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第5号

プロジェクトの事後評価システムに関する考察
—わが国のODA事後評価システムについて—
赤塚 雄三
猿渡 耕二

赤塚 雄三
(東京大学教授)

 1932年生まれ,東京大学工学部卒,カリフォルニア大学大学院修士課程修了,工学博士。運輸省港湾技術研究所,国際復興開発銀行(世界銀行),アジア開発銀行港湾鉄道通信部長など経て88年から現職。土木学会,米国土木学会などに所属。

猿渡 耕二
(東京都港湾局)

 1964年生まれ,東京大学工学部土木工学科修士課程修了,1990年より東京都港湾局埋立地管理事務所埋立地整備課所属。

 会計主体ないし事業主体が事後評価を行っている事例として経済協力評価システムに着目し,プロジェクトの事後評価システムへの適用性を検討した。ODAの組織的な評価は1981年1月に外務省経済協力局内に経済協力評価委員会を設置したことに始まり,その後実施機関であるJICAおよびOECFにおいても評価体制の整備が行われた。現在では主として経済協力評価委員会,JICAの評価監理課,OECFの業務監理部という評価体制の下で,事後評価が実施されている。このように評価体制の整備はある程度行われたが評価事例には在外公館評価や有識者などによる第三者評価が多く,ODA実施機関による自己評価体制が十分でない点,評価結果のフィードバックが不十分な点,第三者評価では評価活動を通して得られる知的集積が,会計主体や実施機関に蓄積されないなどの問題もある。本研究ではこれらの諸点を中心にプロジェクト事後評価システムへの適用性の評価を試みた。

 キーワード 事後評価,在外公館評価,第三者評価

 Ⅰ はじめに

 著者らは先に公共事業における会計検査ならびに国際金融機関におけるプロジェクトの事後評価について,わが国の社会基盤プロジェクトの事後評価への適用性の視点から調査した(注1),(注2)。その結果,独立した機関としての会計検査院による会計検査はプロジェクトの客観的な評価には効果的ではあるが,それ以前に事業主体によってなさるべき自己評価の役割は果たし得ないこと,国際金融機関における事後評価システムは事業主体による評価結果を第三者が再調査する方式に相当するが,これは技術,費用および組織上の観点からも秀れているとして論じ,こうした線上での新しい事後評価手法開発の必要性を指摘した。本論は以上のような視点から,わが国の経済協力評価の手法を調査してプロジェクトの事後評価手法としての適用性を検討したものである。周知のようにわが国のODAに関しては,外務省経済協力局ならびにODA実施機関としての国際協力事業団(JICA)ならびに海外経済協力基金(OECF)が単独あるいは共同で援助案件を評価し,その結果は,1984年以来,"経済協力評価報告書"の形で毎年公表されている。これは会計主体による評価事例ともいえる。以下では主として既往の公刊資料(注3)に基づいて経済協力評価に用いられている各種のアプローチを検討し,そのプロジェクト事後評価の手法としての適用性を検討した。

 Ⅱ 経済協力評価体制

 わが国におけるODAの組織的な評価は1981年1月に外務省経済協力局に"経済協力評価委員会"が設置された時に始まるとされている(注4)。その後,評価体制の整備が行われ,図1に示したように,外務省経済協力局に調査計画課,JICAに評価監理課,OECFに業務監理部が設置され,それぞれの評価活動を担当している。これら経済協力活動を担当する機関以外にも資金協力案件の評価や技術協力案件などに専門家を提供している通商産業省,経済企画庁,農林水産省,運輸省といった関係省庁も国際業務担当部課を設置し,それぞれの関与するセクターの問題についての評価活動も実施している。図2はこれらの関連省庁や機関の役割を簡潔にまとめて示したものである。

