決算資料にもとづき同グループの連結財務諸表を作成することにある。本稿で使用する主たる公表決算資料は,『日本国有鉄道の改革に関する施策の実施の状況に関する報告』(以下たんに『国鉄改革に関する報告』という)の各年度版である(注2)。

 本題に入るまえに,かかる作業を本稿の目的とする理由について,多少なりとも立ち入った説明をしておく必要があろう。そこで,節をあらためて,まずこの問題にふれておきたいと思う。

 Ⅱ 連結決算分析の意義

 (1) 連結決算分析をめぐる2つの見解

 関連文献を通覧すると,JRグループの連結決算分析(以下たんに「連結決算分析」という)の是非をめぐって,対照的な2つの見解が存在することに気がつく。

 一つは,「JR各社だけでなく,国鉄清算事業団を含めた旧国鉄全体の連結貸借対照表を作らなければ,〔国鉄改革の成果が〕プラスかマイナスかは,わからない」(注3)として,連結決算分析の必要性を積極的に主張する肯定的見解である。そして,もう一つは,「〔清算〕事業団を含めた連結決算をして,その赤字の多少を比べる見方は,はっきりいって間違いだ」(注4)として,連結決算分析の試みに疑問を投げかける否定的見解である。

 やや図式的ないい方をすると,肯定的見解は,国鉄改革の成果を,旧国鉄決算とJR連結決算の比較を通じて明らかにしようとする点に主眼をおいている。この見解は,JR決算を扱った先行研究に広く見いだすことができる(注5)。これに対し,否定的見解は,決算分析の課題を,個別鉄道会社の業績評価に限定しようとする点に主眼をおいている。この見解は,JR(とりわけ本州JR)の当局者の主張に見ることができる(注6)。

 一般に,ある改革の成果を総合的に明らかにしようとするとき,改革前の状態と改革後の状態をできるだけ等しい条件のもとで鳥瞰的に比較・分析しようとするのは,きわめて常識的なことである。つまり,国鉄改革についていえば,旧国鉄決算とJR連結決算を比較・分析することが,当該改革の成果を総合的に明らかにするうえで,ごく常識的な(その意味で欠くことのできない)分析作業の一つとなるのである。

 しかし他方,個別鉄道会社の経営業績が国鉄改革の成否それ自体を左右する最も大きな内在的要因になるという意味では,当該各社の単独決算分折が重要な意義をもつ。とりわけ,個別鉄道会社の単独決算データは,当該各社における株式上場基準の達成状況を判定するための基礎資料となるものであり,したがって,「民営分割の仕上げ」(注7)とされるJR株式上場を念頭においた場合には,個別鉄道会社の単独決算分析が避けてとおれない課題となるのである。

 つまり,以上のような意味において,連結決算分析と単独決算分析は相互補完的な関係にあるということができるのである。したがって,これら二つの分析アプローチを二者択一的に論じるのは,あまり生産的な議論とはいえないであろう(注8)。

 (2) 単独決算分析の限界と連結決算分析の必要性

 しかし,以上の諸点をふまえたうえで,なおあえて強調しておかなくてはならないのは,個別鉄道会社が分割・民営という制度的枠組のもとで設立され,かつまた,現在その事業活動を遂行しているという事実である。この事実は,個別鉄道会社の単独決算分析が以下のような限界(ないし問題点)をはらんでいるということを含意している。

 第一に,JRグループ9事業体の間には,国鉄長期債務等の継承措置をはじめ,さまざまな内部補助的措置がはりめぐらされており,したがって,個別鉄道会社の単独決算分析のみによっては,当該各決算の背後にある経済的実質(economic reality)を明らかにすることができないということである。個別鉄道会社の単独決算は,当該各社の法的実体(legal entity)としての経営業績を表わしているにすぎない。当該各単独決算の実質的な意味,とりわけJR鉄道各社の実質的な収益稼得能力は,分割・民営体制の全体的枠組み(その財務的写像としての連結財務諸表)に照らして,はじめて明らかにすることができるのである。この問題は,とくに,個別鉄道会社の株式取得希望者(すなわちJRの将来株主)にとって,重要な意味を有する問題といえるであろう。

 第二に,JR株式の売却収入および旧国鉄用地の売却収入によって処理しきれない国鉄長期債務等は最終的に国民負担によって処理することが予定されているが(1986年1月28日および1988年1月26日の閣議決定),まさにこの国民負担額の多寡が,国民一般にとっては,国鉄改革の成否を判断するさいの最も重要な財務的指標の一つになるということである。個別鉄道会社の単独決算は,売却株価の形成・変動を通じて当該国民負担額に影響を及ぼすというかぎりで,国民一般の関心事となるにすぎない。つまり,国民一般の関心は,「国鉄清算事業団を含めた旧国鉄全体の連結貸借対照表」,とりわけ,そこで計算・表示されるはずの国民負担額の多寡に,向けられているのである(注9)。

