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第17号

国鉄長期債務の処理問題とその経済的含意に関する一考察
藤井秀樹

藤井秀樹
(京都大学大学院経済学研究科教授)

*1956年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得。京都大学博士(経済学)。近畿大学商経学部講師,助教授,京都大学経済学部助教授,京都大学大学院経済学研究科助教授を経て,1998年から現職。財務会計論,公企業会計論,経営分析論。日本会計研究学会,日本経営財務研究学会,日本簿記学会,公益事業学会(監事),公益法人研究学会(理事),アメリカ会計学会(AAA),フランス会計学会(AFC)等に所属。主著は,?A Model Analysis of Accounting Measurement,"The Kyoto University Economic Review,Vol.63,No.1,April 1993;『現代企業会計論』森山書店,1997年など。

Ⅰ はじめに

 政府は,1997年12月25日,国鉄長期債務の処理案(以下「政府処理案」という)を閣議決定した。ところが,その処理案にたいしては,多方面から異口同音に「筋が通っていない」という批判がなされている(1)

 国鉄長期債務の残高は1998年度当初見込みで27.8兆円にのぼり,通年ベースの利払費等も1.06兆円に達する。金額のこうした巨額性から,その処理策のいかんは,国鉄改革の最終的な成否のみならず,国民経済全体の今後のあり方にも,重大な影響をおよぼすことになるものと予想される。したがって,政府処理案の特徴と問題点を明らかにすることは,国鉄改革と国民経済の今後を見通すうえで,欠くことのできない課題の1つとなるであろう(2)

 そこで,本稿では,政府処理案はどのような意味で「筋が通っていない」のか,国鉄長期債務の処理策における「筋」とはそもそも何かを,当該長期債務の累増過程と国鉄改革にともなう当該長期債務の(再)配分措置の分析・検討をとおして明らかにしていきたいと思う。その分析・検討作業をふまえたうえで,政府処理案が実施された場合に生じると予想される経済的帰結について若干の私見を述べてみたい。

Ⅱ 政府処理案の概要とその評価

(1) 政府処理案の概要

 図1は,政府処理案の概要を整理したものである(3)。以下では,図1によりながら,政府処理案の内容を概観しておくことにしたい。

図1 国鉄長期債務の政府処理案

 政府処理案によれば,国鉄長期債務の残高は1998年度当初見込みで27.8兆円,通年ベースの利払費等は1.06兆円とされる。国鉄長期債務の残高27.8兆円の内訳は,有利子債務15.2兆円(うち資金運用部資金7.5兆円,簡保借入金0.6兆円),無利子債務8.3兆円,年金等負担金4.3兆円である。他方,通年ベースの利払費等1.06兆円の内訳は,有利子債務の利払費6,600億円(元本償還分を借り換えにより資金調達した場合),年金等負担金(厚生年金移換金債務を含む)の支払い4,000億円である。政府処理案では,国鉄長期債務と通年ベースの利払費等を,つぎのような措置にしたがって処理するものとされている。

 第1に,年金等負担金4.3兆円は国鉄清算事業団の資産とともに鉄道建設公団(以下「鉄建公団」という)に移し替えたうえで,通年ベースの年金等負担金4,000億円は鉄建公団が支払うものとする。その財源には,土地・JR株式の売却益等3,110億円,運輸省からの補助金(運輸省予算の削減分)650億円,JR負担240億円を充てることとする。

 第2に,有利子負債15.2兆円および無利子債務8.3兆円は,国の一般会計に継承させるものとする。そのさい,財投資金(資金運用部資金,簡保借入金,引受債)8.1兆円の繰上償還によって通年ベースの利払費を2,500億円軽減したうえで,残りの利払費4,100億円の財源には,郵貯特別会計からの繰入れ2,000億円,たばこ特別税(以下たんに「たばこ税」という)の増税による増収分の一部2,100億円を充てることとする。ただし,郵貯特別会計からの繰入れは,1998年度から2002年度までの5年間の時限措置とする。

 第3に,国鉄長期債務の元本(一般会計に継承させる有利子債務15.2兆円と無利子債務8.3兆円の合計23.5兆円)については,60年間にわたってこれを償還するものとする(償還は2000年度から開始の予定)。その場合,通年ベースで4,000億円程度の元本償還が必要となるが,その財源には,たばこ税の増税による増収分の一部145億円を充てるほか,「当面は,一般会計の歳出・歳入両面にわたる努力により対応する」(財政構造改革会議〔1997b〕)こととする。

 以上が政府処理案の概要である。その要点は,以下の3点に整理できるであろう。第1は,国鉄長期債務の主要部分をなす有利子債務と無利子債務を一般会計で処理するとしていることである。第2は,通年ベースの利払費等の処理を優先させ,元本の償還についてはこれを将来の超長期的な課題として先送りしていることである。第3は,通年ベースの新たな財源措置として,郵貯特別会計からの繰入れ,たばこ税の増税,JRの追加負担の3つを提案していることである。

(2) 政府処理案にたいする評価

 冒頭でふれたように,以上の政府処理案にたいしては「筋が通っていない」という批判がなされている。以下では,当該処理案がどのような意味で「筋が通っていない」とされるのかを,マスコミの論調を中心に整理・検討していくことにしたい(4)。ただし,以下でとりあげるのは,主として,政府処理案のもとになった財政構造改革会議企画委員会座長案(財政構造改革会議[1997a],以下「座長案」という)にたいする評価である(5)。というのは,政府処理案は座長案をほぼそのまま踏襲したものであり,したがって,座長案にたいする評価は,政府処理案の評価としても有効と考えられるからである。しかも,国鉄長期債務の処理問題を扱った新聞記事等の掲載は座長案の発表前後に最も集中しており,これらの新聞記事等のなかで当該問題にたいする批判の論点は一通り出尽くしているように思われるからである。

