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第4号

地方自治体会計の現状と改善への試み
−ストック会計の導入を中心として−
茅根 聡

茅根 聡
(愛知学院大学助教授)

 1957年生まれ。早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得,愛知学院大学専任講師を経て90年から現職。日本会計研究学会,国際会計研究学会,日本簿記学会などに所属。

 主な著作は「アメリカにおけるリース会計基準をめぐる相剋」「リースとオフ・バランスシート・ファイナンシング」「わが国の地方自治体会計の基本的課題」など。

 Ⅰ はじめに

 今日,わが国の地方自治体を取り巻く環境は著しい変化を遂げており,それと相俟って,地方自治体の財務会計制度に対して変革を求める声が高まっている。その背景には,地方自治体の財政構造の硬直化現象や地方公営企業の業務の拡大および外郭団体の乱立に代表されるような地方自治体の活動の多様化現象,さらには,建設事業費の増加や地方債の増発がもたらす公債費の高騰などの地方自治体をめぐる経済環境の変化が指摘されよう。

 わが国の地方自治体会計では,欧米諸国の公会計や,企業会計で採用されている複式簿記システムによらず,単式簿記に基づく計算構造を採っている。すなわち,その会計手続は,一定の手続に依拠して決定された予算に応じて,その収支が記録され,その予算執行状況を報告するというシステムであり,そこでは,現金主義および単年度主義に基づいて収支計算を行う,フロー情報中心の計算構造が採用されている。換言すれば,地方自治体の財務会計制度は決算において予算執行状況を明らかにし,予算および決算に齟齬がなかったことを示すことによりアカウンタビリティが果たされる仕組みになっている。このような財務会計制度が会計的に後進的であるかについては議論すべき必要性があるが,少なくともかかる制度が昭和38年の地方自治法の改正以来,四半世紀以上にわたり適用されている状況から判断すると,現在の地方自治体の実態を適切に反映できるかについては疑問の余地が多い。

 では,このような旧来の制度が今日でも踏襲されている原因はいかなる点に求められるのであろうか。第一には,地方自治体の「公共性」という属性に求められよう。すなわち,先に示したように,地方自治体会計では,現金主義に基づく単式簿記の採用により,各会計年度における歳出は,その年度の歳入をもって充て,年間の収支を締めることで決着するという発想が採られている。したがって,財政運営においては予算の編成・執行という予算制度に重点が置かれ,決算は単なる予算収支の顛末を示すという,官庁会計方式でその機能は十分に果たされていたのである。そして財務会計情報に基づいて,地方自治体の財政状態や経営成績を適切に把握し,それを将来の財政運営に生かそうとする企業会計的思考が,「公共性」という名の下に長年にわたり希薄であったといえよう。

 第二には,地方自治体の財務報告に対してその情報利用者である住民の意識や関心が総じて低かった点が指摘できよう。これは,企業の利害関係者である株主,債権者および投資家の場合には,受託責任の解明という観点から,財務会計情報の内容に直接的な関心を示しているが,住民の場合には強制的に徴税という形で行政コストを負担する制度上,財務報告に対する認識の希薄さはある意味では必然的な状況であるとも考えられる(注1)。

 しかし,これを別の視点から捉えると,地方自治体会計の閉鎖性あるいは地方自治体会計における住民に対する認識の狭隘性を物語るものともいえよう。すなわち,地方自治体と国,あるいは地方自治体相互間で,行政指導,助成・補助金,許・認可といった行政上の複雑な問題があり,これらが実質的に優先されるために住民の疎外や住民の不在を招き,それが結果的に財務報告に対する住民の意識の低さを助長している構造が垣間見られる(注2)。

 いずれにせよ,この問題は行政サービスの実態や財政状況の判別の困難性の問題とリンクしたものとして捉えるべきであり,財務公開性の確立や外部監査の導入の問題との関連性が重要となろう。

 以上のような状況の下で,わが国の地方自治体の財務会計制度に対する関心は,これまでは研究者や実務家の間にあっても低く,それに伴い公会計に関する研究成果も乏しいように見受けられた。これに対して,欧米では,地方自治体の会計はPublic Sector AccountingあるいはGovernmental Accountingといった名称で盛んに取り上げられており,特にアメリカでは,連邦政府,州政府および地方政府の会計が企業会計と並んで大きな社会的関心となっている。そして今日では,欧米で企業会計と公会計の両者を包含したGeneral Accountingという概念まで生まれつつあり,わが国との対応の違いが浮彫りにされている。

 しかしながら,近年,先に示した地方自治体を取り巻く環境の変化に伴い,地方自治体の財務会計制度の近代化や現行制度の改革に関するさまざまな提言や試みが行われてきている。たとえば,財政分野から,財務公開性の拡大や監査委員制度に代わる外部監査の導入に関する提言がなされたり,基金・積立金制度の活用,間接経営方式の拡大に伴う連結決算方式の導入,粉飾決算の防止や地方債の増加に伴うストック会計の採用および企業・市民の受益者負担を求める財務公開性の確立,といった財務会計の「企業会計化」が主張されている(注3)。他方,会計研究分野においても,近年,日本会計研究学会および日本公認会計士協会の内部に公会計特別委員会が設置されたり,日本地方自治研究学会が設立されるなど,この領域に関する調査研究活動が実施され,いくつかの研究成果が公表されており(注4),ようやくわが国においても公会計を本格的に論ずる素地が生まれつつある。

