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第5号

英国地方自治体における監査のプライベティゼーションとVFM監査※
林 考栄

林 考栄
(会計検査院第二局防衛検査第三課調査官補)

 1961年生まれ。86年会計検査院へ,上席調査官(農林水産担当)付,審議室などを経て,現職。

 Ⅰ はじめに

 英国では,1982年地方財政法により,地方自治体の外部監査制度の改革が行われた。この新しい自治体外部監査制度の根幹となった組織が,監査委員会(Audit Commission for Local Authorities in England and Wales(注1))である。この英国の地方自治体等(注2)を統一的に監査する監査委員会の創設において,監査のプライベティゼーション(privatization)が図られたこと,また,同時にVFM監査の研究およびその実施に力が入れられることとなったことは,英国地方自治体の外部監査制度改革の中でも,特に興味深いところである。

 本稿は,この英国地方自治体における監査のプライベティゼーションおよび監査委員会によるVFM監査研究を紹介するとともに,紹介した事実関係などについては,できる限りその出典ないしリファレンスを<注>として示すことにより,今後,この分野に関心を持たれた方の検索の便を図ることを目的としたものである。

 Ⅱ 地方自治体の外部監査制度の歴史的背景(注3)

 この1982年地方財政法によって英国地方自治体の外部監査制度に加えられた改革はかなり大幅なものであった。しかし,それは,従来からの制度を根本から無視してつくられたものでも,外国の制度を導入したものでもなく,英国の古くからの制度ないし社会的,歴史的背景に根付いたものである。この歴史的連続性について,Reginald Jonesは,「イングランド及びウェールズの地方自治監査についての法,すなわち……1982年地方財政法の法的な基盤は,永い法の歴史の産物である。」とし,「この分野の法の歴史的発展をある程度知ることによって,……現在の法制度を理解することが容易になる。」と述べている(注4)。また,この意義に加え,以下に紹介する監査のプライベティゼーションおよびVFM監査,広くは英国監査委員会を中心とする自治体外部監査制度が,直ちにわが国においても導入されるべきであるとの早計な主張ないし議論となることを避ける意味をも含めて(注5),英国地方自治体の外部監査制度の歴史的経緯について知る必要があると思われる。

 そこで本稿では,①英国自治体監査制度が救貧法の改正とともに,逐次その監査の範囲,権限を拡大してきたこと,②その後いくつかの変遷を経る中で,わが国の公認会計士に相当する勅許会計士が自治体監査の一部を担うようになったこと(すなわち,勅許会計士は自治体監査に対して半世紀以上に及ぶ経験を有していること),③さらにその後,自治体監査制度に対する見直しの気運の中で,レイフィールド委員会によって,それら監査制度を改めるべく答申がなされたこと,④レイフィールド委員会の答申を受けての議論の末,サッチャー首相による一連のサッチャリズム推進(注6)の一環として,1982年地方財政法が成立せしめられ,これに伴い英国地方自治体外部監査制度に大幅な変更が加えられ,委員会が自治体監査を担う中核的な存在として誕生し,現在に至っていること,などを中心に以下概観しておきたい。

 法律に基づく最初の英国自治体の調査制度として知られているのは,1430年頃の「都市の城壁構築資金徴収者に対する監査委員会(Commission for the hearing of the accounts of the collectors of money for the walling of a town)(注7)」であるが,自治体の監査に国の議会が関与したのは,1597年の救貧法(Poor Relief Act 1597)の施行からである。この頃,既に,貧民の救済は公的な仕事とみられていたが,この資金は救貧法により強制的に課税される固定資産税をもって充てられた。そこで,この公衆から強制的に徴収された税金が適切に救貧法の目的に従って使用されることを確保し,このことを納税者に報告する必要または要請が生じた。このような社会的な背景の下に1601年の改正救貧法(Poor Relief Act 1601)において治安判事(Justice of Peace)による監査を行うことによりその実効性を確保しようとした。すなわち,英国では,公衆から徴収した金銭を公的使途に使用した場合に,その金銭がいかに使用されたかを外部の手でチェックし,その使用が適正に行われたことを保証するという法的制度は,既に17世紀の初頭から導入されていたことになる。

 その後,1743年の救貧法(Poor Relief Act 1743)においては,教区委員(church-warden)および教区の民生委員(overseer)によって,会計担当者は会計帳簿の記入やその保管において,公正(just),適正(true),完全(perfect)に行うことを要求された。さらに,治安判事の前でその会計処理が正確であることを宣誓し,そして治安判事がその正確性を証明することが行われるようになった。

 18世紀を通して救貧法に基づく支出の増大によって,さらなる監査の関与,すなわち監査体制ないし権限の強化がもたらされた。1810年の法(Poor Rate Act 1810)は治安判事に「根拠のない支出を否認し,過大な支出を減額する(注8)」権限を与えた。しかし,こうした改正にもかかわらず,増大する支出を賄うための徴税額の増加に対する市民の不満を和らげることはできず,1832年には「救貧法調査委員会(Royal Commission of Inquiry into the Poor Law)」が設立された。この委員会は,J・ベンサム(Jeremy Bentham)が率い,その死亡後はE・チャドウィック(Edwin Chadwick)によって引き継がれた(注9)。

 そして,この救貧法調査委員会による報告書によって,1834年改正救貧法(The Poor Law Amendment Act 1834)がつくられ,従来,治安判事が担当してきた救貧法の施行の責任は,新たに設置された中央政府の一部局である「救貧法委員会(Poor Law Commissioners)(注10)」に移管されることになった。この改正法によって,自治体は救貧法の施行の監査を行うため「会計の監査を実施し,その記入(の正確性)を認め,あるいは否認する能力を有すると救貧法委員会が認められる有給の監査人(注11)」を任命することになった。こうして初めて自治体の監査専門家による職業的監査が行われることとなったが,監査人の選任,報償額の決定は監査される自治体に任されていた(注12)。

 その後,1844年改正救貧法(The Poor Law Amendment Act 1844)により,このような公的会計の監査を,「地区監査人(district auditor)」により行うという制度が創始された。地区監査人には「会計を監査し,帳簿に記載された事項を認め,もしくは否認し,また,会計係の故意,過失によって生じた不足額,損失額,もしくは,自治体の金庫に納入されなかった金額を当該責任者個人に請求する(注13)」権限が与えられた。しかし,この地区監査人による外部監査制度は救貧法によって規定され,救貧行政にのみ適用されたのであって,自治体の支出のすべてを対象にしていたわけではない。すなわち,当時の自治体の支出のほぼ半額は救貧法にかかるものではあった(注14)が,それ以外の支出,たとえば道路建設の支出(注15)については別の法律による監査が適用されていた。

 この地区監査人は,1868年改正救貧法(The Poor Law Amendment Act 1868)以後はその任命権を中央政府が有する国家公務員,すなわち「地区監査官(district auditor)(注16)」となり,以後1983年初頭まで継承された。

