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第12号

1994年の年金改正と会計検査
高山 憲之

高山憲之
(一橋大学経済研究所教授)

 1946年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。武蔵大学経済学部助教授,一橋大学経済研究所助教授等を経て,90年より現職。この間,年金審議会委員,税制調査会専門委員,米価審議会委員,統計審議会専門委員,地方公務員共済組合審議会委員,中央最低賃金審議会委員,勤労者財政形成審議会委員等を歴任。公共経済学,経済政策専攻。

 主な著書は,「経済政策入門(1)総論」(共著)有斐閣 1979年,「不平等の経済分析」東洋経済新報社 1980年,「年金崩壊の危機」(訳書)東洋経済新報社 1983年,「生活名人の時代へ」(監修)池田書店 1991年,「ストック・エコノミー」東洋経済新報社 1992年,「年金改革の構想」日本経済新聞社 1992年,「高齢化の中の金融と貯蓄」(共編)日本評論社 1993年,"Equity and Povery under Rapid Economic Growth: The Japanese Experience", Kinokuniya, 1984, "The Greying of Japan: An Economic Perspective on Public Pensions", Kinokuniya and Oxford Univ. Press, Feb. 1992など。

 本稿の基礎となった研究に対して(財)松下国際財団より助成金を賜った。記して感謝の意を表したい。

1 はじめに

 1994年11月2日に新しい年金法が成立した。1994年の年金改革はまさに「大改革」という名にふさわしいものであった。長年の懸案であった支給開始年齢問題に決着をつける一方,ネットスライド制を導入して若者の年金不信を払拭する努力を惜しまなかったからである。

 これまで日本では年金改革をめぐって労使がしばしば激しく対立してきた。その対立にひきずられ,国会でも与野党は年金改正法案をめぐって鋭く対決することが多かった。実際,年金はこれまで"政争の道具"となりがちであった。

 1994年の年金改革は上述のような従来のパターンとは性格を異にした。1993年の夏に政権が交代し,戦後長期間にわたって政権を担当してきた自由民主党は野に下った。代わって日本共産党を除くかつての野党各党が連立して内閣を組織することになった。この内閣(細川内閣)が今回の年金改正法案をとりまとめたのである。

 労働組合勢力を代表する連合も1993年の春に年金改革をめぐって方針転換を実質的に表明した。年金給付のネットスライド切りかえを連合みずからが打ちだしたからである。この表明が契機となり,年金改革をめぐって労使の歩みよりがはじまった。労使双方にとって受けいれ可能な妥協案づくりが開始されたのである。最大の懸案は支給開始年齢の調整にあったが,これも1993年12月20日に旧連立与党年金改正プロジェクトチームが最終報告をとりまとめたさいに決着した。今回の年金改革は事実上,労使協調,与野党一致という形で遂行されたのである。

 本稿では第2節で1994年年金改正法の主要内容を紹介する。そして,ネットスライド,支給開始年齢の調整,高齢者の雇用促進,保険料率の引き上げと年金財政の将来収支見直しについて順次議論する(第3節〜第6節)。そして第7節で女性の年金問題をとりあげ,第8節で残された課題に言及するとともに会計検査との関連事項を指摘する。

2 新年金法の主要内容

 成立した年金改正法の主要内容は次のとおりである。

1)これまで60歳から特別に支給していた被用者に対する老齢年金のうち,いわゆる2階部分の報酬比例年金は今後とも60歳から減額なしで支給する。

2)一方,上記の年金のうち1階の定額部分(特別支給分)は2001年度から徐々に調整しはじめ,2013年度には完全に消滅させる。その代わり非被用者と同様に基礎年金(65歳以降の定額年金)を60歳から繰り上げて受給することができる。

3)60歳代前半の在職者が受給する年金(在職老齢年金)を雇用促進型に改める。

4)賃金再評価の指標を税・社会保険料込みのグロス賃金の上昇率から税・社会保険料控除後のネット賃金の上昇率に改める(いわゆるネットスライドの導入)。

5)失業保険給付を受給中の者には年金給付を支給しない。また高年齢雇用継続給付と在職老齢年金は併給調整する(いずれも1998年4月以降)。

6)共働きの妻の遺族年金について給付改善を図る(95年4月実施)。また高校を卒業するまで(厳密には18歳の誕生日が属す年度末まで)遺族基礎年金等が受給できるようになった(95年4月実施)。さらに遺族給付の受給要件も緩和された(生計維持基準が600万円未満から850万円未満に引き上げられた。94年11月実施)。

7)育児休業期間中の年金保険料(本人負担分)納付を免除することになった(1995年4月実施)。

8)障害年金もいくつか改善された。すなわち①障害年金再受給を支給停止期間3年以上の者にも認めた(94年11月実施)。②1986年4月以前において年金制度加入直後に障害者になった者に対し加入期間が6ヶ月未満であっても障害年金を受給できるようにした(94年11月実施)。③20歳前傷病による障害基礎年金の受給要件緩和(所得制限を緩和し,半額受給の道を新たに開いた。95年8月実施)。④初診日前の1年間,保険料を滞納しなかった者が障害基礎年金等を受給できるようにした。