 第三に,JR利用者としての国民の経済的利害はJR鉄道各社の運賃水準のいかんに大きく依存しているが,当該運賃水準は,JRグループ9事業体間に形成されたさまざまな内部補助的措置の財務的影響(とりわけ本州JRについては,かかる内部補助的措置を一つの与件とした,当該各社における株式上場基準の達成状況)との兼合いにおいて,設定されているということである(注10)。ということは,すなわち,JR利用者としての国民の経済的利害もまた,分割・民営体制の全体的枠組みをぬきにしては論じえないということである。したがって,JRの運賃問題(より端的にいえばJR運賃水準の適正性)を,JR利用者としての国民の経済的利害と絡めて論じるさいにも,JRグループの連結決算分析が欠くことのできない重要な課題となるのである。

 すなわち,以上を要するに,連結決算分析と単独決算分析は相互補完的な関係にあるとはいえ,問題の重要性からすれば,あくまでも前者が「主」であり,後者が「従」なのである。本稿で連結決算分析の意義を相対的に重視するのは,かかる理由によるものである。

 もちろん,このことは,個別鉄道会社の単独決算分析が有する独自の意義を否定するものでは決してない。「従」の意義はこれを「主」のなかに正当に位置づけることによって,むしろより大きなものになる。つまり,個別鉄道会社の単独決算分析は,これを連結決算分析と結合したときに,さらにいっそう有意義なものとなるのである。

 (3) 先行研究の到達点と本稿の課題

 では,先行研究において,JRグループの決算分析は具体的にどのような方法にもとづいて実施されてきたのであろうか。主たる先行研究を通覧すると,そこでは連結決算分析の必要性が意識され,あるいは強調されながらも,具体的な分析方法としては,ほとんど例外なく,JRグループ個別事業体の単独決算データをそのまま分析し,その分析結果を記述的に総合するという方法がとられてきたことが理解されるのである(注11)。

 もちろん,このような方法によっても,単独決算分析の限界を克服することはある程度可能である。事実,多くの先行研究が,単独決算分析のみによっては捕捉しえないJRグループの実態を析出することに成功している。そしてまた,先行研究のそうした到達点は,本稿にも大きな示唆を与えている。

 しかし,個別事業体の単独決算データをそのまま分析するという方法をとるかぎり,JRグループ全体の会計的鳥瞰図ともいうべき連結財務諸表を作成することは不可能であり,したがってまた,JRグループ全体としての決算を旧国鉄決算と比較・分析することも不可能である。総じて,連結財務諸表の分析を欠いた決算分析は,本来的な意味での連結決算分析とはいえないであろう。

 先行研究の多くが上掲のような方法に依拠せざるをえなかったのは,おもに資料上の制約によるものと考えられる。というのは,連結決算のあり方いかんが多くの利害関係者の利害を直接左右する大きな要因となるにもかかわらず,JRグループの発足以降今日にいたるまで,連結財務諸表に類する決算資料はいずれの関係当局からも一切公表されてこなかったからである(注12)。しかも,現在公表されているJRグループ9事業体の一次決算資料(すなわち『国鉄改革に関する報告』に収録された各事業体の決算資料)においても,連結財務諸表の作成に必要な決算情報はほとんど開示されていないのである。

 一次決算資料におけるこうした欠陥を二次文献によって補いながら,JRグループの連結財務諸表を作成するのが本稿の課題である(一次決算資料と二次文献を一括して以下「決算資料等」という)。とはいえ,二次文献によって一次決算資料の欠陥を完全に補うことは不可能といってよい。したがって,本稿で実施する連結財務諸表の作成作業は,一定の仮定や見積を含んだ不完全なものとならざるをえない。しかし,先行研究によって本来的な意味での連結決算分析がほとんどなされていない状況のもとでは,そうした不完全な作業であってもJR連結決算分析の新しい可能性を示す一つの試みとはなりうるであろう。

 なお,以下では,連結財務諸表の作成に限定して作業を進めていく(注13)。決算データの理論的吟味は,当該作業に関連するかぎりにおいておこなう。また,データ作成の対象期間は,既述の9事業体によるJRグループ体制が存続した1987年度から1990年度までの4年間とする(注14)。完成した連結財務諸表にもとづくJR連結決算の時系列分析やその他の個別問題の分析は,今後の課題にしたいと思う。

 Ⅲ 連結財務諸表の作成(その1)——内部取引の相殺消去——

 (1) 基本事項の整理

連結財務諸表作成の手順 連結財務諸表は,連結企業集団を構成する各企業(いわゆる連結会社)の個別財務諸表に計上された金額を各勘定科目ごとに集計し,当該各集計金額から連結企業集団内の取引(いわゆる内部取引)にかかわる金額を相殺消去することによって作成される(図1参照)。

図1 連結財務諸表作成の手順

 個別財務諸表に計上された金額を各勘定科日ごとに集計するのはまったく機械的な作業であり,なんら特殊な操作を必要としない。これに対し,当該各集計金額から内部取引にかかわる金額を相殺消去するためには,内部取引情報にもとづいて相殺消去の対象となる項目と金額を確定し,各項目と各金額について修正記入をおこなう必要がある。

 以下,本節では,筆者の入手しえた決算資料等から内部取引情報を抽出し,当該各情報にもとづいて内部取引にかかわる項目と金額の相殺消去をおこなっていきたいと思う(注15)。

連結企業集団としてのJRグループの構成 現在,JR鉄道7社の発行株式は,すべて清算事業団が所有している。したがって,JRグループを一つの連結企業集団とみた場合,清算事業団は親会社,JR鉄道7社はその連結子会社ということになるのである。