 救貧法による支出の監査に始まった地方の公的会計に対する地区監査官による外部監査制度は,1870年代以降,地方行政事務の拡大に伴い,次第にその監査対象の範囲を拡大してきた。19世紀の末までには道路建設,医療,教育といった諸分野がそこに含まれるようになり,また,初等教育法(Elementary Education Act 1870)の規定によりつくられた各地方の教育委員会(school boards),公衆衛生法(Public Health Act 1872(注17))によって各都市および農村部に設けられた公衆衛生局(sanitary authorities)などの,純然たる自治体以外の組織も地区監査官の監査の対象に含められるようになった(注18)。

 一方,1933年には,勅許会計士協会(Institute of Chartered Accountants: 1844創立)の会員である職業会計人の勅許会計士(C. A. = Chartered Accountant)が,公認監査人(approved auditor)として地区監査官の仕事の一部を担うようになった。すなわち,1933年地方自治法(Local Government Act 1933)では特権都市(Borough)の監査人に地区監査官か勅許会計士のいずれかを選任することを認めた。しかし,勅許会計士である公認監査人には,地区監査制度の中心をなす支出の承認,否認の権限は認められていなかった。また,前述のようにそれまで支出の根拠となる法律に個別に定められていた外部監査制度を,若干の修正を加え統合して一本化した。この法律による制度は若干の変更を伴いながらも,その基本的な制度は約40年間続いた。

 1972年には地方自治法の改正(Local Government Act 1972)が行われ,1974年から施行された。この法律により,従来地区監査官がもっていた違反支出の認定とその返還を支出責任者に求める権限は裁判所に移ることとなった。また,従来特権都市にのみ認められていた地区監査官か公認監査人のいずれかを選任する制度はその他の自治体にまで拡大された。

 上述の監査制度は,再び1976年に「地方自治体財政調査委員会=レイフィールド委員会(Layfield Committee of Inquiry into Local Government Finance)」によって見直された。レイフィールド委員会はその調査報告書(注19)を公表し,この中で次のように述べた。

「いかなる公的な団体もその監査人を自ら選任できる地位にあることは原理的に誤っている。」(注20)
「監査人はVFM(value for money)監査の役割に対して特別の注意を払うこと。」(注21)

 この報告を受け,間もなく下院の支出委員会(House of Commons Expenditure Committee)の委員からなる組織(the organisation of audit service)で監査制度変革に向けての議論が行われた(注22)。その中で,自治体監査を会計検査院(NAO = National Audit Office)の管轄とする案も検討されたが,この案は地方自治体に対する中央政府の過剰な介入を招き,地方自治体の憲法上の地位または地方自治の本旨に反するものとして退けられた。そして,さまざまな議論の結果,自治体の監査は,「1982年地方財政法(Local Government Finance Act 1982)」第3章(Part Ⅲ)の規定によって行われることとなった。ちなみに,内部監査は財政担当部長が,予算管理とともに会計監査をも実施しており,この点の変更はない。

 以上のような歴史の変遷を経て,1982年地方財政法が誕生した。この法律による主な改正点は次のとおりである(注23)。

① 地方自治体の外部監査を担う新たな組織として,監査委員会を創設したこと(注24)

② 監査委員会においてVFMに関する研究を行うことにするなど,自治体監査業務の充実を図ったこと

③ 1972年地方自治法では,自治体監査を実際に行う者を「地区監査官」および「公認監査人」の二本建てとしていたものを,「監査人(auditor)」として一元化したこと

④ 立法の主旨が,監査人中に民間監査人の占める比率を引き上げることを企図したこと(条文に明示されているわけではない。詳しくは後述する。)

⑤ 1972年地方自治法当時は,地区監査官による監査を受ける場合は環境大臣(注25)が任命し,公認監査人の場合は各自治体が任命していたものを,監査人の任命は監査委員会が一元的に行うものとしたこと

⑥ 1972年地方自治法当時は,各自治体は,地区監査官による監査を受けた場合には一定額の監査手数料を環境大臣に支払っていたのに対し,公認監査人の監査を受けた場合は当該公認監査人に直接支払っていたが,監査を行う者が一様に「監査人」として一元化されたことに伴い,監査手数料の支払先も監査委員会に一元化されたこと

⑦ 監査の実施範囲を拡大し,VFM監査を含むものとしたこと(詳しくは後述する。)

⑧ 監査を実施するに当たって,監査人が採用すべき基準,手続き及び手法に関し最善と認められるものを具体化した「監査実施コード(注26)」に関する規定を法文中に設けたこと

⑧ 監査報告書中に,「監査証明(監査を法令の規定に従って完了したという証明)」のほか,「監査意見(注27)」を記載することとしたこと

 以上のことから分かるように,1982年地方財政法(以下,「法」または「新法」という)では監査委員会の創設による外部監査制度の大幅な改革が行われた。

 Ⅲ 監査のプライベティゼーション

 1 監査人の任命

 前章でも少し触れたとおり,1972年地方自治法当時は,監査人は地区監査官と公認監査人との二本建てになっており,各自治体は地区監査官による監査を受けるか,または,自ら任命する「公認監査人(approved auditor)」による監査を受けるかを選択することができたので,地区監査官の場合には環境大臣が任命したが,公認監査人の場合には,当該自治体が選定し環境大臣の承認を得た上で,正式に任命するという形をとっていた。監査の実施手続ないし手順においては,地区監査官と公認監査人の間に相違はなかったが,それぞれの有する法的権限は相当な差異があった。すなわち,公認監査人には,地区監査官の場合と異なり,監査の途中で違法な支出等を発見したときに裁判所に宣告を求める権限,さらに自治体の蒙った損失等につき賠償を求めるための認証をする権限が付与されておらず,公認監査人が違法な支出等を発見した場合には,その旨を環境大臣へ報告し,環境大臣が地区監査官による特別監査を行うべきかどうかの検討を求めるにとどまっていた。このため,公認監査人に対しては,住民(選挙人)は自治体の会計につき直接に異議を申し立てることができなかった。このような法的な制度からみても明らかなように,1972年地方自治法の下では地区監査官が外部監査を実施する中軸となり,公認監査人はこれを補佐する立場でしかなかった(注28)。

 さて,新法の下での監査人のうち,元地区監査官である「監査官(officer)」は監査委員会の職員であり,その他の者は監査委員会から監査対象自治体ごとに任命されるが,いずれの監査人もいったん任命されれば,監査業務の遂行は,自己の職業的責任において行い,当該自治体から独立した立場を保持することは当然のこと,監査委員会およびその幹部職員からも独立してその任務を遂行する(注29)。

 なお,上述のように監査官とそれ以外の民間の監査人ではその権限・任務においてほとんど異なることはないが,監査委員会は,会計上問題のありそうな自治体には監査官を充て,問題のなさそうな自治体に民間の監査人を充てる傾向が強いといわれる。これは,監査官の方が,一般的に自治体の会計監査に熟練をしていると見られるからである。これに対する自治体側の反応は,その党派にかかわらず,監査人を変えたがらず,従来地区監査官の監査を受けていた自治体は民間の監査人の任命に抵抗する傾向が強いといわれている(注30)。

