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第16号

「最も有効な会計検査の実施プロセス」とは*
−第1回国際会計検査フォーラムに参加して−
勝野憲昭

勝野憲昭
(会計検査院国際協力官)

 本院は,各国会計検査院と検査上の諸問題について意見を交換するため,初めての試みとして,「国際会計検査フォーラム」を1996年9月4日より同11日まで開催した。フォーラムの目的は,本院が当面し,かつ,各国会計検査院が共通してとり組んでいると思われる問題について討論し,本院及び参加各国SAIのこれからの業務執行の改善に資することにあった。フォーラムは,メイン・テーマ「最も有効な会計検査の実施プロセスについて−異なる検査システムの下での共通の課題の分析」の下に行われ,筆者も5つのサブ・テーマの討論の司会者(facilitator)としてこのフォーラムに参加したが,以下にこのフォーラムの討論の内容とこれに対する私見を述べてみたい。

1. フォーラムの概要

 フォーラムは東京千代田区の「ホテル霞友会館」で行われ,以下の11カ国の最高会計検査機関(Supreme Audit Institution=SAI:会計検査院の総称)から各1名計11名が参加した。

 オーストラリア,カナダ,中国,フランス,インド,インドネシア,日本,韓国,スウエーデン,イギリス,アメリカ(アルファベット順)

 また,本院からは,鈴木繁治第2局監理課長が本院代表として参加したほか,院長,総長,次長,各局長,審議官をはじめとする職員の方々がオブザーバーとして参加した。

 メイン・テーマ及びサブ・テーマは以下のとおりである。

メイン・テーマ:最も有効な会計検査の実施プロセスについて−異なる検査システムの下での共通の課題の分析

サブ・テーマ1:どのように最善の検査計画を策定するか

サブ・テーマ2:効率的な財務検査の方法と技法

サブ・テーマ3:効果的な検査を実施するため受検庁との関係はどうあるべきか

サブ・テーマ4:検査報告をどのようにしてより良いものとするか

サブ・テーマ5:どのようにして検査成果を行財政活動の改善に効果的に反映させるか

・ 院長挨拶

 矢崎院長(当時)が開会式の挨拶で,各参加者が多忙な業務の合間を縫って参加してくれたことに感謝の意を表明した。院長は,また,長期的で大規模な事業の事業効果の評価に対する国民からの要求,政府活動のコンピュータ化等を例に最近のSAIを取り巻く社会経済状勢の変化にふれ,SAIがこれらの環境変化のなかで限られた資源を駆使して効率的効果的に検査を実施してゆく必要があること,各国SAIが共通して取り組んでいる問題について討議し情報交換することが極めて重要になっていることを強調し,フォーラムでの実りある討議を期待している旨述べた。

・ 山田会計検査院第3局長基調講演

 開会式の後,山田第3局長(当時)が「日本の会計検査が現在当面している問題及び将来の可能性(Some Current Topics and Future Potentiality of Government Audit in Japan)」という題で基調講演を行った。局長は,近年の本院による会計検査における顕著な傾向として,社会保障の検査や公共工事の検査の展開とともに「有効性の検査」の展開をあげ,また,最近の警察の不正経理に対する検査,食糧費の検査,阪神大震災に関連した公共工事の検査等を例に,会計検査に関して現在日本で注目されていることやその問題点を論じた。そして,警察の不正経理に係る検査に対するマスコミの報道ぶりに示された国民の会計検査に対する関心の高さ,食糧費の支出に対する市民オンブズマンの追求に示された納税者の公金支出に対する関心の高さなどにふれ,このような問題に関して本院が一般納税者の意見や国会審議に最大限の対応をしていることを強調した。また,本院がこのような納税者の関心に応えるべく,政府開発援助,阪神大震災による公共構造物への被害,入札談合のあった調達案件,破産金融機関への日銀の支援等国民の関心の高い事項に対する検査の状況を「特定検査対象に関する検査状況」として検査報告に掲記するなど最大限の努力を払っていることも述べた。そして政府出資団体等に於ける技術開発をJRや道路公団を例に説明し,本院もこれらの技術開発を,経費節減効果や業務の効率的,効果的執行の面から常に注視しつつ,技術進歩に沿った本院独自の改善案を常に検討していることを説明した。また,特に本院の公共工事の検査その他の技術検査を例にあげ,本院が単に受検庁の過去のミスを指摘するだけでなく,常に新しい運営上技術上の提案を検討しつつ,政府の行財政活動の改善に努力している点も強調した。