9)保険料の引き上げ幅を見直すことにした。

10)ボーナスからも1%の年金保険料を新たに徴収する(労使折半,94年4月実施)。

11)現在,一律に定められている厚生年金基金の免除保険料率を複数化する(3.2%〜3.8%。96年4月実施)。なお94年11月〜96年3月の間の免除料率は3.5%とした(94年10月までは3.2%であった)。

12)厚生年金基金の積立金に関する運用規制を緩和し,投資顧問会社の自主運用枠をニューマネーの3分の1からオールドマネーを含む全積立金の3分の1に拡大した(94年11月実施)。

13)短期在留外国人が制度を脱退した場合に一時金(本人の年金拠出金相当)を新たに支払う(95年4月実施)。

14)沖縄の厚生年金について1954年5月〜69年12月の間の保険料を納付すれば年金額を増額する道を開いた(95年4月実施)。

15)第3号被保険者の届出を市区町村の窓口にしていなかった者に対して,95年4月から97年3月までに届出をすれば過去にさかのぼって年金加入を認めるという特例を講じた。

16)国民年金に任意加入できる上限年齢を65歳から70歳に引き上げた(1955年4月1日以前に生まれた者のみ。95年4月実施)。

17)国民年金における死亡一時金が引き上げられた(94年11月実施)。

18)永住帰国した中国残留邦人等について永住帰国前の期間を保険料免除期間とし,その間の保険料を追納した者の年金額を増額する特例を講じた(96年4月実施)。

図1 満額年金の支給開始年齢(一般男子)

3 支給開始年齢の調整

 周知のようにサラリーマン(被用者)の年金は2つの部分すなわち定額部分と報酬比例部分から構成されている(注1)。その支給開始年齢を政府はかねてから65歳支給としたいと繰りかえし言明してきた。とくに前回の1989年改正時には,もっぱら年金財政上の観点に立って,65歳支給開始をいわば年金財政対策の切り札として提案したのである。そして年金支給開始年齢の65歳引き上げが閣議決定されたが,国会における議論でそれは時期尚早とされ,先送りされてしまった。

 この懸案をどう決着させるかということが今回改正においても最大の難問となっていた。改正の結果,満額年金の支給開始年齢は長期的に1階部分65歳,2階部分60歳となる。これは男女間における支給開始年齢の違いを調整する方法のひとつとして,かってイギリスで検討されていた内容と基本的に同じである(注2)。

 支給開始年齢の調整が完了した時点および調整期間中における年金給付の仕組みは図1のようになる。60歳代前半層むけの特別支給の年金は長期的に2階部分の報酬比例部分のみに置きかわる。男性の場合,調整は2001年度から開始され,2013年度に完了する。また女性は調整の時期が男性より5年遅れとなる(注3)。

 なお1階の基礎年金(65歳から満額支給)は60歳から繰り上げて受給することができる。現行の減額率は1歳繰上げで11%,2歳繰上げで20%,3歳繰上げで28%,4歳繰上げで35%,5歳繰上げで42%とそれぞれなっている。したがって調整完了後にサラリーマンが60歳から基礎年金を受給しようとすると,給付率は58%となる。減額は一生つづく。ただし報酬比例部分は60歳から受給しても減額は原則としてない。

 現行の減額率は大きすぎるという意見もあるので,2001年度における最新の生命表を用いて見直すとしている。

 基礎年金の繰上げ受給分を含めると,将来においても長期加入の標準ケースで現役手取り賃金の3分の2前後を60歳から受給することが可能になるだろう(60歳完全退職の場合。改正前はほぼ80%水準であった)。この手取りの水準は欧米の先進工業国における年金水準とくらべて遜色がない。ちなみに,この場合OBの手取り収入を100とすると,現役の手取り収入は150前後になり,老夫婦2人と現役4人家族の違いを考慮すれば,それなりの収入バランスとなっている。このように支給開始年齢の調整は,結果的に60歳受給開始者の年金給付水準を引き下げる形となった。

今回改正において長年の懸案であった支給開始年齢問題にようやく決着がついた。関係者の労を多としたい。ただし決着内容に疑問がまったくなかったわけではない。たとえば今回の年齢調整は厚生年金基金の「代行部分」への影響に配慮した内容であることは否定できない。代行は2階部分について60歳から行われているからである。厚生年金基金の代行部分は今回における年齢調整の影響をまったく受けずにすんだ。2階部分が原則65歳になれば代行のメリットはその分だけ小さくなり,免除保険料率も少なからぬ引き下げを余儀なくされたはずである。

 その結果として低賃金労働者(典型的には中小企業の従業員や女性)が割りをくうことになった。この点は1階60歳2階65歳支給開始の場合あるいは1階2階とも65歳前は繰り上げ支給の場合と比較すれば判明する。日本社会党・公明党・民社党が連立与党のメンバーとして参加していたときの決着であったことを付記しておきたい。

 長期的にみると2階部分についても原則65歳支給開始を検討せざるをえないときがやってくるかもしれない。あるいはアメリカ合衆国のように公的年金の支給開始年齢を1階2階あわせて原則67歳とすることが議論される可能性もまったくないわけではないだろう。