 表1は,主要全国紙の当該問題に関する社説の論調を要約したものである。これによってマスコミの論調が概観できるであろう。

 表1から明らかなように,国鉄長期債務を一般会計で処理することについては,おおむね肯定的な評価が示されているが,それ以外の処理策については一様に厳しい批判的評価が下されている。とりわけ批判は,通年ベースの新たな財源措置に向けられている。各財源措置にたいする批判の主たる論点を整理すれば以下のようになる。

表 主要全国紙の社説の論調

 郵貯特別会計からの繰入れ  郵貯特別会計の黒字は,「本来,貯金者に還元すべき財源である。それを〔貯金者とは〕無関係な国鉄債務の利子返済に充てるというのだから,筋が通らない」(読売新聞1997年12月19日付社説)。「この処理案(座長案−引用者注)と同じ日に発表された行革会議の最終案では郵便貯金の独立採算制や自主運用を決めた。その一方で国鉄債務対策への毎年二千億円の繰り入れを〔郵貯特別会計に〕強制的に求めるとは一体どういうことか」(日経新聞1997年12月5日付社説)。「郵貯特会からの繰り入れはずさんな財源だ。毎年二千億円の繰り入れは本来貯金者のものであり,しかも郵貯の黒字がなくなれば払えなくなる」(日経新聞1997年12月18日付社説)。

 たばこ税の増税  「『たばこ税』では一本当たり一円増税して年間二千百億円を見込んでいるが,個別の物品税の復活にもなりかねず,賛成できない。当初〔財政構造改革会議で〕検討していた総合交通税に代わるもので,『し好品なら国民の理解が得られやすい』との安易な判断に基づくものといえる」(産経新聞1997年12月5日付社説)。「たばこと国鉄債務は関係がない。安易に増税に頼るのでは,『聖域なき歳出削減による財政再建』の旗を降ろすに等しい。国民の不信は増す一方ではないか」(朝日新聞1997年12月6日付社説)。「たばこ税引き上げを,郵貯特会の剰余金とともに利子返済の財源に使うというのは,いかにも唐突かつ筋違いで,苦し紛れの印象を与える。第一,『増税なき財政改革』の道筋にも反する」(読売新聞1997年12月19日付社説)。

 JRの追加負担  「JR負担に至っては正気の沙汰とは思えない。厚生年金移管金についての負担区分は閣議決定に基づいて今年(「昨年」の誤りか−引用者注)九月に決まったばかりだ。閣議決定とはそれほど権威がないのか」(日経新聞1997年12月5日付社説)。「11年前に民営化した時点で,年金の負担を含めて政府が責任をもつ債務と新生JRが背負うべき債務が確定した。単なる口約束でなく,法律で決まり,閣議で決定したという経緯を考慮するまでもない。政府と国民の契約であり,政府自らがそれを破ってJRに追加負担を求めるのは筋違いどころか,契約違反だろう」(毎日新聞1997年12月10日付社説)。「旧国鉄・JR職員の年金負担は,すでに昨年の国会審議で国鉄清算事業団とJRの負担比率が決まり,確定したはずだ。大きな事情の変化もないのに,わずか一年で再び法令を改正し,新たな負担を〔JRに〕負わせるとは,あまりにも見通しが悪く,朝令暮改のそしりを免れない。政府の民営化そのものへの基本姿勢にもかかわることだ。再考すべきである」(読売新聞1997年12月19日付社説)。

(3) 政府処理案における「筋」とその歴史的一貫性

 以上のことから,①郵貯特別会計からの繰入れとたばこ税の増税については,国鉄長期債務との因果関係が認められないこと,②たばこ税の増税については,さらにそれに加えて,「増税なき財政再建」という政策方針と矛盾すること,③JRの追加負担については,国鉄改革の趣旨に反することと,当該改革にかかわる制度的施策の一貫性が損なわれることが,それぞれ問題とされ,これらの問題性を理由に,政府処理案(直接的にはその原型となった座長案)は「筋が通っていない」と批判されていることが理解されるのである。

 ここで注目されるべき第1の点は,主要全国紙がほとんど例外なく(6),以上にみてきたような視点と評価を共有し,通年ベースの3つの新たな財源措置についてこれをことごとく「筋が通らないもの」と論断していることである。その他の諸問題(たとえば国防問題や教育問題など)では見解を異にすることが少なくない主要全国紙にあって,かかる論調の一致はかなり異例のことといってよい。このことは,以上にみるような視点と評価がいずれも,大多数の国民にとってはきわめて常識的なものであり,したがって,国民一般(あるいは少なくとも主要全国紙の標準的読者)の側からすればほとんど異論を差し挟む余地のない「筋」論であるということを示唆している。すなわち,この意味で,主要全国紙の以上のような論調は,国民一般の当該問題にたいする平均的な認識を代弁したものと考えることができるのである。

 注目されるべき第2の点は,①国鉄長期債務との因果関係,②「増税なき財政再建」という政策方針との整合性,③国鉄改革の趣旨と当該改革にかかわる制度的施策の一貫性という上掲の3つの視点から国鉄長期債務のあるべき処理方法を考えた場合,国鉄問題に最も関連性のある既存の財源を最大限に活用することが最も「筋の通った」処理方法になるということである。事実,表1にみるように,主要全国紙は一紙の例外もなく,かかる処理方法を代替的な処理案として提案している。しかも,具体的な財源として,道路特定財源と整備新幹線建設費の活用を掲げている点でも,各紙の主張は軌を一にしているのである。すなわち,国鉄長期債務のあるべき処理財源についても,主要全国紙の間に見解の相違は基本的に存在しないのである。