 これは,被監査団体としては監査人を代えたがらない一般的傾向によるものと考えられる。すなわち,被監査団体は従来からの監査人の監査手法・観点については予測がつき,事前に備えることができるのに対し,新しい監査人の場合は予測は困難であり,その監査に備えることができず,従前とは異なった監査手法・観点により新たな改善意見がなされたり,ともすれば不正の発覚につながることを危惧するためであると思われる。

 2 監査のプライベティゼーション

 新法による英国地方自治体外部監査制度の改革において企図したであろうことの一つとして,公共団体の監査の実施において民間の活力,能力の導入を図ることが挙げられる。いわゆる,監査のプライベティゼーションである。

 この監査のプライベティゼーションは,①監査機構のプライベティゼーション,②民間監査人の活用の拡大の大きく2つの観点からみることができる。

 ① まず,第一に監査機構それ自体のプライベティゼーションである。新法が施行されるまで1972年地方自治法当時における地方自治体の外部監査制度を担う中心的な組織は環境省(Department of Environment)であった(権限の点からみれば環境大臣ということになる)。監査人の選定,任命や規則制定権のほか自治体監査に関して多くの権限を環境大臣が有していた。また,その実施面においても,監査の大部分は環境省に所属する国家公務員である地区監査官によって行われていた。このような点から,1972年地方自治法下における自治体の外部監査は,基本的には国の業務であったとみることができる。

 ところが新法により,自治体の外部監査に関する業務を統一的に処理する組織として広義での民間団体である(注31)監査委員会が設立され,監査人の選任など監査に関する業務を担うようになった。実際の監査の実施においても,従来のような国家公務員である地区監査官ではなく,監査委員会の職員である監査官や民間監査人など,広い意味での,すなわち公務員ではないという意味での民間人によってすべて行われている。このような観点からすると,監査機構ないし組織においてプライベティゼーションが図られたことになる。

 なお,監査委員会は純然たる私的な法人ではなく,前述のように環境大臣により全般的監督を受けること,さらに国会および会計検査院(NAO = National Audit Office)が関与している点で,わが国の特殊法人に類した公的機関であると考えられることから,監査機構ないし組織が「完全に民営化された」とするのは表現上必ずしも正確ではない。

 ②第二に,実質的な意味における民間の監査人の活用の拡大を図ったことである。これは,従来の公認監査人の制度を廃止したものの(注32),これに代わりわが国の公認会計士に相当する民間監査人を監査官と同様に「監査人」として一元化して登用し,その上で「監査人」中に占める民間監査人の比率を高めるという形で行われた(注33)。

 1972年地方自治法当時は,監査の約85%は地区監査官が行い,公認監査人が残りの15%を行っていたのにすぎないのに対し,新法の下では,監査委員会は当面,民間監査人による監査の比率を30%にまで引き上げることを目途とし,実績では,その正確な割合は公表されていないようだが,監査委員会が発足して間もない1983,84年度において,456の基本的地方自治団体のうち,338の自治体が監査委員会の監査官による監査,115の自治体が民間会計士による監査,残りの3の自治体が監査官と民間会計士との共同監査をそれぞれ受けており,単純計算では,民間会計士が25%以上占めていることになる(注34)。

 Ⅳ 監査委員会によるVFM監査

 1 監査の観点ないし範囲

 監査人が監査を実施するに当たって留意しなければならない事項ないし監査の観点は広範に及ぶ。監査人は,監査を行うに当たり,①会計帳簿が環境大臣によって定められる会計規則に従って作成され,かつ,会計に関するほかのすべての法規条項が定めるところに適合していること,②会計帳簿の作成において適切な実務が守られていること,および③会計の監査を受ける自治体が諸資源の使用に際して,経済性,効率性および有効性(economy, efficiency and effectiveness)を確保するべく適切な手段を講じていることの3点について,実地調査その他の手段によって,確証を得なければならない(法15条<1>)。会計検査で言えば,上記の監査のうち,①は合規性の観点からの検査,②は正確性の観点からの検査といわれるものに,ほぼ相当するものであると思われる(注35)。ここで特に注目されるのは③の「3E」すなわち「VFM」といわれる監査である。1972年地方自治法では,①の合規性監査および②の正確性監査を定める規定はあったが,VFM監査については,新法により初めて法律上明文化されたものである。また,監査委員会は,自治体の提供するサービスの経済性,効率性,有効性の改善についての勧告をなすための研究を独自に行うことになっている(法26条<1>)。

 以下,このVFM監査に焦点をしぼって紹介したい。

 2 VFM監査の内容

 VFMとは,"Value for Money"の各頭文字をとったものである。これを通常「支出に見合う価値」あるいは「支出に見合う対価」と訳しているようであるが,より具体的には"Economy, Efficiency, Effectiveness"を意味することから,その各頭文字をとって「3E(three Es)」とするのが,わが国の会計検査では一般的である。

 さて,この経済性,効率性および有効性を監査委員会はどのようにとらえているかを,新法に基づき制定された「監査実施コード」における定義においてみてみると次のとおりである。

経済性とは,人的,物的諸資源の適切な量および品質のものを最小の価格で調達することを示す。
効率性とは,産出される財貨またはサービスとそれらを産出するために要する諸資源との関係で測定される。効率的運営とは,一定の資源の投入に対して最大の産出を得ること,すなわち,あるインプットから最大のアウトプットを得ることを意味する(注36)。
有効性とは,一定の施策または活動が所期の目標あるいは意図された効果を十分に達成することを意味する。したがって,有効性は,達成すべき目標または効果が事前に設定されていなければ,評価され得ない。

 さらに,監査実施コード41〜45条では,「VFMに関する監査人の責任(Responsibility of auditor in relation to value for money)」と題して,つぎの4つの項目を置き,監査人はこの監査委員会の基本理念に徹底して忠実であることを要求されている。

 (1) 経済性,効率性および有効性が達成されるか否かは,資源の使用についての計画(planning),評価(appraisal),授権ないし承認(authorization)及び管理・統制(control)について,適切な制度が確立されているかどうかにかかっている。これらの制度を確立し,それが適切に働くことを確保するのは,自治体管理者の責務である。監査人の責任は,その制度が整備され,適切に運用されているかどうかを独立した立場から確認・検証することである。

