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第14号

各国会計検査院の現状(その2)
金刺 保

金刺 保
(会計検査院第3局建設検査第2課長)
(前会計検査院事務総長官房上席審議室調査官)

本稿は,会計検査院事務総長官房審議室の研究担当職員が,シンクタンクを活用した自主研究として行った「会計検査に関する比較制度論的研究委員会(委員長:宮川公男財団法人統計研究会理事長・麗澤大学教授・一橋大学名誉教授)の研究成果」を要約整理したものであり,会計検査院がその公式見解として表明するものではないことをあらかじめお断り申し上げます。

第3節 アメリカの会計検査院−GAO−

 第1款 はじめに

 各国とも自国で進行する政治不信の最中,行政改革,規制緩和,公共部門の改革などを行って政治不信の解消に努めているが,高齢化・高福祉化社会に対応するという名目で国民の租税負担を増大させている。一方,かつてジョンソン大統領がPPBS導入に当たっての声明の中で「費やされる1ドル1セントをして十分な価値を発揮させる」と述べたように,公金(public money )である予算がどのような価値を発揮したかという「Value for Money (VFM)」に対しての関心が高まっている。そのため,行政府活動を予算の側面から事後的に検査する機関である各国の最高会計検査機関に対して,政策の有効性を検査する役割が益々求められている。

 我が国の会計検査院に対しても,正確性・合規性といった伝統的な基準だけでなく,経済性(economy),効率性(efficiency),有効性(effectiveness)のいわゆる3つのE,あるいは,政府プログラムの結果の評価,支出に見合った価値の実現などの規準を含めた拡大された検査(expanded scope audit )基準による会計検査を実施する必要性が各方面から求められている。

 ところで,我が国の会計検査院は,制度的に独立性が保証され,評価に関する情報を収集する権限を保持している中立的な機関である。このため,実務者や研究者を問わず広く一般国民からも一様に新しい会計検査院の役割として,政策過程へ検査結果をフィードバックすることを通じて政策決定を改善する「情報提供」機能を果たすことが期待されている。その背景には,我が国では政策及び予算過程での事前の編成時のみ関心が集まり,政策の結果を評価し,それ以降の改善に資するというフィードバックシステムが行政府の経営管理において必ずしも十分ではないという認識があるように思われる。

 各国の会計検査院の中でも最も古くから上述のような新たな役割に積極的に取り組んできたのは,アメリカ連邦政府の会計検査院(General Accounting Office ;GAO)であり,イギリス会計検査院(National Audit Office ;NAO)と共に,通常の検査活動として政策評価に積極的に取り組み,正確性・合規性といった伝統的な会計検査から政策評価に移行している。そのため,多くの論者は上述のように変革が叫ばれている我が国の検査院に対して,GAOを例として取り上げ,その組織や権限及び検査活動である政策評価を紹介し,検査院の将来の方向性としてのモデルとして提示している。

 しかし,一方では,GAOの制度的特性やアメリカにおける行政風土等の点から,GAOを特異なものとみなし,その検査活動である政策評価の導入を目指す動きに対してネガティブな見解を示し,むしろ違法や不当を摘発する機関としての役割に専念することを,我が国の検査院に求める論者も多い。

  1)会計検査活動の特性

 会計検査院の活動は,各国で制度的に若干の差異があるものの,国の収支決算を検査し,会計経理を監督し,議会に報告する活動である。予算過程論的に見れば,Plan(編成),Do(執行),See(評価)という予算過程のSeeに関わるものであり,議会における予算審議が予算の事前統制と称されるのに対し,予算の事後統制と称されている。

 この会計検査活動の基底にあるものが会計責任(accountability)の概念であり,歴史的には,主権者から委託された公金を保全する「財務会計責任(Financial Accountability)」から,経済性(Economy)・効率性(Efficiency) の観点に基づいて資源を管理するという「管理会計責任(Management Accountability)」へ,更に有効性(Effectiveness)の観点に基づいて政策が外部において最良の成果を生み出すことを志向する「プログラム会計責任(Program Accountability)」へと3つの段階で変遷してきた。

 また,会計検査院と国民及びその代表である議会との関係,行政機関との関係についてみてみると,まず国民及び議会とは,委託者と受託者の関係とにあり,国民の側が会計検査院に対して,公金が正確かつ合法的に,また効率的に使われているかについての検査を委託するという図式が存在している。

 一方,行政機関とは,検査を行う側と行われる側というある種の対面的な関係にある。しかし,行政機関に属している財務当局との関係は各国において行財政システムが異なることから,多種多様なものとなっている。

 この国民及び議会との関係,行政機関との関係は,まず制度的に確立され,その権限が法によって明示化されるというフォ−マルな関係である。しかし,同時に,議会や会計検査院,さらに各省庁の活動によって具体化される中で一種のインフォーマルな関係が成立しているのも現実である。

 また,他の行政機関及び制度と同様に,会計検査院及び会計検査も社会システムから独立では存在し得ないものであり,財政監督機関を取り巻く社会・経済環境,政治システム,国民性といった外部環境もその活動を規定する重要な要素となっている。

  2)分析枠組

 このように,予算過程の一部を形成する会計検査院及び会計検査は,その国の制度の根幹にある社会システムから大きく影響を受けるものであり,その上で議会及び行政機関によって規定されるものである。そのため,会計検査院について比較制度論的考察を行っていく上では,活動に影響を及ぼしている外部環境について,まず各国固有の社会システムについて考察し,次に会計検査院と立法府,行政府等の他の機関との関係について考察し,その特性を明らかにする作業が必要となる。そして,それらの特性を把握した上で,他国との差異について検討しながら,個々の活動について検討し,何らかの結論を導き出すことが重要であろう。

 第2款 GAOの外部環境

  1)社会的,歴史的背景

 今日,我々が「国家(state)」と呼んでいるものは,近代国民国家のことであり,その大半は覇権国による植民地支配に抵抗し,独立を勝ち取った新興国家であり,独立宣言によってイギリスから1776年に独立したアメリカ合衆国はその最初である。その独立の過程では,それまでの君主制は否定され,国民主権に基づく新しい政治体制の実現が掲げられ,共和制が樹立された。そして1778年には憲法草案が起草され,1789年に発効した。

 この憲法の特徴は,①徹底した三権分立制の採用,②連邦制の採用という2つであり,まず第一の三権分立制に関しては,立法部と行政部と司法部の三部門の単なる分立では,特定の部に権力が集中してしまう恐れがあるという考えから,各部門が相互に抑制し,均衡することを目的とした制度となった。例えば,行政部と立法部の間の相互抑制について見てみても,行政部の首長である大統領は立法部に対して,その決定に拒否権を発動することが可能であり,一方,立法部も大統領に対して,大統領の官吏任命に対する同意権を保持している。

 そして,この三権分立を基に,立法府と行政府の関係について,イギリスが行政部の最高責任者を議会が選ぶという議院内閣制を採っているのに対し,アメリカは国民が直接選ぶという大統領制を採っている。そこでは立法部と行政部は相互に完全に独立しており,大統領は議会に対して責任を負うのではなく,直接国民に責任を負うのである。したがって,大統領は議会を召集あるいは解散する権限は保持しておらず,議会も大統領を不信任決議で辞職させることはできないのである。また,行政部の各省庁の長官は大統領によってのみ任命され,大統領に対してのみ責任を負い,議会とは全く無関係であり,証言を求められる場合を除けば議会に出席することも認められていない。