図1 外務省経済協力局を中心としたODA評価監理体制
図2 我が国経済協力評価の仕組み

 Ⅲ 経済協力評価の意義と目的ならびに評価活動

 Ⅱで述べた体制の下における経済協力評価の意義と目的について,経済協力評価委員会は次のように述べている(注5)。『援助評価は,援助案件の適正かつ効果的・効率的な実施及び将来の援助政策へのフィード・バックを主要な目的とするものであり,援助の計画,実施及び事後フォローアップと共に援助サイクルのなかで不可欠な一部をなしている。評価は基本的にプロジェクト終了後数年を経たものを対象として行っている。その効果は十分か等を調査・分析する事により,改善すべき点があればその措置を取り,また,評価の結果得られた教訓を他の案件形成に役立てることにある。』 ここで,同委員会は評価をその段階によって,4種類に区分して,事前審査,中間状況調査,終了時評価,事後評価に分け,それぞれに以下のような定義を与え,経済協力評価報告書で対象としているのは事後評価であるとしている。

事前審査(appraisal)

  援助を実施する価値があるか否かを中心に審査するもの。

中間状況調査(monitoring)

  経済協力案件の実施ないし活動状況を調査するもので,案件自体の実施の改善が主たる目的。

終了時評価(post evaluation)

  施設案件の完成時ないし,技術協力の協力期間終了時に,協力が当初の目的通り実施されたか,継続的な協力が必要か否かなどを調査。

事後評価(ex-post evaluation)

  協力終了後,時間の経過した案件の効果,インパクトを幅広く調査するほか,その自立性の変化などについて調査するもので,その主眼は将来の援助政策 へのフィードバックにある。

 評価の意義と目的ならびに定義を以上のように設定した上で,経済協力評価委員会は年度計画を策定し,これに基づいて,(ⅰ)外務省派遣調査団による評価,(ⅱ)在外公館における評価,ならびに(ⅲ)第三者有識者・民間団体への委託評価,を実施している。さらに,近年では第三者評価の延長上に国際的専門家による評価(1987年)や他の援助国や国際機関との合同評価(1989年)を導入している。

 経済協力評価委員会の段階別評価の中で,事後評価(Ex‐post Evaluation)と定義されている評価は国際機関等でPost Evaluationと呼ばれているものに相当し,著者らのいう事後評価もこれとほぼ同等の意味をもつものである。

 Ⅳ 経済協力評価方針の推移と行政監察局の勧告

 第1回報告書(1982年9月)の時点では"評価"の明確な定義を欠き,評価のあり方についての議論から始まり,現地調査にも外務省課長級の人々が団長として参加するというような形で行われ,これは第2回報告書にも続いている。しかし,第3回から評価に対する姿勢に変化が認められ,在外公館評価が報告の大半を占めるようになっている。第4回(1986年3月)では在外公館評価重点化の方針を明確に打ち出し,さらに評価の客観化を図るためとして,第三者としての有識者評価にも大きな比重を置き始めた。その後,この方式は図3に示したように次第に定着する傾向を示し,最近の3回(1989〜1991年)の平均を見ると,在外公館評価(59%)と有識者評価(24%)だけで,評価件数合計の8割以上を占める一方で,同報告書に盛られた実施機関(JICA,OECF)評価は僅か5%にすぎないような状況にある。

図3 経済協力評価委員会による形態別評価実績

 総務庁行政監察局は無償資金協力,技術協力の第一次監察結果(1988年)に基づいて,次のような勧告を行っている(注6)。すなわち,評価実施に当たっては,評価の中立性・客観性の確保および専門的知識の活用を図る観点から,民間団体・有識者第三者の積極的活用を図るとともに評価内容の充実に努めることが,個々の協力案件の在り方およびわが国の協力方策の在り方を考える上で特に重要であるが,次のような問題がある。

① 評価調査は,わが国の経済協力実績の多いアセアン諸国の案件を中心に実 施されているが,数度にわたって実施されている案件がある一方,全く実施されていない案件がみられる。

② 1985年度までの評価調査結果では,今後協力を進める上で重要であるとして,(ⅰ)日本側によるローカルコスト支援の拡大,(ⅱ)事前調査の充実, (ⅲ)無償資金協力と技術協力の連携強化など毎年指摘しているが,個々の案件の評価において,これら指摘の原因分析および具体的改善方策の検討が十分でなく,また,これら指摘の前提となる事実,例えば,ローカルコスト支援の有無・実施回数・実施内容等を調査項目として取り上げているものは少ない。

