第17号

サンセット法の成果と展望
畠山武道

畠山武道
(北海道大学法学部教授)

 1944年生まれ。1972年北海道大学大学院法学研究科博士課程修了。1973年立教大学法学部講師。その後,同助教授,教授を経て,1989年より現職。所属学会:日本公法学会,日米法学会,租税法学会,環境法・政策学会など。著書:『租税法[改訂版]』(1985),『現代経済社会と法』(共著,1990),『アメリカの環境保護法』(1992),『環境行政判例の総合的研究』(共著,1995),『行政手続と市民参加』(1995),『環境問題と当事者−法律編−』(1997)など

はじめに

 本稿は,1980年前後にアメリカ合衆国の州で制定されたサンセット法を取りあげ,その役割,仕組み,成果などを検討しようとするものである。

 サンセットとは,ある行政組織や政策(プログラム)について,「〇〇〇は,〇〇年〇月〇日をもって廃止する」という期限を定めておき,議会が組織や政策の再設置(継続)を改めて承認しないかぎり,それを自動的に廃止するというものである(1)。サンセットは,1976年にコロラド州で初めて取り入れられ,その後,急速に全国に普及し,今日も20以上の州で実施されている。サンセット法の成果については,さまざまの議論があるが,日本においても,行政組織の再編や大規模公共事業の見直しをめぐる議論の中で,サンセット法に対する関心が高まっており(2),合衆国における経験を概観することにも,いくらかの意義があるだろう。

 サンセット法については,わが国でも,1980年代の当初,いくつかの紹介がされたが(3),その後の経緯を伝えるものは見当たらないようである。また合衆国でも,同時期に多数の論稿が見られたが,最近の動向を伝えるものは,さほど多くない。したがって,本稿も,やや古い文献を参照しており,記述が現状と異なる可能性がある。現況報告としてではなく,1980年代の合衆国の経験を紹介したものと理解していただければ幸いである。

1 サンセット法制定の背景

 合衆国で1980年前後にサンセット法が急速に普及した理由として,一般に次のようなことが指摘されている。

 第1は,行政官僚組織の肥大化に伴う行政能率の低下である。アメリカの行政組織は,ニューディール期に著しく肥大化したが,その後,当初有していた活力と柔軟さを失い,業者とのなれ合いを生み,いわゆる「規制する者が規制される」状態になってしまった。その傾向は州においても同じであり,州レベルでは,むしろ1960年代から1970年代にかけて,雑多な事業の規制を目的に無意味な許認可行政が拡大したといわれる(4)。しかし,許認可にかかる行政のコストは増大しているにもかかわらず,サービスや利便はいっこうに改善されず,無意味な規制に対する批判が各地で高まってきたのである。

 第2に,無意味な規制や行政組織の拡大を抑制する有効な方法がないことである。いうまでもなく,行政監視の役割を第一義的に担うのが議会である。しかし,議会内の硬直的な慣行や議員の時間不足・能力不足などから,議会が官僚組織を効果的に統制してきたとはいい難い。官僚組織への批判は,それを統制できない議会への批判と連なり,議会としても効果的な立法的監視手段(legislative oversight)(5)を導入する必要にせまられたのである。

 第3に,こうした場合に,合衆国で強調されるのが,いわゆる「行政の説明責任」(administrative accountability)である。しかも合衆国では,行政の説明責任が,住民の代表者である議会に対して十分になされる必要があるという主張がむしろ一般的であり(6),この点でも,議会の行政監視機能を高めることが求められた。

 実際,1970年代には,評価委員会(7),規則審査(8),立法拒否権,サンセット,ゼロベース予算,プログラム評価(9),オンブズマン,行政手続の司法審査,広範な市民参加など,さまざまの行政監督手段が検討され,試行されたが,その大部分は,議会による行政監視を強化するものであったのである(10)

 第4に,1970年代から1980代にかけてのアメリカの政治的状況も,その要因にあげるべきだろう。1980年代に入ると,連邦レベルでは,規制緩和や規制改革が声高に主張され,レーガン政権の誕生がその動きを決定的にした。レーガン大統領は,さらに連邦政府の縮小,連邦補助金の打ち切り,州への権限委譲を提唱したために,州や自治体事務の増大がさらに予想され,州行政組織の再編を急ぐ必要が高まったといわれる(11)

2 サンセット法の内容

(1) サンセット法の制定

 ところで,行政機関は,それを改めて存続させる旨の決定がないかぎり,一定期間の到来とともに自動的に廃止すべきだという考えには,前例がないわけではない。よく指摘されるように,ダグラスは,1930年代に,すべての行政機関に10年の存続期間を設けることを提言し(12),1967年には ,政治学者ローウィが,行政機関に権能を付与するすべての制定法に,5年から10年というジェファーソン主義的時限を付す一般法の制定を提言している(13)