 これに対し,保有機構は保有機構法にもとづいて設立された特殊法人であるが,同機構は設立にあたっていかなる組織体からも出資を受けていない。したがって,保有機構の貸借対照表には,資本金勘定ないしそれに類する勘定がまったく存在しないのである。ということは,すなわち,保有機構と清算事業団との間に資本関係(企業会計的な意味での支配従属関係)は存在しないということである。

 しかし,だからといって,保有機構を連結範囲から除外したのでは,旧国鉄決算とJR連結決算の比較・分析はまったく不可能となるであろう。企業会計的な意味での連結財務諸表を作成することが本稿の目的ではないので,ここでは経済的実質優先思考にもとづき,保有機構も連結企業集団としてのJRグループに含めて考えることにした。

 JR鉄道7社はいずれも清算事業団の100%子会社であり,また保有機構は資本金勘定等をもたない特殊法人なので,連結企業集団としてのJRグループに少数株主は存在しない。

 また,連結企業集団としてのJRグループの主たる事業活動は,JRグループの経済的実質からして,輸送事業(とりわけ鉄道輸送事業)とみるのが至当であろう。この場合,親会社である清算事業団は,一種の持株会社として位置づけられることになる。

 (2) 貸借対照表に関連する内部取引とその相殺消去

 まず,貸借対照表に関連する内部取引の相殺消去をおこなう。相殺消去されるべき項目の相互関係を,貸借対照表の様式にもとづいて図示すれば,図2のようになる。図中の数字(①,②,……)は,以下に示す相殺消去項目の整理番号に対応している。

図2 賃借対照表におけるおもな相殺消去項目の相互関係

① JR鉄道7社の資本金・資本準備金と清算事業団の関係会社株式

 既述のように,現在,JR鉄道7社の発行株式(919万株,評価額4,595億円)はすべて清算事業団によって保有されている。清算事業団はこの株式をJRグループの発足時(1987年4月1日)に取得したものとみなしてよいであろう。その当時,JR鉄道各社の貸借対照表には,利益準備金および剰余金は一切計上されていなかった。また,3島JRの貸借対照表資本の部に整理された経営安定基金はあとで述べるように,別途に相殺消去されるべき項目となる。

 以上のことから,JR鉄道7社の資本金および資本準備金と清算事業団の関係会社株式が相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。その差額はいわゆる連結調整額となる。各金額は,『国鉄改革に関する報告』所収の決算書類(JR鉄道各社の貸借対照表)から集計することができる。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである(金額の単位は億円,億円未満は四捨五入,以下同じ)。

(借)資本金     4,595  (貸)関係会社株式  4,595

   資本準備金  8,669     連結調整     8,669

   (JR鉄道7社)         (清算事業団)

 なお,貸方連結調整勘定(貸方投資消去差額)の発生原因は,手元の決算資料等から明らかにすることはできなかった。したがって,本稿では,当該勘定をそのまま連結貸借対照表に貸記することにした。

②保有機構の清算事業団借入金と清算事業団の保有機構貸付金

 JRグループの発足にともない,保有機構は新幹線鉄道施設を旧国鉄から再調達価額で引き継いだ。引継ぎ資産の簿価と再調達価額の差額は,保有機構の貸借対照表借方において調整繰延資産として整理されている。そして,保有機構の貸借対照表貸方には当該繰延資産と同額の清算事業団借入金が計上されている。つまり,保有機構は,新幹線鉄道施設簿価に相当する国鉄長期債務を継承したうえで,さらに,調整繰延資産に見合う金額の清算事業団借入金を別途負担しているのである(ただし,調整繰延資産の償却額と清算事業団借入金の償還額の相違から,1989年度以降,両勘定の残高には不一致が生じている)。

 他方,清算事業団の貸借対照表借方には,保有機構の清算事業団借入金と同額の保有機構貸付金が計上されている。このことは,当該貸付金が,保有機構の清算事業団借入金に対応する清算事業団の保有資産であることを示している。

 以上のことから,保有機構の清算事業団借入金と清算事業団の保有機構貸付金が相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。その金額は,『国鉄改革に関する報告』所収の決算書類(保有機構の「債務に関する計算書」および清算事業団の貸借対照表)から集計することができる。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)清算事業  28,572  (貸)保有機構  28,572
   団借入金           貸付金

   (保有機構)          (清算事業団)

③3島JRの経営安定基金資産と清算事業団の経営安定基金債務,3島JRの経営安定基金と清算事業団の欠損金

 3島JRには経営安定基金が設定されている。当該基金は,3島JR各社の貸借対照表資本の部に整理されている。そして,貸借対照表借方には当該基金と同額の経営安定基金資産が計上されている。経営安定基金資産の具体的内容は清算事業団債権である。

 他方,清算事業団の貸借対照表貸方においては,3島JRの清算事業団債権と同額の経営安定基金債務が計上されている。しかし,経営安定基金債務に対応する資産は清算事業団に存在せず,したがって,当該債務の負担はそれと同額の欠損金を清算事業団において追加的に生みだしているのである。

