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第4号 巻頭言

公会計システムの論理と倫理
吉田 寛

吉田 寛
(神戸商科大学名誉教授、流通科学大学教授)

 1927年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了,経営学博士。神戸商科大学教授を経て,88年から現職。日本地方自治研究学会会長,日本会計研究学会理事,日本オフィス・オートメーション学会常任理事,公益事業学会評議員など。

 主な著作は「会計理論の基礎」「社会責任・会計学的考察」「地方自治と会計責任」「改訂制度会計論」「公会計の基本問題・編著」など。

 Ⅰ 公会計の範囲と二つの会計:G&NP

 公会計には政府の会計と非営利事業の会計がある。アメリカ会計学会にはgovernment accounting and non・profit accounting section(G&NP Acctg Sec.)があるように,二つの会計は公会計のなかで似て非なるものでもある。イギリスでは,Public sector accounting という表現が一般的である。そこにはアメリカと同様に政府会計と非営利事業会計が含まれている。

 このように公会計は政府会計と同じではない。しかし,現金収支会計を基本とする点では非営利事業会計も政府会計と同じである。これには政府の外郭団体の会計や公社,公団の会計が含まれている。政府を含むこれらの団体は本来,営利を目地とするものではなく公共の福祉の実現を目的とするものであるから財政の維持に会計の目標がある。

 しかし,注意すべきは,財政の維持が目的とする事業の実現とスムーズにかみ合わないことである。そこで会計の目標と会計のカテゴリーの対応関係を明確にしなければならなくなる。このために設けられているのが,一般会計, 特別会計,企業会計(例 公営公益事業会計)の区別であり,会計の範囲がこれによって異なるばかりではなく,会計の目標がおのずから異なる。

 Ⅱ 財務資源と経済資源のいずれをとるか

 公会計の基礎概念を巡っては,何を測定の焦点とするかによって異なった解釈が生まれる。測定の焦点とされるものに財務資源と経済資源の区別がある。財務資源は現金資源と総財務資源に分かれる。このような認識から公会計制度は次のように分類される。

 
図表

 この分類では財務資源を対象とする会計概念を現金収支会計と発生主義会計に分けているが,後者は債権・債務収支を含む発生収支会計であり通常の官庁会計の特徴とする会計概念である。発生主義会計では年金や退職金等に対する引当債務も含まれている。完全な発生主義会計では固定資産の減価償却などの発生費用が計上される。これは経済資源のフローを対象とする公営企業会計などの収益事業会計の特徴とする会計概念である。

 我が国で一般会計や特別会計にも経済資源のフローを対象とする完全な発生主義会計を制度化するか否かは,官庁会計になにを求めているのかという会計目的の反省と行政サービスのコストの受益者負担に対する考えかたの再検討を経て判断されることである。

 Ⅲ 官庁会計の会計目的と発生主義会計

 一般会計や特別会計のような官庁会計では財務資源のフローを発生収支で把握することによって一会計期間の財政収支が健全な財政であったか否かを確認することが主たる目的である。したがって発生収支による資金会計の意味で発生主義会計が採用される。この会計概念は給付損益(費用収益)をその発生の事実に基づいて把握する事業損益会計とは目的を異にしている。財務収支の発生と費用・収益の発生とを混同しないことが大切である。発生主義会計という言葉によって両者を同一視しないことである。Lüder教授のいう発生主義と完全な発生主義の区別は発生収支会計と費用収益会計の違いを示している。これは財務資源のフローの把握と経済資源のフローの把握との認識の立場の違いを反映している。

 Ⅳ 行政コストの適正な測定と経済資源のフロー

 完全な発生主義会計を官庁会計にも採用すべきであるという主張が時代の潮流のようにもなっている。イギリスのCIPFAでは公立図書館や公立学校のサービスコストを時価で計算して適正な行政コストを明らかにし,行政の効率化を図らせようとする試案を公表しているが,これによってすべての行政コストの適正化が実現するものでもない。たとえば,警察行政のコストなどは治安の維持に係るものとしてどの国においても経済性の判断には通常の行政経費とは異った政治的考慮が必要である。軍備費もその最たるものである。