 (2) 自治体の中には,特定のサービスまたは事業活動に関して,経済性,効率性および有効性を確保するための制度を確立しているところがある。監査人は,それらの成功事例を当該自治体の他の部門へも応用することができないかを検討すべきである。監査人は,監査委員会,自治体の議員または幹部職員から入手した手がかりとなる情報から判断して,問題あるいは改善の余地がありそうなサービスまたは制度に優先的に取り組むべきである。監査人は,優先的に取り組む分野を検討する際には,例えば,次のような事項について自治体その他での成功事例に特に留意しなければならない。

a 収入,資本支出,資本収入を計画,予算化し,管理・統制する制度および希少資源の配分方法。

b 人員水準の決定およびその見直しの方法ならびに職員の補充採用,訓練,報償その他の動機付けなどを含む人的管理。

c 自治体のすべての資産の適切な管理に関する方法。この資産とは,土地および建物(その取得,維持,開発および処分に関する制度の妥当性。),設備,資金ならびにエネルギーをいう。

d 特に財貨,サービスの調達に関し,規模,熟練による利益を得るための方法。

e 自治体の実施すべき多様な業務を遂行するに当たって,経済性,効率性,有効性を改善するために率先的に行われた事例。

f 責任,権限および会計責任(accountability)の適当な成文化(codification)。

g 優れた成果を奨励し,適当でない業務の遂行を是正するために前もって定めた目的および基準に照らし,その実績を監視する。

 (3)政策の是非を論ずるのは監査人の任務(function)ではないが,決定された政策の実施結果を検討することおよび政策決定に至るまでの手順を検証することは,いずれも監査人の責任(responsibility)である。そのため,監査人は,例えば,つぎのような事項について検討すべきである(注37)。

a 適正な権限を有する者によって政策目的が定められ,政策が決定されたか。

b 政策目的がどの程度まで十分で,信頼できる財務上およびその他の資料に基づき設定され,政策が決定されたか。また,それに至る重要な前提条件は明確に示されているか。

c 代替案を定め,選択し,かつ,評価することを含めて,代替案を十分に検討する手順がとられたか。

d 決定した政策の目的および目標が明確に示されているか。その政策の実行のために行われる二次的決定は決定した政策の目的および目標と一致しているか。それらの決定は,その段階での適正な権限に基づいてなされているか。政策に基づく職員に対する指示が,決定した政策の目標および内容と矛盾していることはないか。また,これらの職員により明確に理解されているか。

e 他の政策の目標および目的との間に矛盾はないか,また,今後矛盾が生じないか。同様に,それを実行するために選択した手段との間においても矛盾はないか,将来矛盾は生じないか。

f サービス水準を変えた場合のコストとの比較・検討を行っているか。また,コストの変化に伴い,随時,これらの比較・検討を行っているか。

 (4)資源の使用に当たり,経済性,効率性および有効性を適切に確保するための制度が適当なものかどうかを検討する際に,監査人は,この制度が当該自治体以外に悪影響を与えた場合には,その影響についても考慮しなければならない。

 3 VFM監査の実績

 監査委員会は,VFM監査を特に重要視しており,これに資するための研究にも相当に力を入れている。

 監査委員会は,1983年11月に,「地方行政における,経済性,効率性及び有効性の改良(Improving Economy, Efficiency and Effectiveness in Local Government in England and Wales)」と題する150頁の報告書を作成し,全自治体に配布している(注38)。また,監査委員会が解決を必要とすると認めた主要なVFM監査の問題を明示した「自治体の横顔(Authority Profile)」を各自治体が入手できるようにしている。これは,比較可能な統計値および趨勢情報を要約したものであり,監査の過程で調査される主要なVFM監査に,関係自治体の注意を喚起するためのものである(注39)。

 また,監査委員会は,中央の監査委員会内におかれた研究チーム(special study teamまたはproject team)によってなされたVFM監査に関する特別研究(special studies)の報告を受け,その中から当年度の重点(flavour of the year)とされるいくつかのプロジェクトを毎年設定している。そして,監査委員会は,監査対象自治体に対するVFMの改善増進を助長することを目的に,各監査人に対し,特別に編集した特別研究ないしプロジェクトに関するガイドブック(the Audit Guide)を配布し,さらにこれに追加する具体的資料を随時配布している。各自治体の監査において各監査人は,年度の重点とされたプロジェクトのうちのいくつかのものを取り上げ,監査に臨むことが期待されている(注40)。

 各年度に重点とされた主要プロジェクトは,1983-84年度が「後続教育(Further education)」,「ごみ収集(Refuse collection)」および「物品購入(Purchasing)」の3項目,1984-85年度では,「中等学校における非授業コスト(Non-teaching cost in secondary schools)」,「車両管理(Vehicle fleet management)」,「老年者に対する社会的サービス(Social services for the elderly)」,1985-86年度では,「資金管理(Cash management)」,「公営住宅の管理(Housing management)」などであった(注41)。

 なお,このVFMの研究から得られた成果を監査委員会は全自治体に対して公表することによって,各自治体が自らその研究成果に基づいて改善を図ることを期待する。その後,実際に監査が行われ当該自治体が委員会の行った研究成果を取り入れずVFMに関して適切な措置が講じられていないと判断したときには,各監査人によって具体的な改善指示が行われるが,この場合にもVFMの実際の改善は,各自治体の固有の権限により行われる。したがって,監査委員会によって自治体からの監査手数料を財源として行われるVFMに関する研究ないしVFM監査の直接の財政的な見返りは,各自治体が受けることとなる。監査委員会は,毎年受領する監査手数料の少なくとも10倍の改善成果を得られるようなプロジェクトと取り組むよう全監査人に目標を設定している(注42)。

 4 研究の成果

 以上のような監査委員会の研究の結果に基づき,各自治体内において検討を行うほか,各監査人が監査の際に自治体に指導を行い改善が図られている。下表は,監査委員会が行った種々の研究に基づいて行われた改善による費用の節減効果(節減額)である(注43)。

£m: million pound
研究年度 節減可能額
£m
節減達成額
£m
節減達成率
1983 142 85 60
1984 163 70 43
1985 176 71 40
1986 197 47 24
1987 46 6 13

(注)研究年度:VFMに関する研究報告が公表され,実施に移された年度。一年間におよそ,3〜4つのテーマについて,研究報告がなされる。

節減可能額:その年度に報告された各研究を通して,監査委員会によって確認された節減可能額の合計。

節減達成額:確認された節減可能額のうち,1989年3月現在までに各自治体において実際に節減が図られた額。

節減達成率:節減可能額のうち,実際に節減が達成された割合(%)。節減達成額÷節減可能額×100(小数点以下四捨五入)。

 表から分かるように,研究によって得られた結論に基づいて各自治体によって図られた節減額は相当な額に上り,監査委員会の行った研究は相当な成果を上げているといってよい。このVFMに関する研究のみをとっても英国監査委員会の果たす役割は極めて大きいということができるであろう。