 したがって,これほどあるべき解決策の明快な問題はないというべきであろう。ただし,この結論には,「国民一般の常識を前提に国鉄長期債務の処理問題を議論するならば」という限定条件が必要である。現実には,以上にみてきたような「筋違い」の財源措置に依拠した処理策が,座長案(1997年12月3日)として了承され,財政構造改革会議決定(同年12月17日)とされた後に,政府処理案として正式に閣議決定(同年12月25日)されているのである。

 座長案や政府処理案の策定にかかわった政治家たちが,「国民一般の常識」に疎かったわけでは決してない。座長案の策定過程では,道路特定財源や整備新幹線建設費の活用も財源措置の1つとして検討されている(日経新聞1997年10月17日付朝刊)。しかし,こうした方向での審議は早い段階で「族議員の反対でとん挫」(日経新聞1997年12月3日付夕刊)している。そしてまた,JR追加負担への反対意見は,「旧国鉄と関係の深いJRが負担しなければ,処理策全体が崩壊しかねない」(日経新聞1997年12月13日付朝刊)という理由で抑え込まれているのである。

 以上のような経緯からすれば,座長案や政府処理案はたんに「筋が通っていない」とみるよりも,「国民一般の常識」とは異質の「筋」がその策定過程に作用してきたとみる方が,当該処理案の本質をより的確に捉えることができるであろう。その「筋」とは,あらためて指摘するまでもなく,特定財源の確保→鉄道建設(より一般的には広い意味での公共事業,以下同じ)にかかわる事業者の利益→事業者をつうじた票と政治資金の政治家(いわゆる族議員)への提供→政策決定過程への政治家の関与→特定財源の確保という経済的利害の連鎖である。座長案および政府処理案にはこうした利害関係者の経済的利害が強く作用しているのであって,かかる経済的利害の観点からみれば,座長案および政府処理案はきわめて整然と「筋が通ったもの」になっているのである。

 しかも,より重要なことは,上掲のような利害関係者の経済的利害は,たんに,ここで問題としている座長案や政府処理案の策定過程に作用してきただけでなく,国鉄問題の核心ともいうべき国鉄長期債務の累増過程,さらには国鉄改革にともなう国鉄長期債務のJR各法人への(再)配分過程にも一貫して作用してきたということである。つまり,結論からいえば,上掲のような利害関係者の経済的利害こそが,いわゆる国鉄問題の形成過程を貫く主要な「筋」であったと同時に,国鉄長期債務を27.8兆円という金額にまで膨張させた最も基底的な要因だったのである。

 以下では,このことを(再)確認するために,時代をさかのぼり,国鉄の決算書等の資料によりながら,国鉄長期債務の累増過程および国鉄改革にともなう当該長期債務の(再)配分措置について分析・検討を加えていくことにしたいと思う。

Ⅲ 国鉄長期債務の累増過程の検討

(1) 国鉄長期債務累増の経緯

 図2は,1955年度から1986年度までの国鉄の主たる経営・財務指標の推移をまとめたものである。図2は,1950年代半ばから1960年代初頭にかけて,国鉄の経営が黒字基調(すなわち収支率が100%以上)で推移していたことを示している。この時期は,交通市場における鉄道輸送の比較優位と輸送需要の順調な伸びを背景に,国鉄の輸送力の大規模な増強が追求された時期である。2次にわたる5ヶ年計画は,こうした経営路線を体現・指向したものであった。こうしたなかで国鉄は,1962年度に収支率(7)のピーク(110.8%)を,1965年度には投資率の第1のピーク(51.0%)を,それぞれ記録する。そしてまた,1964年10月には東海道新幹線(東京?新大阪間)が開業している。

図2 国鉄の経営・財務指標の推移(1995〜1986年度)

 ところが1960年代の半ば以降,急速なモータリゼーションの影響をうけ,交通市場における鉄道輸送の比較優位は徐々に低下していくことになる。東海道新幹線が開通した1964年度には,皮肉にも,国鉄は損益ベースで黒字から赤字に(収支率でいえば100%以下に)転落する。つづいて,1966年度決算では,繰越欠損金(単年度で処理できない赤字)が発生する。とはいえ,交通市場における比較優位のこうした低下は国鉄のみならず,私鉄各社においても多かれ少なかれ観察された現象であった。このために,たとえば,地方中小私鉄では1960年代に路線の廃止が始まり,1966〜1974年には廃止のペースが最大となっている。つまり,私鉄(とりわけ地方中小私鉄)では1960年代以降,経営の縮小均衡路線が追求されていったのである(斎藤[1985],16頁)。

 ところが,私鉄におけるこうした動向とはまったく対照的に,国鉄では1960年代の半ば以降,輸送力増強路線がむしろいっそう強力に推進されることになった。輸送力増強によって交通市場での競争力を回復・強化するというのが,その趣旨であった。第1次と第2次の5ヶ年計画は,資金難と計画不足というジレンマのうちにいずれも計画期間半ばで打ち切られた(予定投資額を基準とする計画進捗率は第1次68%,第2次70%)。この反省から,政府と国鉄当局は,輸送力整備計画を国鉄の計画から政府の計画に移し替え,それによって資金難の解決を図ろうとした。こうして発足したのが第3次長期計画であった。