 また,1972年制定の連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act)は,すべての審議機関に2年の期限を設定し,大統領またはそれを所管する機関によって審査され,または法律によって存続が認められない限り,廃止されるものとした(14)

 しかし,サンセット法制定を求める市民運動がアメリカ全土に広がったのは,1970年代後半である(15)。州における最初のサンセット評価の提案は,1975年,テキサス州で,一定の行政機関に,法律によって更新されないかぎり10年の存続期限を設ける旨の憲法修正条項が提案されたのが最初といわれる。しかし,この提案は議会で否決され,憲法条項にはならなかった(16)

 しかし,翌1976年4月にはコロラド州が合衆国で最初のサンセット法を制定し(17),同年には,フロリダ,ルイジアナ,アラバマの各州がサンセット法を制定した。サンセット法は,政府の規模を縮小し,競争を高めるべきであるという当時の政策方針や世論にも適合したことから,保守・リベラル,共和党・民主党を問わず支持され,50のすべての州および連邦議会で,サンセットを導入するかどうかの議論がされたといわれる。その結果,1982年までの間に36の州でサンセット法が制定された(18)

 しかし州の中には,サンセット評価の内容や手続を十分に議論せずに拙速に法律を制定したところや,評価が運用の限界をこえてパンクするところが続出した(19)。まず1981年にノースカロライナ州がサンセット法を廃止し,その後,5つの州がこれに続いた。また,他に6つの州が,法律を廃止こそしないものの,法律の執行を停止中である。従って,今日サンセット評価を実際に実施しているのは,24州と思われる(20)

(2) サンセット法の特色

 サンセットは,法律では,例えば「政策(プログラム)の価値が,その廃止よりも存続を正当化するかどうか,州政府の政策に対する必要性があるか,もしあるとすれば,政策の当初の目的が達成された程度の評価が,政策の業績,影響または実績の形式で,およびそれが明示を意図された状態の形式で明らかにされているかどうかの体系的評価」(Ariz.Rev.Stat.Ann.§41-2352(4))などと定義される(21)

 サンセット法の第1の特色は,自動的な廃止期限が明記されていることである。すなわち,議会がそれを再度設置するという決定をしない限り,当該の機関やプログラムは期日の到来とともに廃止される(22)。また議会が当該行政機関の存続を望む場合には,それを評価し,再度設置するという積極的な行動(affirmative action)をとらなければならない。その点で,サンセット法は,議会に対して行為強制的(action-forcing)な意義を有する(23)。言いかえると,サンセット評価は,「何も行動がとられなければ組織は存続する」という従来の図式を,「何も行動がとられなければ組織は消滅する」という図式に作り替えるものといえる。

 第2の特色は,サンセット評価が定期的になされることである。たしかに,議会は,サンセット評価手続によらなくても,政策・事業にその都度期限を付し,また政策・事業をいつでも廃止する権限を有している。しかしサンセット法は,それをアドホックにではなく,定期的,強制的,画一的に,かつ可能なかぎり体系的におこなうことを求めるものである(24)

 第3に,サンセット法は,行政機関や事業を抹殺し,数を減らすことを唯一の目的とする制度ではない。むしろアリゾナ州法の定義からもうかがえるように,行政機関や政策を,一定の判定基準に従って公正にレビューすることを目的とする。サンセット評価は,立法部門と執行部門の対立をいたずらにあおるものではなく,むしろ両者の協働を推進するものである(25)。この点は,再度とりあげよう。

(3) サンセット法の構成要素

 法律制定を推進した市民団体コモンコーズは,サンセット法には10の事項が含まれなければならないとしている(いわゆるコモンコーズの10原則)。以下の説明の便宜もかねて,それを列記しておこう(26)

①サンセット法の対象となっている政策(プログラム)や行政機関は,法律によって積極的(affirmatively)に再設置されない限り,特定の日をもって自動的に廃止されるべきである。

②廃止は,政策評価のプロセスを制度化するために,定期的(たとえば6年毎または7年毎)になされるべきである。

③すべての重要な改革と同様に,サンセット機構の導入は学習のプロセスでなければならず,段階的に実行されるべきである。

④調整,合同,および責任ある無駄の削減をおこなうため,同一政策分野の政策や行政機関は,同時に審査されるべきである。

⑤現在ある機関(たとえば,OMB,CBO,GAO,および類似の州機関)は,政策評価の準備業務を引き受けるべきである。しかし,その評価能力は強化されなければならない。