 なお,大統領制は,議院内閣制に比べ,権力分立の原則を徹底させたものであるが,統治が能率的に行われず,複雑な抑制均衡の制度を通して政策が立案,決定,執行されることから責任の所在が不明確なことが多いのである。

 次に,第二の連邦制に関しては,国民の間ではイギリスの支配の影響から,政府は「必要悪」であるという認識が支配的であったことから,権限の制限された「弱い政府」が掲げられ,中央政府である連邦政府には一定の事項についてのみ権限が与えられ,その他の権限は全て地方に与えられた。

 連邦制はアメリカだけでなく,ドイツでも採用されているが,イギリスの植民地であったアメリカが分権・分離型の地方自治というアングロ・サクソン系であったのに対し,ドイツは集権・融合型の地方自治というヨーロッパ旧大陸系であることから,地方の自由度といったものはアメリカの方が高くなっている。

 憲法作成の過程で見られた,伝統に頼らず,18世紀啓蒙思想の原理を徹底的に適用したという「合理主義」と,不正に対して個人の自己主張が強く反応するという「急進性」と,この憲法を2世紀にわたって守ってきたという「保守性」というのがアメリカという国家の特徴になっている。

 また,ヨーロッパの旧大陸では,支配層の権力を制限し,民主主義の原則である国民の政治参加,つまりは民主主義を拡大することによって国民の権利は確保された。しかし,アメリカの場合,独立革命によってイギリスの支配及び支配層を完全に排除したことから,多数派の専制が生じ少数派が犠牲になる恐れのある「民主主義」よりも,むしろ多様な利益,多くの党派が数の論理で相手を圧倒することなく相互に均衡に抑制する「共和主義」が支持された。そして,この「民主主義」及び「共和主義」を思想的ベースとして,今日の民主党,共和党が形成されている。

  2)政治システム

 アメリカ民主主義の根底にあるのは自由と平等という基本理念であり,特に自由の確保ということは常に基本理念として国家の制度及び政治システムの根底にあり,その在り方は時代によって変容し,制度及びシステムに影響を与えてきた。

 独立当時は自由放任主義の原則からアメリカ連邦政府は弱い政府であったが,20世紀の革新主義の台頭から自由を確保するために政府の介入が是認されはじめ,ニューディール政策によって「大きな政府」が確立された。そして,戦後の福祉国家化などを経て,1970年代から「小さな政府」が掲げられているものの,今日の強い政府へと転換してきた。

 しかし,その間,連邦制と三権分立を掲げた合衆国憲法の大枠には変更がなかったため,その複雑な抑制均衡の制度は政治システムにも影響を及ぼし,政治過程の複雑化の一因となっている。

 先進諸国では,ほとんどの法案が政府から政府提出法案として提出されるが,三権分立の原則から,アメリカでは大統領に法案提出権がなく,政府提出法案は存在しない。大統領は議会への教書で自分の希望する法案を示すか若しくは要望し,関係省庁が法案を事実上作成するケースもあるが,あくまで議会の委員会への提案は議員を通して行わなければならないのである。

 この典型的な例として挙げられるのが,連邦予算の編成過程である。連邦予算は議会の予算ではなく行政府の予算であり,その内容は予算権限を付与する複数の歳出予算法によって構成されている。このため,編成の段階においては,①大統領府による大統領予算案の作成,②議会による歳出予算法(appropriation act)の審議,という二つの手続を経ている。そして,大統領には法案提出権がないため,大統領が議会に提出する大統領予算案は議会で直接議決の対象となるものではなく,単に議会に対して立法措置を要請したり,歳出歳入についての見積等を示すものであり,連邦政府の次年度財政計画の基本的な表現である。

 また,議員立法という原則から,議員をサポートする議会及び議員スタッフの数は先進国の中でも最大規模であり,議会の各委員会に100人から120人程度所属し,議員スタッフも併せると議会全体では25,000人程のスタッフが所属している。スタッフは議員をサポートし,主に立法作業に従事し,またGAOへのリクエストや政策アジェンダの情報収集に努めることも職務としている。このサポートスタッフと同様に議会及び委員会を支援するのが議会附属機関であり,情報収集,調査分析を主な職務としている。

 同様に,アメリカの政治システムにおいて重要な役割を果たすのが,司法部,特に連邦最高裁判所である。アメリカは訴訟天国と称されるほど裁判が非常に多い国として有名であるが,同様に,政治過程において,憲法解釈をめぐって政治的対立が生じることは珍しいことではなく,解決の場は司法部へと移される。そして最終的に連邦最高裁判所の違憲,合憲の判定によって解決されるのである。

 我が国の最高裁判所は,高度に政治的な問題は統治行為に属するとして判断を下すことは避け,政治的中立を守ろうとする姿勢が見受けられることから,連邦最高裁判所のこのような行為は我々には違和感を感じるが,政治的対立を司法に移し,平和的な解決を図るのはアメリカだけでなくドイツなどでも行われている。もっとも,アメリカのように裁判所が明確にイエス・ノーで政治的対立点に判定を下すということは希なことであり,特異な存在であると思われる。

  3)財政システム

 アメリカにおける財政システムについてみてみると,我が国の大蔵省に当たるのは財務省(Department of Treasury )であり,その役割は主に歳入の管理である。アメリカの連邦予算は大統領及び行政府の予算(executive budget )であることから,財務省は予算編成及び執行には直接的に関わらず,代わりに大統領府に所属する行政管理予算局(Office of Management and Budget;OMB)が管理,統制している。

 連邦予算は,イギリス,ドイツ,フランスと同様に法律として歳出されるが,その編成過程は非常に複雑で分かりにくくなっている。

 議決された歳出予算(appropriation)は,GAOのチェックを経て,各省庁に送付されるが,議会から付与された,年度内に債務負担を負う権限を認められる,予算権限(authority)はそのまま使用されるのではなく,OMBが各機関に対して四半期単位で行う,予算権限を使用するペースを決定する,予算割り当て(apportionment)によって使用可能となる。

 予算統制のシステムについてみてみると,制度の面で特徴的なのが,アメリカには我が国の決算制度に該当する制度はなく,毎年の収支実績が財務省から「合衆国収支残高報告書(Combined Statement of Receipts Expenditures and Balances of the United States Government)」として議会に報告されるだけであり,議会に決算委員会のような委員会も設置されておらず,審議,議決は行われない。しかし,議会によって予算の使用権限が行政府に付与されていることから,議会は予算が合法かつ適切に使用されたかをチェックする義務があるため,立法府に所属するGAOが連邦予算の事後検査(post audit)を行い,毎年議会に対して報告書(annual report)を提出している。

 また,同様に行政府の財政活動をチェックする機関としては,各省庁に内部監査を担当するInspector Generalが設置されている。GAOが,近年政策評価として,支出の有効性の重視へと移行しているのに対し,1978年のInspector General Actで各省庁に広まったInspector GeneralはGAOが従来行っていた伝統的な会計検査を受け継ぎ,財務諸表検査や,不正や濫用の防止,発見,及び勧告といったことを業務とし,同時に各省庁の内部監査システムの管理も行っている。

 第3款 対外関係

  1)大統領及び行政府との関係

 会計検査活動は,制度的に若干の差異があるものの,会計責任(accountability)の概念に基づいて国の収支決算を検査し,会計経理を監督し,議会に報告する活動である。そのため,大半の検査院は検査の対象である行政府から独立しており,その独立性は院長及び職員の身分保証等によって保証されている。GAOにおいても同様であり,行政府からの独立性は,①GAOの予算は議会によって決定される,②政府(CIAを除く)はGAOが要求すればどのような資料でも提出しなければならない,③スタッフの採用は他の機関とは独立に行われる,④院長は議会が選んだ3人の中から大統領が任命し,任期は15年で,就任後はどのような政治的圧力からも自由である,といった4つからも十分に保証されている。