2.サブ・テーマ毎の国別報告の発表と討論

 サブ・テーマ毎のセッションでは,各国からの参加者が,本院が作成しあらかじめ参加各国に配布した「国別報告書作成要領」(Aide-memoire for Country Paper)に沿って執筆し提出した国別報告(Country Paper)に沿ってプレゼンテーションを行い,その後,筆者の司会で討論を行った。以下に各サブ・テーマ毎の討論の内容と印象を述べてみたい。

サブ・テーマ1:どのように最善の検査計画を作成するか

 このサブ・テーマでは,近年政府が実施するプロジェクトが大規模化,長期化,複雑化するなかで,特に業績検査について,参加SAIが中長期の検査計画を策定し,それに基づいて年間検査を実施しているか,年間計画と中長期計画の関連はどうなっているか,検査テーマをどのように選定しているか,中長期計画をどのような手続きで実行するかといったことが議論された。

 参加SAIのほとんどで,年間検査計画とともに中長期の検査計画を策定しており,また,トップ・ダウン型の検査のガイドライン(上層部からの指令に基づくガイドライン)に基づいてボトム・アップ型の詳細な年間検査計画(担当課が詳細計画を起案し上層部に提案する)を作成している。最近,各国とも大規模なプロジェクトが数多く実施されており,それに伴って検査計画も単年度から中長期のものに移行しつつある。各国とも大体3年から5年の計画を策定しているが,単年度,5年度とともに25年という長期の計画を立てている例もあった。そして,トップ・ダウン型のガイドラインに基づいてボトム・アップ型の計画を策定するというのが共通のパターンのようである。そして中長期の計画と単年度計画を有機的に組み合わせて検査の有効性を高めていこうとしているようである。また,中長期計画は主に業績検査にかかるものであるが,大部分のSAIが省庁別計画のほか事業別の計画も策定している。そして中長期計画は社会経済情勢等SAIを取り巻く状況の変化によって常に改訂してゆく必要があることは各参加SAIが共通して認識している。したがって,柔軟な中長期的視野に基づいて単年度毎の検査の有効性を如何に高めてゆくかが各国SAIに課された課題であると思われた。また,複数の省庁にまたがる事業についての事業別の検査計画を策定していることも共通の傾向である。検査計画には,一般的に,当該検査テーマの選定理由,検査スケジュール,目標とする成果,検査方法,検査上のリスク,検査のタイプ(合規性検査,業績検査等)人的・財的資源の配分等を記載している。

 検査テーマの選定に当たっては,過去の検査実績といったSAI内部で入手可能な情報のほか,各SAIとも,議会の審議状況,国会議員との協議の結果(特にアメリカ),受検庁側の内部監査の結果,識者・専門家の意見,マス・メディアの報道等外部の情報を幅広く考慮し,相当慎重にテーマを選定している。また,特定分野の赤字削減等政府の重点施策も重要な選定要素である。ただ,議会からの要請に関連して,このような要請が政治的動機からなされる場合もあり,この点でのSAIの独立性,政治的中立性の確保の重要性も議論された。