⑥有意義な評価を実現するために,サンセットの提案は政策評価プロセスを導く一般的判定基準(クライテリア)を定めるべきである。

⑦トップの意思決定者が良識的な政治的判断をおこなえるよう,内容のある準備成果が管理する意思決定報告書の中に含まれていなければならない。

⑧委員会構成員のローテーション制度を含め,実質的な委員会の再編が,有意義なサンセット評価にとって必要不可欠である。

⑨恣意的な廃止を防止し,行政機関の未払い債務(市民が有する請求権や財産上の権利)や職員の配転に備えるための防御措置がサンセット装置の中に設けられなければならない。

⑩情報に対するアクセスと公聴会の形式による市民参加は,サンセット手続の基本部分である。

(4) サンセットの分類・区分

 さて,各州のサンセット法を,上記の10原則に基づき分類・区分してみよう(27)

 まず,①の自動廃止条項の有無をみると,大部分の州が(再授権されない場合の)自動廃止を定め,わずかの州が廃止するかどうかを議会の決定(投票)に委ねている。②の定期的評価についても,すべての州が定められた年限毎に評価を実施することを定めるが,アラバマ州のように,不用意に多数の行政機関を短期間に審査することを定め,大失敗を招いたことへの反省から,コモンコーズは,③④で示されるように,サンセットの段階的導入,領域毎のグループ評価を奨励している。定期的評価の期間は,4年から13年とまちまちであるが,平均8−10年といわれる(28)

 また,サンセットは,評価の対象をどのように定めるかで,すべての行政機関を評価の対象とする包括的評価方式と,一部の行政機関(主に事業許認可官庁)または裁量的に選択された行政機関のみを対象とする部分的評価方式とに区分することができる(29)。当初は,無意味な行政規制が批判の的となっていたことや,サンセット法の効果をしばらく見守る必要があったことから,対象を許認可官庁に限るところが多かった。しかし評価の実績を積むにつれて対象を規模の大きな行政組織にまで拡大し,さらに包括的評価方式を取り入れる州が増加している。ただし,退職年金機関,教育機関,刑務所,図書館,それに州憲法によって設置された行政機関などは,あらかじめ評価の対象から除外されることが多い(30)

 評価の方法については,当該規制ないし行政機関の必要性(必要性基準)と,その義務をどの程度実現できたか(業績基準)の2つにわけて評価することが提案されているが,2段階評価を実施しているのはフロリダ州などごくわずかで,大部分は業績(performance)のみを評価することにしている(31)。また評価は,当該部局に対する質問表,提出された資料などをもとになされるが,評価される行政機関が多種多様であることから,質問もそれぞれ異ったものにならざるをえず,法律に詳細な判定基準を示すことは実際には難しいとされている(32)

(5) サンセット評価の手続

 サンセット評価手続は,準備手続と評価手続そのものに区分できる。

 まず,議会事務局が,サンセット評価に必要な資料・データを収集し,分析し,さらに存続・廃止に関する報告書を準備する。この準備作業には,議会内の予算担当機関,監査事務局などの既存の議会機関があたるのが普通である。スタッフは,アナリストを専任職員として採用するもの,アナリストやコンサルタントを非常勤職員として雇うもの,外部のコンサルタントに委託するものなどさまざまである。全体の4分の1が外部コンサルタント委託方式をとる。専任スタッフが最も多いのはテキサス州の23名(33),つぎがフロリダ州の10名である(34)。ゼロベース予算報告書を併用し,さらに行政機関の自己評価書をこれに充てる例もみられる。

 ついで,議会に設置された評価委員会が,上記報告書に基づきサンセット評価を実施し,最終評価報告書を作成する。最終評価報告書は,評価の対象となった行政機関の再設置,廃止,変更のいずれかの勧告を含む。また,勧告を実施するのに必要な法案・予算案がこれに付加される。評価委員会は,独立の評価委員会を設置するものと,既存の常任委員会のメンバーからなる両院合同委員会が関連分野毎に担当するものとがある(35)

 この段階で,住民からの意見が聴取される。住民参加は,コモンコーズの10原則の中で最も強調されている事項であり,わずかの例外を除き大部分の州が公聴会・証言・意見書などの手続を定めている。また,評価委員会が行政記録にアクセスする権限を認める州も多い。

 最後に,議会(本会議)が,評価委員会の最終評価報告書に基づき,行政機関の廃止・存続・組織変更を審議し,議決する。さらに州法の中には,知事の関与を定め,行政機関が再設置された場合の知事の拒否権や知事の法案再提出権を認めるものもある(36)

 存続を認められなかった行政機関は,通常1年存続し,その間に残務の清算がされる。しかし,こうした清算期間が定められていない場合,行政機関は即座に廃止されることになる。