 本稿では,以上のような状況を踏まえて,わが国の地方自治体の財務会計制度の抱えている基本的課題の中で,主としてストック会計の導入の問題を,その必要性や自治体の試みを中心に検討する。この問題を取り上げる理由は,第一には,地方自治体会計にストック会計がないことは致命的欠陥であるとの主張が多くみられ,従来からその採用が叫ばれていたが,近年,貸借対照表による財政状況の把握の重要性が再認識される機運が生まれつつあることによる。第二には,一般会計,特別会計,地方公営企業会計の三者を連結した財務諸表を作成しようという連結決算の採用の問題は,ストック会計の導入と相互補完的な関係にあり,ストック概念の明確化なしには現実味を帯びないという意味で重要性を有するからである。

 さらにこの問題は,現金主義から発生主義への転換,資本的収支と経常的収支の区分,資産概念の明確化と持分概念の確立,というような会計理論上検討すべき課題を内含しており,地方自治体に企業会計方式を導入し,「企業会計化」を目ざすことの是非を考える上で格好の素材を提供している。

 以下ではまず,わが国の地方自治体の財務会計制度の特徴を明らかにするために,現行制度の問題点を指摘し,アメリカおよびイギリスの公会計制度の現状について概観する。さらに,ストック会計の導入をめぐる問題に焦点をあて,地方自治体の中で貸借対照表の作成という具体的な試みを行った熊本県の事例をその作成方法を中心に論ずる。そしてこれらの検討を通して,地方自治体の財務会計制度の今後のあり方を考える上での一視座としたい。

 Ⅱ 地方自治体の財務会計制度の問題点と米・英の動向

 わが国の地方自治体には,国の会計法や財政法といった会計基準としての単独の法令は存在せず,地方自治法,地方財政法,地方公営企業法などにおいて基本的な規定が設けられ,その施行令,施行規則,施行規程において手続や様式が詳細に定められている。特に,地方自治法は地方自治の全ての活動を総括するものであり,同法第1条において,「地方自治の本旨に基づいて,地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め,併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより,地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに,地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。」と規定されている。

 なお,地方自治体の会計に関しては,昭和38年に改正された同法第2編第9章「財務」の第208条から第243条の5においてその内容が規定されており(注5),これが今日まで適用されている。

 この地方自治体会計の特徴は,いわゆる「官庁会計方式」を採用している点に求められよう。すなわち,官庁会計では,地方公営企業を除き普通会計全般に関して基本的に現金主義を採用しており,各会計年度における歳入歳出は現金収支に基づいて会計処理されている。したがって,この現金主義会計では,経常的収支と資本的収支が区別されておらず,その結果,各会計年度における歳入歳出の適正な期間的対応が行えないという問題点が存在している。

 また,記帳形式として複式簿記ではなく,単式簿記を採用しているために,記録の網羅性,正確性および検証可能性に欠け,ストックとフローを区別し両者を帳簿組織上統合できる計算システムになっていないという欠陥を有している(注6)。さらに,基本的に各会計年度における支出は,当該年度の収入ををもって充てなければならないとする単年度主義が採られている点もその特徴としてあげられる(注7)。このように,地方自治体会計においては企業会計とは明らかに異なる会計システムを採用しているのである。

 次に地方自治体の財務報告制度は,通常,予算の報告,予算の執行状況の報告,決算の報告に区分されており,これらの報告は地方自治法において以下のように規定されている。

 (i)予算の要領の公表(地方自治法第219条)

 (ii)決算の要領の公表(同法第233条)

 (iii)財政状況の公表(同法第243条の3)

 これらの規定の中で,予算の要領の公表及び財政状況の公表は,住民に対して予算の民主性を確保する目的で予算公開の原則を定めたものであり,決算の要領の公表は,予算に対する執行状況を明らかにすると共に財務上のアカウンタビリティを果たす主要な手段として,住民に公表することが定められたものであるとされている。

 予算の公表に関しては,国の場合と同様に,予算が地方自治体の財政にとって最も重要な要素であることから,各自治体とも住民に広く公表されている。住民にとっては徴収された税金の使途や各自治体の施策を知る上で,予算は不可欠な手段であり,地方自治体会計が,予算制度を重視する官庁会計方式を採用していることは既に述べたところである。

 これに対して決算の公表に関しては,地方自治法第233条において次のように規定されている。①出納長又は収入役は,毎会計年度政令で定めるところすなわち歳入歳出予算について決算を調製し,出納閉鎖後3ケ月以内に地方公共団体の長に提出しなければならない。〔決算とは会計年度の歳入歳出予算の結果を示す「歳入歳出決算書」を調製することである。この他に政令で定めた書類として「歳入歳出決算事項別明細書」,「実質収支に関する調書」,「財産に関する調書」がある〕②地方自治体の長は,決算及び上記の書類を監査委員の審査に付し,さらに当該決算を監査委員の意見を付けて次の通常予算を議する会議までに議会の認定に付さなければならない。③地方自治体の長は,決算をその認定に関する議会の議決とあわせて,都道府県にあっては自治大臣,市町村にあっては都道府県知事に報告し,かつその要領を住民に公表しなければならない。

 このように現行の決算制度においては,作成すべき決算書類として「歳入歳出決算書」「歳入歳出決算事項別明細書」「実質収支に関する調書」といったフロー情報を示すものに重点が置かれ,ストック情報を示す貸借対照表の作成は要求されていない。これを代替するものとして「財産に関する調書」があるが,後述するように,これは有価証券などの一部の財産について金額表示がされているだけで,その他の公有財産,物品などについては物量単位のみの表示であり,ストック情報としては極めて不十分であるために,企業会計における貸借対照表のようなストック表の作成が提言されている。