 会計検査,特に伝統的な会計検査は個々の活動の検査であることから,各国検査院とも行政府との関係は必ずしも良好なものとは言えないものである。GAOの場合,特に立法府の附属機関であり,大統領及び行政府と立法府は相互に独立し緊張関係にあることから,他国の検査院とは若干異なり,常に緊張関係にあった。

 歴史的には,創設期のGAOの活動は行政機関の個々の活動の検査及び支出の統制であり,不正事項を摘発することに重点を置いてあった。そのため,行政部の職員の記録等の詳細な点検をGAOが行ったことから,その関係は必ずしも良いものではなかった。

 また,1960年代に入ると国防部門での政府契約(government contract)を検査する権限が議会から与えられ,GAOがより契約の細部について目を向けるようになると,軍需産業側からGAOに対して反発が大きく,下院のHolifieldを議長とするsubcommitteeで取り上げられ,公聴会が開催された。GAOも反論を行ったものの,政府契約に関する検査の方針や方法について,変更を余儀なくされ,大きなダメージを受けた。

 現在,通常の検査活動となっている政策評価は,議会からの要請という性格上,タイムリーな,政策論争の場にある問題を多く扱うようになるために,これまでよりも一層政治的にセンシティブな状況にGAO自身がおかれるようになり,Holifield公聴会のような事態を招いてしまうことは十分に懸念されることであり,この点に関してはかつての教訓から,GAOは政治的中立性・正確性を守るために細心の注意を払っている。

 現在,GAOは政策評価を定着させ,情報提供機関への変革を成し遂げ,その内容も次第に国家的な大きな問題が取り扱われ,分野も多岐にわたるものとなり,大統領の交代時には内外の政策課題についての報告書をまとめ,大統領に提出している。

  2)財務当局との関係

 1947年にはGAOの新しい方向をデザインするために,JAIP(Joint Accounting Improvement Program)が,GAO,財務省及びOMBの前身である予算局(Bureau of Budget;BOB)の三者のトップの協力体制の下で実施され,GAOの改革案が検討されたが,歴史的には必ずしも有効な関係にあったとは言えなかった。

 まず,財務省とは,GAOが,1921年の予算及び会計法(Budgeting and Accounting Act)で財務省及び行政府から独立し,独自の権限と作業方式によって行政府の個別の会計をチェックしたため,創設初期においては行政府の会計記録や内部監査のフォ−マットについて対立が見られた。

 次に,大統領府に属し,予算に関してその編成及び執行で中心的役割を果たし,実質的な権限を握っているOMBとは,議会と大統領の対立関係という図式の中で,ある種の対立関係にあった。歴史的に見ても,1921年の予算及び会計法で連邦予算が大統領の予算となり,BOBの対抗勢力としてGAOが設置されたため,初期のGAOの会計検査活動は個別の支出項目のチェック及び支出の統制であり,不正事項の摘発であった。

 しかし,現在では,連邦財政赤字,連邦財務管理システム等の問題に対して,共同して問題の解決に取り組み,特に後者の問題に関しては連邦政府の財務管理の改善を目的としたCFO Actが1990年に制定され,各省に会計・財務の全般を管理するCFO(Chief Financial Officer)が設置され,OMBが連邦財務管理システムの中核に位置付けられ,GAOは他のOMBなどの機関と連動して,連邦政府全体のシステムの管理に当たるようになった。

  3)立法府との関係

 アメリカを除いた主要国では,決算制度が存在し,議会に決算委員会が設置されているため,議会との結付きはあり,イギリスでは会計検査院の検査計画に対して国会決算管理委員会議長が要望できる方式もある。

 GAOの制度的な特徴としてまず第一にあげられるのが「議会の附属機関」ということであり,行政府との関係とは相対的に,その結付きの強さは各国の会計検査院の中でも抜きん出ている。この背景には,アメリカでは徹底した三権分立が採られ,大統領及び行政府と立法府が対立状況にあることがある。

 この特徴は,政策評価がGAOの会計検査活動に導入された前後から急速に顕著になってきたが,1921年に予算局の対抗勢力としてGAOが創設された時から両者はある程度の協力関係にあった。

 そして,1970年代に入って政策評価がGAOの通常の検査活動となると,両者の関係は緊密なものとなり,1974年の議会予算及び執行留保統制法によってより強固なものとなった。

 GAOは,連邦プログラムに関して中立で客観的な情報を提供する機関として変貌していき,大統領及び行政府と政治的に対立していた議会の関係は密接なものとなっていった。昨年度の実績で見てみると,総計で1,305の検査及び評価レポート類(議会及び省庁向けレポート979,議会向け公式要約報告書136,GAO幹部64人による議会証言190)を作成しており,また約4,000件の法的裁決に関わっている。

  4)国民及びメディアとの関係

 歴史的には,4代目の院長であったStaatsが1966年に院長に就任し,政策評価に通常の検査活動が移行した頃から,メディアに対しても積極的に関わるようになった。そして,政府活動に対する国民の関心が高まってくるにつれて,両者の関係も密接になっていったのである。

 現在GAOが行っている政策評価の90%は議会の委員会からの要請によるものであることから,テーマにはカレントなトピックが扱われることが必然的に多くなっている。また,一方で連邦財務管理システムの改革の問題等の大きな問題も取り扱っていることから,GAO報告書がメディアを通じて公表され,国民からの大きな反響があるケースは多く見られる。

 また,メディアで取り上げられている問題について,GAOの側で関心をもち,独自に調査を行うケースもある。例えば,昨年(本件調査当時)出された金融デリバティブ取引に関するレポートでは,議会の5つの委員会から要請がきたが,その要請がくる前にGAOの側で調査を行っていたのである。

 第4款 GAOの組織管理

  1)組織及び権限

 GAOは,院長(Comptroller General :CG)の下に院長特別補佐官(Special Assistant to the Comptroller General),12人の院長補(Assistant Comptroller General :ACG),6つのDivision,から構成され,地方と海外に支局(field office )を保持している。スタッフの数は約4,600名であり,3分の2が本部のあるワシントン地区で勤務している。

 実際に現場で検査活動を行う検査部門に当たるのは各Divisionであるが,それぞれ,我が国のように行政省庁別に対応したものではなく,現実の行政プロジェクト分野別(貿易,運輸,教育等)で構成されたProgram Divisionと,政策評価の基準,方法を取り扱うTechnical Divisionに分けられる。このDivisionを更に検査領域別で分けたのがIssue Areaであり,GAO全体で36ある。またissueとして決まっていない,特別な問題に対応するために,No Issue Area workがアドホックに設置される。

 スタッフの割当て(allocation)は以前はDivisionごとに毎年行われていたが,現在ではIssue Areaごとに割り当てられ,93年から94年にかけてはこの割当てが行われず,はじめて2年間同一のスタッフとなった。

 GAOは立法府の機関であり,行政府には所属していないが,近年行政改革の流れと連動して,組織の規模は縮小の方向に向かっている。具体的には,退職勧告が延べ407人に対して行われ,また組織,特に地方及び海外の支局に関して統廃合が積極的に行われ,2つあった海外支局のうちホノルルの支局が廃止され,また15あった地方支局のうち,フィラデルフィアの支局が廃止され,ニューヨークとボストンの地方支局が統合された。