 検査計画を公表するかという点では,公表の対象には具体的検査手続き等検査実施の詳細は含まれないものの,議会や受検庁との意思疎通という面から,検査テーマや検査の概略実施スケジュール等を議会,受検庁に公表するSAIが多い。また,このような公表のシステムが制度的に確立されているSAIもある(特にヨーロッパ系)。そして,公表することのメリットについては,SAIの検査と内部監査,行政庁内の評価活動との重複を避けるといった視点も挙げられた。また,検査に当たって,受検庁に,検査の目的,範囲,方法(methodology),スケジュール等を知らせることも受検庁との意志疎通という点から必要であるという意見が多く,各SAIとも検査計画策定の面で議会,受検庁との意志疎通,信頼関係ということを極めて重視していることを強く感じさせた。また,検査の実施の前に,検査の目的,検査の実施方法等を受検庁に知らせているSAIも多い。このことは,また,検査の実施過程や方法を公表して透明でフェアな検査を行い,それによって受検庁との信頼関係を保持するという考え方を示すものであり,特に業績検査において,SAIが,受検庁を,「摘発すべき相手」と考えるよりも,検査を通じた行政の改善への「協力者」と考えていることを強く窺わせるものであった。

(討論の印象)

 上に述べたように,ほとんど全てのSAIで中長期の検査計画を定めているが,このことは,特に業績検査の部面で,政府のプロジェクトの評価をその実施期間に応じて長いスパンで評価しようとする傾向の表われであろうと思われる。実際,検査報告を年間複数冊作成しているSAIは事業単位の業績評価報告を出しているところがほとんどであり,評価の期間は評価対象プロジェクトの期間に応じて複数年である場合が多い。また,特定の行政活動の評価を行うのに1年単位で行っていたのでは長期的な効果等を十分に測定できないことも多いのではないかと思われる。

 将来,各国SAIとも業績検査の比率は増大しこそすれ減少することはないであろうことを考えるならば,プロジェクトのスパンに合わせた検査の長期的戦略を立案することは極めて重要になるのではなかろうか。また,省庁別の検査とともにプロジェクト別の検査・評価を行っているSAIも多く,複数省庁にまたがる検査を評価したり,特定の行政活動の他の行政活動との整合性を評価するような場合の検査チームの編成やスケジューリングといったことも今後の課題であろうと思われた。検査計画を公表するかという点では,特に業績検査の場合に評価基準を開示して,評価の透明性を確保し,受検庁との意志疎通を十分に確保してスムーズに検査を実施しようとする姿勢が強く感じられた。

サブ・テーマ2:効率的な財務検査の方法と技法

 このサブ・テーマでは,最近SAIの業績検査の業務量が急速に増大している一方,政府の会計取引も予算の増大に伴い増加し続けており,これに対処するため財務検査の効率的執行がますます必要になっていることから,如何にこれを効率的に行ってゆくかが議論された。討論では,受検庁の内部統制の評価,SAIの検査と受検庁の内部監査との連携,コンピュータの利用のほか,財務検査と業績検査を別の部局で行うか,財務検査の外部委託(民間監査人への委託)の可否,委託のメリット・デメリット等が討議された。

 内部統制(Internal Control)は,一般に,組織の資産を保護し,会計の正確性と信頼性を確保するためのコントロール・メカニズムとして捉えられており,その一部としての内部牽制組織や内部監査を評価することはSAIの主要な機能のひとつとされている。各SAIとも,内部統制の包括的評価とリスク評価(特定の内部統制組織に内在するシステム上のウィーク・ポイントの所在とその程度を評価すること)を極めて重要視しており,特に後者を重要視しているSAIが多い。特に,最近の政府会計の急速なコンピュータ化により個別取引の目視検査が困難になっている面もあり,これに対処するためにも内部牽制システム等内部統制の検査は極めて重要なものとして認識されている。受検庁のコンピュータ化に伴い,EDP専門の調査官をコンピュータ化された業務の内部統制の評価に当たらせているSAIもある。もうひとつの重要な内部統制機能として内部監査があるが,SAIの検査がSAI独自の意思に基づく独立した外部検査であるのに対し,内部監査は組織の管理者の命令に基づく組織内部の監査である。したがってSAIによる検査と内部監査はその目的とするところは異なるが,各SAIとも内部監査の結果を検査計画策定や実際の検査の重要な資料として使用している。これは検査の重複を防ぐという意味でも重要であるが,更に内部監査人を検査に使用しているSAIもある。会計検査におけるコンピュータの使用は各国の政府のコンピュータ化の程度によっても異なるが,検査計画の段階から検査実施の段階まで幅広くコンピュータを使用しているSAIもあり,フロッピー・ディスクで計算書を提出できることとしているSAIもある。