 Ⅴ 若干の評釈

 1 監査委員会によるVFM監査について

 まず,監査委員会の行うVFM監査の研究は,わが国の自治体施策に対する3Eの観点からの諸研究を行う際の参考とすべき点が多いと思われる。地方自治法の一部を改正する法律が施行され,機関委任事務を含め一般行政事務についても監査を行うことができることとなった(地方自治法199条2項)ことに伴い,行政監査の実施に当たっては事務の執行が,(1)最小の経費で最大の効果を挙げているかどうか,(2)組織および運営の合理化に努めているかどうかに特に意を用いなければならないと明記される(地方自治法施行令140条の6)など,わが国の自治体においてもVFMの観点からの監査が一層要求されることとなった。自治体施策に関する効率性論議は,わが国においてもなされてきているが,あまり実証的かつ具体的なものとなっていない感はぬぐえない。これに対して,英国の監査委員会によってなされる研究は,その分析手法は格段高度なものではなく,また,分析によって導き出された結論ないし改革案も画期的なものとはいえないかもしれないが,それらはすべて膨大かつ詳細なデータに裏付けられた実証的なものであり,導かれた結論の信憑性は極めて高いものとなっている。監査委員会のVFM監査の研究手法は,今後,わが国が自治体施策に対する3Eの観点からの検討を推し進めていく際に,一つの指標を与えてくれるものと考える。

 さらに,英国における監査委員会の存在および監査委員会を中核とする自治体外部監査制度は,わが国の自治体監査制度を考える上で,極めて重要な参考となるものと思われる。わが国においては,監査委員会のように統一的に全国の自治体を監査する組織および制度が存在しないことはいうまでもないが,監査委員による監査を実質的に内部監査であるとみるとき(注44),自治体の外部監査制度自体が確立されていないのが現状であり,自治体監査制度についてさまざまな議論がなされている(注45)。このような状況において,監査委員会を中核とする英国自治体監査制度およびそのVFM監査に関する取り組み方は,わが国の自治体監査において,極めて重要な参考となるものであると考えられる。

 また,監査委員会の公表している研究報告書の中で,頻繁に主張されていることは,自治体における費用対効果の観念の欠如ないし希薄さであり,その是正を図ろうとしている点は注目すべき点である。

 プライベート・セクターに比べ,パブリック・セクターにおいて費用対効果の観念が希薄であることは従前から指摘されているところであるが,この要因の一つとしてパブリック・セクターには競争原理が働かないことが挙げられている。監査委員会は,この競争原理の不在に着目し,常に民間委託した場合との費用の比較を行うよう勧告している。このことにより,パブリック・セクターにもある種の競争原理が働き,費用対効果の検討が行われ,もって費用の節減が図れることになる。民間委託した場合との費用比較を行うことによる競争原理の導入は,公会計に携わるものにとって,大きな示唆を与えるものであると思われる。

 また,研究報告書のなかで強調されていることの一つに,車両などの物品の部門間および自治体間での相互利用がある。日本においても,「縦割り行政」または「セクショナリズム」により,効率的な行政活動が阻害されているとの指摘がなされているが,英国自治体を統一的に監査する監査委員会によって,いわゆる横の連携を勧告したことは,極めて意義深いことであり,ここに監査の一つの目的ないし存在意義が示唆されている気がする(注46)。

 2 監査のプライベティゼーションとVFM監査

 前述のように英国においては監査のプライベティゼーションの増進とVFM監査の研究・実施の促進は,新法の制定により同時に行われたものである。このことからもうかがえるようにプライベティゼーションとVFM監査は決して無関係なものではない。わが国の公会計監査においても,企業会計監査の理論や基準を公会計に適用し,とかく費用対効果の観念の薄い公会計を改善すべきだとの議論ないし主張もしばしば見受けられる。

 しかし,監査のプライベティゼーションとVFM監査は必ずしも連伴するものでもない。換言すれば,監査のプライベティゼーションはVFM監査を充実させるために,必要不可欠のものではない。わが国について考えてみると,それは一層明らかである。すなわち,わが国の広く会計の監査において,VFM監査に最も力を入れ,成果を上げているのは,国の会計の監査を行う会計検査院であり,プライベティゼーションを行うものとして当面考えられる公認会計士は,企業監査において,VFMの観点からの監査は必ずしも要求されておらず(注47),その実務的ノウハウも十分には有していないのが現状である。すなわち,私企業において,売上が財貨またはサービスの提供目標に対する有効性の指標であり,費用は,提供し得る財貨またはサービスの獲得についての経済性の指標であると同時に,その獲得のために消費された資源についての効率性の指標であるとみるとき(注48),公認会計士はその企業の財務諸表監査を行うことによってVFMに関する責任を形式上解除されることになる。換言すれば,企業におけるVFMはその企業の日常業務の中で,いわば企業の自助努力として図られているものであり,直接には公認会計士の監査の役割とされていないことに注目すべきである。それに対し,公会計を国の公務員である調査官等が検査を行っている会計検査院では,従来よりVFMに関する研究およびおよそそれらの観点からの検査も従来より行っている(注49)ことはもとより,近年ではそれらの観点に加え公平性(Equity)の観点をも含め4Eといわれるまでに発展している(注50)。

 わが国においては,自治体の外部監査制度が存在せず,また,VFMの観点からの監査も十分なものとなっておらず,英国自治体の外部監査制度は非常に参考になるものと思われることは前述のとおりであるが,その際,英国との諸般の事情の差異に留意し,VFMの観点からの監査の充実ないし増強を直ちに監査のプライベティゼーションと結び付けて考えることは,避けねばならないと考える。

※本稿は,私が東京大学法学部での研修中(1990年4月〜91年3月)に執筆したレポート『英国地方自治体の外部監査制度−監査委員会とそのVFM監査−』(既に大学研修時の指導教官であった西尾勝教授のご好意により,同教授が代表を務めておられる東京大学都市行政研究会の研究叢書3として1991年9月に公表されている)から,主として監査のプライベティゼーションおよび監査委員会によるVFM監査研究に関する部分のみを誌面の都合等から抜粋し,それに若干の加除訂正を行って再録したものである。本稿を執筆する際に参照した資料は,おおむね1987年以前に刊行されたものであり,現在の姿を必ずしも正確に表してはいないのではないかと危惧し,本稿を読んで下さった方々から,ご批判,ご指導を賜りたくお願い申し上げる次第である。

 なお,この誌面をかりて,大学研修期間中,ともすると怠惰になりがちな私に対して,懇切にご指導下さった西尾勝教授に敬意を表するとともに,深謝申し上げたい。

注:

(1)この名称が示すとおり,1982年地方財政法が適用され監査委員会が所管するのは,イングランドおよびウェールズであるが,本稿では便宜上一律に「英国」として述べる。

(2)監査委員会が監査の対象としているものには,純然たる地方自治体のほか,その関連団体を含むが,これらについては以下総称して単に「自治体」または「地方自治体」という。

 なお,監査の対象となる機関として,1982年地方財政法12条<2>は次のものを挙げている。

(a)地方自治体,(b)独立した議会をもたない教区の教区集会(a parish meeting),(c)地方自治体の委員会(2以上の自治体の共同委員会を含む),(d)シシリー諸島の議会(the Council of the Isles of Scilly),(e)1972地方自治法の規定によって設立されたチャーター・トラスティーズ(charter trustees)※,(f)港湾検疫機構(a port health authority),(g)共同警察機構(a combined police authority),(h)共同消防機構(a fire authority constituted by a combination scheme),(i)免許計画委員会(a licencing planning committee),(j)下水局(an internal drainage board),(k)児童地域計画委員会(a childrens regional planning committee),(l)保護観察委員会(a probation committee)。