3 アリゾナ州サンセット法の実績

(1) アリゾナ州におけるサンセット評価の実施

 では,サンセット評価の実際の運用と結果はどのようなものであろうか。ここではアリゾナ州とテキサス州をケーススタディとしてとりあげ,検討しよう(37)

 アリゾナ州のサンセット法は,1978年6月14日に制定された。同法は,すべての行政機関と政策(プログラム)を評価する包括的評価方式である。組織の存続期間は,当初7年とされたが,その後10年に延長された 。最初の評価は1980年 ,最後の評価は1997年で, 2年毎に20前後の組織を順次評価することとされた。1978年から1982年までの間に29の行政機関と政策が評価され(38),さらに1984年12月までの間に,58の行政機関等の評価が完了した。また,サンセットによらない23の業績監査が実施された。58のうち30は職業免許機関や営業規制を業務の一部とする不動産・保険部門などであったとされている(39)

(2) 手続の概要

①まず,一般監査局(OfficeoftheAuditorGeneral)が,「業績監査」(performanceaudit)と呼ばれる報告(準備)書を作成する。サンセットを専門に行う事務局を議会内に設置したことがアリゾナ州法の特徴である。準備手続は,当該行政機関の廃止期限の17カ月前には開始し,業績監査報告書は11カ月前までに完成していなければならない。業績監査報告書は,当該行政機関に送付され,当該機関は,この報告書を審査し,書面によるコメントまたは反論を提出することが認められる。

 この監査局の報告は,「行政機関がその目標・目的に適合しているかどうかの有効性,行政機関の廃止が一般公衆の健康,安全,福祉にあたえる重大な悪影響の範囲,行政機関によって実施されている適切な規制水準の範囲,そしてより緩いまたはより強度の規制水準が適切かどうか」(40)について,評価することになっている。

②議会における評価機関はCommitteeofReference(以下,CORという)である。CORは10名の議員からなり,上院・下院の双方から5名づつ選抜されるが,同じ政党の議員はそれぞれ3名を越えてはならないものとされている。CORは,業績監査報告書を受けとった後,一般公衆と当該行政機関の意見を聴取するために公聴会を開催しなければならない。この公聴会は,当該行政機関の実際の目標,法律上の要請との適合性,行政機関と一般大衆の関係を議論する場としてとくに重視されている(41)

CORは,これらの意見をもとに,当該行政機関の存続,統合,または廃止のいずれかを勧告する最終サンセット評価報告書を作成する。最終報告書は,当該行政機関の必要性,目的,予想される量的・質的業績を記述し,さらに類似ないし目的が重複する行政機関があるときは,重複・競合をいかに回避したのかを説明し,当該行政機関を廃止または他の行政機関と統合した場合の結果を評価しなければならない。

③最後の段階は,JointLegislativeOversightCommittee(以下,JLOCという)による評価である。JLOCは,上院・下院から議長によって指名された各5名の議員からなり,上院・下院議長が職務上の資格で委員会に参加する。JLOCの当初の目的は,CORの勧告を実施するのに必要な法案を起草することであったが,現在,この任務はCORに移されている。しかも,CORもこの法案起草の任務を関連する常任委員会に委せていることから,勧告の実施に必要な法案の作成は,通常の法案と同じ手続でなされる(42)。したがって,実際には,両院の常任委員会および本会議が最終的な生殺与奪の権限を有していることになる。

(3) 4年間の実績

 さてアリゾナでは,第1回評価(1980年)によって,会計士委員会,農業雇用者調整委員会,農業園芸委員会州薬剤師局および果実野菜標準化事業,高齢者諮問協議会,行政情報諮問委員会,販売者登録部,歯科治療師委員会,経済計画・開発委員会,倫理委員会,保険省,移動式・製造住宅基準委員会,視力測定師委員会,心理療法師委員会,技術士登録委員会の14の行政機関が,第2回評価(1982年)によって,行政省,芸術・人文科学委員会,競技委員会(レスリングとボクシングの監督),カイロプラティック師委員会,卵検査委員会,医療師委員会,自然療法師委員会,看護師委員会,眼鏡調整師委員会,内科・外科整骨師委員会,足病治療師委員会,不動産省,獣医師委員会の13(合計27)の行政機関がサンセット評価された。

 その結果,行政情報諮問委員会,経済計画・開発委員会,倫理委員会の3つ(11.1パーセント)が廃止され(43),逆に,農業雇用者調整委員会,農業園芸委員会州薬剤師局および果実野菜標準化事業,芸術・人文科学委員会,獣医師委員会の4つ(14.8パーセント)は変更なしに存続を認められた。