 また,GAOの予算は年間443百万ドル(約443億円)に上り,4,600名というスタッフ数と併せて,議会予算局(Congressional Budget Office:CBO)などの他の議会の附属機関をはるかに超える組織規模となっている。

 大統領府と議会の勢力が拮抗しているというアメリカ独特の政治的・行政的背景から,議会の附属機関であるGAOは行政府から完全に独立し,行政府に対して強力な調査権限が与えられている。そのため,設立当時からこの独立性は重視され,身分保証等によって保証されてきた。また,近年GAOの主要な検査活動である政策評価は議会と行政府との間で緊張関係が生じることから,GAOの独立性というものは今日でも非常に重要視されている。

  2)人的資源管理

  a.採用

 近年GAOでは伝統的な会計検査から政策評価へと検査活動の主流が移り,多彩な分野での専門的な知識が次第にGAOに要求されるようになり,かつて会計士によって大半が構成されていたスタッフも,現在では専門的な経歴をもつスタッフで構成され,プロジェクト分野別でスタッフの資質が変わってきている。

 実際に現在のスタッフの出身を見てみても,会計学(Accounting)の出身は全体の約20%で,しかも50代を中心とする層が大半であり,若手スタッフを見てみると,行政学(Public Administration ),統計学(Statistics),経済学(Economics),政策科学(Policy Sciences),ORなどの政策評価に必要な,多岐にわたる分野の出身者が多く,「もはや専門というもの自体存在しない」と称されているほどである。

 スタッフの質に関しては,組織のダウンサイジング化が近年図られここ2年は採用が見送られているが,2年前に250名を募集したところ6,000人近くが応募してきたことが示すように,GAOの人気は非常に高く,優秀な人材が集まっている。

 一方,早期退職プログラムや退職勧告などから,スタッフの勤続年数は低下(25年→15年)しており,また,スタッフの平均給与はおよそ79,000ドルである。

  b.教育及び訓練

 伝統的な会計検査から政策評価へと検査活動の主流を移行する過程では,特に人的資源の変革,スタッフの変革が最重要なアジェンダであり,会計の専門家が中心であったGAOにとっては政策評価の専門家となる人材を育成することが急務となった。しかし,実際にはこの作業は容易な作業ではなく,約15年から20年の期間を要し,その間抵抗も見られたのであった。

 ここで注目すべきなのは,GAOは当初外部から専門家を雇ったり,中途採用の形で人材を採用したわけではなく,内部の人間を他機関(大学院など)に送り再教育する形で育成したことである。このことにより,GAOの伝統と調和した政策評価が可能になり,結果的に政策評価がGAO内でスムーズに運営できるようになったのである。

 教育及び訓練の重要性に関しては,現在も変わりなく認識されており,教育及び訓練に関する予算は支払給料総額(pay roll)の3.2%を占めており,アメリカの民間企業では3〜4%であることから,ほぼ民間並みの投資がされている。1987年には研修施設(Training Institute)がGAOの建物の内部に設立され,研修に関する機能が集中し,教育訓練の地位が向上した。6つの教室があり,研修スタッフは50人であり,そのうち25人はある特定のトレーニングに関するバックグラウンドを有しており,残りの25人は政策評価に関する学際的なバックグラウンドを有している。また大学教授クラスの研修官も3人いる。

 GAOのすべての人間は,この研修施設に入ると7日間のコース(Introductory Evaluator Course)を受けることになり,後はカリキュラムに沿って研修が行われる。

 研修カリキュラムは政策評価を行うための知識やスキルの修得のために体系だっており,中にはインタビューやライティングなどの訓練もある。また,研修で使用される教材についても,カリキュラム同様に工夫がされ,過去の報告書からのケースを集めたケース集といったものもある

 第5款 会計検査活動

  1)個別支出及び財務諸表検査

 1921年に予算及び会計法によってGAOは設立され,当初は連邦予算の支出を正確性及び合法性の観点から全て検査する個別支出検査(voucher audit)をその検査活動の主流としていた。しかしながら,Rooseveltによるニューディール政策により連邦予算の規模が一気に増大し,第二次大戦によって更に拍車がかかったため,3,500万件もの支出が未処理となり事実上崩壊した。

 そのため,1950年に当時の院長であったWarrenの決断により,voucher auditは各省庁に委ねられ,現在に至っている。GAOは行政府に対して検査基準を示したyellow bookを作成し,会計原則を決定し,財務管理手続と内部統制の妥当性を管理することに努めるようになっている。

 また,財務諸表検査(financial statement audit)に関しては,原則として各省庁に置かれているInspector Generalが行ったものをGAOがチェックするという仕組みになっており,場合によってはGAOが直接検査を行うこともある。

  2)政策評価

 現在GAOの検査活動の約90%は連邦政府の政策の評価であり,各国検査院に先駆けて合規性,合法性といった伝統的な検査から,Value for Moneyという視点からの検査へと移行してきた。

 歴史的には3代目院長であったStaatsによって積極的に推進され,1967年に,プラウティ(Winston Prouty)上院議員の提案による経済機会法修正法で議会からGAOに連邦反貧困対策の評価が求められ,これが始めての本格的な政策評価であった。そして1970年の立法府機構改革法及びその拡張である1974年の議会予算及び留保統制法によって法的根拠が与えられ,プログラム結果監査(program results audit)という名称で政策評価が次第にGAOの通常の活動となっていった。

 このような大きな変革のためには,それまでの会計事務所を模した組織の変革が行われたが,それ以上に会計の専門家や公認会計士が中心であった人的資源,スタッフの変革,育成に約15年から20年要し,その間幾つかの抵抗も見られた。しかしながら,3代目院長Staats,4代目院長Bowsherといった組織のトップの非常に強いリーダーシップ,一方では議会からの強い圧力によって改革は推進され,他方ではGAOの持つ行政府に対する独立性が大きな役割を果たした。

 政策評価(Program Evaluation)とは,端的に言えば,政策の有効性を評価することであり,その政策がその意図した目的をどれだけ達成したかを評価するものである。

 例として,下水処理の3次処理に百億ドル補助する政策についての評価では,3次処理まで高めることの意味が問われ,2次処理を高めることの方が意義あるとし,果たして3次処理に百億ドル補助する価値はあるのかという見解が示された。

 Program EvaluationとProgram Analysisは通常混同されがちであるが,前者は過去行われた政策に対して行われる評価及び分析であるが,後者はその政策が将来もたらす効果等を分析するものとして,GAOの内部では区別されている。

 議会の附属機関等の他の機関の中には,この政策評価を行う機能を有している機関もあるが,実際に行っているのはGAOのみである。

 行われている政策評価のうち75%が議会の委員会(committee)からの要請(request)によるものであり,残りはGAOの自発的なものである。そのため,政策評価で扱われるトピックも,過剰医療,コカイン,水資源,デリバティブなどの問題といったように,カレントでかつ,国家の抱える重要な問題であり,その分野も多岐にわたっている。

 また,近年では特に財政赤字の問題や連邦財務管理の改革の問題に積極的に取り組み,例えば,財政赤字の問題に関連したHealth Careの問題が取り上げられ,National Health Planningについて,各国での状況をレビューし,レポートをまとめ,議会に提出した。