 財務検査と業績検査の機能別分担について見ると,財務検査と業績検査を同じ部局で行っているとするSAIもあるが,別々の部局で行っているというSAIが11カ国のうち半数近くあった(特に欧米系)。これらのSAIは,財務検査担当職員と業績検査担当職員の採用から配属までを別々に行っていたり,職員の希望に応じて別々に配属したりしており,業績検査と財務検査とを画然と分け,それぞれ異なった能力を必要とすると考えているようである。財務検査の一部を民間に委託することはこれを行っているSAIもあるが,これについては,委託先が行った検査の結果についてSAIが最終責任をとるということが前提となるというのが参加SAI共通の理解である。無通告検査の問題も提起されたが,これについては,大半のSAIにこれを行う権限はあるものの,この権限を発動するのはまれであり,受検庁との信頼関係の維持の観点から,公金の不正使用の疑いがある場合とか物品やその他の資産の存在を緊急に確認する必要がある場合とかに限るべきであるとの意見が大勢を占めた。

(討論の印象)

 財務検査に当たって各SAIともコントロール・リスクの評価等リスク評価に重点を置いていることは上に述べたとおりであるが,これとともに内部監査の結果を検査に使用したりあるいは内部監査人を検査に使ったりと,内部監査の役割を重視しその活用に力をいれているSAIが多かった。これは各国SAIともその人的資源に限りがあり,政府会計の悉皆検査を行うことが困難であることから容易に理解できるところであるが,このような姿勢のなかに,内部監査の監督やそれによる内部監査の質の向上によって,特にSAIによる検査の「量的限界」を打破してゆこうとする姿勢が見られることは注目される。また,財務検査のスタッフと業績検査のスタッフとを別々に採用して,研修等を通じてそれぞれの専門家を養成してゆこうとしているSAIが特に欧米系のSAIに出てきていることも注目すべき点と思われた。これらのSAIはいずれも財務検査報告とともに複数のプロジェクト別業績検査報告を議会に提出しており,特に後者の提出頻度,専門性の高さ等から見てこの「機能分離」は十分頷けるところである。業績検査の比率が各国SAIとも高まり,かつ専門性が高まってくることの可能性を考えるならば,このような「機能分離」は検査の「質」の保持の面からも注目すべきことと思われた。このような「機能分離」の動きは,業績評価がしばしば複数省庁にまたがることから,財務検査に通常見られる「省庁別検査」の限界を打破しようとするものであるとも思われる。しかし,業績検査の拡大のなかにあってもSAIの基本的機能である財務検査の重要性は決して等閑視されてはならない。この点で,討議の焦点のひとつとなった内部監査との連携とともに,コンピュータによって大量の定型検査業務を処理したり財務分析を行ったりすることが財務検査の効率化にとって重要なポイントになると思われた。