4 給付水準問題

 今回の改正により,年金受給世代と現役世代の「給付と負担のバランス」が図られることになり,名目賃金の伸びに応じて年金給付額を見直してきた従来の方式に代わって,現役世代の実質的な賃金(税・社会保険料を除いた賃金)の動向に応じて年金額が改定されることになった。長期的にみると給付水準は手取り賃金との対比で定まることになる。給付水準の設定方法は事実上,変わる。

 公的年金は「1つのパイを現役とOBとでどう分けあうか」についてのルールを定めるものである。OBには品位の保てるような生活をしてもらいたい。一方,現役は勤労や努力がそれなりに報われるような分け前を享受してよい。このような2つの願いを同時にかなえるルールを定めるのが年金制度にほかならない。

 しかるに従来のルールには問題があった。高齢化の進行に伴ってパイの分け前がOBの方に徐々に有利に変わっていく内容であったからにほかならない。

図2 手取り所得バランス

 厚生年金における標準的な給付水準は1975年前後において60%前後であった(図2)。これは税・社会保険料を控除する前の賃金月額に対する割合である。サラリーマン現役を全体としてみると,当時の所得税・住民税・社会保険料は合計で約10%の負担であった。他方,OB組の負担する所得税・住民税・社会保険料はきわめて少額にとどまっていた。税・社会保険料を控除する前のグロス収入を比較すると,賃金月収と年金はほぼ100対60であったが,控除後のネット収入で比較すると90対60すなわち3対2の割合であったことになる。

 この絶妙な所得バランスは,その後,OB組に有利に変わってきた。86年時点になると,標準年金の水準は68%まで上昇した一方,現役の負担する税・社会保険料は全体として約16%に達したからである。ネット収入で比較すると,賃金月収84に対して年金68の割合すなわち5対4に所得バランスは変わったのである(注4)。

 人口高齢化は今後とも急激に進む。税・社会保険料の負担増は今後とも避けられない。その結果,現役の手取りは税込み月収の70〜75%まで低下する公算が大きい。手取りで比較した月収バランスは将来,場合によっては現役70対OB69となり,ほぼ同じになってしまう。「世代と世代の助けあい」という年金制度の基本性格からみて,これはなんとも奇妙な事態である。

現役とOB間の所得バランスを一定に保つためには,給付水準もはじめから手取りベースで議論する必要がある。これまでのように税・社会保険料控除前の賃金を用いて議論することはもうやめるのである。現在のバランスが5対4であるから,このバランスを今後とも維持していくと合意するだけでよい。そうすれば高齢化がいかに進んでも,年金はネット賃金に対して常に一定に維持される。1人ひとりに着目したパイの分け前は死ぬまで変わらない。ネットスライドへの切りかえはパイの分配ルールを安定化させ,公的年金をめぐる世代間の信頼関係を厚く強固なものとするだろう。

表1 公的負担増と現役の実質手取り月収
年次 グロス賃金
の年間上昇率
現役組 OB組
年金(グロス、ネット)
グロス賃金 公的負担 ネット賃金
1995 100 16 84 68
2030 2.0% 200 64 136 110
1.0% 142 45 97 78
0.6% 123 39 84 68

注)1995年における現役組のグロス賃金を100と仮定して計算した。また公的負担は1995年が16%であり,35年後の2030年に32%になる(倍増する)と仮定した。なお年金はネット賃金のほぼ80%が今後は不変に維持されると想定した。

 ネットスライドの意味については今のところ,その理解が年金関係者を含めて極度に不足している状況にあるので,少し詳しく説明しておこう。表1をご覧いただきたい。この表では年金水準は常にネット賃金のほぼ80%に設定されている(民間サラリーマン対象の厚生年金:標準ケース)。ネットスライドの場合,年金水準はネット賃金の一定割合に決められ,給付改善もネット賃金の上昇にあわせて行われることになる。この場合,手取り月収の世代間バランスは高齢化がいかに進んでも5対4のまま変わらない(図3)。

図3 新年金制度におけるパイの分け前

 現役組の公的負担(税・社会保険料負担)が35年後に倍増すると仮定すると,年金のグロス賃金に対する割合は35年後には55%程度になる。グロス賃金比で55%の年金水準は従来からみると20%近い給付費削減を意味している。現役組が負担増で手取り賃金の上昇が抑えられるのであれば,その分だけOBも年金給付改善を遠慮する。これがネットスライド切りかえの意味であり,高齢化に伴う負担増をOB組も現役組と並んで等しく引き受けていくことに事実上なる(注5)。このような「新たな負担ルール」が年金分野で確立されたことは,まさに画期的である。年金以外の社会保障分野や税制改革においても,このような負担のルールが今後,参照されることになるだろう。