 さらに,財政状況の公開に関しては,地方自治法第243条の3の規定により,①歳入歳出予算の執行状況,②財産の現在高,③地方債の現在高,④一時借入金の現在高,⑤その他財政に関する事項,を毎年2回以上住民に公表することを義務づけている。各自治体では,財政状況を毎年2回公表される「財政事情」(財政のあらまし)といった公報や,「市政だより」といった広報を通じて公開しているが,その内容は予算や決算の要領の公表内容よりは詳細になっているが,各自治体によってまちまちである。

 たとえば,名古屋市の「財政のあらまし」(平成3年3月発行)と神戸市の「財政のあらまし」(平成2年12月発行)について,各々財政状況の内容を検討してみると,(表1表2参照)名古屋市の場合にはわずか7頁の小冊子で財政状況の内容もきわめて簡単な概要しか記載されていないが,神戸市の場合は38頁に及び各項目ごとに詳細な説明や資料が記載され,各自治体の財政状況の公開に対する姿勢の違いが窺える(注8)。

表1 名古屋市の決算(平成元年度)及び市有財産の状況
表2 神戸市の決算(平成元年度)及び市有財産の状況
市有財産

 このような各自治体による財政状況の公開の精粗の違いは,表示方法の基準および法令への準拠性という視点から考えた場合,住民に対して有用で十分なアカウンタビリティを果たしているといえるだろうか。企業会計原則でいう明瞭性の原則または公開性の原則に照らす限り,住民に対しては少なくとも,(ア)公開すべき事項は何であるかという公開事項の内容と,(イ)公開事項を決算書類などで具体的にどのように記載すればよいかという公開事項の表示方法,の2つの条件を明確にすることによって,表示方法の基準および法令への準拠性が確保されるのではないのだろうか。

 概して現状では,財政状況の公開の曖昧さが公報の広報化現象をもたらし,「義務としての報告からサービスとしての情報提供への変質を示すものである。公報が義務として行われる場合は責任報告書であり,アカウンタビリティ・リポーティングであるが,それが広報化される場合には,しばしば,インフォメーション・サービスに転化し,責任報告の実体を欠くこととなり,義務としての公報の空洞化現象が生ずる。」(注9)との批判もされている。これを防ぐためには,準拠性の確保と共に,ディスクロージャー制度の社会的確立の立場から地方自治体に関する財務会計報告基準の明確化が必要となろう(注10)。

 ここで,わが国との違いを明らかにするために,アメリカとイギリスの公会計制度の現状を簡単に紹介してみよう。

 近年,アメリカやイギリスをはじめ,カナダ,オーストラリアなどの先進諸国では,会計専門家団体を中心に,公会計制度の体系化を図るために積極的な活動が展開されている(注11)。アメリカでは,1984年に,アメリカ公会計審議会(National Council on Governmental Accounting, NCGA)の後継機関として,公会計基準審議会(Governmental Accounting Standards Board, GASB)が設立され,現在ではアメリカの州・地方政府の会計・報告は,GASBが1987年に公表した基準書,「公会計及び財務報告基準集」(Codification of Governmental Accounting and Financial Reporting Standards, 以下基準書と称す)に準拠して行われている(注12)。

 この基準書の基本的な特徴としては,(ア)基金会計システム(Fund Accounting System)の採用,(イ)勘定グループ(Accounting Group)による一般固定資産・負債の処理,(ウ)発生主義または修正発生主義の適用,(エ)予算の重視,(オ)基金結合ベースによる年次財務報告書の公表,などがあげられている。この中で,基金会計システムとは,基金((1)政府基金−一般基金,特別収入基金,資本プロジェクト基金および債務決済基金,(2)事業基金−企業基金および内部サービス基金,(3)信託基金−信託および代理機関基金,という資金会計単位を指す)ごとに,複式簿記により,資産,負債,持分,収入,支出を一組の独自平均勘定で会計処理するシステムであり,アメリカ公会計制度の重要な特徴を形成している(注13)。

 財務報告については,基準書では,州・地方政府における財務諸表の比較可能性を確保するために,一般に認められた会計原則(Generally Accepted Accounting Principles, GAAP)に準拠して,基金ならびに勘定グループに関する財政状態および財務収支成績を公正かつ完全に開示することを求めており,具体的には,中間財務報告書ならびに包括的年次財務報告書の作成・公表を要求している。

 前者は,主として経営管理目的のために作成されたものであって,一カ月または四半期の財政状態および予算額との比較を示した財務収支成績を明らかにする財務諸表である。それに対して後者は,経営者,立法府のスタッフ,債権者,財務分析家などの要請に応じて各会計年度ごとに作成・公表されるものであり,これには,①一般目的財務諸表,②基金別結合報告書,③個別基金及び勘定グループ報告書,④附属明細表,などが含まれている(注14)。

 このような動向と共に,州・地方政府の新たな財務報告目的を明示し,財務報告基準展開のフレームワークを提示するものとして,GASB概念報告書第1号「財務報告の目的」(Objectives of Financial Reporting)が公表されており,今後の展開に重要な意義をもつものとして注目されている。

 他方,イギリスでは,勅許理財官協会(The Chartered Institute of Public Finance and Accountancy, CIPFA)が地方自治体の財務報告のフレームワークの形成に主導的な役割を果たしてきた。CIPFAは,1980年に地方自治体に対して会計基準実務書(Statements of Standard Accounting Practice, SSAP)を適用することを決定し,これを受けて,1987年4月には,「地方自治体へのSSAPの適用に関する実務勧告書」(Statement of Recommended Practice, SORP)(注15)を,同年7月には「地方自治体会計の実務コード」(Code of Practice on Local Authority Accounting)(注16)を公表し,両者とも1987年の会計年度から適用されている。また,政府レベルでは,1982年に「地方自治体財政法」,1983年には「計算書類及び監査規則」(83年規則)が制定・公布され,パブリックセクターの財務報告について明確な規定が設けられている。