 いわゆる国鉄問題の基本的枠組みは,このときに出来上がったといえるかもしれない。第3次長期計画の発足以降,財投資金を梃子とした大規模な設備投資と,国鉄の経営基盤強化を目的にした大幅な運賃値上げが,同時並行的に実施されていく。この輸送力増強路線は,その後の3次にわたる再建計画にも基本的にはそのまま引き継がれていった。こうして,1960年代後半から1970年代にかけて,山陽新幹線新大阪?岡山間(1967年3月),山陽新幹線岡山?博多間(1970年2月),青函トンネル(1971年11月),東北・上越新幹線(1971年11月),瀬戸大橋(1978年10月)が,つぎつぎと着工に移されていったのである(かっこ内は着工年月)。このために,国鉄の投資額は1960年代後半から1970年代末までほぼ一本調子で上昇を続け(ピークは1978年度の1.03兆円),投資率は1973年度に第2のピーク(51.5%)を迎えた。

 ところが,こうした輸送力の増強とはうらはらに,交通市場における国鉄の競争力は1960年代半ば以降も低下を続け,しかも,たび重なる運賃値上げ(たとえば1960年代には4回,1970年代には7回実施)が利用者の国鉄離れを加速し,国鉄の競争力の低下に拍車をかけた。国鉄の貨物輸送量は1970年の624億トンキロを,旅客輸送量は1974年の2,156億人キロを,それぞれピークとして,以後減少に転じた。このような状況のもとで,上掲のような輸送力増強路線が追求されていったのである。その経営面の帰結は火をみるよりも明らかであった。国鉄の収支率は1960年代後半以降急速に低下し,1970年代には60%台から70%台を低迷するようになった。1971年度には損益勘定が資金ベースでの赤字(いわゆる償却前赤字)を出すようになり,さらに1973年度には負債合計が資産合計を上回る債務超過の状態に陥った。つまり,この時点で,国鉄の経営はフローとストックの両面において,完全な破綻状態を迎えることになったのである。

 国鉄最後の決算である1986年度決算によれば,国鉄の最終的な長期債務残高は25.1兆円であるが,その約7割に相当する17.1兆円は国鉄時代最後の10年間(1977?1986年度)に発生したものであった(図3参照)。1977年度といえば,すでにみてきたように,国鉄の経営はすでにフローとストックの両面において完全な破綻状態を迎えていた時期である。このような時期に毎年,営業収入の2割から3割に相当する規模の設備投資を継続的に実施すれば,長期債務が飛躍的に累増するのは当然すぎるほど当然であった。

図3 国鉄長期債務残高と利払費の推移(1977〜1986年度)

 輸送力増強路線の転換と公的助成措置の必要性(運賃値上げに依拠した経営再建の断念)が公式的に認識されるようになったのは,1980年度に発足する経営改善計画においてであった。しかし,ときすでに遅く,1982年7月には臨時行政調査会が第3次答申で国鉄の分割・民営化を打ち出し(臨時行政調査会[1982],96?105頁),「後のない計画」(国鉄監査委員会〔1981〕,1頁)といわれた経営改善計画はその存在意義を以後急速に低下させていくことになるのである。

(2) 国鉄長期債務の累増を可能にした制度的枠組み

 つぎに見逃せないのは,以上にみてきたような長期債務の累増を可能にし,あるいはそれを増幅するような制度的枠組みが旧国鉄時代には存在していたということである。そうした制度的枠組みのうち,とくに重要なものとして,ここでは以下の3つに言及しておきたい。

 第1は,鉄道建設審議会(以下「鉄建審」という)である。鉄建審は運輸大臣の諮問機関であるが,旧国鉄時代には,「新線建設の手続きのなかで,事実上の『最高決定機関』」(朝日新聞1982年10月29日付朝刊)として機能してきた。すでにみてきたように,分割・民営化に先立つ約20年間に国鉄が実施してきた設備投資は「今考えても背筋が寒くなる」(角本[1995],229頁)ほど無謀なものであったが,その投資計画は,じつは,国鉄当局によってではなく,鉄建審によって実質的に決定されてきたのであった。しかも,より重要なことは,同審議会での審議そのものは「儀式」(朝日新聞1982年10月29日付朝刊)にすぎず,その議事運営はときの有力政治家によって牛耳られてきたということである。つまり,歴代の有力政治家たちは鉄建審を制度的舞台としながら,「我田引鉄」と評された無謀な新線建設計画を強引に決定してきたのである。

 第2は,鉄建公団と本州四国連絡橋公団(以下「本四公団」という)である。上越新幹線と青函トンネルの建設は鉄建公団の事業として,瀬戸大橋の建設は本四公団の事業として,それぞれ進められたために,これら建設事業にかかわる長期債務は国鉄の決算書においてはオフバランス項目になっていた。しかし,これら長期債務は,「国鉄が負担することを前提として鉄建公団及び本四公団が建設した鉄道施設に係る資本費」(国鉄再建監理委員会[1985],75頁)であったために,次節でみるように,国鉄改革にあたっては国鉄清算事業団において「処理すべき長期債務等」の一部として同事業団に配分されているのである(8)。もともと鉄建公団は,「国鉄財政に気兼ねしないで新幹線やローカル線の建設を推進しようとする政治家のチエから生まれた」(大森[1983],74頁)特殊法人であった。1970年代から1980年代にかけて,鉄建公団はまさに,その期待どおりの役割を演じてきたのであった(図4参照)。本四公団の役割も基本的には,これとほぼ同様と考えてよい。国鉄の経営破綻が深刻化するなかで強行された上越新幹線,青函トンネル,瀬戸大橋等の大型建設工事は,これら特殊法人の存在をぬきにしてはありえなかったであろう。すなわち,これを要するに,これら特殊法人は,上掲の鉄建審と相互補完的に機能しながら,「我田引鉄」の鉄道建設に道を拓いてきたのであった。

図4 鉄鋼公団による鉄道建設の仕組み(上越新幹線の場合)