 ネットスライドへの切りかえは,実は1992年からドイツで実施された。日本でも,1994年10月から,この切りかえが実施されることになったのである(注6)。

5 雇用と年金の連携

 政府は支給開始年齢の調整にあたって前回とは異なるアプローチをした。すなわち21世紀に向けて日本の社会経済をどうするかをまず議論し,労働力の供給制約が強まるなかで高齢者雇用の促進の重要性を指摘した。そして高齢者雇用の促進ということと連携のとれた年金制度としていくことが必要であると力説したのである。

 このような考え方に則して60歳代前半層むけの年金制度は従来より雇用促進的に改められることになった。従来,60歳代前半層の受給する年金は賃金収入があると支給が制限された。すなわち賃金月収が25万円以上になると年金給付は支給されず,25万円以下の場合でも賃金の高低に応じて年金給付の2〜8割がカットされていた。賃金が高くなれば,その分だけ年金給付をカットしていたのである。賃金増についての限界税率が100%である場合と結果的には同じであった。これは,在職老齢年金の支給があくまでも生活費保障という考え方に立脚していたためである。働いて賃金アップを手に入れても,その分だけ年金がカットされ,賃金プラス年金の合計額はほとんど増えない。このような制度は退職促進的になりがちである。

 この基本哲学が今回の改革で変わる。基本哲学は退職促進から雇用促進へと180度切りかえられる。高齢者の雇用を促進する方法として今回新たに法制化された内容をつぎに紹介しておこう。その内容は主として2つある。

 まず年金制度からの対応では在職老齢年金を雇用促進型に改める方向が打ちだされた。すなわち60歳以降ひきつづき賃金を稼ぎつづける場合,年金給付の2割がまずカットされる。つぎに年金の8割相当額と賃金とを合算して22万円超になると,賃金2万円増につき年金1万円カットとなる。そして,賃金月額が34万円に到達すると賃金増1に対して年金減1となる(図4)。賃金月額34万円は1994年現在における男性の平均賃金水準にほぼ等しい。

図4 改善後の在職老齢年金

 従来とくらべると賃金プラス年金の合計額は賃金増によって確実に増える(注7)。これが従来と異なる点であり,「雇用促進型」という形容がつけられる理由にほかならない。賃金増2に対して合計額1のアップという仕組みは,かってアメリカ合衆国が採用していたものと同じである。

 なお年金の支給制限の基準となる賃金については,これまでボーナスを含んでいなかった。また週33時間未満の短時間勤務(嘱託,非常勤顧問など)についている者は賃金収入があっても年金を満額受給していた。これらの点は今回の改正でも改められない。さらに民間サラリーマンの場合,65歳以上になると高賃金を稼いでいても年金は満額受給となっている。この点も変わらない。

 なお60歳代前半層の受給する報酬比例部分の年金については財源を65歳以上の本体年金から分離し,メリット制に基づく特別保険料を徴収すべきであるという意見が年金専門家の間では少なくなかった(注8)。それによって60歳代前半の雇用がメリット制がないときよりも促進されるからである。しかし,このような仕組みの採用は今回,見送られた。

 つぎに雇用保険からの新たな対応を紹介する。その柱は「高年齢雇用継続給付」の創設(95年4月実施)である。この給付は,定年後における失業給付の額が継続雇用時の賃金額より多いという「逆転現象」を解消するために打ちだされた。そして高齢者の働く意欲と能力に応えるために定年後もひきつづき雇用が継続されることを促進させるように工夫される。具体的には,定年前後で大幅に賃金が下がることを新たに「失業に準ずるもの」と位置づけ,定年後に賃金が下がった者に対し65歳まで原則として,その賃金の25%を支給するというものである。なお60歳時点における賃金額の64%を超える賃金額を60歳以降において稼ぐ場合には高年齢雇用継続給付は25%より低くなり,85%以上の賃金を稼ぐ場合には高年齢雇用継続給付は支給されない(図5)。また賃金プラス高年齢雇用継続給付の合計月額が36万1680円(基本手当日額算定のさいの上限賃金の30日分)超の場合,超過分が減額される。

図5 高年齢雇用継続給付
図6 賃金と年金と高年齢雇用継続給付の合計額(年金額20万円のケース)

 図6は在職老齢年金と高年齢雇用継続給付の双方を受給する場合における手取りの金額を示したものである。高年齢雇用継続給付を受給する者については,その分について賃金月額の10%に相当する年金額がカットされる(98年4月実施)(注9)。

 なお今回の改正で失業給付と年金給付の併給はなくなる(98年4月以降)。その調整は,失業給付の基本手当受給期間(または所定給付日数)満了後に「基本手当30日分支給につき年金1カ月分が支給停止」となるように事後に精算し,不足する年金を追給する方向で検討されている。調整は年金サイドが受けもつことになる。

 雇用と年金の連携は,このように芸が細かくなった分だけ複雑となった。縦割り行政の弊害を否定しえない。これによって高齢者の雇用が促進されるかどうかは事業主の対応いかんに左右されよう。

6 年金保険料率の引き上げ

 厚生年金の保険料はこれまで原則として5年に1回ごとに引き上げられてきた。1994年10月時点において厚生年金の保険料は14.5%であり,それを労使が折半負担していた。制度改正により,厚生年金の保険料は1994年11月から16.5%に引き上げられ,さらに1996年10月から17.35%となる。1994年11月から1999年9月までの期間平均で2.5%の引き上げになる。