 以上のような問題点の指摘を行った上で,行政監察局は外務省に対し次の措置を講ずることを求めている。すなわち,

① 評価調査の実施に当たっては,民間団体・有識者等第三者の活用に努めるとともに,評価案件の拡充および評価対象国・評価案件の計画的選定を行うこと。また,評価調査の充実を図るため,評価専門家の養成,関係省庁が実施している評価結果の有効利用などに努めること。

② 今後の協力計画の策定・実施に資するため,評価に当たり,従来の評価での指摘事項の前提となる事実を調査項目に加えることなどにより,援助の効果,実施上の問題点などについて,より具体的な分析を行うこと。

 先に述べた評価方針の変化は上述の行政監察局の勧告の線上にあるもののようであるが,結果として協力評価がより効果的に行われるようになったか否かについてはさらに検討を要するところである。またこれらの報告書や行政監察局の勧告でも,援助効果の有無とか大小の評価基準には一切触れられていない点を指摘したい。

 V 評価案件の選択ならびに評価基準

 経済協力評価委員会はその第1回報告書以降第5回まで評価の体制,評価の基本的性格,評価活動,フォローアップ,国際的動向などについて毎回論議を繰り返し,その結果,1988年の第6回報告において初めて評価の定義と種類についてその考え方を明らかにし,援助評価検討部会の活動についても報告している。1989年の第7回報告では今後の課題として(ⅰ)評価体制の強化・拡充,(ⅱ)第三者の視点からの評価の拡充,(ⅲ)マクロ的視点からの評価,(ⅳ)被援助国・先進諸国との合同評価の実施,を考慮すべきこととしている。第8回(1990年)報告では評価のあり方については一切触れず,単刀直入に今年度はいかに評価したかを報告している。これらの報告書に共通していえることは,評価の目的とか種類,あるいは体制とか問題点についての問題意識は強く記述されてはいるが,評価対象となる援助案件の選択やその評価基準が全く示されていないことである。

 この点に関して,総務庁行政監察局は次のように述べている(注6)。

(1) 案件の選定は,以下のように国,分野および協力の時期を考慮して行っている。すなわち,(ⅰ)国—当該国に対する協力のあり方の参考とする。 わが国経済協力の主要対象国の中から選定する;(ⅱ)分野—同種分野における協力のあり方の参考とする。過去の援助実績が多い分野などを選定する ;(ⅲ)協力時期—評価結果の経済協力へのフィードバック,経済協力効果の発現の把握等の観点から評価時期が熟したと考えられる協力実施済みの案件を中心として選択する。

(2) 評価事項:案件の協力形態,協力分野あるいは協力内容によって評価の重点が変わることもあるが,"経済協力評価実施のガイドライン"を応用し て次の点について実施している。すなわち,(ⅰ)案件の計画・実施過程の適正度,(ⅱ)案件の維持管理運営状況,(ⅲ)実施体制,(ⅳ)協力実施の効果と問題点,(ⅴ)案件の目標の達成度,および(ⅵ)今後の課題のとるべき措置,などである。

 Ⅵ 評価のガイドライン

 Ⅴにおいて行政監察報告で指摘したガイドラインとは1984年10月に経済協力局調査計画課が発表した『経済協力評価実施のガイドライン』を指すものと思われる。これは経済協力の用語の定義や評価の目的を明らかにするとともに,評価の段階や経済協力の形態別の評価の要点を解説して評価者の指針としたもので,評価の際に考慮すべき主要な点を段階ごとに列挙して,次のようにまとめている。

(1) 評価対象プロジェクトの目的・目標及び計画の確認

(イ) 当該プロジェクトはどのようにして生成したか?

(ロ) 当該プロジェクトはどのようにして実施されるに至ったか?

(ハ) 達成しようとしている目的・目標は何か?

(ニ) プロジェクトの生む便益は誰に向けられているのか?

(ホ) 当初計画のインプットの量は?

(ヘ) 期待されるアウトプットは?

(ト) 実施計画は?

(2) 実施過程の分析

(イ) インプットされるべき資金,技術は当初のスケジュールどおり投入されたか? プロジェクトの進行を妨げるようなインプットの遅れがあったかどうか?

(ロ) アウトプットは期待どおり産出されているか?

(ハ) プロジェクトの進行を妨げるような要因があったか? あったとすれば,それは何か?遅れはどのような影響をもたらしたか?