 第3は,随意契約制度である。国鉄の工事契約は毎年きわめて膨大な件数(たとえば1980年代には年間約15万件)にのぼったが,その約85%が随意契約,約14%が指名競争契約で,一般競争入札による契約は1%にも満たなかった(大森[1983],75頁)。「随意契約となれば,国鉄幹部のハラ一つで契約が行われる」(大森[1983],75頁)ことになるために,この制度的慣行が,政治家と国鉄幹部の癒着の温床になった。たとえば,「〔国鉄の〕資材購入〔価格〕は少なくみても押しなべて〔通常価格よりも〕三割は高いといわれ,その上乗せ分は,国鉄OBや国会議員の顔を立てるためにムダに使われた」(草野[1989],29頁)とされる。そしてさらに,かかる制度的慣行は,国鉄幹部と受注企業の癒着をも生み出し,天下り先を確保するという恩恵を国鉄幹部にもたらした。国鉄の設備投資活動をめぐる経済的利害の連鎖には,このようなかたちで国鉄幹部も深く組み込まれていたのである。

(3) 小括

 以上,総じて,輸送力増強という大義名分(さもなければ時代錯誤の経営方針)のもとに,確たる採算のめどもないまま巨額の設備投資を続けてきた当然の結果が,国鉄長期債務の1986年度末残高25.1兆円であったということができる。銘記されるべきは,国鉄長期債務のこうした累増過程は,「国民一般の常識」からみれば不合理きわまりないものであったが,国鉄の経営・財務に寄生する利害関係者の経済的利害の観点からみれば一貫した「筋」を持つ合理的過程であったということである。国鉄の設備投資活動にかかわるいくつかの制度的枠組みが,そうした「筋」を通すために存在し,機能してきたのである。

Ⅳ 国鉄長期債務の(再)配分措置の検討

(1) JR体制発足時点における国鉄長期債務の配分措置

 1987年4月1日をもって国鉄は分割・民営化され,現在のJR体制が発足した。そのさい,国鉄長期債務は,図5にみるような枠組みにしたがって各法人に配分された。図5にみる国鉄長期債務の配分措置の主たる特徴点を整理すれば,以下のようになるであろう。

図5 JR体制発足時点における国鉄長期債務等の配分措置

 第1は,JR体制発足にさいし各法人に配分された国鉄長期債務(国鉄再建監理委員会[1985],85頁の用語にしたがえば「処理すべき長期債務等」)には,それまで国鉄が直接負担していた長期債務(国鉄再建監理委員会[1985],85頁の用語にしたがえば「国鉄長期債務」)25.0兆円のほか,上越新幹線や青函トンネル等の建設にかかわる鉄建公団債務4.6兆円,瀬戸大橋および明石大橋の建設にかかわる本四公団債務0.7兆円,年金負担等5.0兆円などが別途加算され,当該長期債務は総額で37.2兆円にまで膨張していることである。つまり,「処理すべき長期債務等」のうちの3割以上が,「国鉄長期債務」以外の「等」の金額によって占められているのである。

 第2は,3島JRをのぞくJR4社と新幹線保有機構に配分されなかった国鉄長期債務は,一般会計への振替措置などを一切経ることなく,すべて国鉄清算事業団に配分されていることである。ちなみに,JR4社については,「当面収支が均衡し,かつ将来にわたって事業を健全に経営できる限度」(国鉄再建監理委員会[1985], 87頁)の長期債務を負担させるという観点から, 新幹線保有機構については,新幹線鉄道施設の「簿価に見合う長期債務」(国鉄再建監理委員会[1985],87−88頁)を負担させるという観点から,各配分額が決定されている。

 まず,第1の特徴点についていえば,国鉄の決算書でオフバランス項目とされていた各種の長期債務が,この時点で一挙にオンバランス化されたことが注目される。しかし,それまでオフバランス項目とされていた長期債務の多く(とりわけ鉄建公団債務や本四公団債務など)は,前節でみてきたように明らかに国政次元の政策の失敗(国鉄再建監理委員会[1985],19頁の指摘によれば「外部からの干渉」)に起因する債務であった(9)。したがって,これら長期債務を固有の「国鉄長期債務」と合算してその総額を十把ひとからげに,JR体制発足にさいし「処理すべき長期債務等」とすることは,国鉄長期債務の累増原因とその原因を作り出した外部干渉者の責任を曖昧にするという問題をはらんでいる(10)

 事実,この問題は,上掲の第2の特徴点,すなわち,JR4社と新幹線保有機構に配分されなかった長期債務はすべて国鉄清算事業団に配分するという措置を媒介にして,現実的な意味を持つことになる。すなわち,JR体制発足にあたって上掲の「処理されるべき長期債務等」は,各種長期債務(とりわけ鉄建公団債務等)の累増原因を何ら考慮することなく,JR4社と新幹線保有機構の債務負担能力のみを基準に配分されているのである。このために,国鉄改革にあたって制度化された国鉄長期債務の処理スキームは,外部干渉者の干渉による冒険投資の再発や新たな長期債務の累増を防止するための施策らしい施策をまったく欠いたものとなっているのである(11)

(2) JR体制発足後における国鉄長期債務の再配分措置と新たな長期債務の累増

 JR体制発足にさいして以上のような国鉄長期債務の配分措置が実施されたのであるが,これによって各法人が負担する長期債務の金額が最終的に確定したわけではなかった。JR体制発足後においても,各負担金額の変更をともなう制度改訂が断続的に実施されてきたのであり,さらにまた,国鉄清算事業団においては,債務処理スキームの不十分性から新たな長期債務が累増するという深刻な事態が発生することになったのである。