 1989年段階の前回改正では5年平均で2.2%の保険料引き上げが提案された。今回における改正の方が引き上げ幅は大きい。この間に出生率が予想以上に低下し,将来の年金財政がその分だけ厳しくなった。これが引き上げ幅拡大についての政府の言い分である。政府の将来収支試算によると厚生年金の保険料は今後とも5年に1回の間隔で2.5%ずつ引き上げていき,最終的に2025年以降29.6%とする必要がある。

 保険料率の引き上げ幅拡大については異論がなかったわけではない。94年時点における日本の景気は力強さに欠けていた。雇用不安も依然として大きかった。景気浮揚のため約5兆4800億円に上る所得税・住民税の減税が1994年には実施された。この減税のうち恒久減税分3兆5000億円のかなりの部分が年金保険料負担の増大分(平年度ベースで3兆円台)で相殺されてしまうだろう。景気対策を政府が一体となって推進するためには年金保険料率を毎年0.5%ずつ引き上げていくことも一案として検討に値していたはずである。ちなみに2%の保険料引き上げをしなくても給付改善は可能であった。

 年金保険料の引き上げ幅拡大には,もう1つ別の問題がある。国税庁『民間給与実態調査』によると,1992年および93年において標準的サラリーマンの可処分所得の伸びは消費者物価上昇分を下まわった。2年連続で現役組の手取り収入が実質的に低下したのである。後述するように,公的年金を安定的に維持していくためには現役組の生活水準が少しずつでもいいから毎年上昇していくことが必要である。この点からみて由々しい実態が2年連続して生じていた。ベースアップの凍結や定期昇給が見送りになっているところも少なくなかった(注10)。

 さらに年金保険料は企業にとって人件費の一部である。年金保険料の2%引き上げ(労使込み)は1%の賃上げと同じである。1994年夏の時点で日経連は最低賃金の凍結を主張していた。また95年の春闘においてもベアゼロの方向をいち早く打ちだした。年金保険料の引き上げはこのような経営側の基本方針とも合致していない(ただし日経連は年金保険料の2%一挙引き上げに,どういうわけか反対しなかった)。

 くわえて日本の政府貯蓄は黒字であり,結果的に経常収支の大幅黒字につながって日米間の経済摩擦を激しくする1つの要因となっていた。この時期に政府貯蓄のいっそうの増大につながる年金保険料の2%一挙引き上げをなぜしなければならなかったのか。マクロの貯蓄/投資バランスを図ることを通常の経済政策は求めており,この点からも年金保険料の一挙引き上げに問題がなかったとはいえない。

 年金保険料の引き上げを当局が急いだ理由は別のところにあるのではないか。1989年の財政再計算結果によると,厚生年金本体の積立金は2000年から2005年にかけて減ると予想されていた(名目額ベース,表2)。これは,厚生年金本体における単年度の収支がこの間にマイナスに転じることを意味していた。厚生年金本体が一旦,赤字に転落すると様々な不都合が生じる。積立金の取りくずしは容易ではなく,資金運用部資金もその分だけ増加が抑制される。財政投融資の配分も変わらざるをえない(還元融資もなくなる)。このような事態を未然に避けることを当局は意図したのではないか。ちなみに1994年財政再計算結果によると,厚生年金本体の積立金は2010年まで名目額がふえつづけることになった(表3)。年金保険料の引き上げスピードを早めた効果は,ここに顕れているのである。

表2 年金積立金の将来推計(1989年財政再計算)
表3 年金積立金の将来推計(1994年財政再計算)

 年金保険料を今後どのように引き上げていくかについては,財政投融資の見直しとからめて議論する必要もある。金融自由化が着実に進むなかで財政投融資の役割もすでに変化していることを考慮すると,今後は財投債を発行することによって資金を調達していくことが望ましい。その場合,年金積立金の性格も変わることになる。年金保険料の引き上げスピードを速める必要性はこの点においても乏しくなる。

 なお年金保険料を段階的に引き上げていくさいに,厚生年金では高齢化のピーク時においても給付額の2年分以上に相当する積立金を保有することを今回,新たに想定した。しかし,このような想定に合理的な根拠があるとは思えない。現に旧西ドイツやイギリスでは給付額の2ヶ月相当分を積立金として保有しているにすぎない。

 年金保険料が徴収される標準報酬月額の上限と下限も1994年11月からそれぞれ引き上げられた。すなわち上限は53万円が59万円に,また下限は8万円から9万2000円にそれぞれ引き上げられた。

 これまでボーナスからは年金保険料が徴収されていなかった。1995年4月以降ボーナスからも労使込みで1%の保険料が徴収される。この場合,徴収ベースのボーナスに上限はない。「本来であればボーナス込みの総報酬に対して年金保険料を賦課すべきである」という意見がどちらかというと強かった。今回は事業主側に対する配慮もあり,総報酬制への切りかえにむけて第一歩を踏み出したと考えてよいだろう(注11)。

