第17号

米国におけるタックス・ヘイブン対策税制の研究
−多国籍企業に対する調和的な課税制度の実現を目指して−
梶山紀子

梶山紀子
(会計検査院審議室調査官)

*本稿は,筆者が,平成7年度人事院行政官国内研究員として,横浜国立大学大学院国際経済法学研究科に派遣された際に作成した修士論文を要約したものである。

 1968年生まれ。90年会計検査院へ。鉄道検査課,上席調査官(科学技術担当)付を経て,現職。

Ⅰ 問題の所在

 タックス・ヘイブンとは一般に, 所得又は特定の所得に対し税が全く課されないか,又は課されても極めて低率であるような国や地域を指すといわれている(1)。このタックス・ヘイブンでは, 親会社がベース・カンパニーとなる子会社等を設立し,海外における企業活動の利益を当該子会社に帰属させることにより,企業グループ全体としての税負担の回避ないし軽減を図る租税回避が行われている。

 複数の国家間の税制の相違を利用した国際的租税回避によるタックス・ヘイブンの利用は,租税負担が投資決定の重要な判断要素とされるため, 課税の中立性が保たれている場合に比べ資本の流れに歪みが生じ,資本輸出国にとっては内国子会社等の海外逃避による中立的な国際競争関係の阻害,所得の海外流出による国家歳入の減少, タックス・ヘイブンを利用する納税者と利用しない納税者間の課税の公平性の侵害というような深刻な事態をもたらすことになる(2)

 タックス・ヘイブンの主な利用形態には, ①個人に多く見られる相対的に高税率国に居住する納税者が,タックス・ヘイブンへ住所地を移動する移住及び住所の移動, ②納税者の居住地での租税負担を軽減する目的で,納税者に直接帰属するであろう所得を帰属させるためのベース・カンパニーの設立,③タックス・ヘイブン国がある特定の国と有利な租税条約を締結している場合,その特典を得る目的でタックス・ヘイブンを通過させるトンネル会社の設立,④同一国内での自己保険の保険料については経費控除が認められないため,親会社のリスクについての保険を取り扱い, 保険料を高税率国で経費控除するための自家保険会社の設立,⑤海運業における「便宜置籍」会社の設立, ⑥外見上は非商業活動についての管理機能を果たしながら,租税回避, 政府の介入排除等の目的を持つサービス提供会社の設立がある(3)

 このタックス・ヘイブンの利用による租税回避に直接対抗する立法的対策として,タックス・ヘイブン対策税制がある。 このようなタックス・ヘイブンの濫用に直接対処することを目的とした対抗措置はサブパートF立法といわれており(4),この種の立法の代表例が1962年に導入された米国のサブパートF条項(subpartF provisions, Internal Revenue Code(内国歳入法典, 以下「IRC」という。)§§951−964)である。この規定は, 米国株主に保有されている被支配外国法人(controlled foreign corporation, 以下「CFC」という。)の特定の留保所得を,実際に分配額として受領していなくとも, その持分割合に応じて米国株主の総所得に合算して課税するもので,その後, 日本も1978年にこのサブパートF条項に類似した合算課税方式によるタックス・ヘイブン対策税制を導入している。

 日米の制度は, 合算課税方式を採用しているという基本的な考え方は同じであるが,合算対象となる外国法人の定義, 所得の認定・帰属, 適用除外等の内容は異なっている。米国は所得指定型アプローチを採用しており, 企業の設立国の税率に関係なく,CFCの一定の所得を特定し, その特定の留保所得を内国株主の持分に応じて帰属させる。これに対し日本は地域指定型アプローチを採用し, 特定外国子会社等の居住地あるいは事業遂行場所がタックス・ヘイブンにあれば,その留保所得を内国株主の持分に応じて帰属させ, タックス・ヘイブンとされる軽課税国の範囲は,法人に対する税負担率が25%以下である国又は地域(租税特別措置法施行令39条の14)とされている。よって, 日本の場合は, 留保所得が特定外国子会社等のいかなる事業活動から生じたものであるかは問わないのに対し,米国の場合は, CFCの所得のうち, 特定の所得だけが合算対象となる。また, 合算対象となる外国法人の定義は, 米国では, 議決権を有する株式又は株式の価値の50%超が,米国の株主により直接又は間接に保有されている外国法人であるのに対し,日本では, 軽課税国に本店等を有する外国法人で, その発行済株式総数(議決権を有しない株式を発行している法人にあっては,発行済株式数又は議決権を有する株式数)又は出資総額の50%超を,国内の居住者又は内国法人によって直接又は間接に保有されている法人である。よって, 日本の場合は, タックス・ヘイブンに本店を有する外国法人のみが特定外国子会社等に該当するのに対し,米国の場合は, 外国法人の本店所在地は問わない。 支配の要件である株式の保有割合も,日本の場合は, 発行済株式総数に対する直接又は間接の保有割合によるのに対し,米国の場合は, 更に株式の価値に対する保有割合も含まれており,日本よりも支配の概念が広くなっている。

 これらのことから, タックス・ヘイブンに存する外国子会社が,日米双方のタックス・ヘイブン対策税制における合算対象法人に該当しない場合には,当該外国子会社の留保所得に対し日米とも課税権を及ぼすことができず,反対に, 日米双方の本税制における合算対象法人に該当する場合には,当該外国子会社の留保所得に対する日米の二重課税が行われる。

 どのような課税制度を採用するかは当該国の課税主権の問題であり,国が異なれば課税制度も異なるのは必然的なことであるが, 日米の課税制度の相違を前提に,納税者である日本企業がタックス・ヘイブンに進出するときの最大の関心事は,日米双方からの課税を受けないよういかに二重課税を排除するかにある。また, 課税権者である国の関心事は, タックス・ヘイブンで租税回避行為が発生していないかである。これらの問題をどのように解決していくかは困難な問題であるが, それを検討する上でまず必要となるのが各国の課税制度を理解することである。