 以上のことから,3島JRの経営安定基金資産と清算事業団の経営安定基金債務,3島JRの経営安定基金と清算事業団の欠損金が,それぞれ相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。それらの金額は,『国鉄改革に関する報告』所収の決算書類(3島JRおよび清算事業団の貸借対照羨,清算事業団の「債務に関する計算書」)から集計することができる。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)経営安定  12,781  (貸)経営安定  12,781
   基金債務           基金資産

   (清算事業団)        (3島JR)

   経営安定  12,781     欠損金   12,781
   基金

   (3島JR)           (清算事業団)

 なお,1989年度から経営安定基金債務の償還が開始され,償還された資金は3島JRの自主運用資金として運用されている。したがって,同年度以降は,相殺消去される各金額は当該償還分だけ順次減少していくことになる。

④JR鉄道7社と清算事業団の間の短期金銭債権・債務

 JR鉄道7社と清算事業団の間には短期金銭債権・債務が存在する。これら債権・債務は典型的な内部取引項目である。その金額はすべて,JR鉄道各社の貸借対照表脚注において開示されている。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)短期金銭債務   4  (貸)短期金銭債権   4

   (清算事業団)        (JR鉄道7社)

   短期金銭債務  11     短期金銭債権  11

   (JR鉄道7社)         (清算事業団)

 本稿では,これら債権・債務を相殺消去の対象項目に加えたが,以上にみるように,その金額はいずれもきわめて些小である。したがって,重要性の見地から,これら債権・債務の相殺消去を省略することも可能であろう。

⑤決算資料等から抽出できなかった内部取引情報

 以上のほか,検討を要する重要な項目として,JR鉄道7社間の未収運賃および預り連絡運賃がある。あるJR関係者によれば,決算においてこれら運賃が相殺されるようになったのは1989年度以降のこととされている(注16)。ということは,逆にいえば,1987年度および1988年度の各決算においては,本来なら相殺されてしかるべき未収運賃および預り連絡運賃が相殺されず,そのままJR鉄道各社の貸借対照表に計上されていたということである。

 しかし,当該各運賃の金額はもちろん,その金額の見積りを可能にするような決算関連情報も,手元の決算資料等から抽出することはできなかったので,本稿では,当該各運賃の相殺消去を断念せざるをえなかった。

 (3) 損益計算督に関連する内部取引とその相殺消去

 つぎに,損益計算書に関連する内部取引の相殺消去をおこなう。相殺消去されるべき項目の相互関係を,損益計算書の様式にもとづいて図示すれば,図3のようになる。図中の数字(⑥,⑦……)は,以下に示す相殺消去項目の整理番号に対応している。

図3 損益計算書におけるおもな相殺消去項目の相互関係

⑥保有機構の事業資産貸付収入と本州JRの営業費

 保有機構は旧国鉄から継承した新幹線鉄道施設を本州JRに貸付け,当該各社から新幹線鉄道施設使用料を受取っている。保有機構の損益計算書では,当該受取使用料は事業資産貸付収入として整理されている。他方,本州JR各社の損益計算書では,当該支払使用料は営業費の一部として整理されている。

 以上のことから,保有機構の事業資産貸付収入と,当該貸付収入に相当する本州JRの営業費が相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。その金額は,『国鉄改革に関する報告』所収の決算書類(保有機構の損益計算書)から集計することができる。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)事業資産  7,098  (貸)営業費  7,098
   貸付収入

   (保有機構)         (本州JR)

⑦保有機構の支払利息と清算事業団の受取利息

 保有機構は,清算事業団借入金(上掲②参照)の負担から生じる利息を毎期,清算事業団に支払っている。他方,当該利息は,清算事業団においては,保有機構貸付金(上掲②参照)の保有から生じる受取利息として処理されている。

 以上のことから,清算事業団借入金利息に相当する保有機構の支払利息と,保有機構貸付金利息に相当する清算事業団の受取利息が相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。

 ところが,保有機構の損益計算書においても,清算事業団の損益計算書においても,当該支払利息ないし受取利息は独立項目として整理されていないので,いずれの損益計算書からもその金額を捕捉することはできない。

 そこで,清算事業団の「収入支出決算書」に記載された保有機構収入(すなわち保有機構から清算事業団に支払われた現金資金の総額)から,保有機構の「債務に関する計算書」に記載された清算事業団借入金の当期消滅額(すなわち借入元金の償還を意味する清算事業団の保有機構収入)を控除した金額を,便宜的に,保有機構の支払利息,清算事業団の受取利息とみなすことにした。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)受取利息  2,030  (貸)支払利息  2,030

   (清算事業団)       (保有機構)

⑧3島JRの経営安定基金運用収入と清算事業団の支払利息

 3島JRは,清算事業団債権(上掲③参照)の保有から生じる利息を毎期,清算事業団から受取っている。当該受取利息は,3島JR各社の損益計算書においては経営安定基金運用収入として整理されている。他方,清算事業団の損益計算書においては,当該利息は,経営安定基金債務(上掲③参照)の負担から生じる支払利息として処理されている。

 以上のことから,3島JRの経営安定基金運用収入と清算事業団の支払利息が相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。その金額は,『国鉄改革に関する報告』所収の決算書類(3島JRの損益計算書)から集計することができる。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)経営安定基金  933  (貸)支払利息  933
   運用収入

   (3島JR)             (清算事業団)