 このように現行制度の下では,83年規則が地方自治体の財務諸表に関する法律上の規定を行い,実務コードが財務諸表の作成・公表に関する会計原則および実務を規定し,さらに,この両者を補完するものとしてSORPが存在するという関係にある。

 イギリス地方自治体会計の特徴は,各自治体が提供するサービスを独立した基金として捉え,各基金ごとに会計・報告を行う基金会計システムが基本的な会計実務となっている点である。同じ基金会計でも,アメリカとは基金の捉え方が異なっており,具体的には,地方自治法において住民に対するサービス活動のために一般地方税基金または州基金の保持を義務づけ,共通的なサービスのための特別基金(貸付基金,資本基金,修繕基金など)の設定を認めている。さらに第三者のための信託基金などの設定も容認されており,これを含めて各基金ごとに複式簿記に基づき会計帳簿から誘導的に財務諸表を作成している。

 また財務報告に関しては,83年規則により州議会などに対して決算報告書を作成・公表することが義務づけられており,その決算報告書には,実務コードの規定に従って(ア)説明序文,(イ)会計方針の説明書,(ウ)会計報告書,(エ)注記を記載することが要求されている(注17)。

 以上のように,アメリカおよびイギリスの地方自治体会計は,わが国のそれと比べて合理的でシステマティックな会計制度として機能していることが窺い知れ,わが国との基本的な違いが指摘できる。

 Ⅲ ストック会計の導入の必要性と熊本県による試み

 本節では,わが国の地方自治体会計の抱えている課題の中で,ストック会計の導入の問題に焦点をあて,その必要性について言及した上で,熊本県の事例を取り上げてみる。

 現行の地方自治体の財務会計制度がどのような問題を抱え,それをいかに改善すべきかについては,地方財務会計制度調査会が,昭和37年に「地方財務会計制度の改革に関する答申」を公表して以来,これまでにいくつかの研究や試みが行われている。その中で,先駆的研究として注目されるものが,神戸都市問題研究所によって,昭和52年に実施された「都市経営システムの開発に関する研究」であろう。ここでは都市行政における経営的視点導入の可能性を探るという目的で都市経営アンケート調査が実施され,都市経営に対する印象や,その定着の方向性などを分析するために地方自治体の首長に意見を求めている。この中で,「企業会計に関するアンケート」として,企業会計方式の選択的導入を検討するとの目的で設問が行われ,その実態が明らかにされている。(表3参照

表3 企業会計に関するアンケート

 この結果によれば,現在との意識の違いはみられるものの,いくつかの点で興味深い回答が得られていることがわかる。たとえば,当時における財務会計の問題点としては,単年度主義(31.9%),サービスとコストとの関連性の欠如(25.9%)に対して高い回答が寄せられており,地方自治体会計の構造的欠陥ともいえるストック会計の不在(5.6%)に関してはきわめて低い回答率になっていることがわかる。これは,地方自治体の首長の意識の低さというよりも,当時の地方自治体の財政状況や,実現可能性といった制度上の問題がその背景にあることを勘案すべきであろう。

 また財務会計の公開制度については,住民に簡単に理解できるように(38.3%),広報等で各事業を補足説明する(36.3%),といった結果が示すように,公報化と広報化についての明確な区別意識が欠如していることを物語っている。さらに,財務会計制度に対してどのような改善を求めるかについては,現行制度を容認している回答が半数近くに上り,(42.9%),資金運用計算の明確化(25.9%),連結決算の実施(13.9%)にも関心が示されている。相対的には,財務会計制度の改革に対しては意識は低く,フロー情報の充実を求めるなど現行制度の枠内における改善を示唆する結果となっている(注18)。

 いずれにせよ,このようなアンケート調査は,各自治体の意識を探る上できわめて有用であり,今日のように公会計に対する関心の高まりや,自治体を取り巻く社会的・経済的環境も著しい変化を遂げている状況を考えると,住民に対する調査も含めて,定期的・継続的な調査が実施されることが望まれる。

 さて,ストック会計の導入の問題に目を向けてみると,わが国の地方自治体会計では,前節で検討したように,地方自治法の規定に従い「歳入歳出決算書」「歳入歳出決算事項別明細書」「実質収支に関する調書」および「財産に関する調書」の調製を要求しているが,ストック表である貸借対照表を作成する慣習は存在していない。このことがわが国の地方自治体会計の致命的欠陥であるとの批判もなされている。

 このような状況を改善するために,先に示した日本会計研究学会および日本公認会計士協会の研究に加えて,次のような研究や報告書が地方自治体や関係諸団体により公表されており,ストック会計の導入を含めた財務会計制度の改革に対して積極的な提言が行われている。

① 神戸市行財政改善委員会報告書「都市行財政運営の近代化」(1977年1月)

② 「地方財務会計制度の改革に関する研究」(神戸都市問題研究所 1978年9月)

③ 「地方公共団体の連結・総合決算に関する研究」(地方行政システム研究会,1982年3月)

④ 「地方公共団体のストックの分析評価手法に関する調査研究報告書」(地方自治協会,1987年3月)

⑤ 「貸借対照表使い財政運営(熊本県)」(日本経済新聞,1987年12月4日)

⑥ 「企業会計的手法による財政分析と今後の財政運営のあり方に関する調査研究報告書」(地方自治協会,1988年3月)