 企業の国境を超えた取引は, 近年における高度な技術進歩に伴い年々増加かつ複雑化してきており,また, 日米間の国際取引は重要な位置を占め続けている。 このような状況において,我が国の多国籍企業が米国の課税権の及ぶ可能性のあるタックス・ヘイブンに進出する場合,米国のタックス・ヘイブン対策税制を理解しておくことは, 米国からの思わぬ課税を受けることを避けるために不可欠な要素である。そして, ひいては我が国の課税権を確保し, 国際的租税回避の防止及び二重課税の排除による課税の公平を達成することにも繋がる。また, 我が国のタックス・ヘイブン対策税制は, 米国の制度を基に導入されたため,その動きは常に注視していく必要があるといえる。

 このように米国のタックス・ヘイブン対策税制を把握することは,企業にとっても, 我が国にとっても極めて重要であるが, 我が国ではこれらの制度について詳細に言及し,実際どのように適用されているかについて論ずるものはほとんど見受けられない。

 そこで本稿では, 米国のタックス・ヘイブン対策税制であるサブパートF条項を研究の対象とし,IRC及びIncome Tax Regulations(財務省規則, 以下「Reg.」又は「規則」という。)等に基づき本制度を紹介するとともに,中心的な論点についての判例分析を行い, 規定の実際の適用状況を検討する。

Ⅱ 米国におけるタックス・ヘイブンとその利用に対する規制

 〔1〕「タックス・ヘイブン」の概念

1 一般的なタックス・ヘイブンの特徴

 ある国をタックス・ヘイブンと認定する明白かつ客観的な定義は存在しないが,典型的なタックス・ヘイブンとされる国や地域の共通的な特徴は, 所得に対する税が無税(バミューダ,バハマ等)か, あるいは極めて低率(スイス, オランダアンティール領等)であること,そして, 税率以外にも銀行秘密や商業秘密が守られていること, 銀行業務の重要性が相対的に高いこと,情報通信施設が発達していること, 為替管理が存在しないこと, 原則として他国と租税条約を締結していないこと等である(5)

2 米国におけるタックス・ヘイブンの概念

 IRC上総括的なタックス・ヘイブンの定義はなく, サブパートF条項の合算対象金額の適用除外規定においていくつかの基準が示されている。

 例えば, CFCの設立が租税回避を主たる目的としていない場合の判定基準の1つに,外国税率が米国税率よりも著しく低くない場合がある。 CFCの合算対象となる所得である外国基地会社販売所得等に対し,当該CFCの所在地国で課される実効税率が, 少なくとも米国株主に適用される最高税率の90%,すなわち34%×90%=30.6%超であると財務省長官が認める場合には,これらの所得については実質的な租税回避の目的はないものとみなされ,外国基地会社販売所得等には該当しないこととされる(Reg.§§1.954−1(b)(3)(ⅱ),(4)(ⅱ)(a), 適用除外については後述Ⅵ参照。)。

 〔2〕タックス・ヘイブン対策税制の立法とその目的

1 外国人的持株会社条項

 1930年代, 米国では既に国内の株主に支配されている外国法人の留保所得が問題とされており,1937年に外国人的持株会社条項(foreign personal holding company provisions, IRC§§551−558)が施行された。 外国人的持株会社とは,課税年度における総所得の少なくとも60%以上が外国人的持株会社所得に該当し,かつ, 議決権を有する株式又は株式の価値の50%超を, 5人以下の個人株主である米国市民又は米国居住外国人により直接又は間接に保有されている外国法人を意味する(§552(a))。しかし, この規定は原則として個人株主を対象としたものであったために,タックス・ヘイブン法人の株式を有する米国法人に対しては, 当該米国法人が少数の米国個人に保有されている場合を除き適用がなかった。そのため, 米国法人は依然としてタックス・ヘイブンの子会社を利用した所得の留保が可能であった(6)

 なお, 1984年以降はサブパートF条項がこの条項に優先して適用されることになった(§951(d))。

2 サブパートF条項

 このような状況のもとで1961年, ケネディ大統領は議会に対し,米国内への投資が課税の繰延べの存在により海外への投資よりも不利になっていることを指摘し,税負担の公平及び国際収支の改善を図るため, 発展途上国を除く全ての国の「タックス・ヘイブン的な」課税の繰延べを排除することを提案した(7)。課税の繰延べとは, 一般には外国子会社による所得の留保は米国親会社に対する配当の繰延べであり,配当が遅れれば米国の税収は遅延利子分だけ減少することを意味した(8)。この考え方によれば, 租税回避的な手段で子会社に留保された所得の課税の繰延べに対しては,タックス・ヘイブン国に存在するもののみならず, 全ての国に所在するあらゆる子会社の留保所得を対象としなければならない。しかし, 米国産業の国際競争力を重視する観点から, 提案は議会審議の過程で修正され,最終的にタックス・ヘイブン法人を利用した租税回避に限定した税制,すなわち留保所得のうち特定の所得を対象とする課税方式が導入されることとなった(9)。これが1962年に導入されたサブパートF条項である。

 この条項の基本的枠組みは, CFCの米国株主は, CFCの留保所得のうちサブパートF所得等に該当する金額を,実際に分配額として受領していなくとも, その持分割合に応じて総所得に合算して課税するものである。その後, ドイツ(1972年), カナダ(1972年), 日本(1978年),フランス(1980年), 英国(1984年)が同様の立法を行っており,主要先進国がいずれも米国のサブパートF条項に類似した合算方式によるタックス・ヘイブン対策税制を導入した。これはこの税制が, タックス・ヘイブンの利用から生じる課税の繰延べに対抗することを直接目指した,最も基本的な税制であると広く認識された結果といえる(10)

Ⅲ CFCの定義

 〔1〕支配の要件

1 基本要件

 CFCとは, 議決権を有する株式又は株式の価値の50%超が, 米国の株主により,直接又は間接に保有されている外国法人である(§957(a))。

 外国法人とは内国法人以外の法人をいい(§7701(a)(5)), 米国内で事業を行っていない法人及び米国内で事業を行っている法人で,事務所等の事業を行う一定の場所, すなわち恒久的施設を米国内に有する法人と有しない法人とに分類される(なお,米国株主となる者については, 次のⅣ参照。)。