 一本のレポートの作成には,約4〜5人のスタッフが従事し,通常約10〜11ヵ月の期間を要するが,トピックによっては早急にレポートが作成されるケースもあり,例えば,1987年10月に起きたブラックマンデーのレポートは翌年の2月までに仕上げられた。

 レポート作成の手順を見てみると,まず第一段階は,"scoping"であり,これは議会からのrequestを受けて,何が論点になる問題かということに関してGAO内で検討することである。通常,議会からのrequestでは論点が比較的狭くscopeされてくるが,GAOでは広くscopeする。またこの段階では同時に調査計画が立てられる。

 次に第二段階は,"data collection and analysis"であり,データが収集され,分析が行われる。データの収集に関しては外部の民間から入手するケースもあるが,地方及び海外の支局が重要な役割を果たしている。GAOのレポートではサーベイがよく使われ,GAOの内部,外部はケースバイケースであるが,質の良いサーベイが行われている。また,データの分析には統計分析等の社会科学の分析方法が使われている。

 次に第三段階は,"message development"であり,分析されたデータによってどういうことが言えるかということが検討される。

 最後の第四段階は,"report processing"であり,スタッフによってレポートが作成され,議会の委員会若しくは小委員会の議長宛に提出される。レポートはCRSの場合には個人名を冠して提出されるが,GAOの場合にはGAO名を冠して提出される。また,レポートのqualityの管理に関しては,レポートはGAOとは独立したunitでレビューされ,数は限定されているものの専門家も所属している。レポートによって行われる勧告(recommendation)については,法的な強制力はないものの約80%が実施されている。

 また,レポートは年間約800本作成されることから,全てCD−ROM化されている。

 第6款 終わりに−GAOをどうとらえるか−

 冒頭でも述べたように,各方面から変革が叫ばれている我が国の検査院にとって,会計検査の新たな役割に積極的に取り組んできたGAOをどうとらえるかということは非常に重要な問題である。そして,実際に,GAO及びその活動である政策評価を我が国の検査院の目指す方向とすべきであるという見解がある一方で,否定的な見解もある。それらの大半は,GAOの外部環境及び制度的位置付けからGAOを各国検査院の中でも特異な存在であるとし,我が国の検査院は伝統的な会計検査に従事すべきであるとしている。

 確かに,ここまでみてきたように,GAOの外部環境であるアメリカの社会システムの特性,対外的な関係,また立法府の附属機関というGAOの制度的特性は,我が国の検査院をめぐる外部環境とは異なるものであることは否めないであろう。

 しかし,我が国と同様に行政府が強力で,理念主義が根底にある政治システムという外部環境で,会計裁判所として司法官によって構成されたフランスの会計検査院が,政策評価への取り組みを始めていることは特筆に当たるであろう。同様の動きは冒頭でも述べたとおりであり,政策の有効性の評価は会計検査の流れとして受け止めるべきであろう。また,GAOにおいても,政策評価の導入に際しては,議会からの強力な要請と併せて,院長の強力なリーダーシップの下,組織及び人的資源を変革していったことは見逃せない。

 本節は,GAOについて,不十分ながらその社会環境要因という側面から比較制度論的に分析を行ったものであり,今後同様の作業をイギリス,フランス,ドイツ,日本について行い,現在我が国の検査院が直面する課題,及び各方面からの要求に対応していくための,制度的な考察へとつなげていかなければならないであろう。

第4節 ドイツの会計検査院

 第1款 はじめに

 連邦会計検査院は,職員約650名を擁しており,連邦の会計検査を行う独立の機関として,年間1兆マルクを超える歳出と歳入を検査し,連邦議会,連邦参議院,連邦政府に助言を与え,報告している。

 旧東独地域と旧西独地域の生活環境を均一化することは,連邦,州,市町村の予算にとって極度に大きな財政的試練となっている。それらの負債は飛躍的に増加し,憂慮される程の規模に達しているのである。そのため公的資金を経済的に(無駄なく)使用することが,かつてなかった程必要になっている。連邦の公的資金が経済的に使用されるよう目を光らせることが連邦会計検査院の主要な任務である。財政上の重要な個別施策や財政経済上の重要な立法計画に関して,議会や政府に対して行う助言も,検査業務と同程度の重みをもっており,その重要性はいよいよ大きくなっている。

 連邦会計検査院はときに「剣をもたない騎士」と呼ばれる。連邦会計検査院の指摘は,命令という形では実現されえないからである。連邦会計検査院は議会や政府に対して,その主張の説得力だけが頼りなのである。

 ところで,欧州に形成されつつある経済通貨連合(EU)という体制の中で,連邦会計検査院は,加盟各国の会計検査院と共に提言や提案を通じて,EUの予算財政政策と歩調を合わせるよう協力しなければならない。また,東欧と旧ソ連の諸国は,民主主義,安定,福祉に向かって努力している。それには国の会計検査を行う独立した機関の設置も含まれる。これら諸国が近代的な会計検査の制度を構築するのを今後も支援し,これら諸国がその経験と知識を他の国々に伝達できるよう協力することは,連邦会計検査院の課題である。

 連邦会計検査院の業務は,ドイツの会計検査の280年の伝統の内にある。ここでいう伝統とは停滞や硬直化ではなく,良い点をさらに発展させ,要請の変化に適応することである。例えば,民営化された連邦の特別財産,すなわちドイツ鉄道(株)とドイツ連邦郵便の3社,及び連邦行政以外の機関全般に関する連邦会計検査院の検査権の変化を考慮している。連邦会計検査院はこれらの変化に対し,組織変更と検査重点項目の決定によって対処している。独立した会計検査の有効性に関する知識は,行政に対する国民の信頼を高め,国に対する立腹を防ぐことができるのである。

 第2款 法的地位

 連邦会計検査院は,ひとつの連邦最高官庁であり,会計検査を行う独立機関として法律のみに服従する。連邦会計検査院という組織,職員の地位及び職務は,基本法において憲法上保証されている(基本法第114条第2項)。その組織の細目,職員の任命手続及び意思決定方法は,連邦会計検査院に関する法律において定められている。同法の補足規定は,連邦会計検査院の職務規程に定められている。任務,検査対象,検査基準,検査方法に関する細目は,連邦財政法(特に第88条),財政原則法(特に第53条)及び幾つかの特別法(雇用助成法,連邦公共放送施設の設立に関する法律など)に定められている。

  1)検査対象

 連邦会計検査院は以下の検査を行う。

 − 連邦,特別財産及び国営事業

 − 公法上の法人の法形態をもつ連邦事業体,連邦直属の公法上の法人

 − 連邦から補助金を交付されているか,又は連邦に保証義務がある連邦直属又は州直属の社会保険機関

 − 連邦が資本参加している民法上の企業(商業の諸原則を遵守する)

 − 民法上のその他の法人(一定条件を前提とする)

 また,連邦会計検査院は,連邦行政以外の機関が連邦の資金を管理しているか,又はそれを受領している場合には,この機関についても調査を実施することができる(州,市町村,補助金の受領者など)。

  2)検査報告

 連邦会計検査院は検査結果について,毎年,連邦議会,連邦参議院及び連邦政府に報告する。その報告書は,議会による連邦政府の承認の際にも用いられる。検査報告には,主として重要な検査結果と,それに基づく勧告を盛り込む(連邦財政法第97条)。その中で連邦会計検査院は,年間数千万〜数億マルクに上る歳費の節減と増収の方法を示すが,その大部分は実施されることとなる。また,検査報告は,承認がなされるべき年だけに言及するものではない。それは特に,まだ将来への路線を定めうる最新の問題にも言及するのである。