 新幹線鉄道施設の譲渡  JR株式上場のための制度的条件整備の一環として1991年4月19日に鉄道整備基金関連3法が成立し,同年9月30日に新幹線鉄道施設が新幹線保有機構から本州JR3社に譲渡されることになった。そのさい,新幹線鉄道施設の譲渡価格は当該施設の再調達価額9.1兆円とされ,同額の長期未払金を本州JR3社は,新幹線保有機構の継承法人である鉄道整備基金にたいして負担するものとされた。1987年のJR体制発足にさいして新幹線鉄道施設の再評価が実施され,当該施設の再調達価額8.5兆円(うち再評価増価額は2.9兆円)に相当する国鉄長期債務を本州JR3社は実質的に負担するものとされたのであるが(このほかに5.9兆円の国鉄長期債務を別途負担,前掲の図5参照),新幹線鉄道施設の譲渡にさいして再度の資産再評価が実施され,本州JR3社の新幹線鉄道施設にかかわる実質的な債務負担額はさらに9.1兆円にまで引き上げられることになったのである。この金額は,JR体制発足時点の新幹線鉄道施設簿価5.7兆円の約1.6倍にあたる。ちなみに,新幹線鉄道施設の譲渡益約1兆円(当該施設の譲渡価格9.1兆円と新幹線保有機構の長期債務8.1兆円の差額)は本州JR3社から鉄道整備基金に60年分割(年額700億円強)で納入され,整備新幹線建設のための特定財源として活用されるものとされた(12)

 年金制度の改訂  深刻な財政難に陥った鉄道共済年金を救済するべく,1990年度から同年金にたいして厚生年金等から支援がなされることになった。それにともなう鉄道共済年金の自助努力の一環として同年度から,国鉄清算事業団には年間1,000億円の特別負担が,JR7社には年間220億円の特別負担が,それぞれ求められるようになった。さらに,これにつづいて,1996年6月7日には厚生年金保険法等の一部を改正する法律が成立し,鉄道共済年金を含む旧3公社共済年金は同年9月4日に厚生年金に統合されることになった。そのさい,妥当な水準の積立金移換が必要とされ,鉄道共済年金の現有積立金の不足分約1兆円のうち約0.8兆円(1997年4月時点で7,700億円)を国鉄清算事業団が,約0.2兆円(1997年4月時点で1,700億円)をJR7社が,それぞれ移換金債務として新たに負担することになった(主要全国紙が指摘するJRの年金負担の確定は以上の経緯をさす)。

 長期債務の新たな累増  「処理すべき長期債務等」の7割近くを継承した国鉄清算事業団においては,土地およびJR株式の売却収入という,その収入金額が市場要因によって大きく左右される不確実な財源措置以外に,これといった財源措置が講じられなかったために(13),JR体制発足後も所要資金の大半を長期債務によって調達するという異常な事態が続いた。表2によれば, JR体制発足後の10年間(1987−1996年度)に国鉄清算事業団で新たに発生した長期債務(資金運用部資金,簡保借入金,政府保証債,政府保証借入金の合計)は18.6兆円に達し,同期間の資金収入合計32.3兆円の6割近くを占めていることが分かる。この事実は,政府処理案で示された1998年度当初見込みの国鉄長期債務残高27.8兆円の過半が,国鉄改革の実施後に新たに発生・累増してきたものであることを物語っている。すなわち,以上のことから,巨額の長期債務が膨大な利払費を生み出し,その利払費がさらに新たな長期債務を発生させ,かくして「利子が利子を呼ぶ」(日経新聞1997年10月17日付朝刊)という悪循環に陥った旧国鉄時代の財務構造が,国鉄改革後も基本的には何ら改善されることなく,国鉄清算事業団においてそのまま再生産され続けてきたことが理解されるのである。

表2 国鉄精算事業団の資金収入に占める長期債務の割合(1987〜1996年度)

(3) 小括

 以上にみるように,各法人とりわけ本州JR3社はJR体制発足後も,新経営形態の制度的整備を理由とした制度改訂のたびに,長期債務や年金の移換金債務を追加的に負担してきたのである。このような経緯からすれば,さらなるJRの追加負担を求めた政府処理案にたいして,「JRにこれ以上の負担をさせようというのは契約と違うし,筋が通らない」(松田[1997],75頁)という反発をJR関係者が示すのも,けだし当然といえよう(14)

 驚嘆すべきは,各法人の債務負担額が以上のような経緯をたどって断続的に増大していくなかで,整備新幹線建設のための特定財源が新たに創設されるという,旧国鉄時代の冒険投資を彷彿させるような事態が生じていることである(15)。しかも,すでにみてきたように,政府処理案においては,たばこ税の増税や郵貯特別会計の黒字活用といった「国鉄債務との因果関係を説明することが困難な『奇策』」(朝日新聞1997年12月3日付夕刊)が講じられる一方で,旧国鉄資産の売却によって生じた(その意味で国鉄長期債務との因果関係がきわめて明白な)当該特定財源にはまったく手がつけられていないのである。

 国鉄長期債務等の処理案の策定過程で,ある議員は,「負担の線引きに理屈なんかない」(朝日新聞1997年12月4日付朝刊)と豪語したという。国鉄長期債務の以上のような(再)配分措置を貫いているのは,まさに,「負担の線引きに理屈なんかない」という「理屈」である。こうした「理屈」の背後に,鉄道建設や特定財源の確保・活用をめぐる利害関係者の経済的利害が伏在していることは,すでに繰り返し指摘してきたとおりである。政府処理案は「筋が通っていない」という批判は,そうした利害関係者たちにとって,それこそまさに「筋違い」の批判であったといわなくてはならないであろう。

Ⅴ むすび

 以上によって,国鉄長期債務の累増過程および国鉄改革にともなう当該長期債務の(再)配分措置に関する分析・検討作業をひとまず終えたいと思う。以上の分析・検討作業をふまえつつ,政府処理案が実施された場合に生じると予想される経済的帰結について若干の私見を述べ,本稿のむすびとしたい。