 議決権を有する株式の50%超の保有とは, CFCの発行済株式総数に対する保有株式数の割合である。株式の価値の50%超の保有とは, 1986年の改正で加えられた要件であるが,株式の価値についての定義規定はなく, Reg.§1.957−1(c)に例示があるのみである。この例示からは, 株式の価値の保有とは, 議決権とは関係なく, 株式の経済的価値の保有であると考えられる。

 外国保険相互会社の場合は,「株式」には議決権を有する持分が含まれる(§958(a)(3))。

2 保有割合の算定

 米国株主による外国法人の保有形態は, 直接又は間接保有であるが,これらの他に「みなし所有」という特別な規定が設けられ, 保有割合の算定がかなり変則的になっている。

(1) 間接保有

 間接保有とは, 米国株主が外国法人を他の外国法人, 外国パートナーシップ,外国トラスト又は外国エステイトを通じて保有する場合であり, その割合は単純掛算方式で算定する(§958(a)(1)(2),Reg.§1.958−1(b))。

例えば次の図のように, 米国の者A及びBは外国法人Mの株式を各々25%,50%所有している。 Mは外国法人Nの株式を80%, Nは外国法人Pの株式を60%所有している。MはPの株式を80%×60%=48%所有しているとみなされ, A及びBはPの株式を各々25%×48%=12%,50%×48%=24%所有しているとみなされる(Reg.§1.958−1(d))。

図表
(2) みなし所有

 IRCにはみなし所有の一般ルール(§318(a))が規定されているが,サブパートF条項では, この一般ルールが一部修正されて適用される(§§957(a),958(b))。

①法人の場合の一般ルール

 米国の者が法人の株式の価値の50%以上を直接又は間接に所有している場合は,その者は当該法人が直接又は間接に所有する株式を所有しているものとし,この所有割合は, 米国の者が所有する米国内法人の持分割合を掛け合わせることにより算定される(§318(a)(2)(C))。また, 当該法人は, その者が直接又は間接に所有する株式を所有しているものとする(§318(a)(3)(C))。なお, §318(a)(3)(C)により所有しているものとされる株式は,§318(a)(2)(C)の判定の際には考慮しない(§318(a)(5)(C))。

 例えば次の図のように, 非関連の個人A及びBは, 法人Mの株式の価値を各々70%及び30%所有している。Mは法人Oの株式100株のうち50株を所有し, 残りの50株はAが所有している。MはOの株式を100株(50株(直接)+50株(A所有))所有しているとみなされ,Aは85株(50株(直接)+50株×70%(間接))所有しているとみなされる。BはOの株式を所有しているとはみなされない(Reg.§1.318−2(c))。

図表
②一般ルールの修正ルール

 §318(a)(2)(C)における「50%以上」の所有割合は「10%以上」に置き換えられ(§958(b)(3)),法人が他の法人の議決権を有する株式の50%超を直接又は間接に所有している場合,当該法人は他の法人の議決権を有する株式の全てを所有しているものとする(§958(b)(2))。よって, 外国法人の株式を50%超所有する法人のチェインに属する株主は,間接的に10%未満しか所有しない者であっても, 米国株主となる場合がある。

 また, §318(a)(3)(C)は, 米国の者が株式を所有しているか否かの判定に当たり,米国の者以外に所有されている株式には適用しない(§958(b)(4))(修正ルールの具体例については後述Ⅳの2参照)。

 〔2〕CFCの判定

1 判定基準

 外国法人がCFCに該当するか否かの判定は, 当該CFCの課税年度中の全ての日で行われ(§957(a)),米国株主による議決権を有する株式の保有割合の判定について, 規則は次のように規定している(Reg.§1.957−1(b)(1))。

 「§957(a)における米国株主による議決権を有する株式の保有割合は,個別事例毎に判断される。 しかし, 次のような場合には, 外国法人の米国株主は議決権を有する株式の必要な割合を保有しているものとみなされる。

(1) 通常, 内国法人の取締役会によって行使される議決権を,米国株主が行使し, 外国法人の取締役会又はそれと類似の支配組織について,過半数を選任, 任命又は交代する権限を有している場合

(2) 米国株主の議決権に基づいて選任又は任命された者が, 外国法人の取締役会の半数の構成員を選任する権限を有している場合,取締役会を平等に分割する決定権を有する場合又は取締役会の議決が行き詰まった際に議決権を行使する場合

(3) 通常, 内国法人の取締役会によって行使される議決権が,米国株主の外国法人に関して有する選任, 任命又は交代権限によって行使される場合」

 また, Reg.§1.957−1(b)(2)は,「外国法人の米国株主からの形式的な議決権の譲渡は,もし実質的な議決権が残されている場合には効果を有しない」とし,更に次のように規定する。

 「議決権を有する株式の単なる所有は, それ自体で, §957における議決権を有する株式を所有する株主であることを意味しない。例えば, 議決権を行使しない又は特別の方法によってのみ行使する,あるいは, 通常議決権を有する全株式の50%超を保有する株主に所有されている議決権を,50%を超えない株式を保有する株主が行使するという合意がある場合,株主の議決権の名目上の所有は, 現実の議決権を有しているかの判断においては考慮されず,この判断はそのような合意に基づいて行われる。 更に, 米国株主が,数種類の社外株式を発行する外国法人の1種類又はそれ以上の種類の株式を所有する場合,株主自らの利益を行使するか, あるいは行使しない株主により保有されていると考えられる,当該米国株主以外に所有されている株式により提供される名目上の議決権は,

①当該株式の議決権の割合が企業利益の割合に比して明らかに大きい場合,

②当該株式の株主が独立的に議決権を行使しないか, 権利の行使を怠った事実が認められる場合,

③合意の基本目的が§957のCFCとしての分類を避けるためのものである場合には考慮されない。」

2 判例

(1) Kraus v.Commissioner,490 F.2 d 898(2 d Cir.1974)

 Kraus夫妻と彼らの5人の子供(原告, 控訴人, 以下「X」という。)は,リヒテンシュタインの企業KrausReprint・Ltd・(以下「KRL」という。)の議決権を有する株式の50%を所有する普通株主であり,残りの議決権を有する株式の50%は, Xの関係者や個人的友人である優先株主が所有した。議決権は, 普通株式10株に対して1, 優先株式1株に対して1が与えられた。KRLは§957(a)におけるCFCであるか否かが争点となったが, 裁判所は,優先株式には普通株式にはない譲渡制限及び取締役会による買戻権が存在し,それにより米国株主は優先株主に対し真の議決権を放棄していないため,KRLは§957(a)におけるCFCであるとして控訴を棄却した。