 このように廃止の実績だけをみると,サンセット評価の結果,廃止された行政機関はわずか3つにすぎず,しかも,これらはいずれも許認可機関ではない。残りの20の行政機関をみると,免許制度の大部分が消費者保護に貢献していないという監査局の指摘にもかかわらず,カイロプラクティック師,卵検査士,医療師,自然療法師,看護師,眼鏡調整師,内科・外科整骨師,足病治療師などの免許機関が,若干の組織統合はあったが,10年という最長期間の存続を認められた(44)。アリゾナ州では,ひとつの規制行政機関も廃止されなかったという評価は(45),この事実に論拠をおいている。

 では,なぜこのような結果が生じたのであろうか。その理由として,①一般監査局の業績監査報告書が,行政機関の問題点の発見,改善策の指摘に貢献したにもかかわらず,業績評価にまで踏み込まず,規制改革や廃止勧告にも及び腰であったこと,②一般監査局が議会への遠慮,経験不足,時間不足,スタッフ不足など一般から,組織運営に問題を絞り,規制の必要性,程度などの重要な政策判断を議会に委ねたこと,③CORは一般監査局の報告書をそのまま引用するだけで,独自の調査と判断をせず,また具体的勧告を回避するなど,任務を十分に遂行しなかったこと,④JLOCが,COR報告書の審査役,議会内における調整役としての役割を十分に果たさなかったこと,④議会が,一般監査局の重要な提言を拒否したこと,⑤サンセット手続の参加者の大部分が規制の恩恵をうける業界や専門職能団体の代弁者で,彼らが一般監査局や議会に圧力を加え続けたこと,などがあげられている(46)

 この中で特に強調されるのが,業界の政治的圧力である。業界・職能団体の圧力は,第2回目の評価の際にはさらに強くなり,それにつれて,議会の姿勢も目に見えて消極的になったといわれる。中でもよく言及されるのが,1983年評価の際の理容師・美容師団体の組織的運動である。一般監査局の報告は免許機関である理容師・美容師委員会の廃止を勧告したが,理容師・美容師組合は,陳情,3000通に達する手紙作戦,3度の公聴会要求と公聴会への動員(47),議員へのロビイングなどを繰り返した結果,まんまとサンセットを免れたのである。

(4) サンセットのコスト

 サンセット評価は, 費用の面でも大きな課題を残した。 一般監査局・業績監査部の年間予算は75万ドルをこえ,一般監査局は,ひとつの行政機関の評価に延べ2400時間と4万3,200ドルを費やしたが,これは全国平均をはるかに上回るものといわれる(48)。しかもこれには,議会委員会やそのスタッフ,さらにサンセットの対象となった当該行政機関が費やした時間・費用は含まれていない。他方,サンセット評価の対象となった行政機関は,大部分が小規模な事業免許機関であり,廃止しても,大幅な経費削減が見込めるような組織ではもともとなかった(49)

(5) 総合的な評価

 以上,アリゾナ州の4年間の実績を概観するかぎり,アリゾナ州では廃止された行政機関が全国平均に比べてはるかに少なく(50),規制改革にもほとんど貢献しなかったという評価に説得力があろう(51)。たしかに,一般監査局による問題の洗い出し,議会による法律改正,行政自身による改善などを通して行政の効率性・組織運営の実効性が向上し,公衆への説明責任も増進したという効果も否定はできない。しかし,こうしたサンセット評価のプラス面も,アリゾナ州の場合には,予想されたほどのものではなかった(52)

 サンセット評価が政治的圧力に弱いという欠点をさらけ出したのも,アリゾナ州サンセット法の大きな教訓である。さらに,コストの面でもアリゾナ州の経験は大きな課題を残した。たしかに,営業規制緩和による利益には,行政コストの削減だけではなく,競争促進により消費者が受ける利益等も含まれる。しかし,サンセットに要する膨大な経費を,こうした波及的な便益だけで弁護するのはおそらく無理である(53)

(6) その後の大幅改正

 こうした経験をふまえ,アリゾナ州法は大幅に改正された。改正の主なものは,①一般監査局は,評価される行政機関のリストと評価に要する時間の見積りを廃止予定時期の20カ月前までにJLOCに提出する,②JLOCは評価に優先順位をつけ,一定の機関をサンセットの対象から除外する,③評価をパスした行政機関は,自動的に次の2年間の評価サイクルにおかれる,④JLOCは,リストアップされなかった行政機関の評価を一般監査局に指示することができる,などである(54)

 この改正は,さほど評価する意味のない行政機関をサンセット評価から除外し,サンセット評価に要する立法府のリソースを,より成果の期待される分野へ振り向けることを可能にし,サンセット評価を,より柔軟かつ費用効果的に運用することをめざしたもので,過重負担に悩む他の州の注目するところとなっている。