 以上のほか,1982年地方財政法32条<1>において,旅客運輸公社(Passenger Transport Executive)に対しても監査が及ぶとしている。

 また,具体的に,監査委員会の対象とする機関の数は以下のとおりである。大ロンドン都(GLC: Greater London Council)及びロンドンの32の特別区(London Borough Council),89のカウンティ及び都市圏域のディストリクト(Metropolitan District),333の非都市圏域のディストリクト(Non-Metropolitan District),7つの旅客輸送公社(Passenger Transport Executive),8,000の町区(Town)と教区(Parish),250の下水局(Internal Drainage Board),140のその他の地方政府団体(Local Government Body)John J. Glynn, Value for Money Auditing in the Public Sector, London, Prentice Hall, 1985, p.160。

 ※charter trustee: 1972年地方自治法246条に基づき,以前1つのcityやboroughであった地域がdistrictに吸収され,その地域はboroughとしての地位に加えparishとしての資格も与えられなかったため,自治体としての活動ができなくなった。そこで,1972年法はその地域に歴史的儀式や習慣などを行うにつき独自の会計をもつことを許可した。この地域を"charter trustee"という。Reginald Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, London, Her Majestys Stationery Office, 1985, p.24。

3)地方自治体の外部監査制度の歴史的発展に関する叙述は,ほぼ全面的に,上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, pp.1〜19によった。正確かつ詳細には,同書を参照されたい。

4)上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.1。

5)なお,この点に関して,宗岡徹氏が論文「21世紀の公会計と公認会計士」(『第11回日本公認会計士協会研究大会研究発表論文集』〔日本公認会計士協会〕)の中で,英国および米国で自治体監査に公認会計士が参画することが制度化されたことについて触れ,「これらの制度改革は,それまで行われてきた,公認会計士や勅許会計士の監査を整理したり,内容を変更したりしたものであり,制度が導入されてから行われたものではない。先人たちの長い努力が制度として集約されたもので」あるとし,わが国とは,「地方自治の歴史的背景や,監査に対する考え方に基本的な差異があり,諸外国で行われているから,我が国でも行うべきだという短絡的な思考をするつもりはない。」としているのは全く同趣旨である。

6)サッチャー首相は労働党政権下での諸政策の変革を強力に推進した。具体的には,福祉政策の変更による公共支出の削減,減税,企業家と民間の自由な活動の重視,労働規制,マネタリズムの重視,国有企業などの民営化,為替管理の全廃などがその行った中心的な政策として挙げられる。

 なお,「1982年地方財政法」による改革で大きなものとしては,①地方税課税権の制約,②包括交付金の調整,③自治体監査制度の強化などである。法制定の経緯,背景についての詳細については,木寺久・内貫滋『サッチャー首相の英国地方制度革命』(ぎょうせい,1989)を参照されたい。

7)正確には,1430年頃に記された文書の写本に,「commissio ad audiendum computum collectorum denariorum pro clausura villae」との記述がある。「Commission for the hearing of the accounts of the collectors of money for the walling of a town」というのは,R.Jonesによる訳である。前掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.1。

8)The Poor Rate Act 1810, Section 1 'disallow and strike out of every such account all such charges and payments as they shall deem to be unfounded, and to reduce such as they shall deem to be exorbitant'上掲R. Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.2。

9)J・ベンサムは,救貧法調査委員会が設立された1832年に死亡したので,彼の弟子であるE・チャドウイックが委員長を引き継いだ。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.3。

10)この「救貧法委員会」は,その後いくたびかの変遷を経て,現在の「環境省(Department of the Environment)」となるに至っている。上掲R.Jones, Local Governtmen Audit Law, Second Edition, p.3。

11)The Poor Law Amendment Act 1834, Section 46 'paid officers with such qualifications as the said commissioners shall think necessary for the examining and auditing, allowing or disallowing of accounts'上掲R. Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.3。

12)ここにいう自治体とは,正確に救貧法委員会(Poor Law Commissioners)の定める監査区域(Districts for the Audit of Accounts)のことである。監査人の任命はそれぞれの監査区域に置かれた管理委員会(boards of guardians)の委員長および副委員長によって行われた。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.3。

13)The Poor Law Amendment Act 1844, Section 32 '-full powers to examine, audit, allow or disallow of accounts, and of items therein', and to charge... the amount of any deficiency or loss incurred by the negligence or misconduct of any person accounting, or of any sum for which any such person is accountable, but not brought by him into account, against such person'上掲R. Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, pp.3-4。

14)1843年に刊行されたthe Report on Local Taxationによれば,当時の地方の総支出額は,1万2千ポンドで,そのうち救貧法による支出額は6千ポンドであった。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.4。

15)同じくthe Report on Local Taxation,1843によれば,救貧法による支出に次いで大きな支出は,高速道路(料金所を含む)の建設で約3千ポンドであった。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.4。

16)「地区監査人」も「地区監査官」も原語は,同じ「district auditor」であるが,国の公務員となってからはこれを「地区監査官」と訳す。R.Jones著の上掲書においても,1864法によって「(district)auditor」は,「'district auditor'」という官職を与えられたとして,同じ語句でありながら両者を区別している。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.4。

17)「Public Health Act 1872」は,後に「Public Health Act 1875」の中に整理統合された。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p. 7。

18)このような監査対象範囲の拡大は,現在の地方税が当初救貧法(Poor rate)として設けられその後目的を逐次広め,ついに地方自治体の行政全般を目的とするようになったという税の歴史的経緯と符合する。

19)Command Paper. 6453。

20)この種の問題意識は,レイフィールド委員会以前からもたれていた。例えば,1870年代には国の議会で「被監査団体それ自身が監査人を選任できる監査は,真の監査とは言えない。」との意見が出されている。前掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.7。

21)VFMの観点からの調査は監査人の業務の一環として長い間行われており,また,1972法の制度の下で出された実施コードの中でも認められており,これまで全くVFM監査が行われていなかったわけではない。レイフィールド委員会では,異なった地方自治体間の比較研究において,特にVFMの観点からの監査を拡大すべきだと述べている。上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, p.17。

 また,後述するVFM監査についての特別研究(special studies)の基盤は,既に1970年代に,DAS(District Audit Service)によって築かれていたとされる。Mary Henkel, Government,Evaluation and Change, London,Jessica Kingsley Publishers, 1991, p.31。

22)議論の詳細については,Command Paper. 7117, 1978。

23)以下の主要改正点の列挙は,若林茂信『新アメリカ,イギリス公会計』(高文堂出版社,1987),p.233を参考にした。なお,同書は,監査委員会を中核とする英国地方自治体外部監査制度に関する記述において,広く刊行されている図書の中で最も詳細かつ正確なものであり,本稿を執筆する際にも参考とした点が少なからずあることをお断りしたい。