 なお,既述のように,1989年度から清算事業団債権の償還と当該償還資金の3島JRによる自主運用が開始されたために,3島JRが受取る清算事業団債権受取利息としての経営安定基金運用収入(したがって清算事業団が負担する経営安定基金債務支払利息)は,同年度以降,順次減少していくことになる。

⑨JR旅客6社の営業収益とJR貨物の営業費

 固有の線路施設をもたないJR貨物は事業運営に必要な線路施設をJR旅客各社から借受け,当該各社に線路使用料を支払っている。JR貨物の支払線路使用料は,同社の損益計算書においては営業費の一部として処理されている。他方,JR旅客6社の受取線路使用料は,当該各社の損益計算書においては営業収益の一部として処理されている。

 以上のことから,受取線路使用料に相当するJR旅客6社の営業収益と,支払線路使用料に相当するJR貨物の営業費が相殺消去されるべき項目となることが理解されるのである。

 ところが,線路使用料の金額に関する情報は,『国鉄改革に関する報告』においてはまったく開示されていない。

 そこで手元の二次文献を渉猟すると,ある文献に,1987年度の実績として,JR貨物の支払線路使用料は「〔同社における〕1,616億円の営業費のうち351億円で〔当該営業費の〕22%を占めてい」(注17)るという記述がなされていることがわかる。きわめて不十分な情報であるが,これ以上詳細な情報を他の二次文献から得ることはできなかったので,本稿では,JR貨物の支払線路使用料を推定するための便宜的基準として営業費の22%(より正確には21.72%)という比率を採用し,この比率にもとづいて各年度の当該使用料を算出することにした。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)営業収益  351  (借)営業費  351

   (JR旅客6社)       (JR貨物)

⑩JR鉄道7社の営業収益・営業費と清算事業団の経常費用・経常収益

 JR鉄道7社と清算事業団の間で若干の営業取引がおこなわれている。これらはいずれも典型的な内部取引である。その金額はすべて,JR鉄道各社の損益計算書脚注において開示されている。

 なお,当該営業取引にかかわる収益・費用は,JR鉄道7社の損益計算書においては営業収益・営業費として,清算事業団の損益計算書においては経常収益・経常費用として,それぞれ整理されている(なお清算事業団の損益計算書については後述参照)。

 1987年度の決算データにもとづきその相殺消去仕訳を示せば,以下のとおりである。

(借)営業収益   43   (貸)経常費用   43

   (JR鉄道7社)        (清算事業団)

   経常収益   362      営業費    362

   (清算事業団)        (JR鉄道7社)

 JRグループ間の営業取引にかかわって取得された棚卸資産等に未実現損益が含まれていれば,これを消去するための修正記入がさらに必要となる。しかし,手元の決算資料等から未実現損益に関する情報を抽出することはできなかったので,本稿では未実現損益の消去は断念せざるをえなかった。

 しかし,主たる営業活動(すなわち鉄道輸送事業)の特性からしてJRグループ内に未実現損益の発生する余地はきわめて小さいと考えられること,また,上掲の相殺消去仕訳にみるようにJRグループ間の営業取引高そのものが相対的に些小であることから,未実現損益の消去を断念したとしても,それによって大きな問題が生じることはないものと思われる。

⑪決算資料等から抽出できなかった内部取引情報

 JR鉄道7社と保有機構の間の営業取引等に関する情報,保有機構と清算事業団の間の営業取引等に関する情報,JR鉄道7社の間の営業取引等に関する情報,JR鉄道7社と清算事業団の間の短期金銭債権・債務にかかわる受取利息・支払利息に関する情報は,手元の決算資料等から抽出することはできなかった。したがって,本稿では,これら項目の相殺消去を断念せざるをえなかった。

 Ⅳ 連結財務諸表の作成(その2)——作業結果の提示——

 (1) 連結精算表の作成

 本節では,以上でおこなった内部取引の相殺消去作業をふまえながら,JRグループの連結財務諸表を作成していきたいと思う。まず手始めに,連結財務諸表の作成過程を総括的に示す連結精算表を作成する。

連結精算表の構成 表1は,1987年度の決算データにもとづいて作成した連結精算表である。

表1 JRグループの連結決算表(1987年度)

 表1の構成は以下のとおりである。まず「相殺消去前の金額」欄においてJRグループ9事業体の個別決算金額が各勘定科目ごとに集計され,つづいて,「相殺消去」欄において内部取引の相殺消去がおこなわれている。前節での相殺消去と表1での相殺消去の対応関係を明示するために,各相殺消去金額の左端に整理番号(①,②,……)を付した。この整理番号は,前節で使用した相殺消去項日の整理番号(①,②,……)に対応している。

 最後に,「相殺消去後の金額」欄において,内部取引の相殺消去後の金額が各勘定科目ごとに再集計されている。この再集計された各勘定金額がJR連結財務諸表の各勘定金額を表わすことになるのである。

個別決算金額の集計にかかわる若干の操作

 JRグループ9事業体の個別決算金額を表1に集計するにあたり,若干の操作(勘定科目の読み替え,組み替え,その他の操作)をおこなった。というのは,事業内容や法的形態等の相違を反映して財務諸表の勘定体系は事業体ごとにかなりの相違をみせており,個別決算金額を横断的に集計するためには,そうした勘定体系の相違をある程度調整(あるいは解消)しておく必要があったからである。個別決算金額を表1に集計するにあたっておこなった操作は,以下のとおりである。