 すでに明らかなように,国鉄長期債務の累増過程と当該長期債務の(再)配分措置を貫いているのは,鉄道建設や特定財源の確保・活用をめぐる利害関係者の経済的利害である。そして,かかる経済的利害の観点からみれば,国鉄長期債務の累増過程と当該長期債務の(再)配分過程は,きわめて整然と「筋の通ったもの」になっているのである。

 しかし,じつをいえば,このこと自体は決して先験的に批判されるべきことがらではない。とくに経済学の観点からみた場合には,そうである。なぜならば,個々の経済主体があらゆる機会を捉えて私的利益の極大化を図ろうとするのは,市場経済下の合理的行動といえるからである。しかも,「国民一般の常識」からみれば「筋が通っていない」と思われるような一連の政策の遂行を,有権者としての国民の多数はこれまで大筋において支持し,あるいは少なくとも黙認してきたのである。それはおそらく,一連の政策の遂行が,雇用創出や地域振興といったかたちで,国民の多数に正味の経済的便益をもたらしてきたからであろう。このような意味で,旧国鉄時代の冒険投資も,既存の特定財源に一切手をつけない国鉄長期債務の処理策も,国民の1つの選択であったということができるのである。

 問題は,そうした国民の選択から生じる経済的不利益が国境を越えるときに顕在化する。本州JR3社はすでに株式を上場し,「外国人投資家が10%以上のJR株を保有」(日経新聞1997年12月18日付朝刊)するという状況を迎えている。政府処理案,とりわけそこで示されたJRの追加負担措置が,JRの株価にネガティブな影響をおよぼすのは確実であろう(16)。しかし,より重大かつ深刻な問題は,「〔JR体制発足当初の〕債務処理スキームを改訂することは,政府が民間との契約を順守しないことを意味し,グローバルな投資家の日本政府に対する不信感を増幅する」(デルグランデ[1997])ということにある。「ローバルな投資家」のかかる「不信感」は,JR株式の今後の放出に支障をきたすだけでなく,大規模な「日本売り」をつうじて日本の株式市場の,ひいては日本の経済システムそのものの,機能不全を生み出す危険性を秘めている(17)。こうした危険性が顕在化したときの国民の経済的不利益は甚大であろう。これが,政府処理案が実施された場合に生じると予想される最も重大かつ深刻な経済的帰結である。

 しかも,政府処理案では,国鉄長期債務の元本償還はさしたる財源のめどもないまま将来の超長期的な課題として先送りされているために,当該長期債務の8割以上を継承する一般会計においては,国鉄改革後の国鉄清算事業団で観察されたように,新たな長期債務が発生・累増する可能性がきわめて高い。上掲のような経済的帰結のもとで新たな長期債務が発生・累増すれば,国民が負担する将来の経済的不利益は計り知れない規模に達するであろう。

 したがって,国民は,以上のような諸事情を十分考慮したうえで,政府処理案(より一般的には国鉄長期債務の処理問題)への態度を決定する必要がある。そのうえでなおかつ,国民の多数が政府処理案を支持(または黙認)するというのであれば,それはそれで1つの国民的選択となりうる。しかし,その場合,国民は,それによって生じるより大きな経済的不利益の負担を覚悟しなくてはならない。国鉄長期債務の処理をめぐる問題状況について,国民1人ひとりが正確かつ冷静な認識を持つことが強く望まれるゆえんである。

参考文献

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臨時行政調査会[1982]『臨調基本提言』臨時行政調査会第3次答申,行政管理研究センター。

※新聞は省略している。

〔付記〕資料の収集にあたって,会計検査院事務総長官房審議室調査官・山本重人氏から好意あふれる援助を受けた。記して謝意を表わしたい。

(1) こうした批判の詳細については,後出の表1に掲げた主要全国紙の各社説を参照されたい。

(2) もちろん,国会審議の過程で政府処理案に何らかの修正が加えられる可能性はある。しかし現在,その見通しが必ずしも明確でないので,本稿では,政府処理案で示された諸施策をさしあたりの前提として議論を進めていくことにする。

(3) 政府処理案に関する以下の要約は,財政構造改革会議[1997b]によっている。この点については,後出の脚注(5)を参照されたい。

 なお,財政構造改革会議[1997b]では,金額に「程度」という文字が付加されているが(たとえば,有利子債務の利払費は「6,600億円程度」など),本稿ではこれをすべて省略している。

(4) 時期的な制約があり,本稿執筆時点で筆者が入手しえた政府処理案の関連資料は,新聞記事および雑誌記事のみであった。政府処理案に関する評価をマスコミの論調を中心に整理・検討しているのは,かかる事情によるものである。

(5) 財政構造改革会議[1997a]をもとに財政構造改革会議[1997b]が決定され,さらに,この決定にもとづいて政府処理案の決定(1997年12月25日閣議決定)がなされている。政府処理案は,若干の細部をのぞいて,財政構造改革会議[1997a]の内容をそのまま踏襲したものとなっている。

(6) ただし,朝日新聞1997年12月6日付社説だけは,JRの追加負担について,「重い負担を押しつけられる国民の立場からすれば,必要な法改正を含めて将来の課題として検討する余地があるのではないだろうか」として,当該措置に消極的賛成ともとれるような立場を表明している。同紙社説のかかる主張は,表1に掲げた主要全国紙のなかでは唯一の例外的主張となっている。