 しかしながら,これらの研究では,貸借対照表の作成方法をはじめ,資産の範囲,資産の評価,発生主義との関係,減価償却費の取扱い,経常的収支と資本的収支の区分,などについて見解が分かれており,今後の検討がさらに必要と思われる。

 ここで議論を整理してみると,問題となるのは,地方自治体会計において何故ストック会計が必要なのか,さらにこれまでいくつかの提言がなされているにも拘らず,ストック会計の導入が進展をみないのか,という2点に絞ることができよう。

 まず第一の問題については,従来から指摘されてきたのは,現行制度におけるストック情報の不備・不完全さであり,最近に至っては,地方自治体を取り巻く経済環境の変化にその必要性を求めることができる。周知のように,現行制度ではストック情報として「財産に関する調書」(内部的には「公有財産表」)だけが利用可能であり,そこでは,有価証券,出資による権利,債権,基金などの一部のものだけが金額表示され,その他の公有財産(土地および建物,山林,動産,物権,無体財産権),物品,などについては物量表示されているに過ぎず,一種の財産目録的なものになっておりその有用性が疑問視されている。

 他方,「財産に関する調書」には,公債残高,借入金,預り金などのマイナスの資産としての負債に関してのデータが表示されていない。したがって,これらについては財政のあらましや内部資料から独自に判断しなければならず,地方自治体の財政に占める負債の割合が年々逓増傾向にある状況を考えると,適宜性に欠けているといえよう。

 ところが,近年ではそのストック会計の必要性が,マクロ的な視点へと移行している。それは一つには,国民経済全体の成熟度合いの高まりによって,「ストック経済化」している時代背景や,国や地方自治体の行財政も国民経済全体を構成する一単位であって,その経営の効率性や有効性を考えるべきとする公共経済学的視点から,公共のストックを適切に把握しようとする状況によるものである。

 また経済環境の変化という観点から考えると,地方自治体の管理運営する社会資本の中で,投資的経費に占める建設事業費が高い比率を維持し,また地方債の増発によって公債費の高騰を招くことなどによって,財政の硬直化をもたらし(注19),現行のフロー情報だけでは財産の管理・保全などの財政運営や財政構造の実態を適切に把握できない状況も生まれている。(図1表4表5参照

図1 歳出決算額に占める義務的経費と投資的経費の割合の推移
表4 性質別歳出決算額の状況(推移)
表5 普通建設事業費の状況(財源内訳)

 かかる状況の下で地方自治体が適正にその役割を果たすには,当然ながら行財政の簡素化や効率化を図り,経費の節約や合理化を推進することが必要である。さらに限られた財源を重点的かつ効果的に配分し,節度ある財政運営に努めると共に将来の財源の確保を図らなければならず,そのためには適正なストックの把握が不可欠となるのである。

 第二の問題は,官庁会計方式というわが国の地方自治体会計の計算構造自体から派生しているといえよう。わが国の地方自治体会計は,歳入歳出の対応関係により収支計算を行う現金主義会計を重視する計算構造であり,年度間の収支の照合が基本であるために経常的収支と資本的収支の区別がなされていない。

 さらに,すでに指摘したように,単式簿記を採用しているために,記録の網羅性,完全性に欠け,財務情報の正確性に関する自己検証機能が作用せず,会計帳簿から誘導的にフローとストックを有機的に結びつけた財務諸表を作成することもできず,財産の管理保全と収支を会計的にリンクさせようという発想が存在し得ないことになる。したがって,取得された資産も財産であって,公共財たる行政サービスを長期にわたり提供していくための資本であるとの認識が存在せず,ストック概念自体が不明確であり,企業会計のような貸借対照表を作成することは困難である。この意味においては,官庁会計方式の改善がストック会計の導入の第一歩となろう。

 ところで,ストック会計の導入に関する具体的な方法としては,①財産に関する調書の改善・充実を図る,②現行の決算書類や決算統計などの資料から貸借対照表に近似したものを作成する,③複式簿記を採用することによって企業会計方式による貸借対照表を作成する,という3つの方向性が示されているが,概してさまざまな制約から②の現行制度の枠内において貸借対照表を作成する研究が多く見受けられる。

 以下では,最近の研究として熊本県が作成した貸借対照表の事例を取り上げてみたい。この事例を取り上げる理由は,わが国の地方自治体が自らの貸借対照表を作成し,世間に公表した初めてのケースとして注目に値するということ,さらには貸借対照表を分析した結果,従来のストック情報やフロー情報では明らかにされなかった特徴が浮彫りにされたという意味で,ストック会計導入の一つの試金石になり得ると考えられるからである。この熊本県の事例に関する詳細な分析は別稿に譲るが(注20),ここでは主として貸借対照表の作成方法を中心に検討を加えてみよう。

 (1) 作成目的

 熊本県が貸借対照表を作成した目的としては次の4つが指摘されている(注21)。

(ア) 従来のフロー分析に加えてストックも分析し,財政の総合評価の一助とする。

(イ) 財政の中期的な展望として作成した中期財政試算に加え,過去の経年変化を5年程度を単位とする大きな流れで捉えて,多角的な財政分析に基づく予算編成に役立てる。

(ウ) 開かれた県政を目指す一環として,分かりやすい形で財政状況を公表する。

(エ) 職員の企業マインド,コスト意識をかん養する。

 (2) 貸借対照表の特色

 貸借対照表は,地方自治協会が昭和62年3月に公表した「地方公共団体のストックの分析評価手法に関する調査研究報告書」に示された手法によって作成されており,一般的な特色として次の点をあげている。