 連邦会計検査院長はボンで行う記者会見で,毎年の検査報告を公表する。年次報告書以外に連邦会計検査院は,立法府と連邦政府に対し随時,特に重要な事案について報告することができる(連邦財政法第99条)。最近のその例としては,ミュンヘン第2空港の建設への連邦の参加,連邦行政の計算機センターにおけるデータ処理の安全性,農林業における家族による人的企業の設立の際の税の還付に関する報告などがある。

  3)答申

 連邦会計検査院は,その検査経験に基づいて勧告を出し,検査対象機関と議会からの質問に対して答申を行うという任務も持っている。その際,連邦会計検査院は損害を回避又は抑制し,成果を高めるよう努める。答申は,計画決定を行う前にも始めることができる。これは,行政が当初より問題点をもちながら作業を進めてしまうことを回避しようとするためである。それはしばしば,立法措置の契機となることがある。

 連邦議会の予算委員会は,連邦会計検査院の答申を,大抵財政効果のある重要な立法計画と財政上重要な個別施策について求める。この答申書は,ますます包括的となりつつある今日の連邦会計検査院の答申の象徴である。そのテーマは,連邦政府新聞情報庁の人事問題や,防衛分野の欧州軍備プロジェクト「ユーロファイター2000」へのドイツの参加,さらには情報工学の利用に関する連邦会計検査院の最低限の要求や,アウトバーンのレストハウスの営業免許の交付にまで及ぶ。旧東独地域と東ベルリンにおける税務行政の構築と,信託公社による旧国営企業の民営化にも,連邦会計検査院はその答申活動でかかわっている。

  4)予算へのコミット

 予算を作成する際には,連邦会計検査院の検査経験が活かされる。連邦会計検査院は,大蔵省と各省庁の間の予算交渉でも発言する。連邦会計検査院は,予算委員会の報告者との打合せの際と,予算委員会のその後の審議の際にも,口頭と書面で議会に対し報告を行う。予算の執行に際しては,財政運営と経営の検査が中心となる。検査による知見は,現会計年度中での誤りの修正につながり,支出の削減につながることも多い。

 第3款 検査方法−連邦会計検査院は各施策を検査する−

 連邦会計検査院は,それがまだ歳入や歳出につながっていない場合でも,財政上影響のある施策をすべて検査することができる。必要なことは,当該施策が決定されているということだけである。大型プログラムで特にそうであるが,行政行為は多数の個別施策から成っている。連邦会計検査院はそれらを,別個に検査することができる。それにより誤った決定を早期に発見し,修正することができるのである。

 そして,連邦会計検査院は,検査の日時と方法を自ら決定する。連邦会計検査院は立入検査を行うことができる。その場合には,連邦会計検査院の行った質問に答える記録書類,証明書類,データなどを提示しなければならない。

 検査対象の選択は重要である。その選択は,毎年の年次検査計画立案の中で行う。この決定に関しても,連邦会計検査院は自由である。連邦会計検査院は重点検査対象を決めたり,無作為抽出検査に限定したり,会計検査を行わずに済ましたりすることもできる。議会の検査要請には,できるだけ応えるようにしている。

 連邦会計検査院は必要な情報をすべて収集し,資料を要求することができる。財政上影響のある一般行政規則は,直ちに連邦会計検査院に通知されなければならない。それは連邦会計検査院が行政の動向を把握し続け,必要な場合には直ちに批判を行えるようにするためである。会計又は会計検査の利益に関係する場合には,行政は事前に連邦会計検査院の意見を聞くか,了解を取り付けなければならない。

 合規性の検査をする場合,連邦会計検査院は各法律,予算,行政規則が遵守されているかという点に注意する。経済性の検査をする場合,連邦会計検査院は費用と効用の関係を調べる。連邦会計検査院は,人件費と政策実行による効果に特に注目する。各種政策その他の大型計画を検査する場合特にそうであるが,所期の目的が実際に達成されているかという観点の重要性が,いよいよ大きくなっている(業績検査)。

 連邦会計検査院は,検査結果を検査結果通知に総括する。連邦会計検査院は検査結果を,各行政機関の責任役職員に通知する。各責任役職員は,連邦会計検査院が指定した期日までに,それに対し見解を表明しなければならない。特別な理由があって連邦会計検査院が必要と考える場合に限り,連邦会計検査院は検査結果を,他の役職員やドイツ連邦議会の予算委員会にも通知することができる。財政の根本にかかわるか,財政上非常に重大な検査結果については,連邦会計検査院はその他に連邦大蔵省にも通知する。

 現行法の範囲内での政治決定は,連邦会計検査院による判断の対象ではない。しかし,この種の決定の前提条件又は効果に関係する検査上の知見から,関係機関は再点検を行うべきであると考えられる場合がある。例えば,特定の補助金が交付されるべきか否かを,政治的に判断することなどは,連邦会計検査院の任務ではない。しかし,連邦会計検査院は,補助金の交付の際に前提条件が遵守されたかとか,それが所期の効果を達成したかなどを,検査報告することはできるのである。

 連邦会計検査院は,相手を納得させなければならない。連邦会計検査院の検査報告中の指摘を実現させる場合,連邦議会,特にその予算委員会と会計検査小委員会は,必然的結論を出すよう努める。これらの委員会と小委員会はこれまで,連邦会計検査院の担当メンバーを交えた綿密な打ち合わせの後,90%を超えるケースで検査に基づく指摘を実現させてきているのである。

 会計検査小委員会において,行政は連邦会計検査院の検査報告について,質疑応答しなければならない。これは原則として各省の大臣か政務次官が行い,場合によっては政務官吏が行う。

 第4款 組織及び構成員

  1)組織

 連邦会計検査院は現在,9つの検査局と55の検査部から成り,事務業務は官房が行っている。各検査局は会計検査の任務を行う。各検査局は局長が指揮管理し,幾つかの検査部に分かれている。そのトップには検査部長(連邦会計検査院のメンバーとしての参事官)がいる。各検査部には調査官その他の職員が所属する。上級官吏が指揮管理する官房部局は,困難な任務や規模の大きい任務の場合を中心に,各局を支援する。連邦会計検査院は,男女検査官約400名とメンバー66名を擁している。

 連邦会計検査院は原則として,そのメンバーの合議制により決定を行う。2者合議体は局長と検査部長で構成し,3者合議体にはさらに連邦会計検査院長か副院長が加わる(連邦会計検査院法第7条第5項,第9条第1項)。合意が達成されない場合に限り,各局の評議会か大評議会が決定を行う。検査報告を年次報告に記載するかどうかなど一定の決定は,必ず大評議会が行うことになっている(連邦会計検査院法第14条)。各ユニットの概要は次のとおりである。

①大評議会

 大評議会には通例,メンバー16名が所属する。すなわち連邦会計検査院長,副院長,各局長,検査部長3名,及び報告者2名である。大評議会は委員会を設置することができる。

②評議会

 各評議会は,局長,当該局の検査部長及びもう1名の検査部長で構成する。連邦会計検査院長又は副院長は,そのメンバーとして投票権を有する。

③検査班

 最近の会計検査のもうひとつの形態が,検査班である。検査班はいくつかの検査部の専門家で構成され,通常の業務分担とは異なり,短期的に新たな重点検査対象に取り組む。それは連邦会計検査院に対する要請の変化に,連邦会計検査院が柔軟に対応することを可能にするのである。