(7) 図2の(注)で示したように,本稿では,収支率=営業収入/営業経費として計算している。旧国鉄時代の損益計算書(一般損益計算書)では,助成金受入が営業収入に計上される一方で,利子及び債務取扱諸費や固定資産除却費が営業経費として計上されるなど,企業会計上の損益区分とはかなり異なる損益区分が実施されていた。したがって,企業会計的な意味での損益率を厳密に計算する場合には,勘定金額の組み替えが必要となる。しかし,ここでは,国鉄の経営状態の長期的な推移を鳥瞰的に把握することを目的としているので,あえて勘定金額の組み替えをおこなわず,上掲の計算式による計算を実施することにした。本稿で損益率という用語を使用せず,収支率という用語を使用しているのは,かかる理由によるものである。

(8) 図2によれば国鉄の投資額と投資率は1970年代の後半以降,下降線を辿っているようにみえるが,以上のことから,それが必ずしも国鉄の経営実態を反映したものではないことが理解されるのである。

 ところが,運輸省は,国鉄改革後も一貫して,JRグループの各法人が実際に引き継いだ長期債務のみを「各法人の長期債務」とし,将来年度に引き継ぐべき債務および支払うべき費用については,これをオフバランス項目とするデータ処理を実施している(たとえば運輸省編[1988],229?231頁;運輸省編[1989],172?175頁など)。その理由は不明である。

(9) 国ではない独立の公共企業体に旧官吏恩給を負担させたこと,単一の公共企業体で単一の共済組合を作ったことなどにみるように,旧国鉄共済年金の仕組みそのものにも多くの問題点があった(加藤・山同[1983],126?130頁)。これらの問題点は当該年金制度の形成にかかわって生じたものであり,したがって,国鉄改革にあたって国鉄清算事業団に配分された年金負担等(の多く)も,広い意味での政策の失敗に起因する債務であったといえるであろう。

(10) 国鉄再建監理委員会[1985]が,国鉄が直接負担していた長期債務を「国鉄長期債務」と呼び,鉄建公団債務等を含めた長期債務の合計を「処理すべき長期債務等」(あるいはたんに「長期債務等」)と呼んで,2つの長期債務を概念上区別しているのは,この意味で,きわめて適切な措置であったといえよう。

(11) 原因者負担(負担の公正配分)の観点から国鉄長期債務の処理方法を提唱した数少ない文献として,醍醐[1985]がある。醍醐[1985]では,1961年度から1984年度までの国鉄決算書類の分析にもとづいて発生原因別の国鉄長期債務額が推計され,当該各債務額を負担すべき主体が原因者負担の観点から明らかにされている。冒険投資の再発や新たな長期債務の累増を防止する施策を講じるためには,こうした観点からの問題接近が欠くことのできない作業となるであろう。

(12) 新幹線保有機構は,①本州JR3社間の経営基盤の均衡化,②4新幹線(東海,山陽,上越,東北)の運賃水準の均衡化,③新規債務の負担,④3島JR3社の経営安定基金の確保,⑤本州JR3社の保険機能という5つの機能を担うべく設立された特殊法人であったとされる(土屋[1988],59頁)。ところが,本文でふれたように,同機構は,その設立からわずか4年半で解散されたのである。わずか4年半で解散という経緯からすれば,同機構にそうした機能が本当に期待されていたのかどうか,疑問なしとしない。もし上掲の5つの機能が本当に重要なものであれば,同機構をこれほどたやすく解散することはできなかったはずだからである。それはさておき,その設立から解散にいたるまでの一連の経緯から判断するかぎり,同機構が果たした最も明白な現実的機能は,新幹線鉄道施設の2度にわたる再評価の機会を政府に与え,それによって当該鉄道施設の譲渡価格を簿価の1.6倍にまでつり上げることを可能にした点にあったと断じざるをえない。とりわけ新幹線鉄道施設の2回目の再評価は,同機構の存在がなければ(すなわち分割・民営化の時点でただちに当該鉄道施設を本州JR3社に譲渡していれば),実施しえなかった措置である。

(13) 国鉄清算事業団における唯一の確実な財源措置は,新幹線保有機構による2.9兆円の負担であった(図5参照)。この金額は,新幹線鉄道施設の再評価(JR体制発足時のそれ)によって生じた当該施設の簿価と再調達価額の差額に相当するものであり,実質的には本州JR3社が新幹線鉄道施設のリース料支払いをつうじて負担するものとされた。しかし,この金額は,国鉄清算事業団が継承した25.6兆円の国鉄長期債務からみれば,まったくとるに足りない金額であったといわざるをえない。国鉄清算事業団における国鉄長期債務処理の問題点については,会計検査院〔1996〕,464—471頁において示唆的な分析がなされているので,参照されたい。

(14) JRの追加負担が法律によって強制された場合,JR側は負担無効の確認を求めて提訴する方針であると伝えられている(日経新聞1998年1月17日付朝刊)。

(15) この事実に呼応するように,政府・与党の整備新幹線検討委員会は1998年1月9日,整備新幹線新規着工の約7年間にわたる凍結を解除し,東北新幹線八戸?新青森間など3区間を今年度中に着工することで合意したと伝えられている(日経新聞1998年1月10日付朝刊)。

(16) JRの追加負担によってJRの株価が下落した場合,株主代表訴訟が起こされる可能性があるだけでなく,国鉄長期債務の処理財源(政府処理案では鉄建公団における年金等負担金の処理財源)の一部をなすJRの残株の売却収入も減少するというマイナス効果が生じることになる。JRの追加負担はこのような問題点を必然的にともなうので,その正味の財源効果は政府処理案で想定された金額をかなり下回るものとならざるをえないであろう。

(17) もちろん,その基底には,巨額の長期債務を将来世代の負担として安易に先送りする一方で,旧来の既得権益を温存することから生じる実体経済の疲弊と非効率化が横たわっている。外国人投資家による「日本売り」は,そうした実体経済の忠実な反映であり,日本経済に蓄積された諸矛盾を顕在化させる1つのきっかけとなるにすぎない。

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