サブ・テーマ3:効果的な検査を実施するために受検庁との関係はどうあるべきか

 このサブ・テーマでは,SAIと受検庁との関係について,特に,(ア)業績検査が拡大していることから,それに関連する非財政会計データを如何に迅速に入手するか,(イ)検査所見について如何に受検庁とスムーズに意見を調整するか等,効率的,効果的な検査の実施のためSAIが如何に受検庁との関係を改善してゆくかについて討議が行われた。SAIの受検庁の書類へのアクセス権については,国家機密に関するもの,個人のプライバシーに関するもの等制限項目があるSAIもあるが,このようなものを除けば概ねあらゆる書類へのアクセス権が認められている。また,文書不提出の場合に罰則を課したり,文書不提出の事実を議会に報告したり,受検庁に宣誓して証言させるシステムをとっていたり,あるいはSAIが受検庁の書類不提出に関して裁判所に訴えたりした例も紹介された。しかし,特に業績検査等に必要な非財政会計データのスムーズな入手に関しては各SAIともこのような強制手段よりも受検庁との良好な関係の樹立の方を極めて重視している。そして,文書不提出の場合に上記のような厳しい手段をとりつつも,受検庁とのコミュニケーション改善の手段として,検査前及び検査後,また検査の途中での受検庁との協議を重視している。即ち,検査開始前に検査の基準(criteria)や検査の方法を提示して受検庁と話し合ったり(entrance conference),検査の中間結果を示して討議したり(intermediate conference),検査後に検査所見や検査実施上の問題点について討議したり(exit conference),受検庁に対し,検査実施に関するアンケート調査を行ったりしているSAIが多い(特に欧米系)。そして,これらのSAIは,検査の観点,方法(どんな書類をチェックするかといった詳細な「検査方法」ではなく,全般的な検査プロセス)や基準(何をもって「不当」とするか等)について事前に受検庁との合意を得ておくことを受検庁とのより良きコミュニケーション,ひいてはより良き信頼関係を得る重要な手段と考えている。当該年及び後年度の重点項目を受検庁に知らせているSAIもあり,この点から考えると,検査計画の受検庁への開示(サブ・テーマ1参照)といったこともこのような信頼関係確保のための措置の一環とも考えられる。

(討論の印象)

 このサブ・テーマでは,SAIと受検庁の良好な関係について,主に上の(ア),(イ)で述べたような,検査上必要な書類のスムーズな入手,検査所見についての意見の調整といった観点から議論が展開された。各SAIとも文書不提出の場合等に何らかの強制措置等を執るシステムを持っている一方,受検庁との良好な関係を維持し,有効な検査を実施する手段として,「検査の透明性」を確保すること,意志疎通を良くすることを極めて重視している。このことはサブ・テーマ1で議論された,検査計画の受検庁への開示といったこととも密接な関連を持っているものと思われる。すなわち,検査の計画から検査の実施,検査報告の作成,フォロー・アップ調査(サブ・テーマ5参照)に至るまでの全段階を通じて検査の透明性と受検庁とのコミュニケーションを確保し,それによってスムーズで有効な検査を行うという姿勢である。そしてこれらを通じた"fair reporting"が受検庁との関係を良好に保つ道であるというのが全般的な結論であった。またこのことは,サブ・テーマ1で議論となった検査の観点やクライテリアをどこまで受検庁に開示するかという点とも密接に関連することであるが,各SAIとも,如何に検査の有効性を損なうことなく「開かれた検査」を行うかを工夫することに,多大の勢力を注いでいることが印象的であった。したがって,「検査の透明性」と「検査の有効性」を如何に両立させるかが効率的でスムーズな検査にとって重要なポイントとなるものと思われた。