(ニ) プロジェクトのマネージメントは適切か? わが方援助実施機関の対応は適切か?

(3) プロジェクトの達成度

(イ) 当初の目的・目標を達成しているか?

(ロ) 実施過程で当初目的・目標の変更があったか?

(ハ) 予期しなかった便益あるいは悪影響を生み出すということがあったか?

(ニ) 成功あるいは失敗と判断する最も重要な要因は何か?

(ホ) 便益を最も受けているのは誰か? 

(ヘ) プロジェクト周辺にはどのような社会的・経済的波及効果を及ぼしているか?

(4) 報告書の作成

 報告書には上記諸項目に対応した調査結果を記載し,さらに次のような事項にも十分触れる必要がある。

(イ) 評価対象プロジェクトから見出された主たる教訓

(ロ) プロジェクトを成功に導き,あるいは,不調ならしめている要因

(ハ) プロジェクトを実施してみて分かった問題点

(ニ) 以前評価を行ったことがあるプロジェクトについては,その評価結果との比較

(ホ) 将来別のプロジェクトを実施する場合に教訓として生かさるべき事項

 以上に述べた評価の指針は協力の形態とか分野などにかかわりなく,大体においてどのような案件にも適用できる汎用性の高いものである。本ガイドラインではさらに,参考資料として経済協力評価のポイントを(ⅰ)円借款案件の評価,(ⅱ)無償援助案件評価(職業訓練センターおよびその他教育施設),(ⅲ)プロジェクト方式技術協力の評価,および(ⅳ)単独機材供与の評価,の4種の形態別に列挙し,ポイントのそれぞれについて評価の指標を具体的に示している。したがって,こうした指針が的確に運用されるならば,第三者評価によらなくともかなり客観的な評価が可能となるように工夫されている。

 問題は案件や評価事項の選定がどのような基準に基づいて行われ,また,ガイドラインがどの程度積極的に活用されているかという点であろう。先にも述べたように,従来発表された経済協力評価報告書は,これらの諸点について明確な記述を欠いている。また,評価結果からガイドラインが積極的に活用されたと明確に看取できる事例は概して少ない。経済協力評価は一種の自己評価であり,"我が国が開発途上国でどのような援助を行っており,それらがどのような効果を挙げているか,そしてそれらがどのように評価されているか,等について広く国民各位の参考と理解に資するため(第1回報告書,1982年),"に行われ,かつ公表されている。自己評価を行いその結果を評価報告書の形で公表することは,国内の公共事業においても行われていない画期的なことである。それだけに案件選定基準の明確化,ガイドラインの充実とその適用の積極的な推進が望まれるところである。

 Ⅶ 有識者評価

 1985年12月,ODA実施効率化研究会はその報告書で第三者,有識者による評価拡充の重要性を指摘し,これを受けて,有識者評価が第4回報告書以来導入されている。すなわち,外務省の実施する評価活動を第三者的視点からチェックすることにより,援助の適正実施を確保するという趣旨である。ここで有識者は援助方針の策定とか援助案件の選定や実施に関与していないという意味での第三者であり,そのかぎりでは客観的といえる。現実に有識者として評価に参加された方々の多くはそれぞれの分野で著名の人物である。評価報告書に盛られた報告内容から判断するかぎりでは,個々のプロジェクトや評価の手法とか基準といったことにあまりとらわれず経済協力を大局的な観点から把握し,改善すべき点を指摘し,傾聴に値する意見を述べたものが多い。しかしながら,その報告を子細に検討すると,評価の対象案件が多い割合には現地視察に要した時間が非常に短かった事例も少なくない。単純に現地視察期間と対象案件数から1日当たりの評価案件数を計算すると,1日に数件もの案件を評価した事例も報告されている。特に評価者が数ヵ国をまわって現地視察した場合にはその間の移動に要した時間も考慮する必要があり,評価に要した実時間は極めて短い。世界銀行やアジア開発銀行のプロジェクト完了報告書や事後評価報告書作成のための現地調査では2〜3名の調査チームが2〜3週間現地視察をするとともにプロジェクトの執行機関,コンサルタント,コントラクターおよび受益者は当然として,財務や計画担当省庁とも十分に打ち合わせ,ヒヤリングするのが普通である。評価は時間をかければ良いというものではないが,あまりにも短ければ,視察は皮相的なものとなり,現地の関係者との対話だけでなく,援助によって完成した施設や機構の運営状況を視察する時間も限られて,客観的な評価は不可能となるであろう。