(ア) この手法による貸借対照表は,従来からのフロー面からの分析に加え,フローとストック両面からの総合評価,ストックと負債(地方債)の関係などについて適正な財政分析を行う上で有用である。

(イ) この手法による貸借対照表は,複式簿記に基づいて作成されていないので,それに係わるさまざまな問題が回避されている。

(ウ) 各年度の資本的収支を基礎として貸借対照表が作成されているので,行政財産の取扱いをはじめ,資産の範囲,評価の方法に関する問題は回避され,財政分析にも利用することができる。

(エ) この手法による貸借対照表は,市町村や民間団体への補助金のうち当該市町村等において投資的事業に充てられた部分も含まれているために,県が関与して形成された総資産(広義の県民資産)を反映している。

 (3) 貸借対照表の作成方法

 貸借対照表の作成は,基本的に地方自治協会の示した手法に則って,決算統計に基づいて行われた。具体的な手順としては,フロー分析の基礎データである普通会計決算統計における収支を,経常的収支と資本的収支に分けて,資本的収支を基礎にして各年度の貸借対照表を作成する。さらに,各年度の貸借対照表を,昭和51年度,昭和56年度および昭和61年度の各年度末現在で集計し,決算統計上の調整項目を加減した上で,5年単位で過去10年間の経年変化を辿る形で作成されている。以下,作成された貸借対照表における区分や評価方法について,いくつかの特徴がみられるので若干の説明を加えてみる(注22)。(表6参照)

表6 熊本県の賃借対照表

 (ア) 資産の区分と評価方法

 資産の区分は地方自治体の財政状況を反映して固定性配列法が採用され,固定資産,投資および流動資産に区分され,繰延資産は設定されていない。

 固定資産は,全て有形固定資産を示しており,昭和40年度から昭和61年度までの各年度の決算統計に計上された普通建設事業費をその取得価額としている。有形固定資産は,決算統計に基づいているために,土地と建物・構築物等に区分するにとどまり,後者について若干の細分化がなされている。なお,減価償却は,建物・構築物等を2つの区分に分けて定額法により行い,表示方法は間接控除方式を採用している。

 投資は,投資および出資金,貸付金,基金に分類されている。この中で,基金は通常は流動資産に区分されるが,地方自治体の基金は,その使途や取り崩しが制限されているために(注23),流動性をもつものとしてよりも投資に区分するのが適当とされた。また基金の中では,特定目的基金と資金運用基金に含まれる土地開発基金が記載されている。

 流動資産は,現金・預金に限定し,これを財政調整基金と歳計現金(形式収支)に区分している。財政調整基金は,年度間の財源調整のために設けられたもので,地方自治体の基金の中で最も流動性の高いものである。歳計現金は,決算上の剰余金であり,県の歳入総額から歳出総額を差し引いた形式収支を示すのである。なお,この中には翌年度に繰越すべき財源も含まれている。

 (イ) 負債の区分と評価方法

 負債は,資産と同様に固定性配列法に従い,固定負債と流動負債に区分されている。

 固定負債は,地方債だけを表示し地方債の現在高から次年度に償還する予定の地方債元金高を控除した金額が記載されている。この他に,長期借入金や退職手当基金を固定負債に計上することも考えられるが,その算定金額が不明確であることから計上されていない。

 流動負債は,翌年度償還予定額と翌年度繰上充用金に区分されているが,前者は地方債の現在高のうち翌年度に償還する予定の元金部分である。後者は財源不足に備えて翌年度の歳入の一部を当該年度の歳入に組入れたものであり,これは翌年度に清算されるべき性質のものである。

 (ウ) 正味財産(資本)の区分とその評価方法

 正味財産は,企業会計における資本に相当するものであり,ここでは資本金と剰余金に区分されている。

 資本金は,自己資本金だけを表示しており,これは毎年度の資産形成のために費消された県の一般財源の累計額を示すものである。自己資本金の金額は,正味財産総額から剰余金を控除した残額が計上されている。

 剰余金は,国・県支出金,工事負担金・寄附金,積立金および公共的必要余剰に分類されている。熊本県では国支出金だけが表示されているが,これは国から交付された国庫支出金の累計額であり,主として地方自治体の普通建設事業費,貸付金などの資本的支出に充当される。同様に,工事負担金・寄附金は市町村・受益者から県に支出された分担金・負担金および寄附金の累計額を示しており,企業会計でいう資本剰余金に相当する。

 積立金は,特定の目的のために地方自治体に留保された資金であり,通常は基金として特別経理している。積立金としては,資産の部に計上されている3つの基金の他に,地方債の償還財源以外に充当することのできない減債基金を設定することが容認されている。地方自治体の積立金の特徴は,企業会計のように,未処分利益の処分項目と積み立てられた部分の他に,歳出予算を通じて決算前に積み立てができるという点である。

 公共的必要余剰は,企業会計における当年度未処分利益金に対応するものであり,地方自治体の翌年度に繰越すことのできる財源であり,資産の部の歳計現金(形式収支)に一致する。ここで留意すべきことは,地方自治体は,企業会計のように利益の追求を目的とするものではないので,その金額の大きさが自治体の健全性を表す指標とはならないが,適正な財政運営によって一定の金額を維持することが望まれる。

 以上のような形で作成された熊本県の貸借対照表は,複式簿記を用いて作成されたものではなく,決算統計をベースにして作成しているために企業会計的視点からみれば,資本金の算定方法の是非や自治体職員にとって重要な退職手当基金が計上されていない点を初めさまざまな問題点を内包しているが,現行の地方自治体会計制度の制約の中で,作成・公表された意義はきわめて大きいといえよう。貸借対照表を分析した結果,(1)公共事業の推進によるストックの着実な増加,(2)それを県債に依存して賄ったことによる負債の増加,(3)その結果による公債費の高騰,(4)積立金の減少,という連鎖反応が生じていることが明らかにされた。