サブ・テーマ4:検査報告をどのようにしてより良いものとするか

 このサブ・テーマでは,SAIが,一般に,その検査報告を通じて立法府の決算審査を支援し,それによって議会や納税者の期待に応えるものであること,また,議会や納税者のそのような期待の内容は政治・経済・社会情勢等SAIを取り巻く環境の変化によって常に変化するものであることから,検査報告の提出頻度,どのような事項を検査報告に掲記するか,検査報告に掲記する事項の選定基準,如何にして検査報告を公平かつ客観的で読みやすいものとするか,そのための検査報告の内部審査手続き等が討議された。検査報告の提出頻度については,総じてアジア系は年1回提出するSAIが多く,欧米系はプロジェクト別の報告書を年複数回・冊(アメリカ年600報告書,オーストラリア年30-35報告書,イギリス年50報告書等)提出するSAIが多い。しかし,欧米系でもカナダやフランスのようにごく最近複数回(冊)提出するようになったSAIもある。そして,複数回(冊)提出するSAIの殆どは,そのメリットとして,検査報告に基づいて行政府がその意思決定をタイムリーに行えること,複数回提出することによって情勢の変化に応じたアップ・トゥー・デイトな事項を扱えることをあげている。また,受検庁側の見解も検査報告に掲記するSAIもあるが,これは,検査報告の公平性確保のひとつの手段と考えられる。しかし,このような両論併記の場合も,可能な限りのSAI・受検庁間のディスカッションを経た後に併記されている(両論併記の国では,SAIと受検庁の見解が相違する案件が議会で優先的に審議されるため,受検庁がこのような審議を避けるため,なるべくSAIの見解に異議を唱えないといったこともあるようである)。検査報告への掲記基準に関しては,コントロール上の弱点(control weakness)の程度(財務検査),金額,法規等からの逸脱の程度,社会・経済上のインパクト,再発防止がもたらす効果等があげられた。また,検査報告の公平性,客観性維持のため殆どのSAIが検査報告に関する内部の審査・審議を行っている。検査報告の外部審査に関しては,特に欧米系のSAIでは検査報告作成過程で機密保持の手段をとりつつ外部の専門家等に審査を依頼しているSAIが多く(但し,公表済みの検査報告に専門家等のコメントを求めているSAIもある),程度や方法の相違はあるものの,部外者による審査を検査報告の客観性,読みやすさの保持の重要な手段と考えているようである。また,検査報告の使用者である議会や省庁からのフィード・バックを求めているSAIもある。

(討論の印象)

 このサブ・テーマでは,検査報告の作成回数(冊数),年次報告書と複数冊報告書(主に事業別の業績評価報告)のメリットとデメリットとともに,如何に解り易くかつ議会の審議に有効な検査報告を作成するかといったことも討議の中心になった。特に,業績検査において,タイムリーに検査報告を作成し,議会の審議に役立たせるという点からいうならば,欧米系のSAIが行っているように事業別の業績検査報告を年間随時に出すということは確かに検査の有効性を保つひとつの手段であると思われるが,このようなシステムをとることについては,各国の憲法上,法律上,制度上の問題のほか,特に専門家等業績検査の人材確保の問題があろうと思われる。この点で,このような報告システムをとっているSAIが,業績検査のスタッフを財務検査のスタッフとは別に採用し研修しているSAIであることも単なる偶然ではないのではないだろうか。

 解り易い検査報告を作成するということに関しては,特に専門性の高い業績検査の増加に伴い,いずれのSAIもかなりの努力を払っている。日本の会計検査院が行っているような検査報告案の内部審査も各国SAIに共通しているシステムである。ただ,この点で特に欧米系のSAIに特徴的で注目に値するのは,SAIによる自己審査以外に部外者による審査にかけたり利用者のフィード・バックを求めたりしていることであろう。議会に提出する前の検査報告の機密性を如何に確保するかという問題もあるが,注目すべき点であると思われた。