(2) Garlock, Inc. v.Commissioner, 489 F.2 d 197(2 d Cir.1973)

 Garlock, Inc.(原告, 控訴人)は, パナマ企業S.A.の議決権を有する株式の50%を所有する普通株主であり,残りの議決権を有する株式の50%は, 優先株主であるバハマ企業及びカナダ企業が所有した。議決権は, 普通株式及び優先株式とも, 各々1株につき1が与えられた。S.A.は§957(a)におけるCFCであるか否かが争点となったが,裁判所は, 優先株式はいつでも償還でき, 譲渡制限が付されていたこと及び優先株主が取締役会又は株主総会を通じて積極的に企業経営に参加していなかったことを理由に,優先株主の議決権は「架空」のものであると判断し, S.A.は§957(a)におけるCFCであるとして控訴を棄却した。

(3) C.C.A., Inc. v. Commissioner, 64 T.C.(11)137(1976)

 Controls Co. of America(原告, 以下「X」という。)はデラウェア州の企業で,スイスに100%子会社Control AG(以下「AG」という。)を設立した。AGの社外株式は, 各々1株につき1の議決権を有する普通株式800株及び優先株式800株であり,普通株式はXにより所有され, 優先株式は常時米国の株主ではない者のみに所有された。AGは§957(a)におけるCFCであるか否かが争点となったが, 裁判所は,優先株主は広範な権限を有し, 株主総会へも積極的に参加しており,企業方針を実際に変更する機会もあったことから優先株主への支配の移転が存すると判断し,AGは§957(a)におけるCFCではないとしてXの請求を認容した。

(4) Koehring Co. v. U.S., 583 F.2 d 313(7thCir. 1979)

 Koehring Co.(原告, 控訴人, 以下「X」という。)はウィスコンシン州の企業で,パナマ企業Koehring Overseas Corporation(以下「KOS」という。)を取得し,100%子会社として支配した。 1962年サブパートF条項が制定されると,KOSがサブパートFの適用を受けないように, XはKOSの議決権の支配をイギリス企業Newton Chambers(以下「NC」という。)へ譲渡した。 NCはKOSの議決権を有する株式の55%に当たる優先株式を取得し,XはKOSの議決権を有する株式の残り45%の普通株式を保有した。 KOSは§957(a)におけるCFCであるか否かが争点となったが,裁判所は, XとNC間にはサブパートF課税を避けるための非公式な合意が存在し,また, NCは過半数の議決権を独自に行使したとは言い難いため, KOSは§957(a)におけるCFCであるとして控訴を棄却した。

(5) 判例の検討

 (1)〜(4)の各判決において, 米国株主による株式の支配の状況をみてみると,(1)〜(3)は, 米国株主が所有する普通株式と, 米国株主ではない者が所有する優先株式の割合は,50%対50%であった。(4)は, 米国株主ではない者が議決権を有する優先株式の55%を保有し,形式的には, §957(a)の「50%超」基準は明らかに満たしていなかった。議決権は, (1)のみ普通株式10株につき1, 優先株式1株につき1が与えられたが,(2)〜(4)では普通株式, 優先株式とも平等に1株につき1の議決権が与えられた。

 このような事実を踏まえ, 各判決の争点である外国法人がCFCに該当するか否かは,いずれもReg.§1.957−1(b)(2)に基づいて判断された。

 (1)では, 優先株式に対する譲渡制限及び買戻権の存在, 優先株主に対する企業経営に参加する権限の制限が議決権の「形式的な譲渡」に該当するとされ,(2)でも, 優先株式に対する制限が存し, 議決権を行使する権限はあったが,それを行使しなかったことなどにより, 優先株主が有する議決権は形式的なものと判断された。(3)は, 普通株式と優先株式には同様の制限があり, 優先株主には広範な権限が与えられ,実際にその権限を行使したため, 議決権の形式的な譲渡とはみなされず,優先株主への支配の移転が存するとされた。 (4)は, サブパートF課税を避けるための合意が存在し,優先株主が過半数の議決権を行使しなかったため, 形式的な譲渡とみなされた。

 いずれの判決においても, 裁判所は, 株主がどのような権限を有し,どのように行使していたかを, 詳細な事実認定に基づき具体的に判断している。§957(a)の「株式の議決権又は価値の50%超の保有」という, 一見形式的にみえる支配の基準は,その適用に当たっては極めて実質的に判断されている。

Ⅳ 納税義務者となる米国株主

1 基本要件

 CFCの特定の所得を, 持分割合に応じて総所得に合算する納税義務者は,当該CFCの議決権を有する株式の10%以上を所有している米国株主で(§951(b)),米国株主とは, 原則として米国の市民, 米国の居住者, 米国内のパートナーシップ,米国内法人及び外国トラストと外国エステイト以外のトラストとエステイトである(§§957(c),7701(a)(30))。 また, この所有要件は米国株主の判定基準であり,CFCの判定とは関係ない。

 米国株主の判定日は, 当該外国法人が当該外国法人の課税年度中に連続して30日以上CFCに該当する場合,CFCに該当する日に, 当該外国法人の米国株主であることである(§951(a)(1))。

2 CFCの議決権を有する株式の10%以上を所有している米国株主の例示

 米国株主の判定の例示は次のとおりである(Reg.§1.958−2(f)(2))。

(例1)米国の者A及びB並びに内国法人Mは, 外国法人Rの株式を,9%, 32%及び10%所有している。 Aは更にMの株式を10%所有している。AはRを直接所有する9%に加え, 10%×10%=1%を所有しているとみなされ,合計10%を所有しているのでRの米国株主と判定される。

 RがCFCであるか否かの判定は, 1%について, Mに直接所有されている割合とAに所有されているものとみなされる割合が二重計算になるので,AによるRの所有は9%のみとし, Rは9%(A)+32%(B)+10%(M)=51%が米国株主に所有されているためCFCとなる。