 一方,非被用者が支払っている定額の年金保険料は1993年4月以降1人月額1万500円であったが,1994年4月以降1万1100円となり,さらに1995年4月以降,1万1700円となる。そして1996年4月以降,毎年500円(1994年度価格)ずつ引き上げられる予定であり,最終的に2015年以降2万1700円(1994年度価格)となる。

7 女性の年金

 日本では女性の年金をめぐる議論も少なくない。この問題は世界各国が取扱いに苦悩しており,解決策を模索中である。日本では,とくに遺族年金およびパートタイマーの年金保険適用が大きな問題になっている。

 日本の遺族年金には原則として性別による差別はないといっても大過ないだろう。そこで,老齢年金を受給中の夫が死亡した場合,残された妻の遺族年金が専業主婦と共働き妻でどう違うかをまず説明しておこう。双方とも妻自身の老齢基礎年金を夫死亡後も受給しつづける。この点に変わりはない。違いは報酬比例年金に生じる。すなわち専業主婦には夫が受給していた報酬比例年金部分の4分の3が遺族年金として支給される。一方,共働きの妻には妻自身の報酬比例年金部分が引き続き支給されるか,あるいは,その代わりに夫の報酬比例年金部分の4分の3が遺族年金として支給される。共働きの妻が後者を選べば,専業主婦の妻の場合と遺族年金は同じになる。

 このような取扱いに対しては共働きの妻の不満が強かった。共働きの妻自身が納めた保険料は"掛け捨て同然"ではないかというのである。

 今回の改正により共働きの妻に対して第3の選択肢が設けられることになった。すなわち夫と妻が受給している報酬比例年金の合計額の2分の1を遺族年金とするという選択肢である。これは,欧米の一部の国々で実施されている所得分割方式の採用を事実上,意味している。これによって共働きの妻の不満は多少なりともやわらぐことになるだろう。ちなみに妻の報酬比例年金が夫のそれの(4分の3より低く)半分より高ければ,この第3の選択肢を選ぶメリットがある(注12)。

 専業主婦が年金保険料を直接納付していない点に対しても一部に批判がある。ただし老齢年金の取扱いに関するかぎり現行制度に専業主婦か共働きの妻かで差別はない。夫婦単位でみると拠出した保険料と受給する年金額に違いがないからである(注13)。

 今回の改正により,育児休業期間中の者の年金保険料・健康保険料・雇用保険料は本人負担分が納付免除となった(いずれも95年4月実施)。この改正も事実上,共働き妻への支援強化となるだろう(注14)。

 つぎに日本ではパートタイマーの年金保険適用問題が議論されている。現行制度では就労時間が週33時間未満のパートタイマーには年金保険が直接適用されない(いわゆる4分の3条項)。このようなパートタイマーは原則として専業主婦と同じ扱いを受ける。ただし,そのような者でもパートタイム労働による年間賃金収入が130万円を超えると,被扶養配偶者となれない。年収130万円超のパートタイマーは国民年金(1階の定額年金)に加入する義務があり,定額の保険料をみずから負担する。

 現行制度は年間収入130万円未満のパート労働を促進しがちである。このような現実に対しては,パートタイマーを年金制度に直接加入させる方向を検討すべきだという意見がどちらかというと強い。そのためには遺族年金の改善を図ってパートタイマーに年金制度加入へのインセンティブを高める必要があるだろう。

 女性の年金に関連して,上記以外に指摘されている問題点は次の4つである。まず第1に,専業主婦だった妻が離婚しても婚姻期間中に夫が獲得した年金請求権(報酬比例年金)は分割されない。これを分割したらどうかという意見がある。第2に,遺族年金は再婚すると支給停止となる。これも支給を継続してよいという批判がある。第3に,老齢年金受給後に結婚した配偶者に遺族年金の受給権を認めているのはおかしいという意見がある。第4に,母子には遺族年金の受給を認めているが,父子には遺族年金の受給を認めていない。これは両性の平等に反する。

 女性の年金については,すべてを個人年金化し,遺族年金を廃止するというスウェーデン方式を推奨する者が日本にも女性有識者の一部にいる。しかし男女の賃金格差が歴然としている状況下で,この方式を採用することに女性の多数派が賛成するだろうか。他方,所得分割方式は独身者や離婚妻にメリットを与えがちである。家庭基盤の弱体化をいっそう助長しかねない所得分割方式の採用をレーガン・ブッシュ政権は見送った。女性の年金については,なお研究すべき点が残されている。

8 残された課題

 1994年改正はまさに「10年に1回の大改正」という名にふさわしい内容をもっていた。ただし年金改正はこれで終わるわけではない。年金財政の再計算資料に最近の出生率低下は必ずしも十分には折り込まれていない。また賃金は実質で毎年2%ずつ上昇していくと仮定されているが,その保証もあるわけではない。そもそも日本の年金水準はネットベースでみるかぎり主要国のなかで最も高い。サラリーマンをふつうにやってきた男性の厚生年金は平均で月額20万円程度になっており,大卒の初任給より高い。このような例は諸外国にはないものである。日本では今後とも年金給付スリム化の努力がつづくと思われる(注15)。