4 テキサス州サンセット法の効果

(1) テキサス州法の概要

 テキサス州のサンセット法は,1977年6月に制定された。テキサスのサンセットは,包括的評価方式であり,規制機関・非規制機関をとわず,すべての行政機関を対象とする。ただし高等教育機関など一部のものは評価から除外される。対象となる機関は177といわれ,すべての機関は12年毎に評価にかけられる。議会が再設置を定める法律を可決しない限り,当該機関は1年間存続した後に廃止される(55)

 評価を実施するのはサンセット諮問委員会(Sunset Advisory Commission:以下,SACという)である。SACは,当初,下院議長の任命する4名の下院議員と現職知事の任命する4名の上院議員から構成されていたが,1983年にさらに2名の一般代表が委員に加えられた。議会委員の任期は4年,一般委員の任期は2年である。

 SACは,23名の専属スタッフをもつ。スタッフは,すべて法律学,政治学,経済学,行政学,教育学,経営学,会計学,社会福祉学などのトレーニングを積んだプログラム・アナリストである。これは,他の州の専任スタッフが,多くて8−10名程度にすぎないことを考えると,テキサス州法の著しい特色であり,SACの権威を著しく高めている原因でもある。スタッフは, 当初, 議会予算局の業績・評価部(Performance and Evaluation Division of the Legislative Budget Board)に配置されたが,1981年に専任スタッフとされた(56)

(2) 手続

 テキサス州法のサンセットは,①行政機関による自己評価,②SACのメンバーによる評価の実施と報告書の作成,③SACによる公聴会の実施,④SACによる廃止・存続についての勧告と必要な法案の提言,⑤議会におけるSAC法案または他者から提出された修正案(代替案)の審議・採決,⑥知事の署名または拒否の6段階からなる(57)

 知事は,SACに対して公式の勧告を提出し,さらに再設置を認める法案に対し拒否権を行使することで,組織を消滅させることができる(58)

 テキサス州法の全体的な仕組みや手続は,他の州とさほど変わらないが,評価過程全般にSACが関与し,SACが大きな権限と影響力をもっているのが特徴といえよう。

(3) 行政的・政治的効果

 テキサス州におけるサンセットの成果について,2つの論評を紹介しておこう。

 第1の論評は,営業免許機関に限定してテキサス州サンセットの実績を評価したものである。それによると,1979年と1981年の評価により合計38の免許機関が評価され,SACは21の機関について組織変更を勧告した。しかし,議会は最終的に3つの行政機関を廃止し,2つを吸収合併し,1つを他の機関に権限委譲しただけで,それ以外の機関には手をつけなかった(59)。ただしSACの勧告のうち,免許機関の重大な変更に関するものは61パーセント,手続に関するものは77パーセント,行政機関全体にわたるものは82パーセントが議会により採択された(60)。この点では,大きな効果があったともいえる。しかし,この改革の影響をこうむったのは,いずれも小規模・弱小機関で,営業許可件数が多く,政治資金の豊富な業界をかかえる古くからある大きな行政機関は,改革に抵抗し,(行政機構全般の改善に寄与するものをのぞき)改革を免れることができた(61)

 第2の論評は,サンセット法がテキサス州の政治制度にあたえた影響を分析したものである。それによると,サンセットによって12年間で評価された機関の15パーセントが廃止され,10パーセントが重大な組織変更を迫られた(62)。また,SACの勧告は90パーセント以上が立法化され,勧告が議会によって否決されたのは,9回(4回は存続に,5回は廃止に変更)にすぎない。また,SACの作成した評価基準は,これまでテキサス州の行政機関になかった手続と実務の統一性をもたらし,従来からある監査機関との協調関係を生みだしたという(63)

 こうしたことから,論者は,テキサス州におけるサンセット評価は生産的であったと評価している(64)。SACの勧告が権威を持ちえたのは,先に記したように,SACが組織面で強い独立性をもち,長時間を費やして包括的で科学的な評価を初めて実施したからである。

 また,画一的・強制的評価と自動的廃止というサンセット法の厳格さが,テキサス州ではうまく機能したとされている。テキサス州では,伝統的に公選公務員,農業コミッショナー,司法長官,会計検査官,土地コミッショナー,財務官などが知事以上の力をもって君臨し,人事権等も独自に行使していたために,州政府に対する信頼性はきわめて低かった。サンセットは,画一的に評価を実施することで,政治的な干渉を回避し,政治制度の浄化に大きな力を発揮したというのである(65)