図表

(例2)米国の者Cは外国法人Nの株式10%を所有し, Nは外国法人Sの株式を60%所有している。CはSの株式を10%×60%=6%所有しているが, NはSの株式を60%所有しており,50%超の株式を所有する法人は当該法人の株式を100%所有しているとみなされるため(§958(b)(2)),NはSの株式を100%所有しているとみなされる。 したがって, CはSの株式の10%を所有しているとみなされ,Sの米国株主となる。

図表

Ⅴ 合算対象金額

 〔1〕合算対象金額の種類

 CFCの稼得した所得すべてが, 米国株主の総所得に合算され, 課税されるわけではない。合算対象となるCFCの所得は, 次の所得の合計額である(§951(a)(1))。

1 当該課税年度のサブパートF所得

 サブパートF所得とは次の所得の合計額である(§952(a))。

(1) 保険所得(§953(a))

(2) 外国基地会社所得(foreign base company income)(§954(a))

 サブパートF所得の中心をなすものが外国基地会社所得であり, 外国基地会社所得には次のものがある。

① 外国人的持株会社所得(§954(c)(1))

② 外国基地会社販売所得(§954(a)(d)(e))

③ 外国基地会社役務提供所得(§954(e)(1))

④ 外国基地会社海運所得(§954(f))

⑤ 外国基地会社石油関連所得(§954(g)(1))

(3) 国際的ボイコット所得(§952(a)(3))

(4) 政府高官等に対するわいろ, キックバック等の違法な支払額(§952(a)(4))

(5) 米国と外交関係がない外国等から生じた所得(§952(a)(5))

2 開発途上国への投資の撤退及び海運事業の撤退に伴うサブパートF所得(§951(a)(1)(A)(ⅱ)(ⅲ))

3 米国資産に投資した利益の増加額(§951(a)(1)(B))

4 投資運用資産に投資された所得(§951(a)(1)(C))

 〔2〕外国基地会社販売所得

1 意義

 外国基地会社所得の中で中心的な類型をなすのが外国基地会社販売所得(foreign base company sales income)である。 この外国基地会社販売所得とは,関連者との動産の取引から生じる所得で, 当該動産がCFCの本店所在地国以外で製造,生産, 栽培等(以下「製造等」とする)された場合である。

 関連者との動産の取引とは次のいずれかに該当する場合である(§954(d)(1))。

(1) 関連者から動産を購入し販売する場合

(2) 関連者のために動産を販売する場合

(3) 動産を購入し関連者に販売する場合

(4) 関連者のために動産を購入する場合

 関連者とは次のいずれかに該当する者である(§954(d)(3))。

(1) CFCを支配している個人, パートナーシップ, トラスト又はエステイト

(2) CFCを支配している法人又はCFCに支配されている法人

(3) CFCを支配している個人, 法人等に支配されている法人

 当該動産がCFCの本店所在地国以外で製造等された場合とは, 次のいずれにも該当する場合である(§954(d)(1))。

(1) 購入した動産(関連者のために動産が販売された場合は販売した動産)が,CFCの本店所在地国以外の国で製造等された場合。

(2) 当該動産が, CFCの本店所在地国以外での使用, 消費等(以下「使用等」とする)のために販売されるか,又は関連者のために動産が購入されたときは, CFCの本店所在地国以外での使用等のために購入された場合。

2 CFCの設立国内での動産の製造, 生産, 加工, 栽培又は抽出

 動産がCFCの設立国内で製造, 生産, 加工, 栽培又は抽出された場合には,外国基地会社所得には該当しない。

 例えば, 内国法人Mの100%子会社としてX国に設立されたCFCであるAが,X国で栽培されたコーヒー豆を関連者である外国法人Pから購入し,米国での使用のために関連者であるMに販売した場合, Aのコーヒー豆の購入及び販売による所得は,コーヒー豆がX国で栽培されているため, 外国基地会社販売所得には該当しない(Reg.§1.954−3(a)(2))。

3 CFCの設立国内での使用, 消費又は処分のための動産の販売

 動産がCFCの設立国内での使用, 消費又は処分のために販売された場合には,外国基地会社所得には該当しない(Reg.§1.954−3(a)(3))。

 例えば, X国に設立されたCFCであるAが, Y国に設立され, 関連者であり,CFCであるBから, Y国で製造された変圧器を購入し, 非関連者でX国に工場があるDに販売した場合,Aが購入し, 販売した動産は, Aの設立国内で使用されているため,動産の購入及び販売により生じた所得は外国基地会社販売所得には該当しない(Reg.§1.954−3(a)(3)(ⅳ))。

4 動産の実質的な加工

 購入した動産を販売する前に実質的に加工(「軽微な加工」ではない)した場合は,動産は販売法人によって製造, 生産または加工されたものとみなされ,この動産の販売による所得は外国基地会社販売所得には該当しない(Reg.§1.954−3(a)(4)(ⅰ))。

 例えば, X国に設立されたCFCであるAは, Y国に製紙工場があり,AがY国で生育した木材パルプを関連者から購入し, Z国で消費するために木材パルプから紙を生産した場合,当該加工は実質的な加工に該当し, この紙の販売による所得は外国基地会社販売所得には該当しない(Reg.§1.954−3(a)(4)(ⅱ))。

5 購入部品による販売動産の製造

 購入した動産を販売する動産の一部として使用した場合は, 販売動産は部品として販売されたのではなく,製造されたものとみなされる。 販売法人による購入及び販売動産の加工は実質的なものであり,通常の動産の製造, 生産及び加工とみなされる。 この実質的な基準は個別事例に応じて判断される。また, もし動産の販売費用(直接労務費及び製造間接費)が商品の販売価格の20%以上である場合は,実質的な加工であるとみなされる。

6 判例

(1) Brown Group, Inc. & Subs. V. Commissioner, 104 T. C. 105(1995)