 他に残された課題も少なくない。まず年金制度一元化をどう図るかという問題がある。また年金制度のなかで出産を新たに支援したり(出生給付の新設),子育てを支援したりする(たとえば児童扶養控除を年金保険料計算時に認める)必要性も大きい(注16)。さらに高齢障害加算制度を創設して年金給付体系をライフステージに即したものに改める必要もある。

 人口高齢化が避けられない日本の将来にとって最も重要なことは,日本経済が今後とも成長していくことである。成長のない世界で高齢者数が増えていくと,現役の手取り収入は実質的に減っていく。「親の世代よりも豊かになれない」という思いが子供の世代の心を支配しはじめたら,高齢者の生活を従来どおり社会的に支えていくことはできなくなる。政治不信が渦巻くなかでパイの奪いあいがはじまるからである。

 日本の老年人口比率は今後20数年間にわたって毎年0.5%ずつ上昇する。それに伴って高齢者の生活を社会的にサポートするための費用も実質的にふえていく。子供や孫の世代の公的負担は現世代の負担より実質的に高くならざるをえない。このとき,いったいどの程度の賃金上昇があれば子供や孫の世代の手取り賃金は現在より実質的に高くなるか。この点を表1であわせて調べてみた。それによると,今後35年間に負担が実質的に倍増するとしても年率で実質0.6%超の賃金増(税込み)があれば手取りでみた現役組の生活水準は今後も確実に上昇する。年率で平均して1〜2%の実質成長があれば,この確実性はさらに強まる。経済成長を持続させることの重要性をくりかえし述べておきたい。

 財源選択問題も成長阻害度との関連で議論することが重要である。所得課税,年金保険料,消費課税のうち最も成長阻害度が小さい財源はなにか。それは実は消費課税である。消費課税とくらべると所得課税は税金を前取りし,貯蓄や投資に課税して成長を阻害するからに他ならない。

 年金保険料は成長阻害度という点では所得課税と消費課税の中間に位置する性格をもつ。年金保険料はもともと逆進性が強い。さらに年金保険料は人件費の一部であり,企業行動から中立的でない。人件費負担増を回避するために企業は生産拠点を国外に移すおそれが強く,結果的に国内生産は停滞を余儀なくされる。この点でも年金保険料は問題が多い。

 したがって長期的にみると高齢化に伴う負担増の少なくとも一部は消費課税の強化によって調達する方が賢明である。また,その場合,青・壮年期における過度の負担が緩和され,ライフステージごとの負担は従来より平準化される。

 従来,国民負担のあり方として今後は租税負担よりも年金保険料等の社会保障負担を重視すべきだとしてきた。このような臨調・行革路線も再検討する必要がある。1994年3月に発表された「21世紀福祉ビジョン」は事実上の増税(対国民所得比)を打ちだしており,この方針転換を高く評価したい。ただし現行の消費税には事業の規模や内容に対して中立的となっていないことをはじめとして,いくつかの欠陥がある。それらの欠陥を是正する必要性も大きい。

 最後に会計検査との関連を2,3指摘しておきたい。いずれも年金行政にかかわる費用をどう節約するかという問題とかかわっている。たとえば年金の支払い通知は年6回(偶数月の15日が支払い日)支払いのたびごとに出すことになっており,この事務処理に多大なエネルギーと経費が費やされている。年金受給者数は今後とも激増していく。支払い通知は通常の場合,年1回,年度はじめにまとめる方法を早急に検討してほしい。現にアメリカ・ドイツ・スウェーデンではそうしている。会計法上のしばりをはずすことが先決である。また行政コストとの関連でいえば0.1%の年金改定(CPIスライド)でも,それを自動的に完全実施しなければならない現行規定に問題はないか。ちなみに基礎年金は満額で月額6万5000円であり,その0.1%は65円にすぎない。受給者にとってもメリットがほとんどなく,行政コストの方が大きい場合,スライド実施は1年先に見送ってもよいのではないか。あるいは非被用者から国民年金保険料を徴収するさいの行政コストも問題である。印紙を1つひとつはっていく作業を2ヶ月に一回ずつ強制している現行会計法の規定は早急に見直す必要がある。

(注:

1)現行制度の概要については Takayama(1992a、 Chap.1)、 高山(1992b)を参照されたい。

2)Secretary of State for Social Security, UK(1991)参照。なお長期加入者(45年以上加入者)や働くことが著しく困難な障害者の場合,65歳前でも従来の「特別支給の老齢厚生年金」を例外的に受給できる。

3)公務員(自衛官・海上保安官・刑吏・航空管制官等を含む)は男女とも民間サラリーマン男性と同様である。なお警察・消防職員は6年遅れの調整となる。船員・抗内員の場合,支給開始年齢は現在55歳であるが,2001年度から徐々に引き上げ2013年度までに60歳とすることになっている。