24)グリンは,監査委員会は2つの主要な責務をもって設置されたとしている。一つは,「政府機関に対する信頼が詐欺や汚職の懸念によって害されないように,地方政府の誠実性を引き続き確保すること」であり,もう一つは,「地方自治体が毎年物品及びサービスに投下する250億ポンドの額に対する成果を改善するのを助けること。」であるとする。John J.Glynn, Value for Money Auditing in the Public Sector, London, Prentice Hall, 1985, pp.159-160。

25)環境大臣は,環境省(Department of the Environment)の長である国務大臣である。環境省は,わが国の自治省の担っている大部分の機能をも包含する中央の行政機関である。

 なお,ウェールズに関しては,環境大臣に代わって,ウェールズ府担当の国務大臣が権限を有するが,本稿では,便宜上一様に「環境大臣」として述べる。ちなみに,1982年地方財政法等の法原文では,環境大臣,ウェールズ府担当国務大臣を総称して単に「国務大臣(the Secretary of State)」として規定されている。

26)監査実施コード(Code of Audit Practice)の正式の名称は,「イングランドおよびウェールズの地方自治体監査実施コード」(Code of Local Government Audit Practice for England and Wales)である。構成は,総則(INTRODUCTION),第1章「監査人の一般義務(GENERAL DUTIES OF AN AUDITOR」,第2章「監査の実施(CONDUCTING THE AUDIT)」,付録(Appendix)として「監査報告書(REPORTING THE AUDIT)およびその付表(Attachment)」となっており,各項目において詳細な規定を設けている。

 なお,1972年地方自治法当時は,監査実施コードに類するものとして,環境省の通達(Circular 79/73の付属Ⅱ)として「地方自治体監査実施コード」が定められていたが,1972年地方自治法自体にはコードに関する規定はおかれていなかった。

27)監査報告書に記載される監査意見は,「無限定意見(Unqualified Audit Opinion)」「限定意見(Qualified Audit Opinion)」に区分される。

 「無限定意見」とは,監査の対象となった会計のうち重要なものの監査を終えた結果,不適正な事態が見受けられず,限定を付すことなく(無限定に),その会計が適正であることを示す意見をいう。この場合,監査報告書には通常「われわれの意見によれば…の…ページに記載された会計報告書は,自治体の19…年の3月31日の財政状態を,…の…ページに記載された会計方針に従って,適正に表示している。」と記載される。なお,この「無限定意見」には,対象となる会計の監査をすべて終えて全く問題のなかった場合のほか,対象会計のすべてについて監査を行うことはできなかったが,その未確認の事項が重要なものではないと判断し監査を終了した場合や,会計方針等に対して注意は喚起するものの不適正とはいえないような場合に付する意見も含まれる。

 これに対して「限定意見」とは,典型的には会計が適正に行われておらず,種々の限定を付して,その監査が終了した場合になされる意見である。この場合には「−につき適正ではなかった。以上の点を除き,…会計報告書は…財政状態を…会計方針に従って適正に表示している。」または「−が不適正であるため,…会計報告書は…財政状態を…会計方針に従って適正に表示していない。」などの記載がなされる。この「限定意見」は会計が適正に行われなかった場合のほか,重要な未確認または未確定事項がある場合にも付される。監査実施コード付録および付表参照。

28)前掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Edition, pp.15-16, 18。

29)上掲R.Jones, Local Government Audit Law, Second Editionの「Independence of the auditor」の項(pp.42-45)。

30)前掲木寺久・内貴滋『サッチャー首相の英国地方制度革命』p.146。

31)スケジュール1条および2条※は,監査委員会を独立の法人(a body corporate)であり,国王(crown)を代理し,活動するものとみなされてはならないと規定している。したがって,監査委員会の委員,監査官等の職員(officers)及び一般の職員(servants)は,すべて国王の使用人ないし公務員(Crown servants)ではない(スケジュール2条)。このことから,委員会は主として自治体からの監査手数料をその財源とする広義での民間団体と見られている。

 ※スケジュール(schedule)とは,1982年地方財政法の一部をなすもので,法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。監査委員会に関する事項は,スケジュールの3に詳細な規定がおかれている。

32)公認監査人制度の廃止という局面だけを見れば,プライベティゼーションに逆行するものとみることができる。

33)これについてグリンは,「私的セクターへ監査の仕事を移管することは,委員会の組織構造及び運営方式を反映したものであり,それは元の地区監査官と私的セクターの監査事務所,会計士とコンサルタント,委員会と地方自治体とのそれぞれの間の連携を企図したものである。委員会は,監査の仕事を内部の人員で賄うよりも外部の人員を使って行うことを考えているのである。」と述べている。前掲John J.Glynn, Value for Money Auditing in the Public Sector, p.161。

34)前掲若林茂信『新アメリカ,イギリス公会計』pp.240〜241及び前掲Audit Commission, Annual Report and Accounts, 1985, p.25。

 なお,この民間会計士の割合の増大について,木寺・内貴は「監査の対象に経済合理性が加えられたので,監査作業量が増大し,地区監査官が対応できる自治体数が減ったためである。」(前掲木寺・内貴『サッチャー首相の英国地方制度革命』p.146)としている。

35)なお,若林氏は公認会計士の立場から①を準拠性監査,②を財務監査と言われるものに相当すると述べている。前掲若林茂信『新アメリカ,イギリス公会計』p.249。

36)同じ効果をより安い経費で達成することができないかという経済性の観点と同じ経費でより高い効果を上げることができないかという効率性の観点とは,表裏の関係にあり,いずれも学問上は能率性の概念に包括されるものである。西尾勝『行政学』(日本放送出版協会,1988)p.135参照。なお,能率概念について詳しくは,西尾勝「効率と能率」(『行政学の基礎概念』〔東京大学出版会,1990〕)を参照されたい。

37)政策に対する監査の関与の仕方または程度には,非常に微妙な問題をはらんでいる。上記の,政策に対する関与の指針は,この問題を考えるときの一つの参考になるものである。

38)このほかのVFMに関する特別研究(special study)の報告書も,'review'または'report'として,各自治体に逐次配布されている。また,これらについてはHMSOを通して,一般にも入手することができる。以下参考までに,1984〜85年度に出版された主な報告書名とその1985年3月31日までの発行部数を示す。

書名 部数
Reducing the Cost of Local Government Purchase 2,352
Securing Further Improvements in Refuse Collection 2,214
Improving Vehicle Fleet Management in Local Government 4,340
Obtaining Better Value for Money in Education 2,988
Managing Social Services for the Elderly More Effectively 2,310
Computer Fraud Survey 4,007
Total 18,211

Audit Commission, Annual Report and Accounts, HMSO, 1985, p.29〜30。

 なお,その他の1990年現在までに公刊されている報告書等は次のとおりである(これらについても,HMSOを通して入手可能)。

Impact on Local Authorities Economy, Efficiency and Effectiveness of the Block Grant Distribution System.(8.84)