 有識者評価を今後も重点的に採用するのであれば,有識者が,評価案件についての予備知識を十分に把握し,また,現地でも余裕をもって視察し,被援助国政府機関の担当官だけでなく,プロジェクトや施設の受益者などとも十分に話し合える時間的余裕と場を設定すべきである。この点について,多くの有識者が『通り一遍の…』,『…は皮相的かも知れないが…』などと条件付きで評価報告を行っているのは,評価者が本来意図したところとは異なった形や状況の下で評価を行わざるを得なかったことを示しており,評価の客観化とは相反するものと考えるべきであろう。

 この方式において有識者が実際に参加するのは特定の時期に特定の国や地域における協力案件を対象とするものである。参加が一過性であるだけに,評価者が評価結果のフォローアップに関与することは実際上不可能に近い。また有識者が現地評価などで得られた知見は図2に示したように委託者である外務省に報告されるが,実施機関担当者との対話の機会は乏しく,せっかく得られた知見が知的集積として実施機関に残る可能性も少ないもののようである。

 以上を要するに,有識者評価というアプローチは特定の方法とか基準にあまりとらわれない評価方法であり,それなりの効用をもつ。特に,効果の定量的な把握の困難な分野とか形態の経済協力案件の場合には今後も活用さるべきアプローチと思われる。しかしながら,その運用の仕方にはかなり改善の余地がある。また,有識者評価は,評価者が第三者であるが故に客観的であるとするのは,誤りである。会計主体あるいは実施機関とは第三者の立場にあるだけのことで,有識者自身の多くがその報告書で認めているように,評価自体は極めて主観的である点に留意する必要があろう。

 社会基盤プロジェクトの事後評価において求められるものは,事業の効果を何らかの形で測定し資源管理の改善と効率化に有用な教訓を引き出し,これを将来のプロジェクトの計画から実施に到るあらゆる段階にフィードバックできるシステムである。評価の客観性も重要ではあるが,抽出された教訓やその過程において得られる知的集積が将来のプロジェクトにフィードバックされることが,より以上に重要であるからである。一方,国内の公共事業等においては,計画策定の段階で地方庁レベルや中央省庁レベルの審議会などで有識者の意見が反映される仕組みとなっている。こうした視点からすると,事後評価としての有識者評価は期待するシステムの一環としての有用性を全く否定することはできないが,実用性は乏しいといわざるを得ない。

 Ⅷ 民間団体委託および国際専門家委託評価

 民間団体委託および国際専門家委託評価は,最近の評価報告書の中では有識者評価と並んで,評価の客観化のために重点的に行われている評価方法である。評価に割かれた時間的な制約も,他の評価,例えば,有識者評価や外務省・JICA共同評価などに比べて,幾分余裕があるようである。民間団体委託ではいくつかの特定分野に限った有償ないし,無償案件に限定して行われている。受託機関は,従来の報告書から看取するかぎりでは,(社)世界経営協議会,(財)国際開発センターや(財)海外漁業協力財団などに限定されており,これらの機関は,受託した評価案件に応じて適格の専門家を動員して評価を行うシステムである。これらの機関は,調査研究活動をその基本業務の一つとするもので,評価報告書から判断するかぎりでは,内容は担当専門家によって若干の差はあるが,要点を網羅し,評価の目的を果たしているといえよう。ほぼ同様のことは国際専門家委託評価の場合についてもいえる。

 Ⅸ 第三者評価の問題点

 第三者評価に共通したことであるが,この種の評価活動によって得られる知的集積が会計主体や実施機関の中ではなく,第三者に帰し,会計主体や実施機関の中での再生がほとんど不可能であることは注目に値する。また,ここで得られた教訓も報告書の形で,経済協力評価委員会に提出されるが,評価者と会計主体との間には充分な対話がないもののようである。一方,評価者はその評価結果をフォローアップする立場にもない。第三者評価者は対象とする案件に関して,経済協力に関する交換公文とか事前審査,中間状況調査報告書や終了時評価報告書などの記録を介して,予備知識を得て,現地調査に臨むものであり,援助案件を実施した担当者の周辺に存在する未公開の記録とか記録されざる知的集積に触れることは難しい。事後評価において汲み取るべき教訓は,単に協力案件の受取り側の担当者とか受益者,あるいは完成した施設や構造物などだけにあるのではなく,援助機関や担当者の周辺にも存在することに留意する必要があろう。