 このように,従来のフロー情報やストック情報では明らかにされなかった財政状況の実態が示されたことは,貸借対照表によるストック面での分析の必要性を再認識させたという点で評価に値する。神戸市においても同様な試みがみられるが(注24),わが国の地方自治体において,今後これを1つのベースとしてストック情報の改善・充実が図られるかは,住民を含めた各自治体当局の意識の高揚を期待するしかないが,少なくともその実現可能性を模索することは必要であろう。

 Ⅳ むすび

 本稿では,わが国の地方自治体会計の現状を明らかにし,その改善の1つの試みであるストック会計に関する論議に焦点をあて検討を加えた。最後に,今後の課題として次の2点を指摘しておきたい。

 第一には,ここで検討したストック会計の導入をはじめとする地方自治体会計の「企業会計化」志向に関する問題である。地方自治体の財政構造の健全化を図るために財政状況を適正に把握し,それを財政運営に役立てることは,今日のような財政構造の硬直化現象を勘案すると不可欠なことである。そのためには,従来のものを改善し,貸借対照表などによるストック情報の充実を図らなければならない。

 しかしここで認識すべきことは,わが国においても,一部の研究や主張にみられるように,欧米諸国のように複式簿記を採用し,誘導的に収支計算書と貸借対照表を作成することによって,財産の管理保全と現金収支を会計帳簿上から把握できるシステムを確立することを早急に実現することが必要であるのかという点である。もちろん長期的展望としてはそれが望まれるが,これはいわゆる地方自治体会計の「企業会計化」につながるものであり,その実現によって問題が解決されるかは疑問の余地が残る。

 これは,企業会計と地方自治体会計という非営利会計との関係をどのように捉えるのかという問題に係わるものである。たとえば,アンソニーによれば,両者は,利潤動機および財務諸表の利用者のニーズの相違において異なるだけであり,それが両会計の基本的相違を形成する根拠となっているが,その他については根本的な相違は存在しないと主張している。他方,わが国においても,都市経営も都市経済や都市行政志向から,企業のようなマネジメント志向へと転換を図り,地方自治経営を推進しようという動向がみられることも事実である。

 しかしこのような状況を,企業会計における記録計算システムの導入の問題とリンクさせることは,わが国の場合には,その歴史的背景や社会性を考慮すると時期尚早の感がある。したがって,官庁会計方式の改善・充実のためには,熊本県の採用した手法でもその効果が十分に達せられたことなどから考えて,段階的に精緻化したものに近づけることが肝要である。またそれと同時に,「企業会計化」はプラスの面だけではなく,たとえば粉飾決算の助長といったマイナスの面にも作用する危険性を孕んでいることを,企業会計の反省の上にたって銘記しておくべきであろう。

 もう1つは,アカウンタビリティに関する問題である。地方自治体の財務報告が,住民から預った税金の使途を明らかにし,アカウンタビリティを果たすという第一義的な目的をもっていることは,企業会計の場合と同様である。しかし,地方自治体の財務報告のもつアカウンタビリティの重さは企業会計以上のものと考えるべきである。すなわち,地方自治体の住民からの収入は,法令により強制的に徴収されたものであり,必然的に行政コストの一部を負担している。したがって,地方自治体としては,これを主たる財源として財政運営を行うという意味において,行政活動の成果を財務会計制度を通じて住民に明らかにするというアカウンタビリティは,より重要性を帯びたものといえよう。

 現状では,財政のあらましなどを通じてその成果が住民に公表されているが,十分にアカウンタビリティが果たされているかは,広報化現象という批判が示すように疑問の余地がある。もちろん,ストック会計の導入をはじめ,連結決算の採用,さらには外部監査の導入などは,アカウンタビリティをより促進する誘因とはなるが,必ずしも相関関係にあるものではない。したがって,今日のように住民自治が叫ばれている状況を踏まえて,地方自治体は住民のニーズに沿った財務公開制度を模索することが重要であり,このことによってアカウンタビリティの現代的意義が新たに付与されるものと思われる。それは正に,単なる準拠性の側面だけではなく,経済性,効率性,有効性という3つの側面を考慮すべき必要性から生ずるものともいえよう。今後の地方自治体会計の動向に注目をしたい。尚,ここで取り上げた問題は,公共ストックの把握の重要性が叫ばれている状況から考えて,当然国家レベルにおいても検討すべきであり,国の財政システムの改善を含めて,新たな政策的対応が求められねばならないことを付言しておきたい。

(注)

1) 拙稿,「わが国における地方自治体会計の基本的課題」『経営行動』,Vol.6 No.2, 1991年6月,53頁。

2) この点に関して次の文献を参照されたい。

 吉田寛「公会計責任とディスクロージャー」諸井勝之助編『現代会計とディスクロージャー』中央経済社,昭和55年,108-109頁。

3) わが国の地方自治体の財務会計制度の改革については,次の文献を参照されたい。

 高寄昇三『地方自治の経営』学陽書房,1978年,238-262頁。神戸都市問題研究所地方財務会計制度研究会「地方財務会計制度の改革に関する研究」『都市政策』第14号,1979年1月,123-156頁。吉田寛『地方自治と会計責任』税務経理協会,1980年。隅田一豊「わが国地方財務会計制度の近代化」『同志社商学』第40巻第4号,1988年11月。