 管轄については,ケースバイケースで決定するのではない。連邦会計検査院の任務の分担は,業務分担計画で定められている。連邦会計検査院長はこれを,大評議会の常設委員会の参加を得て,法定手続によって策定する。

 連邦会計検査院の業務分担については,検査局の下にあって最下級の組織単位である検査部が基準となる。業務分担計画の目的は,執行機関の活動を概観できるようにし,会計検査が実施されない部門をなくすことである。各検査部の任務が特定の組織単位や権利主体(各省庁や連邦直属の公法上の団体など),特定の支出や収入(個々又は複数の部局の人件費や建設費,租税),あるいは特定の財産(ERP[ヨーロッパ復興計画]特別基金など)を対象としていることは,上記の目的に対応している。

 さらに,特定事項や特定の法的問題の処理を担当する検査部もある(大評議会が決定すべき検査報告の調整と編集など)。個別ケースや特定の組織単位や予算機関との関連から切り離して,全体的関連性の中で判断されるべき専門分野については,横断検査がある。さらに全般的事項や原則的事項の検査は,特定の検査部にまとめられている。

 連邦会計検査院の任務は,次のように分担されている。

 第Ⅰ局の重点任務は,予備検査を含めた会計検査及び財政基本法と予算法の根本問題の取り扱いである。第Ⅰ局には議会との連絡所も属している。

 第Ⅱ局は,一連の重要な任務を所管している。主に外務省,連邦内務省,連邦経済協力省,連邦国土計画・住宅・都市建設省,連邦教育・学術省,連邦研究・技術省の財政運営と経営を検査している。その他に連邦のあらゆる省庁や機関・施設などの人件費と援護費(年金など)の検査も,第Ⅱ局の担当である。

 第Ⅲ局の管轄範囲は,連邦交通省,連邦郵便・電気通信省,連邦郵政施設,ポスト(株),ポストバンク(株),テレコム(株),及びドイツ鉄道(株)である。

 第Ⅳ局は,国防予算の検査を行う。同局は,公共の調達制度と価格法の基本問題も取り扱う。

 第Ⅴ局は,主に情報工学と情報処理,データの安全性の問題の検査を行う。同局はその他にも,道路工事を含めた民生分野と軍事分野での公共工事も所管する。

 第Ⅵ局の任務の重点は,社会福祉分野にある。ここでは連邦労働施設の各部,戦争犠牲者援護,法定年金保険の検査を挙げることができる。同局の管轄領域は,さらに連邦家庭・高齢者・婦人・青少年省にも及ぶ。

 横断検査は,第Ⅶ局の管轄領域の特徴である。人事制度,組織,内部業務,経済性調査は,連邦政府新聞情報庁を含めた連邦政府の広報活動と共に,その検査活動の対象である。その他の検査領域は,連邦法務省と連邦環境・自然保護・原子炉安全省である。行政の経済性に関する連邦受託者も,同局から広範な支援を受ける。

 第Ⅷ局は,財政と経済の分野を担当する。同局は租税と関税,連邦大蔵省,連邦経済省(ERP特別基金を含む),連邦食糧・農林省の予算を検査する。その他に公法上の法人の法形態をとる企業と,連邦が直接的又は間接的に資本参加している旧東独地域の私法上の企業に関する連邦の活動も,同局の任務分野に属している。

 ベルリンに所在する第Ⅸ局は,主に5つの新しい州(旧東独地域)における連邦の歳入と歳出を検査する。同局の検査領域には,旧東独地域における年金保険の給付金と税収,信託公社の後継組織とその企業に対する資本参加などが属している。さらに同局は,連邦保健省,連邦労働・社会秩序省,連邦労働施設の各部,法定医療保険の基本問題も担当する。

  2)構成員

 連邦会計検査院には,メンバー(院長,副院長,検査局長,検査部長),調査官,その他の職員がいる。メンバーは,人的にも物的にも独立している。メンバーは,院長を除き,終身官吏である。彼らには,連邦最高裁判所裁判官の独立性と懲戒処分に関する規則が適用される(連邦会計検査院法第3条第4項)。

 メンバー又は調査官としての業務は,興味深く多面的であり,ルーチンワークとは全く異なる。その業務には,自主的判断に基づいて処理する部分が大きいのである。検査業務を行う者は,検査対象機関の任務全体(幹部の計画立案決定から現場での手続きにいたるまで)について,全体的関連性の中で判断しなければならない。そのためには,非常な分析的と創造的才能の他に,いつも変化する任務に適応し,常に新しい事柄に精通する能力が必要である。職業経験のない者は,一般に採用されない。連邦会計検査院で働きたいと思う者は,まず行政において数年間の実績を挙げなければならない。

 院長又は副院長と,その他のメンバーの3分の1以上は,裁判官の資格を有していなければならない。すなわち司法教育を受け,2回の国家試験に合格していなければならないのである。

 メンバーと調査官は,大学教育又は高等専門教育を終えていなければならない。大学卒の調査官は,大部分法学部卒である。ただし連邦会計検査院には,経済学部や商学部の卒業者(経済学士,商学士)や,地上工事や地下工事,機械工学,電気通信,電子工学,水利工事,情報学など,多様な専門分野の工学部卒業者も増えてきている。高等専門学校卒の官吏は,税務行政,関税行政,社会保険行政から環境行政に至るまでの多様な専門行政を学んできた者である。技師,データ処理専門家,軍将校も必要とされている。軍将校は,国防分野における会計検査の特殊問題を担当させるためである。

 調査官は主に単独で作業するが,特に検査任務の範囲内で現場で事情調査を行う場合には,チームで作業する。検査には柔軟性,感情移入の能力,専門知識と一般知識が必要である。平均以上の判断力と試験成績を示せる者には,連邦会計検査院の業務に就ける可能性がある。

 検査部長は,各検査部を指揮監督する。検査部長は立ち入り調査に参加し,根本的重要性や特別な重要性をもつ事案について,意思決定機関(「合議体」)の他のメンバーに報告する。

 局長は各局を指揮監督し,当該検査領域における任務の処理について,検査部長と共同責任を負う。

 連邦会計検査院の院長と副院長は,連邦政府の推薦を基に首相選出と同様の方法で,12年を任期として連邦議会から任命される。彼らの再任は行えない。彼らの任期は,官吏の法定定年年齢に達した月の月末までに終了する。

 院長は連邦会計検査院の長であり,連邦会計検査院の職員の職務上の上司であり,対外的に連邦会計検査院を代表する。院長は任務の規則通りの処理について決定的責任を負い,業務の重点項目に関する意思決定を行い,業務の進展を督促し,連邦会計検査院の意思決定の原則が統一的であるように努める。院長は大評議会の議長であり,副院長との業務分担(連邦会計検査院法第7条第5項)の範囲内で,各局の評議会の議長を引き受け,合議体の意思決定に参加することができる。連邦会計検査院の他のメンバーは,院長の推薦により任命される。

 副院長は,院長が不在の場合やその他の不都合の場合に,院長の代理を務め,院長との業務分担により自己が担当する,合議体と各局の評議会の意思決定に参加する。

 第5款 他の機関との関係

  1)予備検査機関

 連邦会計検査院は,予備検査機関により支援される。それらは組織上,行政に組み込まれている。しかしその業務は,連邦会計検査院の検査に関する指示にのみ従って行われる。予備検査機関の責任者は,連邦会計検査院の了解を得て任命・解任される。場合により検査官の配属又は解任の場合も,これに準じて行われる。