サブ・テーマ5:どのようにして検査成果を行財政活動の改善に効果的に反映させるか

 SAIはその検査活動の成果を行財政活動の改善に反映させ,検査の実効性を確保しなければならない。このサブ・テーマでは,この目的を達成するためSAIが如何に最も有効な過去の検査のフォロー・アップ調査を行うか,また,この点での議会や行政府との関係のありかた等が討議された。受検庁が検査報告に基づいて執るべき措置について勧告を出すのには2つのタイプがある。ひとつはアジア系の国に多い,SAIが受検庁に直接勧告を出す場合であり,もうひとつは欧米系の国に多い,SAIの検査報告に基づいて議会が勧告を出すという場合である。そして,いずれの場合においても,参加SAIは,フォロー・アップ調査に重点を置き,自ら,あるいは議会の委員会の調査機能を支援するというかたちで調査を行っており,受検庁側がとった措置を検査報告に掲記している。したがって,上記のいずれの場合も,議会は,SAIとともに,その審議を通じて,受検庁による勧告の実施を直接,間接に要求し,促しているといえる。フォロー・アップ調査のメリットとしては,特に(ア)当該の勧告に対する受検庁による前向きな措置を促す,(イ)当該の勧告の効果を財政面,行政面の両方から測定できる,(ウ)特に勧告不実施の場合には,原因を究明し将来の検査の改善につなげることが出来る,という点があげられた。このうち(イ)については,特に欧米系のSAIでは,勧告実施の確認にとどまらず,勧告実施の効果(インパクト)を財政面,行政面から一定の期間後に一定の基準に基づいて測定し,その結果を検査報告に掲記している。そしてこれらのSAIでは,SAIの独立性を害しない程度で受検庁による勧告実施を実務面で支援している。また,各省庁に共通する事項(例えば機械装置の調達等)の検査から導き出された最適な業務執行方法(例えば最適なEDPシステムの調達方法等)を"Best Practice Guide"として行政府・議会に広く公表して行政活動の改善に役立たせている。

(討論の印象)

 フォロー・アップ調査は検査の実施の一定期間後に行われるものではあるが,検査の実効性を確保する上で極めて重要であるといえる。そして,特に欧米系のSAIでは,受検庁によって勧告(我が国の場合では「処置要求」や「意見表示」がこれに当たるだろう)が実施されていることの確認にとどまらず,勧告実施の「効果」を測定し,検査報告に掲記していることは注目すべきことではないだろうか。また,検査実施後も受検庁の勧告実施をサポートする等,検査実施後のアフター・ケアーにより検査の実効性を確保しようとしていることも,検査結果の行政活動への反映に力をいれていることの表れといえよう。このことは,特に業績検査において受検庁を「摘発」の相手方と見るよりもむしろ改善の相手方と見て,検査の最終目標を行政の改善に置くという姿勢を表わしているともいえよう(サブ・テーマ1参照)。また,行政の欠陥や隘路を指摘するだけではなく,検査の過程で最適と認定した業務執行方法を開示して行政の改善に努めていることも注目に値しよう。何故なら,各省庁による行政活動を横断的に比較検討できるという点でSAIは他の行政官庁にない独特の地位にあると思われるからである。このことはまた,行政の欠陥や短所の指摘に過度に傾斜し,バランスのとれた「総合評価」がややもすると欠落し易いという傾向を緩和することにも役立つものと思われる。

3.むすび −行政の改善者としてのSAI−

 以上,第1回国際会計検査フォーラムの討論について筆者の私見を交えて述べてきた。

 参加各国SAIとも「外部検査機関」であるという共通項は持っているものの,制度上の相違点が相当あり,フォーラムの準備に当たり,テーマ毎のディスカッションに当たって如何に共通の土俵で討論を進めてゆくかという点で不安がないでもなかった。しかし,最良の検査計画をどのように策定するか,検査所見を巡って受検庁と良好な関係をどのように維持するか,解り易い検査報告を如何にして作成するかといった,各国SAIが共通に当面していると思われる問題を討論してゆく過程で,各国とも同じような問題を抱えており,各国が執っている方策に本院にも採用可能と思われるものも相当あることが分かった。外国からの参加者の反応も概ね良好で,選定したテーマ等にも殆ど全員の参加者に満足していただいたほか,フォーラムから期待したものが得られたかという質問にもほぼ全員から「イエス」の回答をいただくことができた。討論を通じて感じた印象は,検査を通じて行財政活動を監督するとともに行財政活動を支持しその改善を目指すSAIの姿勢が全般的に目立ったことであった。このような討論を通じて得られたものが本院の業務の改革に役立つことを念願している。

 最後に,お忙しい業務の合間を縫ってご出席頂いた本院職員の皆様に厚く御礼申しあげるとともに,フォーラム開催にご協力頂いた方々に心から感謝の意を表したい。

(編集者注)

本稿は,前号に掲載する予定でしたが,頁数の都合により掲載することができなかった第1回国際会計検査フォーラムの報告です。

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