4) 今日まで次のような研究報告が公表されている。

 日本会計研究学会特別委員会報告『公会計の基本問題に関する国際比較』1987年-1988年。日本公認会計士協会近畿会社会会計委員会『地方自治体財務会計制度に関する研究』1982年3月,『地方自治体における財務会計制度と公認会計士の役割』1982年8月,『地方自治体財務報告のあり方に係る研究』1988年3月。日本公認会計士協会公会計特別委員会編『公会計制度の解説』ぎょうせい,1988年。日本監査研究学会地方自治体監査研究部会編『地方自治体監査』第一法規出版,1991年。

5) 次のような内容が規定されている。①会計年度及び会計の区分 ②予算 ③収入 ④支出 ⑤決算 ⑥契約 ⑦現金及び有価証券 ⑧時効 ⑨財産 ⑩住民による監査請求及び訴訟 ⑪雑則

6) わが国においては,明治8年から明治22年に至るまで官庁会計において複式簿記が採用されていたという歴史的事実があるが,明治23年に会計法規が統一化された状況下で,廃止の運命を辿った。

7) 一部の例外項目として①継続費の逓次繰越し,②繰越明許費,③事故繰越し,④翌年度歳入の繰上充用などが容認されている。

8) この他にも,東京都や熊本県の財政のあらまし(平成2年12月発行)は,各々49頁,69頁にわたり,詳細な分析や資料が記載されており,財政状況の公開についての積極的な姿勢が窺える。

9) 吉田寛,前掲書,第7章「都市財政における企業会計方式の導入」,87頁。

10) 現在,公認会計士協会近畿会公会計委員会において「地方自治体財務会計報告原則」が検討されている。詳細については,「地方自治体の会計及び監査制度の研究」『JICPAジャーナル』No.425, 1990年12月を参照されたい。

11) 欧米の公会計制度については,次の文献に詳細に論じられている。

 石井薫『公会計論』同文舘,1989年。吉田寛・原田富士雄編『公会計の基本問題』森山書店,1989年。若林茂信『新アメリカ イギリス公会計』高文堂出版社,1987年。菊池祥一郎監訳『アメリカ公会計原則』同文舘,1986年。菊池祥一郎『アメリカ公会計論』時潮社,1977年。

12) GASB, Codification of Governmental Accounting and Financial Reporting Standards, June 1987.

 なお,GASBの動向については次の文献を参照されたい。橘晋介「アメリカ公会計原則の問題点と新展開」,日本会計研究学会特別委員会報告,前掲書,48-54頁。橘晋介「アメリカ公会計基準の新しい動向」,吉田寛・原田富士雄編,前掲書,115-133頁。

13) アンソニーはGASBの会計基準設定に関わる問題について批判的な主張を行っている。

 Anthony, R.N., "Games Government Accountants Play",Harvard Business Review, Sep.-Oct.1985. Anthony, R.N.,Should Business and Non-business Accounting Be Different?, Harvard Business School Press, 1989.

14) 一般目的財務諸表には,①基金及び勘定グループの結合貸借対照表,②政府基金及び信託基金の結合収支並びに基金残高変動報告書,③政府基金の予算と実績を対比した結合収支並びに基金残高変動報告書,④事業基金と信託基金の結合収益,費用及び留保利益・基金残高変動報告書,⑤事業基金と信託基金の結合財政状態変動表などが含まれている。

 なお,基金会計システムについては次の文献に詳細に述べられている。

 隅田一豊,前掲論文,11-18頁。

15) CIPFA, Statement of Recommended Practice, The Application of Accounting Standards to Local Authorities in England and Wales, April 1987.

16) CIPFA-Audit Commission Working Party, Code of Practice on Local Authority Accounting, CIPFA, July 1987.

17) イギリスの公会計制度については次の文献を参照されたい。

 吉田寛「地方自治体会計の基本問題」『会計』第132巻第3号,1987年3月。隅田一豊「イギリス公会計制度の研究−地方自治体会計の基本的枠組−」中部大学産業経営研究所『経営情報』第6巻第2号,1987年12月。隅田一豊「イギリス公会計制度の研究(2)−資本資産会計の特徴と問題点−」中部大学産業経営研究所『経営情報』第6巻第3・4号,1988年3月。

18) アンケート調査の結果の分析については,吉田寛,前掲書,第7章を参照されたい。

19) 地方財政白書(平成2年度版)によれば,普通建設事業費の割合は1988年(昭和63年)は歳出総額の28.4%(18,877,420百万円)を占めており,その財源として,27.4%の割合が地方債による借入によって賄われている。それに伴い,公債費の割合も9.4%を占め,ここ数年間10%前後を推移しているが,これは1970年(昭和45年)に比べると5.6ポイントも上昇している。

20) 熊本県の貸借対照表の分析については,原田富士雄「地方公会計とストック情報」,吉田寛・原田富士雄,前掲書,53-70頁,一瀬智司「公企業会計と公経営会計−公会計の公明化−」『会計検査研究』創刊号,1989年8月において論じられている。

21) 『日本経済新聞』1987年12月4日付。

22) 作成方法の詳細については,熊本県総務部財政課関係資料および「地方公共団体のストックの分析評価手法に関する調査研究報告書」を参照されたい。

23) 地方自治体の基金は,退職手当,県有施設整備,災害などのために利用することが規定されている。

24) その概要については,神戸市公会計制度研究会「公会計貸借対照表の作成について」『都市政策』第50号,1988年1月を参照されたい。ここでは,財産法による一般会計の貸借対照表及び全会計の連結貸借対照表の作成が検討されている。

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