 Brown Group, Inc.(原告, 以下「X」という。)はニューヨークの企業で,米国で靴を製造するとともに, ブラジルから靴を輸入していた。 Brown Group International・Inc.(以下「BI」という。)はXの100%子会社である。BIはケイマン島の企業Brown Cayman, Ltd.(以下「BC」という。)の§951(b)における米国株主であり,BCは§957(a)におけるCFCであった。 Brinco(以下「BR」という。)は§7701におけるパートナーシップであり,ケイマン島に設立された。 BRのパートナーの純利益及び損失に対する持分割合は,BCが88%, ケイマン島の企業であるT. P. Cayman, Ltd. が10%, ブラジル市民であるDelcio Brick(以下「D」という。)が2%である(下図参照)。

図表

 BRが組織される前, Xはブラジルで製造された靴を購入するため,独立代理人D及び米国市民であるTed Presti(以下「P」とする)を利用していた。そして, DとPがXの靴を独占的に購入し, Xのブラジルでの購買力をまとめるためにBRが組織された。BRはBIに対するブラジルで製造された靴の購入代理人業務を行い, Xは,BRの当該業務に対し靴の購入価格に基づく10%の手数料を支払った。

 問題となる課税年度, BRはBCに持分利益を分配した。 IRS(Internal Revenue Service(内国歳入庁), 被告, 以下「Y」という。)は,BCに対するBRの持分利益の分配は, BIの総所得に合算されるサブパートF所得である外国基地会社販売所得に該当すると決定した。

 争点はBRからBCに対するパートナーシップの持分所得が, §951(a)におけるサブパートF所得に該当するか否かであるが,裁判所は, BCにはBIのための動産の購入により手数料収入が生じ,そのような所得は§954(d)(1)の外国基地会社販売所得であり,BIはYによって決定された所得を総所得に合算しなければならないと判断し,Xの請求を棄却した。

(2) DAVE Fischbein Manufacturing Co. v. Commissioner, 59 T.C.338(1973)

 Dave Fischbein Manufacturing Co.(原告, 以下「X」という。)はミネソタ州の企業で,鞄の縫製機械の製造業務に従事していた。 Xはこの機械をベルギー企業Dave Fischbein Co.(以下「DC」という。)及びミネソタ法人Dave Fischbein Westhem Sales Corp.(以下「DW」という。)に販売した。 また縫製機械の部品を,ベルギーのDCの100%子会社Compagnie Fischbein, S. A. (以下「SA」という。)に販売した。SAは縫製機械の販売業務を行った。

 争点は, Xのベルギー子会社SAの縫製機械の販売により嫁得した所得が,§954(d)(1)における外国基地会社販売所得に該当するか否かであるが,裁判所は, 外国基地会社販売所得にはCFCによって全部又は一部が生産,製造, 加工された動産の販売により生じた所得は含まれず(Reg.§1.954−3(a)(4)(ⅰ)),SAの業務は縫製機械の重要な加工業務であり, 生産品の製造過程を構成するため,縫製機械の販売所得は外国基地会社販売所得には該当しないとしてXの請求を認容した。

(3) 判例の検討

 外国基地会社販売所得とは,「関連者のための動産の購入により生じる利益,手数料その他の所得」であり, (1)の論点は, CFCで, パートナーシップBRのパートナーであるBCが,BRを通じて, BCの米国株主であるBIのために靴の購入業務を行ったか否かである。BCがBIのために購入業務を行ったのであれば, その結果BCに生じた購入手数料収入は外国基地会社販売所得に該当し,BRがBIのために購入業務を行ったのであれば, BCには外国基地会社販売所得は生じない。

 法には, パートナーシップが事業活動を行う場合, パートナーシップ及びパートナーのいずれの活動とみなすかについての規定はなく,裁判所も個別事例に応じて判断している。本件では, BCが購入代理人PとDを利用し,XがBCに対し購入手数料の大部分を受け取る権利を与えていたことを重視して,結局BRの購入活動はパートナーであるBCのものとみなされた。 しかし,BRは実質的な事業活動を行っており(これはYも認めている), BIのために購入活動を行っていたのではないとの見方も可能である。そしてBRは, BC又はBIとは非関連者でケイマン島の法人であるため,原則として連邦税法の納税義務は有しない。 購入活動によりBRを通じてBIに生じた所得に課税する場合,実際問題としてどこまで追跡し, その範囲を確定できるのか, 妥当性の問題と共に技術的な問題も存すると思われる。

 (2)は, CFCであるSAの鞄の縫製機械の製造が, 販売動産の製造に該当するかが論点となった。裁判所は, SAの加工業務は実質的なものであり, 規則に定められている「軽微な加工」には当たらないとして,この機械の販売により生じた所得は外国基地会社販売所得には該当しないとした。SAの具体的な加工の内容が判断されたが, SAはXのみならず, 各種の利便性により非関連者からも部品を購入し,購入部品から様々な工程を経て機械を製造し, そのための製造設備も備えていた。これらのことが実質的な製造業務の判断要素とされている。

 〔3〕CFCが外国支店を有する場合−支店ルール

 CFCが本店所在地国以外に支店を有し, 支店が販売業務などを行う場合,この業務により支店が稼得した所得は, 原則として支店の所在地国で課税される。したがって, 相対的に高税率国に設立されているCFCが, 相対的に低税率国に販売又は購入支店を設けることにより,企業の所得が2つに分割され, 支店の所得に対しては低税率で課税されることになる。そこで, このような租税回避を防ぐために設けられているのが支店ルールである。

1 意義

 CFCが本店所在地国以外に支店等の恒久的施設を有し, その支店等の購入・販売活動が,当該CFCの100%子会社による活動と実質的に同じ税務上の効果を有する場合,支店等の所得は当該CFCの100%子会社の所得とみなし, 当該CFCの外国基地会社販売所得とする(§954(d)(2),Reg.§1.954−3(b)(1)(ⅰ)(a))。 このように, 支店を100%子会社とみなすことによりCFCとは別法人として取り扱い,関連者との動産の取引から生じた所得として外国基地会社販売所得を構成するのである。

 「その支店等の購入・販売活動が, 当該CFCの100%子会社による活動と実質的に同じ税務上の効果を有する場合」とは,その支店等の所得に対し, 支店等の所在地国で課される実効税率が,もしその支店等の所得がCFCの本店所在地国で課税されるとした場合の実効税率の90%未満であり,かつ5%以上少ない場合である。