 A 貸借対照表関係

(イ)保有機構の鉄道事業固定資産には,同機構の貸付事業資産のみを集計した。

(ロ)清算事業団は鉄道事業固定資産を一切所有しないものと仮定した。

(ハ)清算事業団の関係会社株式および保有機構貸付金は,投資等に一括して集計した。

(ニ)清算事業団の欠損金は借方に振替えた。

(ホ)表1の長期債務は,JR鉄道7社の社債および長期借入金,保有機構の債券および長期借入金,清算事業団の債券,長期借入金,経営安定基金債務および本州四国連絡橋公団債務の合計額である。

 B 損益計算書関係

(イ)JR鉄道7社の営業収益には全事業の営業収益の合計額を,同じく営業費には全事業の営業費の合計額を,それぞれ集計した。

(ロ)保有機構の営業収益には,同機構の事業資産貸付収入のみを集計した。

(ハ)保有機構の営業費には,同機構の一般管理費と事業資産減価償却費の合計額を集計した。

(ニ)保有機構の営業外収益には,同機構の受取利息と雑益の合計額を集計した。

(ホ)保有機構の営業外費用には,同機構の営業費に集計した費用(すなわち一般管理費および事業資産減価償却費)以外の経常費用を集計した。

(ヘ)清算事業団の経常収益はすべて営業外収益に,経常費用はすべて営業外費用にそれぞれ集計した。

清算事業団の損益計算書金額の集計操作について

 上掲のB(ヘ)の集計操作(すなわち清算事業団の損益計算書金額の集計操作)について,若干の補足的説明をしておきたいと思う。

 表2は,1987年度の『国鉄改革に関する報告』で開示された清算事業団の損益計算書である。ここにみられるように,清算事業団の収益・費用は一括して経常収益・経常費用として整理されている。しかし,その主たる内容は,資産売却損益,受取・支払利息等である(1988年度以降もその内容に大きな変化はない)。あらためて指摘するまでもなく,これら項目は,通常の営利企業の損益計算書においては,営業外収益・営業外費用として別途に整理されているものである。

表2 決算事業団の損益計算書(1987年度)

 他方,清算事業団法第1条第1項によれば,清算事業団は,「日本国有鉄道の長期借入金及び鉄道債券に係る債務〔……〕その他の債務の償還,日本国有鉄道の土地その他の資産の処分等を適切に行い,もって改革法に基づく施策の円滑な遂行に資することを目的とする」とされている。この規定は,継承債務の償還や継承資産の処分が清算事業団の主たる事業目的であることを明らかにしたものである。通常の営利企業の損益計算書においては営業外収益・営業外費用として別途に整理されるべき資産売却損益,受取・支払利息等が,清算事業団の損益計算書においては一括して経常収益・経常費用として整理されているのは,同事業団のかかる特殊な事業目的に由来するものと考えられる。

 とはいえ,既述のように,連結企業集団としてのJRグループの主たる事業活動は,輸送事業(とりわけ鉄道輸送事業)とみるのが至当であろう。そして,連結企業集団としてのJRグループの主たる事業活動が輸送事業だとすれば,清算事業団の資産売却損益,受取・支払利息等は,JR連結損益計算書においては営業外収益・営業外費用として別途に整理するのが適当であろう。

 表1の作成にあたり,上掲のB(ヘ)のような集計操作をおこなったのは,以上のような理由によるものである(注18)。

 (2) 旧国鉄決算とJR連結決算の比較分析表の作成

 以上の連結手続にもとづいて1987年度から1990年度までのJR連結財務諸表を作成し,その結果を一覧したのが表3である。あらためて繰り返すまでもなく,表3は手元の決算資料等から抽出しえた決算情報にもとづく作業結果を一覧したものである。したがってそこでは,基本的には,前節でみてきた内部取引項目だけが考慮されている(注19)。

表3 旧国鉄決算とJR連結決算の比較分析表

 旧国鉄決算とJR連結決算の比較・分析を実施するさいの基礎資料とするべく,表3ではさらに,国鉄改革前4年間(1983−1986年度)の旧国鉄決算データも集計した。

 旧国鉄決算においては,旧国鉄会計固有の特異な勘定体系が適用されていたことに加え,一般勘定と特定債務整理特別勘定の分離も実施されていた。そこで,JR連結決算との比較可能性を可能なかぎり確保するために,旧国鉄決算データの集計にあたっては,以下のような操作をおこなった。