 外務省は,無償案件では会計主体ではあるが,実施機関ではない。その他の案件では経済協力の主務官庁ではあるが,会計主体ではない。図4(注7)に示したように,評価委託者が経済協力主務官庁であることは評価結果の経済援助政策への反映には効果的である。しかし,評価を通して得られる知的集積が,第三者である評価者に帰し会計主体とか実施機関には十分に伝わらない可能性が大きいこととか実施機関より汲み上げられるべき教訓が見落される可能性が大きいことなどの欠点もある。このような欠点を少なくし,評価の効果を向上させるには,評価実施前における実施機関との積極的な対話,評価報告書作成の段階での実施機関との意見の交換,意見の対立する場合に評価者の意見だけでなく実施機関の意見も併せて報告するなどの工夫が必要と思われる。このような試みは,国際金融機関によるプロジェクト事後評価では積極的に行われ,これが,会計主体内の評価でありながら,評価の客観性の維持に果たしている効果は大きいと考えられている(注1)。参考までに,アジア開発銀行における評価管理体制とプロジェクト完了後の業務のプロセスを図示すると図5,6のようである。事後評価を担当する事後評価官はプロジェクトの会計主体であり,かつ事業実施主体であるアジア開発銀行の内部部局である点に注目したい。

図4 経済援助のサイクルにおける評価調査の役割
図5 アジア開発銀行における評価監理体制
図6 ADBプロジェクト完了後の業務のプロセス

 Ⅹ 在外公館評価

 在外公館評価は援助案件の所在地を管轄する在外公館が評価を行うもので,第4回報告書で在外公館報告重視の方針を打ち出して以来,全体の評価案件の中に含まれる在外公館評価の案件数は確実に比重を増やしており,近年は6割前後に推移している。このように,経済協力評価の中で,その件数の上で果たしている役割の大きさにもかかわらず,在外公館評価の対象案件選定とか,評価の態様が統一性を欠き,評価の視点が不明瞭であるものが多い。

 在外公館評価の多い国とか地域から分析を試みると,1987年頃はインドネシアや中近東,アフリカ,中南米の諸国がこれに該当し,1990〜91年にはインドネシア,タイ,パキスタンのほかアフリカ,中南米,南太平洋の諸国では在外公館評価が多い。あえて共通項を求めると,援助案件の多い国とか日本から遠隔の地の諸国では在外公館評価が概して多いようである。しかし,これらの諸国でも,民間団体や有識者評価も行われており判然としない。また,援助の形態別から眺めると,在外公館評価の中に占める有償協力案件やインフラ整備のための無償協力案件が比較的多く,第7回報告では在外公館評価のおよそ50%が有償・無償案件を占め,残りが,技術協力などを主とした案件である。第8回報告書では全体の約2/3が前者で,残りの1/3が後者の範疇に入っている。換言すると援助金額の上ではかなり大きなものが,在外公館評価の形で評価されている事例が圧倒的に多い。

 開発調査や専門家派遣,青年協力隊派遣等を通しての技術協力,資機材供与と技術協力など,形式上の分類は別として,人材の派遣によって協力が行われる援助プロジェクトでは,その成果を客観的に評価することは本来困難である。このような経済協力案件ではこれを担当する専門家と被援助国機関やその担当者との間の信頼関係とか協力関係などが案件の成否の主な要因であり,評価の要点の一つであろう。一方,有償協力案件やインフラ整備のための無償案件も在外公館評価の中で数多く扱われている。有償協力案件に関しては,在外公館は案件選定の時点で関与はするものの,実質的な選定は中央省庁によって行われ,その実施はOECFが担当する。また,無償協力案件もその実施はJICAが担当する。したがって在外公館は援助サイクルの中でも,評価から得られる知見を集積して活用したり,また,教訓を次の案件にフィードバックするためには影響力の乏しい位置にある。こうした観点からすると,在外公館評価には対象案件をそのプロジェクトの所在地にあることが極めて有効に働くような種類のもの,例えば,技術協力を主体とした案件などに限定し,さらに,協力形態に応じて詳細なガイドラインを整備し,評価の質的向上を図る必要があろう。