2 支店ルールの例示

 CFCの外国支店等が100%子会社とみなされるか否かの例示は次のとおりである(Reg.§1.954−3(b)(4))。

(例1)AはX国に本店を有するCFCであり, X国で製造活動を行っている。その製品をX国以外で消費するための販売交渉は, Y国にある販売支店Bが行っている。X国では本店の製造活動から生じる所得に実効税率50%で課税するが,Y国の支店の販売活動による所得に対しては課税しない。 Y国ではAの支店の販売活動の所得に実効税率10%で課税するが,X国の本店の製造活動による所得には課税しない。 Y国の支店の所得がもしX国で課税されるとした場合のX国での実効税率は50%である。この場合10%は50%の90%(すなわち45%)未満であり, かつ50%より5%以上少ないので,Y国の支店BはX国のAの100%子会社とみなされる。 したがって,Bの所得は外国基地会社販売所得に該当する。 X国で製造された動産をY国以外の消費に充てるため,関連者であるAのために販売しているからである。 この場合, 別法人とみなされるAの本店に外国基地会社販売所得は生じない。Aが製造した製品を販売しているからである。

  X国 Y国
A(本店) 支店B
実効税率 50% 10%

(例2)CはX国に本店を有するCFCであり, Y国に支店Bがある。BはY国で商品を製造し, その商品はX国にある販売事務所cにより販売される。Y国は支店Bの製造活動から生じるCの所得に実効税率30%で課税するが,X国での販売活動により生じるCの所得に対しては課税しない。 X国は所得に対して課税せず,Y国でBに生じるCの所得に対する税は支払われない。 もしCの所得がY国で課税されるとした場合のY国での実効税率は30%である。この場合0%は30%の90%(すなわち27%)未満であり, かつ30%より5%以上少ないので,Y国の支店BはX国のCの100%子会社とみなされる。 したがって,Cの残りの所得は外国基地会社販売所得に該当する。 Y国で製造された動産をX国以外の消費に充てるため,関連者であるBのために販売しているからである。 この場合, 支店Bは別法人とみなされ,外国基地会社販売所得は生じない。

  X国 Y国
C(本店) 支店B
事務所c  
実効税率 0% 30%

3 判例

(1) Ashland Oil, Inc. v. Commissioner, 95 T.C.348(1990)

 United States Filter Corp.(原告, 以下「X」とする。)は内国法人で,Drew Chemical Corp.(以下「DC」という。)はXの100%内国子会社である。Drew Ameroid International(以下「DA」という。)はリベリア法人で,DCの100%子会社であり, DAはDCの§957(a)におけるCFCで, DCはDAの§951(b)における米国株主であった。

 DAと事業上の関連を有するベルギー法人Tensia, S.A.(以下「T」という。)は,DAのために生産品を製造したが, DAの§954(d)(3)における関連者ではなかった。

 争点は, ベルギーの製造会社Tは, CFCであるリベリア法人DAの§954(d)(2)における「支店又は類似の事業所」であるか否かであるが,裁判所は,「支店又は類似の事業所」にDAと独立当事者間の契約を締結する非関連者であるTは含まれないとして,Xの請求を認容した。

(2) VETCO, Inc. v. Commissioner, 95 U.S. 579(1990)

 VETCO, Inc.(原告, 以下「X」という。)は, カリフォルニア州の企業で,Vetco International A.G.(以下「VI」という。)はXの100%スイス子会社であり,Xの生産品の販売業務を行っていた。 Vetco Offshore, Ltd.(以下「VO」という。)はVIの100%イギリス子会社で,Xの生産品の保管業務等を行っていた。

 争点は, CFCであるVIの100%子会社VOが, §954(d)(2)の支店ルールにおける支店又は類似の事業所であるか否かであるが,裁判所は, もし支店等に100%子会社が含まれれば, 100%子会社について別に定める規定と支店ルールとの規定が重複し,法はこのような重複規定を設けないため, 100%子会社は支店等には含まれないとして,Xの請求を認容した。

(3) 判例の検討

 (1)は, 支店ルールが適用される「支店又は類似の事業所」(以下「支店等」という。)の解釈が問題となり,法の文言上明確な定義が存しない場合は, 通常又は慣習的な意味に解すべきであるとした。本件において, Tが支店等に該当するか否かについては, その意味を解するまでもなく,CFCであるDAと, DA及びDCとは非関連者であるTとの間の取引が, 独立当事者間の契約であったことを根拠に,TはDAの支店等ではないと判断している。 IRS(被告)は支店ルールを広範な意味に解釈するよう主張したが,裁判所はその主張を受け入れなかった。 支店等の定義が存せず, また通常の意味では,明らかにDAと非関連者であるTは支店等には該当しないと思われるため,もし, Tを支店等の意味に含めるのであれば, 新たな立法が必要といえる。

 (2)は, CFCであるVIの100%子会社VOが, 支店ルールにおける支店等に該当するか否かが問題となった。裁判所は, もし支店等に100%子会社が含まれれば, 100%子会社に関する規定と支店ルールの規定が重複してしまうことを理由に,100%子会社は支店等には含まれないと判断した。 支店ルールは, CFCの支店等が100%子会社であるかのような効果を有するときに適用されるのであって,100%子会社そのものには適用はないといえる。 したがって, 裁判所の判断は極めて妥当であろう。

Ⅵ 適用除外

 CFCの所得が, 合算課税の対象とされるサブパート所得等に該当しても,すべてが課税対象とされるわけではなく, CFCの設立が租税回避を目的としていないと推測される場合など,次のような適用除外規定が設けられている。

1 米国源泉のサブパートF所得

 CFCの米国内の事業と実質的関連をもつ米国内源泉所得は, サブパートF所得には該当しない。ただし, 当該所得が米国の締結した租税条約により免税される場合又は当該所得に軽減税率が適用される場合はこの限りではない(§952(b))。

2 外国基地会社所得及び保険所得が少額及び多額の場合−デ・ミニミスルール及び70%ルール

 CFCの当該課税年度の外国基地会社所得及び保険所得の総額が, 当該CFCの当該課税年度の総所得の合計額の5%又は$1,000,000のいずれか少ない方の金額に満たない場合は,当該年度における外国基地会社所得及び保険所得はないものとされる(§954(b)(3)(A),Reg.§1.954−1(b)(1)(ⅰ))。