 行政の効率化を目的とする適正原価の概念は民生需要で使用料や料金として受益者に転化できる原価の測定に適している。完全な発生主義による経済資源のフローの把握はこのようにその範囲が限定されている。こうした適正原価の測定の対象から除外されている行政のコストでは財務資源のフローが期間的に適正であるか否かが最大の関心の対象である。つまり財政負担の適正化に問題が集中しているのである。

 Ⅴ 行政の適正化と会計検査院の役割

 このような行政の事実からみると,行政事業の結果を会計的に検査することの大切さは概ね契約や支出等の適法性が中心になる。支出等の経済的意味での適正性を判断するためにVFM監査などを実施するとしてもその有効な被検対象となる事業は限定される。軍事,公安などに対する行政支出についてその契約の適否や支出の適正性を経済的意味で検査するにあたっては,政治や行政の影響を可能な限り排除して,調達価格,調達数量あるいは動員計画などを純粋に経済的に評価し,その経済性,効率性および有効性を判定する作業が必要である。この種の作業はその中立性を守ることが困難であるが故にこそ実施の大切さを強調しなくてはならない。ここに会計検査院の貴重な役割があるといえよう。

 それにしても,行政コストの適正化を目的に経済資源のフローを会計測定の対象とする完全な発生主義を全面的に制度化するにはなお時間を必要とする。行政コストおよび資産の時価評価を伴う完全な発生主義の完成形態の導入となればなお更のことである。

 このような点を考慮すると,官庁会計では発生収支を把握する財政発生主義が当面の慣行としては妥当である。もともと経済的価値判断を超越している国家行政などに経済的価値判断の尺度である経済発生主義(発生給付損益計算)を導入することの意義がどれほどに人々に関心を持たせその必要性を認めさせることができようか。別言すれば,経済的価値判断の対象となりうる事業は行政事業より外すほうが経済的にも財政的にもさしずめは有意義であろう。しかし,抜本的改革を迫られる事態がいずれ来るであろうから,そのための研究および準備を怠ってはならない。諸外国の政府会計を比較研究し,その国際的調和化を目標に制度改革への準備をすすめるべきである。

 会計検査院は行政事業の性格および政府会計のあり方に対するこのような価値判断のための資料を国会や政府に提供する情報職能を果たすために会計検査を実施することによってこれまで以上に価値ある存在となるのではなかろうか。

 Ⅵ 公会計の論理と倫理

 公会計制度は政治と行政の結晶である。政治的価値判断と行政的選択の結果として生まれた行政事業における経済行為を価値計算的に整理するのが公会計制度である。

 したがって,経済資源の利用に対して効率,効果および経済性について通常の意味での経済学的価値判断がもっぱら優先するものではなく,政治的行政的選択が作用している。国家の安全,地方自治体の維持,公共の福祉など経済的選択を超えた行財政需要に対応しなければならない。

 公会計制度においてはこのような大前提のもとで,財政資金の調達および使途について,予算会計制度を前提として,財務報告することがその使命である。その論理は政治行政の価値判断に影響を受け,その倫理は適法性の維持と社会改革にある。

 政治行政の論理は経済および財政に影響を与えるが,一般会計特別会計には財政の論理が優先し,企業会計には経済の論理が優先する。公会計におけるこのような論理のプライオリティの関係が公会計システムのあり方に影響する。財政には財幣資源の概念が基礎となり,経済には経済資源の概念が基礎となるが,いずれの場合にあっても,政治と行政の論理が,会計方針の決定および会計政策に作用する。また公会計においては,たとえ,経済の論理が支配すべき企業会計においても財政の論理と政策が大前提となるものであるから,財政に対し経済の論理を吸収する政策や手段の開発にも会計検査院の役割を求め,財政を通しての公会計システムの新しい発展を期待すべきであろう。財政制度の改革がなければ公会計システムの新しい発展もない。

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