5 サンセット法の教訓

(1) 行政組織の削減効果

 まずサンセット法は,非効率的・非効果的な規制制度や行政機関を減少させただろうか。サンセット法が制定された当初は,規模の小さな無用視されていた機関の廃止が相次ぎ,1977年にはミシシッピー州だけで16の機関が廃止されたといわれる。その後,1978?1981年の間に評価対象の16?23パーセントが廃止されたが,1984?1988年にはそれが13パーセント前後にまで低下した。また州によっても顕著な違いがあり,サウスカロライナでは廃止がゼロであったのに対し,インディアナでは59,テネシーでは35の機関が廃止された(66)

 廃止されたのは,避雷針セールスマン,腐敗槽清掃士,旅行ガイド,マッサージ治療師,人工降雨師,教科書セールスマン,入れ墨師,競売人などを監督する弱小機関が圧倒的多数で(67),大きな組織は,組織的抵抗の結果,大部分が生き残った。したがって,組織削減に関するサンセットの効果はきわめて低かったといえる(68)

(2) サンセットの費用と便益

 サンセット実施の費用と効果を正確に比較検討した報告はない。これは,費用を監査スタッフの人件費とするか,それ以外の議会関係経費を加えるかなどが州によってまちまちであり,さらに規制緩和や説明責任の向上などの効果をどう測定するか,社会福祉政策等の効果とは何かなどの重要な論点について,明確な解答がないからである。費用・便益を公表しているのはコネティカット,メリーランド,テネシーなどにすぎず,他の大多数の州ではその計算さえしていないといわれる(69)。しかし,総じてサンセット評価には膨大な時間と人手を必要とし,それに比べると行政コストの削減という効果は期待はずれに終わったことから(70),サンセットは非常に高くついた学習経験であったといえよう。

(3) 立法的監視能力の向上

 サンセットは,議会が行政活動を監視する手段である。したがって,議会がサンセット法に意義を見いだし,積極的な運用につとめることで,その効果も高まる。しかし,議会はサンセット評価の実施に熱心であったとはいえない。その理由は,第1に,すでに多くの州が,新たな支出を伴う法律や事業は一定年限が経過すると廃止(または審査し,再授権)するというシステムを有していること,第2に,議会は,サンセット法によらなくても,行政機関や事業を調査し,廃止する権利を留保しており,サンセット評価は古くからあることを新しい方法で行うものにすぎないこと(71),第3に,議員が圧力団体の反対を押してまで既存の制度を廃止する意欲をもたないことなどがあげられている(72)

 また,多くの州議会議員は,行政監視の手段として,サンセットやゼロベース予算などの新しい手法より,特別監視委員会,調査委員会,事後監査などの伝統的手法がより効果的であると感じているという報告もある(73)

 他方,議員が行政監視活動にも取り組むことで行政内部に関心をもつようになり,行政職員も,サンセット評価には協力的・協調的で,議員と公務員との信頼関係が増したとの報告もある(74)。しかしこれに対し,サンセット法は,議会の影響力を高める効果がほとんどなかったという指摘もある(75)

 しかし,もしサンセット法がなければ,立法府は,政策評価を回避した可能性もあり,サンセット法は議会が監視をサボタージュすることに対する歯止めになっているとはいえるだろう(76)

 また,少なからぬ州がサンセット法を廃止ないし停止したが,これらの州は,議員が非常勤で給与も低く,専門性に欠け,スタッフの質も低いなどの問題があり,サンセット評価の実施にかけた費用も総体的に低額であったという指摘もある(77)。議会の組織が弱体なところでは,サンセット評価もうまくいかず,サンセット評価は,議会や議員の能力も同時に評価したといえよう(78)

(4) 市民参加

 住民参加の点では見るべき成果がないという点で,識者の意見は一致している。

 1981年までの調査結果では,公聴会参加者の平均は25名で,それ以降も増加のきざしはない(79)。州によっては,住民参加や市民専門家からの証言を積極的に勧奨し,市民をサンセット委員会の委員に加えている例もみられる。バーモント,ペンシルベニアでは,郵送による陳述を認め,予め登録された者には証言するかどうかの照会をしているが,それでも効果がないといわれる(80)。一般市民は,行政コストの削減や無意味な規制の廃止には賛成であるが(総論賛成),特定の小さな行政機関を廃止するかどうかには,ほとんど関心がないといえよう(各論無関心)(81)

 他方,アリゾナ州の例にみられるように,業界団体の取り組みは積極的である。コロラド州では,廃止対象となった機関が,公聴会に関係業界を動員するための対応技術をいち早く修得し,ルーティーン化してしまった(82)。ノースカロライナ州がサンセット法を廃止したひとつの理由は,こうしたロビイングの圧力があまりに強かったからであるといわれる(83)。サンセット法は,議会が業者の圧力に弱いことをさらけ出してしまい,圧力団体の活動の場をさらに広げたといえる(84)