 CFCの当該課税年度の外国基地会社所得及び保険所得の総額が, 当該CFCの当該課税年度の総所得の合計額の70%を超える場合は,当該課税年度の総所得は全て外国基地会社所得又は保険所得とされる(§954(b)(3)(B),Reg.§1.954−1(b)(1)(ⅱ))。 全て外国基地会社所得又は保険所得とされた場合,高税率国による適用除外により総所得から除外されるサブパートF所得が,合算される外国基地会社所得又は保険所得の90%以上であれば, サブパートF所得から除外される(Reg.§1.954−1(d)(6))。

3 CFCの設立が租税回避を主たる目的としていない場合−90%ルール

 CFCが法人所得税の実質的な減少を目的として設立されたものではなく,かつ, そのために所得を嫁得していないと当局が認めた場合, 米国株主には外国基地会社所得はなかったものとして取り扱われる(§954(b)(4))。

 具体的には, 外国基地会社所得又は保険所得に対し, 当該CFCの所在する国で課される実効税率が30.6%(米国の基本税率のうち最も高い34%に90%を乗じたもの)超である場合,CFCが受領した所得は外国基地会社所得又は保険所得には該当しない(Reg.§1.954−1(d)(1))。

4 CFCが外国人的持株会社に該当する場合

 当該課税年度において, CFCが外国人的持株会社に該当する場合は,当該外国法人のE&P(earningsand profits)に該当するサブパート所得等は,再度当該米国株主の総所得に算入されない(§951(d))。

5 CFCの株式の売却又はCFCを清算した場合の課税の特例

 通常の所得をキャピタルゲインに転換し, 租税回避を図るのを防止するため,その株式の所有割合が, 株式の売却等が行われた日以前の5年間を通じて,例え短期間でも議決権を有する株式総数の10%以上であった場合(保有期間が5年超の場合は適用なし),及び売却等によって実現した譲渡利益のうち, 1963年1月1日以降に開始する事業年度の利益剰余金からなるものであって,過去に米国の税制により課税を受けていない部分(売却益が生じてもサブパートF所得として課税された部分については課税対象から除外される。)については,米国株主はその持分割合に応じた所得を配当として総所得に算入しなければならない(§1248)。

6 CFCへの資産の譲渡が行われた場合の課税の特例

 米国の者が特許権等の財産をCFCに売却(交換)し, これから利得を生じた場合,この所得はキャピタルゲインではなく通常の所得として取り扱われる(§§367,1249)。

 米国の者が海外の評価益のある資産を海外子会社(CFCを含む)に移転する場合,免税譲渡(§351)を利用したのは租税回避が主目的でない旨の認定を受ける必要がある(売却等を行った日から183日以内)。

Ⅶ 結語

 サブパートF条項の特徴を一言で言えば, 非常に複雑であるということである。特に, 規則には, 法を詳細に補足する規定に加え, 多数の例示が記述されている。そして, 技術の進歩と相まって, タックス・プランニングの新しい方法が次々と開発されると,タックス・ヘイブン対策税制のループ・ホールを生み出すこととなり,その都度対策のための改正が加えられ, 更に複雑化の一途を辿っている。例えば, CFCの要件であるが, IRCは「議決権を有する株式又は株式の価値の50%超を米国株主により直接又は間接に保有されている外国法人」と定めている。株式の価値に対する基準は, C.C.A., Inc.判決にみられるように,新たに議決権を有する50%超の優先株式を発行し外国法人等に所有させることにより,株式の議決権に対する支配基準を避ける事態が生じたため, 1986年に追加され,これにより, 議決権を有しない株式であっても保有割合に含められることになったのである。

 タックス・ヘイブンへの企業の進出は今後も行われるであろうし,課税当局による新たな規定の制定及び改正も続けられていくであろう。しかし, 忘れてならないのは, 真に国際的租税回避を意図するもののみを,いかにタックス・ヘイブン対策税制の適用対象にしていくかということである。

(その他主な参考文献)

Joseph Isenbergh"International Taxation U.S. Taxation of Foreign Persons and Foreign Income VolumeⅡ(Second Edition)"(Little, Brown and Company・1995)
BorisI. Bittker & James S・Eustice"Federal Income Taxation of Corporations and Shareholders(Sixth Edition)"(Warren, Gorham & Lamont, Inc.・1994)
BorisI. Bittker & Lawrence Lokken"Federal Taxation of Income, Estates and Gifts Volume3(Second Edition)"(Warren, Gorham & Lamont, Inc.・1991)
白須信弘『アメリカ法人税法詳解(第三版)』(中央経済社・1988)
本庄資『全訂版アメリカ法人所得税』(財経詳報社・1992)
須田徹『アメリカの税法—連邦税・州税のすべて(改訂五版)』(中央経済社・1996)

(1)川田剛『国際課税の基礎知識(三訂版)』197頁(税務経理協会・1992)

(2)OECD"International Tax Avoidance and Evasion−Four Related Studies"38(1987).

(3)Id. at 24−26.

(4)小松芳明「租税回避行為と国際課税問題−OECD報告書を中心に−」日税研論集14号180頁(1990)

(5)OECD, supra note 2, at 22−23.

(6)大蔵省主税局調査課「外国持株会社制度及び被支配外国法人制度(サブパートFルール)−タックス・ヘイブン法人を利用する租税回避の規制」調査時報22巻8号12頁(1976)

(7)大蔵省主税局総務課「ケネディ大統領税制改正教書」調査時報7巻6号10頁(1961)

(8)吉川保弘「外国税額控除制度とタックス・ヘイブン対策税制をめぐる諸問題」税務大学校論叢17号142頁(1986)

(9)高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』46頁(清文社・1979)

(10)OECD, supra note 2, at 32−33.

(11)United States Tax Court(合衆国租税裁判所)は,法律により創設された裁判所で,租税事件を扱う第一審裁判所の1つであるが,他の第一審裁判所であるFederal District Court(連邦地方裁判所)と異なり,訴訟となっている税額を納付しなくても手続を進めることができる。

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