 予備検査機関は連邦会計検査院の検査の準備から,補完までを行う。これらは,できるだけ近い時期に行われる。予備検査機関の業務については,連邦大蔵省が連邦会計検査院の了解を得て制定した「連邦行政に関する予備検査規程(VPOB)」に定められている(連邦大蔵省報,1979年,338頁,1985年,494頁)。

  2)州会計検査院

 連邦会計検査院と16州の会計検査院は,相互に依存し合わない独立の会計検査機関である。したがってその間に上下関係はない。それにもかかわらず,財政制度がからみ合っているため,緊密な協力が必要である。予算法は,連邦でも各州でも,文言も内容もほとんど同じである。したがって予算法の適用形態も,同様でなければならない。一連の重要な財政(大学建設,護岸施設,農業構造,石炭助成,住居補助金などの社会給付など)は,連邦と州が共同で賄う。その他の任務は,連邦の委託を受けて各州が実施する。税額の大きい共同税収入(所得税,法人税,売上税)は,連邦の国庫にも,また各州の国庫にも帰属する。

 管轄が連邦会計検査院と州会計検査院の共同である場合,共同で検査することもできるし,協定によって検査任務を交互に委任し合うこともできる。

 連邦会計検査院と各州会計検査院の院長は定期的に会合し,共通の関心事について話し合う。予算法,基本問題,租税,建設,データ処理,資本参加などに関するその打ち合わせは,会計検査院連絡会議で行う。

  3)国際的分野での協力

 外国の会計検査院や,国際機関や超国家機関の外部会計検査機関とは,定期的に連絡をとり合っている。連邦会計検査院はこれらの機関とも検査協定を結び,個々の検査の実施を委任したり,受託することができる。連邦会計検査院は,ドイツ連邦共和国が加盟する国際機関や2国間機関(NATO,国連など)の会計検査に関する規則を連邦政府が制定する場合,連邦政府に対し意見を表明しなければならない。連邦会計検査院は,フランクフルトを拠点に活動するか,又は一時的協力のために国際的な会計検査機関に調査官を提供する。1989年〜1992年,連邦会計検査院長は国連の外部会計検査委員会(Board of External Auditors)のメンバーであった。1994年7月1日,委員長は当面2年を任期として,UNIDO(国連工業開発機関)の外部会計検査の依頼を受諾した。

 欧州会計検査院は,EUの全歳入と全歳出の検査を所管する。欧州会計検査院がドイツ連邦共和国内で現地調査を行う場合,連邦会計検査院と協力することが定められている(1992年2月7日条文のEC設立に関する条約第188c条第3項)。EC加盟国の会計検査院長と欧州会計検査院長は,会計検査の問題を討議するため,連絡委員会を設置する。

 連邦会計検査院は,国連加盟国の大部分の最高検査機関が加盟している最高会計検査機関国際組織(INTOSAI)に加盟している。この組織には現在,約160機関が加盟している。この組織は公的会計検査の分野において,意見や経験の国際的な交換・交流を促進している。その総事務局はウィーンに置かれている。最高会計検査機関国際組織のメンバーは,会計検査の世界的問題を取り上げ,将来展望を指し示すため,3年毎に会議を開催している。1989年の会議は,ベルリンで開催された。更に,連邦会計検査院は,1990年に設立された最高会計検査機関国際組織の欧州地域機構のメンバーともなっている。最高会計検査機関欧州地域機構(EUROSAI)は,主に欧州の会計検査機関の協力を促進し,調査官の研修をその主要任務と考えている。最高会計検査機関欧州地域機構の総事務局は,マドリードに置かれている。

 近年,東欧,中欧,南東欧の諸国で起こった社会的激変により,財政の会計検査の分野においても大幅な改革が必要となっている。これら諸国からの依頼を受け,連邦会計検査院はコンサルティングと研修を通じて,近代的国家会計検査の構築・整備を支援している。連邦会計検査院の職員は,ドイツ国際開発財団(DSE 所在地ベルリン)がアフリカ,アラビア,アジア,ラテンアメリカの諸国の会計検査院の職員向けに開催している国際研修セミナーに,講師として参加している。このセミナーは,まさにこれら諸国において重要な国内の会計検査の発展と拡充に寄与するものである。

 第6款 まとめ

 連邦会計検査院が,大蔵省と各省庁の間の予算交渉でも発言し,予算委員会の報告者との打合せの際と,予算委員会のその後の審議の際にも口頭と書面で議会に対し報告を行い,予算の執行に際してもコミットすることは特筆される。検査による知見が,予算の執行中での誤りの修正につながり,支出の削減につながることも多いからである。

 高齢化社会に対応するため,①租税負担の増大を求める意見がある一方,②政府支出が最大価値を実現することを求める意見もある。そして,後者は最近の潮流であり,このような潮流の中で,日本の会計検査が向かうべき方向は何か,端的に言えば「会計検査院が積極的に政策評価を行うとした場合の現状を認識しつつ政策評価を行っていくための方途」について探っていくことが必要である。この場合,上記のドイツ会計検査院の予算編成,執行過程へのコミットが大いに参考になると思われる。

 すなわち,「政府が支出した資金(税金)によってどれだけの価値が実現したか」についての国民の関心が高まっていることを背景として,会計検査院では,支出の合規性・準処性といった伝統的な規準に加えて,支出の経済性・効率性・有効性(3E)という規準を考えている。そして,有効性の概念を拡大して,総合的な政策の評価を行い,政策の形成に対して情報提供の形でコミットしていこうとする動きが各国で見られる。これが政策評価である。しかし,政策をただ単に批判することではない。

 会計検査機能を充実強化すべき方向のひとつは,議会に対する政府のアカウンタビリティに関する検証であり,この検証を行い議会にフィードバックすれば検査報告の質的価値を向上できる。そして,フィードバック情報としての価値は,それが意思決定に取り入れられ修正活動に結び付いて初めて生じるものであるから,議会の情報ニーズに応えることが要求される。したがって,アカウンタビリティの検証時点も会計行為が終了した決算の段階では足りない。すなわち,予算は単に政府という一つの会計主体の財務計画,経営計画にとどまらず,国の経済計画でもある。このため,財政事情が厳しい状況下で財政均衡を維持しようとすれば,税収の過大見積及びコストの過小見積が当然の如く生じてくるが,この財政操作の結末は最終的には公債発行か増税で将来の納税者が負担することになり,議会における適正な審議を誤らせる危険性がある。この危険を回避するため,支出が確定しない時点でも政府は議会に対してアカウンタビリティを負うとみなし,このアカウンタビリティを決算が確定する前に検証する作業が必要である。この過程において,上記のドイツ会計検査院のような「予算編成,執行過程へのコミット」が有用である。

 ただし,政府の予算は与党の政策を反映したものであるため,政治的に独立した会計検査院がこの案の内容を検証することは政策の価値に踏み込むことになるから判断は慎重であらねばならない。しかし,予算の前提条件の根拠になっている推計方法及びデータの信頼性・妥当性を調査することは十分可能である。その調査結果を予算審議に提供することは,議会による事前統制にも貢献する。

 豊かな21世紀を創ってゆく上で,政策それ自体及びその決定過程が望ましい方向へと導かれなければならない。そのため政策の評価機関が必要であり,その機関が解りやすく受け入れられやすい政策の評価を国民の前に提示することが必要である。そうした新しい『政策の時代』に即応した政策評価機関の役割を会計検査が自覚的に担う時が来ている。

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