(5) 行政の効率化・説明責任の向上

 では,全体的にみて,合衆国におけるサンセットの経験は,いかに評価されるべきだろうか。たしかに,サンセットによって廃止された機関はわずかであった(85)。しかし大多数の論者は,サンセットが,当初の行政機関の首切り役から,議会が行政機構やその政策決定プロセスを多面的に監督し,あるいは行政機関の自己監査を強制する手段に変化しつつあることを指摘する。

 サンセット評価の実施を契機に,多くの州で,規則・通達の改正,許可基準の見直し,資格試験の改善,許可手続への市民参加,苦情処理手続の整備などが進んだことは事実として指摘できる(86)。また,テキサス州のように,旧態依然の政治組織に風穴をあけ,行政にはじめて規制手続の統一化,実務の標準化をもたらした例もある(87)

 また,サンセット法が,議員の知識を増加させ,行政の側も議会の動きに敏感になったことは否定できない。したがって,サンセット法が,行政の説明責任の向上,組織運用の効率性・効果性の向上,部分的な代替案の提示などに貢献したという州政府協議会(Council of State Government)やコモンコーズの評価は妥当なものであろう(88)。こうしてアメリカのサンセット法は,それに万能薬を期待する時代をおえ,いくつかの改善を重ね,議会による他の行政監視手段と連動させながら,その効果を着実に発揮させる「第2段階」に入ったといえる(89)。議会がサンセット評価を運営する十分な能力を備え,それに積極的に関与すれば,サンセット評価は今後もすぐれた行政監視手段であり続けるものと思われる(90)

6 むすび—サンセット制度の将来

 制定後20年近くを経過したサンセット法は,今後,どのような展開をとげるのだろうか。ここでは,これまでの経験をベースになされた最近の改正を紹介することで,その将来を予測することにしたい(91)

 第1は,サンセット評価をより身軽にするために,サンセット評価の範囲を制限する動きがみられることである。たとえば,評価委員会や知事が対象を選択し,あるいは優先順位をつけることで,重点的な評価を試みるところが増えている。また,メリーランド州のように,完全な評価をする行政機関をスクリーニングするためのミニ評価を実施するところもある。

 第2に,より細かな審査をするために,評価のサイクルを延長するところも見られる。また,評価のスケジュールを固定するのではなく,議会または委員会の勧告に基づき行政機関を評価する時期を選択する州も9つにのぼる。

 第3は,評価の方法として,多くの州が略式評価と正式評価の2つを定め,いずれかを選択する方式を採用している。ユタ州では,通常は立法府の調査官および法律スタッフによる略式評価を実施し,要求があった場合に限り監査スタッフによる正式評価を行っている。また,テネシー州では,行政機関の規模,立法者の意図,前回の評価結果,費用,行政コスト削減の見込み,評価から期待される利益などを考慮して,審査対象機関毎に時間を割り振る方法を取り入れている(92)

 第4に,サンセット評価を単独に実施するのではなく,それに事後監査,プログラム評価,プログラム予算,歳出審査などを組み合わせる動きが顕著になっていることである。その中でも,とくに多いのが,サンセット法とサンライズ法を組み合わせである。

 サンライズ法とは,新しい行政機関を作る場合に,行政の側が議会の委員会にその必要性・効果などを証明するもので,サンセット法と同じように1970年代の後半に各州で導入され,現在9つの州で実施されている(93)。サンライズ評価は,対象がそれほど多数ではなく実施が容易なことや,サンセットによって廃止された行政機関を再導入しようとする際の歯止めとして機能することから,今後も採用する州が増えるものと思われる(94)

 最後(第5)に,ではサンセット評価は,政策や事業の監視方法として,わずかな効果しか期待できないのだろうか。ここで,既存の形式のサンセット法こそ制定しないものの,新規に設立される行政機関や事業に授権する法律にサンセット条項を付す州が増えていることを指摘しておこう(95)。また,法律自体を廃止するものではないが,法律執行のための予算計上を一定年限のみ認め,期限の到来とともに予算計上を再授権(reauthorization)するかどうかを審議するという方法は,すでに合衆国で一般的に見られるところであり(96),これも形を変えたサンセットといえる。こうみると,サンセット法とは別に,サンセット的な手法は合衆国の行政システムの中に確実に浸透しているといえるだろう。

 日本においても,こうした合衆国の経験と最近の動向をふまえ,サンセット的な手法を導入することの是非が議論されるべきであろう(97)

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