Managing the Crisis in Council Housing: A Report.(3.86)

Towards Better Management of Secondary Education.(5.86)

Improving Council House Maintenance: Report.(11.86)

Making a Reality of Community Care.(12.86)

Competitiveness and Contracting Out of Local Authorities Services.(2.87)

Management of London's Authorities: Preventing the Breakdown of Services.(2.87)

Improving Highways Maintenance: A Management Handbook.(5.88)

Improving the Condition of Local Authority Roads.(5.88)

Surplus Capacity in Secondary Schools: Progress Report.(8.88)

Improving the Performance of the Fingerprint Service.(10.88)

Competitive Management of Parks and Green Spaces.(11.88)

Housing the Homeless: The Local Authority Role.(2.89)

Managing Cemeteries and Crematoria in a Competitive Environment.(3.89)

Building Maintenance Direct Labour Organisations: A Management Handbook.(4.89)

Probation Service: Promoting Value for Money.(4.89)

Better Financial Management.(5.89)

People Management: Retaining and Recruiting Professionals.(6.89)

Sport for Whom?: Clarifying the Local Authority Role in Sport and Recreation.(8.89)

Urban Regeneration and Economic Development: The Local Government Dimension.(9.89)

Assuring Quality in Education: Report on Local Authority Inspectors and Advisers.(10.89)

Developing Community Care for Adults with a Mental Handicap.(10.89)

Survey of Local Authority Housing Rent Arrears.(11.89)

Management of Police Training.(12.89)

Local Authority Support for Sport: A management Handbook.(1.90)

Management Buy-outs: Public Interest or Private Gain?.(1.90)

Preparing an Information Technology Strategy: Making it Happen.(2.90)

 Whittaker's Books in Print, 1990参照。

39)前掲John J. Glynn, Value for Money Auditing in the Public Sector, London, Prentice Hall, 1985 p.161。

 なお,上記のspecial studyに関する報告書同様,このprofileも各自治体のほか,一般にも公表している。前掲Audit Commission, Annual Report and Accounts, 1985, p.29。

40)前掲,John, J. Glynn, Value for Money Auditing in the Public Sector, p.162。

 なお,特別研究の監査実施までの作業過程をごく簡単に述べると,まず,事務局長と特別研究班(the Special Studies Unit)のスタッフとの協議により,研究のテーマが決定され,研究チームが結成される。その後おおむね2年間にわたって研究チームによって研究が行われる。研究の間の数次にわたる報告書草案の作成を経て,最終報告書が作成・刊行される。この後,実際に監査を行うに当たってのガイドブック(the Audit Guide)を作成し,各監査人に配布する。各監査人はこのガイドブックに基づき,各自治体において,当該テーマに関する監査・指導を行うこととなる。これらのテーマ選定,チームの編成,研究作業,報告書およびガイドブックの作成等の一連の作業過程については,前掲Mary Henkel, Government Evaluation and Changeに,「中等教育における管理の改善に向けて(Towards Better Management of Secondary Education)」に関する研究を例にとって詳細に述べられている。詳細については,同書を参照されたい。

41)これらについては,監査委員会の発行する年次報告(Audit Commission, Annual Report and Accounts, 1985〜89)の'Value for Money'の項参照。

 なお,これらの研究事例のうちわが国においても参考となると思われる4例(「ごみ収集事業のさらなる改善の達成(Securing Further Improvements in Refuse Collection)」,「老人福祉事業の効率的運用(Managing Social Services for the Elderly More Effectively)」,「車両管理の改善(Improving Vehicle Fleet Management in Local Government)」および「物品購入費用の節減(Reducing the Cost of Local Government Purchases)」について,前掲拙著「英国地方自治体の外部監査制度−監査委員会とそのVFM監査−」において紹介しているので,興味のある方はそちらを参照いただければ幸いである。

42)前掲Audit Commission, Annual Report and Accounts, 1985, p.12。

43)Audit Commission, Annual Report and Accounts, London, HMSO, 1989, p.29。

44)現在の監査委員による監査の性格を,内部監査とみるべきか,外部監査とみるべきかについては,その観点によって議論の分かれるところである。これを外部監査とする見方は,監査委員が主務大臣などからの要求による監査,住民の直接請求に基づく監査,住民監査請求に基づく監査を行うなどの外部監査機関たるにふさわしい権限を有していることに基づくものであるのに対し,これを内部監査とする見方は,監査委員が当該地方自治体の長により任命されること,また,その身分も当該地方自治体に属することなど,被監査機関(自治体の一般執行機関)からの独立性が確保されていないことに着目するものである。これらについては,どちらの見方が正しいかということではなく,内部監査的側面と外部監査の側面を併せ持つものとみなければならないが,実際に監査を行う監査事務局(監査委員事務局)の職員は,すべて一般の執行機関の自治体職員であり,多くの場合,監査事務局に数年在籍した後は,また再び一般の執行機関に戻ることなどを併せ考えると,その独立性は極めて希薄であり,監査委員による監査は,その実質において内部監査であると考えられる。

45)わが国の地方自治体監査制度に関する議論は,地方自治法の改正の論議をめぐって特に活発化した。この中で,3Eの観点からの行政監査ないし業績監査に関する検討のほか,外部監査制度の導入についての議論などさまざまな検討,議論が長年にわたって行われており,今回の自治法改正に伴いその一部は解決したものの,いまだ多くの論点をかかえている。これら監査委員制度の現状およびその改正に関する議論の詳細については,『地方公共団体における監査委員制度−その実態と改革の方向−』(地方自治協会,1987)を参照されたい。

 なお,地方自治法の一部を改正する法律は,平成3年4月2日に関係政省令とともに公布施行され,この中で,本文でも触れたように,監査委員に機関委任事務を含め行政監査を行う権限を与えるなどの監査委員による監査権限の拡充等,監査制度の整備が図られている。本改正法について詳しくは,岩崎忠夫「地方自治法の一部を改正する法律について」(『自治研究』第67巻第7号〔良書普及会,1991〕所収)に明解である。

46)この点に関連して,貝塚啓明東京大学経済学部教授が「財政の効率化と会計検査」(第4回公会計監査フォーラム特別講演)において,監査の有する横断的機能ないし役割を強調されていることは興味深い。

47)石井薫「公会計分野から視た会計検査の現状と課題」(『会計検査研究』第4号,1991, p.24)。

48)前掲宗岡徹「21世紀の公会計と公認会計士」(『第11回日本公認会計士協会研究大会研究発表論文集』〔日本公認会計士協会〕)。

49)これらの点に関連して多くの論文が公表されているが,特に秀逸したものの一つとして,桜田桂「プログラム評価とわが国会計検査院による事業・施策の有効性の検査」(『会計検査研究』第3号,1991, pp.51-70)を紹介しておく。

50)この点に関して詳しくは,岡村肇「会計検査の観点について−社会的公正性・公平性と会計検査−」(『会計検査研究』第4号,1991, pp.79-88)を参照されたい。

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