 視点をプロジェクトの事後評価に移すと,在外公館は評価システムの上では会計主体でも実施機関でもなく,また第三者でもない立場にある。国内の公共事業のシステムにおいてはこれに相当する機関は存在せず,あえて求めれば,プロジェクト所在地の地方庁が計画策定や予算要求などに関して類似した役割を果たしている。しかし,これが国のプロジェクトの自己評価システムの上で,積極的に重要な役割を果たし得ないことは,ODA事後評価における在外公館の場合と同様である。

 ⅩⅠ 実施機関評価

 評価の目的は援助案件の実施経験から教訓を読みとり,これを次の援助案件などにフィードバックして,開発援助効果の改善を図ろうとするものである。したがって,評価は,援助案件の選定と実施を担当する機関が行うことによって,評価によって得られる教訓がそのまま集積され,フィードバックも容易となる。図7,8にそれぞれJICAプロジェクト,OECFプロジェクト完了後の業務のプロセスを示す。日本のODA制度の下では案件選定は外務省などを中心とする中央省庁の協議に委ねられ,その実施をJICAやOECFが担当することが多い。しかし,選定に関してJICAやOECFが担う役割には限界があるとしても,そのプロセスに関与することは確かであり,こうした視点からは評価は実施機関によって行われるのが望ましいことであろう。

図7 外務省/JICAプロジェクト完了後の業務のプロセス
図8 OECFプロジェクト完了後の業務のプロセス

最近の経済協力評価報告書では,実施機関評価案件は1988年:8/158=5%,1989年:6/160=4%,1990年:5/145=3%,1991年:9/133=7%と極めて数少ない事例しか報告されていない。このことは実施機関評価が,この程度しか行われていないことを示すものではない。実施機関としてのJICAの場合には外務省と共同して行う評価のほかにも,各事業部が独自に行っている評価もある。また,OECFの評価には,その派遣する調査団が行う"詳細評価",現地駐在員が行う"事務所評価",業務監理部の行う"机上評価",の三様があり,さらにOECFの場合には,特定の地域やセクターに複数の借款案件が集中している場合には,それらの総合的な経済的,社会的波及効果を把握するためにまとめて分析評価を試みるインパクト調査も実施している。図9はOECFによる形態別評価実績を示したものである。

図9 OECFによる形態別評価実績

 問題はこうした実施機関の行っている評価結果の多くが経済協力評価報告書には取り上げられていないことであろう。"経済協力評価報告書"は本来,"我が国援助の概要,援助成果,フォローアップ状況および今後の課題"などについて報告することを意図したものとされている。とするならば,少なくとも,ODA実施機関による独自の評価についてもさらに積極的に触れるべきであろう。また,第一次行政監察報告書が指摘したように通商産業省,経済企画庁,農林水産省,運輸省などの他省庁の行う評価についても触れ,これらの諸機関における評価活動の全体像が把握できるような形での報告書であることが望ましい。

 ⅩⅡ 評価対象案件と評価可能案件との関係

 評価報告書に取り上げられた件数は,例えば第7回160件,第8回145件,第9回133件,とかなりの数に上っているが,これは評価対象として可能なプロジェクトのすべてを網羅するものでない。外務省・JICA評価と第三者評価が重複している例もあり,また,同一案件が年次の異なる報告書に繰り返し取り上げられている事例もある。重複とか繰り返しは視点の異なる評価である可能性もあり,それなりの意味もある。その場合にはそれなりに趣旨を明確にして,そこから異なった教訓を汲みとれるようにすることによって意義をもつ。この点に関して,第一次行政監察報告も次のように述べている。『我が国の経済協力案件のうち,プロジェクトの内容・熟度からみて評価対象となり得る案件数は(1986年時点において)約2,000件とみられている。1981年から1985年までの5ヵ年間の実施評価調査の案件数は604案件で評価対象となり得る2,000案件に対する評価実施率は約3割である。また604案件のうち1割強の68案件については2回以上評価が実施されており,中には5年間で4回も評価調査が実施されているものもある一方,評価対象案件の約7割については全く評価が実施されていない。このことから,評価対象国や案件に偏りが見られる』。