 C 貸借対照表関係

(イ)流動資産には,流動資産と作業資産の合計額を集計した。

(ロ)固定資産には,固定資産と投資資産の合計額を集計した。

(ハ)鉄道事業固定資産には,有形固定資産を集計した。

(ニ)欠損金には,一般勘定貸借対照表繰越欠損金と特定債務整理特別勘定貸借対照表特定繰越欠損金の合計額を集計した。

(ホ)流動負債には,短期負債を集計した。

(ヘ)長期債務(および負債合計)には,一般勘定貸借対照表長期負債(および負債合計)と特定債務整理特別勘定貸借対照表長期負債の合計額を集計した。

(ト)資本準備金には,資本積立金を集計した。

 D 損益計算書関係

(イ)営業収益には,収入合計から助成金受入を控除した金額を集計した。

(ロ)営業費には,経費合計から,特定人件費,利子および債務取扱諸費,固定資産除却費,繰延資産除却費を控除した金額を集計した。

(ハ)営業外収益には,営業外収入,助成金受入,特定債務整理特別勘定損益計算書収入の合計額を集計した。

(ニ)営業外費用には,営業外経費,特定人件費,利子および債務取扱諸費,固定資産除却費,繰延資産除却費,特定債務整理特別勘定損益計算書経費の合計額を集計した。

 Ⅴ むすびにかえて

 以上によって,公表決算資料にもとづきJR連結財務諸表を作成するという本稿の目的はおおむね果たされたものと思われる。

 本稿では,公表決算資料にもとづくJR連結財務諸表の作成に焦点を合わせて作業を進めてきた。しかし,すでに明らかなように,その作業は同時に,JRグループ9事業体間の内部取引関係(より端的にいえば内部補助関係)を経営・財務制度の側面から照射するものでもあった。作業の最終生産物であるJR連結財務諸表だけでなく,作業の中間過程で明らかになったJRグループ9事業体間の内部取引関係の実態にも,さらに検討されるべき多くの問題点が含まれていたように思われる。

そうした問題点も含め,残された問題点の立ち入った検討は,今後の研究課題にしたいと思う。

[注]

1) 本稿では「事業体」という用語を,株式会社(JR鉄道7社)と特殊法人(保有機構および清算事業団)の総称として用いる。

2) 『国鉄改革に関する報告』は,国鉄改革法附則第4項の規定にもとづき,毎年度,政府が国会に提出しているものである。筆者の知るかぎり,同報告書は,JRグループ9事業体の決算関連資料(営業報告書,財務諸表,財務諸表脚注など)を網羅的に収録した唯一の公表決算資料である。本稿で「一次決算資料」といった場合,それはもっばら同報告書をさす。

 ただし,国鉄改革法附則第4項が『国鉄改革に関する報告』の提出を政府に義務づけているのは,「昭和62年度以降5箇年間の各年度」についてのみである。当該期間の経過後(すなわち1992年度以降),この義務規定がどう取り扱われるかは不明である。

 なお,参考までに付言しておけば,『国鉄改革に関する報告』に収録されたJR鉄道7社の財務諸表(決算書類)はすべて商法決算の様式に準拠している。これは,各鉄道会社が株式会社として設立されたことの当然の結果といえよう。

 『国鉄改革に関する報告』のほか,比較的入手しやすい決算関連資料として,『運輸白書』各年度版,『JRガゼット』各年7月号(JR決算特集),『財政金融統計月報』各年7月号(財政投融資特集)などがある。

3) 『朝日新聞』1989年3月29日付朝刊,「討論のひろば—国鉄改革から2年・JRの実績と課題」における伊東光晴氏(京都大学経済学部教授)の発言。所属・肩書は当時のもの。以下同じ。

 なお,本稿では,「旧国鉄」という用語を,もっぱら国鉄改革(分割・民営化)以前の「国鉄」をさす用語として用いている。

4) 同上記事における松田昌士氏(JR東日本常務取締役,総合企画本部長)の発言。

5) 上掲の伊東発言のほか,たとえば,立山学『JRの光と影』岩波新書,1989年,7ページ,67ページ;山口孝「JR初年度決算の分析」『明大商学論叢』第71巻第3・4号,1989年3月,30−34ページ;田中一昭,堀江正弘「民営化と規制緩和(上)」『公共選択の研究』第16号,1990年,78−80ページ,84ページなどを参照されたい。また,本稿の(注11)に掲げた諸文献もあわせて参照されたい。

6) 上掲の松田発言のほか,たとえば,「<特集>交通経営フォーラム・JNRからJRヘ—鉄道の経営革新」『運輸と経済』第48巻第4号,1988年4月,6ページにおける井手正敬氏(JR西日本代表取締役副社長)の発言;住田正二『鉄路に夢をのせて』東洋経済新報社,1992年,20−22ページなどを参照されたい。

7) 住田,前掲書,62ページ。

8) 事業体の制度的分割をともなうものではないが,この二つの分析アプローチを一つの会計システムにおいて統合しようとした先的試行例として,ドイツ連邦鉄道の区分会計(Trennungsrechnung)をあげるこができる。その詳細については,D.Haase,"Die Trennungsrechnung der DB als Basis für ein neues Eisenbahnverständnis",Die Bundesbahn, Mai 1983,S.311 ff.;秋山一郎「交通企業行動と交通政策—ドイツ連邦鉄道の区分会計をめぐって—」『国民経済雑誌』第154巻第3号,1986年9月,1ページ以下;拙稿「ドイツ連邦鉄道の区分会計に関する会計学的一考察」『商経学叢』第33巻第1号,1986年6月,85ページ以下などを参照されたい。

9) たとえば,JR東日本代表取締役社長の住田正二氏は,三光汽船に会社更正法が適用されたさい「債権大幅カット」の措置がとられたことを引合いに出しつつ,清算事業団の継承債務は「JRの責任範囲」からすでに完全に切り離されたものとしたうえで,「JRの決算は清算事業団決算と連結してみるべき」というのは「全く,おかしな論理展開だ」と力説しておられる(住田,前掲書,20−21ページ)。