 援助案件数に関しては,その後増大の傾向にある反面,図3に示したように評価件数は1985年の以降漸減の傾向にあって,評価実施の割合は上記の値よりもはるかに少ないものと思われる。援助の態様が複雑で,その対象とする案件も多年次にわたったりしているので,金額などで表示することは比較的簡単でも,案件数としては把えがたい協力形態もある。例えば,専門家派遣などは,これをどのように数えるかによって,案件数そのものが変わってくる面もあろう。このように困難な面はあるにしても,どれだけの経済協力が行われ,そのうち何%位が評価の対象として補捉されているかについて,経済協力評価報告書から判断するかぎりでは金額面および案件数の面のいずれにおいても定量的な報告を欠いているのが実情である。こうした面についての具体的な表示がなければ,評価報告書自体に対してもその信憑性に疑間が提示されることになろう。これは評価対象案件選定の基準にもかかっており,選定の基準が具体的かつ合理的なものであって,あらかじめ明確にされていることが必要であろう。

 ⅩⅢ 結論

 公刊資料を下にわが国経済協力評価の現況と各種評価方式の特性把握を試みるとともに,そのプロジェクト事後評価手法としての適否を検討した。現行の経済協力評価は案件の選定とか評価の方法に改善の余地はあるにしても,自己評価の結果を公式の報告書の形で広く国民に公表する方針は国内の公共事業には見られない画期的なもので,それ自体極めて有意義なものであり,今後の積極的な改善と展開が望まれる。また,実施機関評価については"経済協力評価報告書"が取り上げている件数はあまりにも乏しく,均衡を失っていることも明らかになった。他方,本論の趣旨であるところの社会基盤プロジェクトの事後評価手法としての適用性に関しては問題が多いことも明らかになった。第三者評価とか在外公館評価はODAの評価方式としての役割は認められるものの,問題点も多く,国内の公共事業を念頭においた事後評価の手法としては適用性を欠くと思われる。

 プロジェクトの事後評価の意図するところは,プロジェクトのパフォーマンスを評価し,そこから教訓を引き出し,これを将来のプロジェクトにフィードバックするところにあるが,そのためには評価作業にはできるだけの客観性が要求されるものである。客観性を要求される評価が,本来的に評価者の主観的な判断によらねばならないことに矛盾がある。主観的判断の結果としての評価をより客観的にするためには,できるだけ評価の基準となるようなものを導入して,主観的な判断の変動範囲を少なくすることが必要である。"経済協力評価実施のガイドライン"は,汎用性が大きくそれなりに実用性のあるものと思われるが,目下の時点では,これが積極的に活用されているとはいいがたいようである。各評価項目に評価の指標を導入して,主観的判断による変動幅を少なくするとともに,利用者の便も図ることによって,積極的な活用も可能となろう。プロジェクトの事後評価への適用も,こうした実施機関による評価の線上で捉え得るものと思われる。

注:

1) 赤塚雄三 "プロジェクトの事後評価に関する考察",「会計検査研究」第3号,1991年3月,P24〜36。

2) 猿渡耕二 "プロジェクトの事後評価システムに関する研究",東京大学大学院土木工学専攻修士論文,1991年3月。概要は1990年9月,土木学会年次学術講演会に提出。

3) 外務省経済協力局 経済協力評価委員会,"経済協力評価報告書"第1回(1982年)〜第9回(1991年):外務省経済協力局編"我が国の政府開発援助"(年次報告書,1984年以降),など。

4) "第1回経済協力評価報告書",外務省経済協力評価委員会,1982年9月。

5) "第6回経済協力評価報告書",外務省経済協力評価委員会,1988年3月。

6) 総務庁行政監察局,"ODA(政府開発援助)の現状と課題—総務庁の第1次行政監察結果",1988年9月。

7) 外務省経済協力局,"目でみる援助プロジェクト",1988年11月。

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