 しかし,かかる見解は,①国民負担を最初から前提にしたJR鉄道7社の「債権大幅カット」と,そのような前提のない三光汽船の「債権大幅カット」をまったく同列に論じている点(しかも,JR鉄道7社の「債権大幅カット」にともなう国民負担はきわめて巨額であり,たとえば1987年度首の金額で計算すれば国民1人当りの負担額は約10万円となる),②「JRが利益をあげた分,〔清算〕事業団会計に繰り入れろという〔……〕暴論」(同上書,20ページ)と,JR連結決算分析の試み一般を無媒介的に結びつけている点において,やや説得力に欠けた見解であるといわなくてはならないであろう。

10) 三浦陽道『JR株式上場—国鉄民営化の成否を問う—』TBSブリタニカ,1989年,2ページ,72−78ページ。

11) たとえば,『運輸白書』各年度版;山口,前掲論文,2ページ以下;山内弘隆「国鉄改革と新しい鉄道政策」林敏彦編『公益事業と規制緩和』東洋経済新報社,1990年,296−298ページ;近藤禎夫,安藤陽『JRグループ—「民営化」に活路を求めた基幹鉄道−』大月書店,1990年,68ページ以下;舘澤貢次『総点検・JRという「株式会社」の真実』こう書房,1992年,156ペ—ジ以下;山口孝「国鉄,JRの経営・会計的術策」清水義汎編『交通政策と公共性』日本評論社,1992年,145ページ以下;近藤禎夫「JRの経営状況」清水編,同上書,176ページ以下などを参照されたい。

 以上のうち,『運輸白書』各年度版に収録されたJRグループの実態分析のなかに,個別問題に限定したものではあるが,各事業体間の内部取引の相殺消去をふまえた連結決算分析の類例を見いだすことができる(たとえば『運輸白書』1988年度版,228−231ページ)。

12) 公的機関がアドホックにおこなったJRグループの数少ない実態分析の事例として,総務庁行政監察局『旅客鉄道株式会社に対する監督行政監察結果報告書』1991年11月がある。しかし,同報告書も,本稿の(注11)に掲げた先行研究と同じく,基本的には,JRグループ9事業体の単独決算データをそのまま分析するという方法をとっており,したがって,その分析はやはり,本来的な意味でのJR連結決算分析とはいえないであろう。

 他方,最近のマスコミ報道によれば,運輸省は,国鉄改革から5年が経過したのを機に,鉄道各社,鉄道整備基金,清算事業団など各部門を合わせた決算をまとめ,公表したと伝えられている(『日本経済新聞』1992年10月21日付朝刊)。しかし,この運輸省資料は,本稿執筆現在,筆者未見の資料なので,当該資料の分析に対する評価は留保しておきたい。

13) 現在までの状況からして,JRグループの連結剰余金計算書を作成する意義は乏しい。したがって,本稿では,連結剰余金計算書の作成は省略することにした。

14) 周知のように,鉄道整備基金関連3法の成立(1991年4月19日)にともない,保有機構が保有していた新幹線鉄道施設が本州JR3社に売却されると同時に,保有機構は解散され,代わって鉄道整備基金が設立された(1991年10月1日)。この措置はJRグループの重大な再編を意味するものであり,当該再編後のJR連結財務諸表を作成するためには,それまでとはかなり異なった連結手続が必要となる。そこには別途に論じられるべき問題点も多く含まれているので,1991年度以降のJR連結財務諸表の作成は別稿での課題にしたいと思う。

15) 上掲の(注11)に掲げた先行研究のほか,国鉄再建監理委員会『国鉄改革—鉄道の未来を拓くために—』運輸振興協会,1985年;「JNRからJRへ(財務編)」『運輸と経済』第48巻第10号,1988年10月を参考にした。

16) 太田渾「平成元年度決算—上場への確かなステップ・JR西日本」『JRガゼット』No.40,1990年7月,16ページ。

17) 「日本貨物鉄道株式会社—インタビュー」『運輸と経済』第48巻第10号,1988年10月,56ページにおける中島啓雄氏(JR貨物常務取締役総合企画部長兼財務部長)の発言。

18) 清算事業団の経常収益・経常費用を,営業外収益・営業外費用ではなく,特別利益・特別損失として整理することも一つの可能性として考えられる。しかし,清算事業団は,清算事業団法で規定された事業活動を毎期継続的・反復的におこなっていることに留意しておく必要があろう。事実,清算事業団の損益計算書には特別損益の部が存在せず,収益・費用はすべて経常収益・経常費用として整理されているのである。以上の事情を勘案し,本稿では,同事業団の経常収益・経常費用の全額を営業外収益・営業外費用として整理した。

19) 既述のように,後年度になって,いくつかの新しい内部取引がつけ加わる。これにともない修正記入の若干の変更が必要になる。その一つの典型例が,清算事業団における経営安定基金債務の償還である。当該債務の償還にともない,3島JRでは償還資金の自主運用が開始され,経営安定基金運用収入には清算事業団債権受取利息以外の収入(収益)が計上されるようになる。ここで詳述する余裕はないが,表1および表3で経営安定基金運用収入を内容とする収益を「経営安定基金運用収益」として集計したのは,かかる事情と関連している。

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