4)この所得バランスはボーナス分を考慮していない。ボーナスを考慮すると標準ケースで100対63のネットバランスになるといわれている。

5)OB組が従来どおり68%給付(対グロス賃金比)を一旦受給して,そこに13%(対グロス賃金比)の公的負担がかかる場合と事実上,同じである。ネットの年金は55%水準(対グロス賃金比)になる。なおネットスライド制への切りかえに全く問題がないわけではない。資産保有や相続・贈与が無視されたこと,5対4という比率が適正であるかどうかを不問に付したこと,インセンティブ・コンパティビリティ問題を招来しかねないこと,過去と現在を尊重しすぎて将来を犠牲にするおそれがあること等である。

6)Schmahl(1993) 参照。日本のネットスライドは技術的にいうとドイツとは若干異なる方式となった。日本では5年に1回ごとに行われる過去賃金の再評価について,その方法を変えることにした。従来どおりであれば再評価率は17%の改善となったはずであるが,今回は16%にとどめた。この差分1%は年金保険料の引き上げ(本人負担分のみ)から生じている。ドイツでは国民経済計算データをベースとしており,事業主負担分の保険料も考慮されている。なお世代間契約における最も公平な方法として年金のネットスライドを提案したのは英語文献では Musgrave(1981)が最初であった。

7)ただし標準報酬月額制を採用しているため賃金プラス年金の合計額は必ずしも直線的に増大しない。賃金増にもかかわらず合計額が減ってしまう賃金域が部分的にある。なお制度改正により在職老齢年金の受給者数(厚生年金)は1993年3月の42万人から1995年度には110万人に増大すると予測されている。これは月給25万円以上の者が新たに在職老齢年金の受給資格をうることに基づく。

8)この意見を日本で最初に述べたのは山崎泰彦氏である。山崎(1989)参照。

9)在職老齢年金の考え方を踏襲すれば,この場合には賃金月額の12.5%に相当する年金額をカットしてよいはずである。しかし年金サイドで労働行政に対する多少の配慮が結果的になされた格好になった。なお今回の高齢者雇用促進措置が「低賃金温存」という従来の批判を免れるか否かについては,今後の推移をみる必要がある。ただし本人および事業主にとって月給を9万5000円弱に設定し,ボーナスを調整弁とする(たとえばボーナスを年額で200万円とする)ことは依然としてメリットが大きいように思われる。図6によると,在職老齢年金プラス高年齢雇用継続給付の合計額(絶対額)が最大となるのは,依然として月給9万5000円弱であり,制度改正前後で変わりがない。

10)しかるに連合は年金保険料の2%一挙引き上げに反対しなかった。

11)ボーナスに年金保険料が賦課されないと負担の不公平がいくつかの面で生じる。またボーナス部分を極端に厚くして年金負担を回避したり在職老齢年金の減額分を少な目に抑えたりする動きがあった。ボーナス保険料の導入あるいは総報酬制への切りかえによって上記の問題は基本的に消失する。ただし高賃金の者はボーナス分を低くしたり年俸制に切りかえたりすることによって年金負担の一部を免れることが新たに可能となる。さらにボーナスは給付にいっさい反映されないので,ボーナス保険料の納付が正直に行われないおそれもある。

12)第3の選択肢については,合計額の4分の3(上限つき)を遺族年金とするという案もあったはずである。こちらの案であれば,専業主婦と共働きの妻の取扱いは完全に無差別となる。あるいは専業主婦の遺族年金を夫の報酬比例部分の2分の1とすれば,今回の提案で双方は無差別となったはずである。

13)日本の厚生年金は従来,専業主婦を妻にもつサラリーマンを標準モデルとしてきた。市場で働く女性がふえている現在,標準モデルの設定を見直す必要があるだろう。高山(1992c)参照。女性の年金については村上(1993),Ross-Upp(1993)をさらに参照してほしい。

14)これまでだったら出産退職していた者が退職時点を育児休業終了直後に移すおそれが多い。このような退職は今回改正の趣旨に反するのだが ……。

15)給付スリム化の具体的方向として①支給開始年齢のさらなる調整,②満額年金の受給要件変更(40年拠出→45年拠出),③給付算定ベースとしての標準報酬月額の上限固定,④給付課税の強化などが考えられる。

16)子供は他人に産んでもらい育ててもらう(自分の子供はつくらない)。そして年をとったら,その子に年金を通じて面倒をみてもらう。これが現在もっともラクな方法である。子供の養育に少なからぬ私的費用がかかっている現在,出産・子育てについても世代間の社会的扶養を抜本的に強化しないかぎり,上記の論点は変わらない。なお世代間の再分配において今日もっとも手薄となっているのは30歳代の子持ち世帯に対する支援策である。高山(1995b),高山・有田(1995)参照。

主要参考文献

村上清(1993)『年金改革』東洋経済新報社.

Musgrave, R.A.(1981)," A Reappraisal of Social Security Financing," in Skidmore, F. ed., Social Security Financing, The MIT Press.

Ross, J.L. & Upp, M.M. (1993), "Treatment of Women in the U.S. Social Security

System, 1970-88," Social Security Bulletin, 56(3).

Schmahl, W.(1993),"The '1992 Reform' of Public Pensions in Germany ; Main

Elements and Some Effects,"Journal of European Social Policy, 3(1).

Secretary of State for Social Security, UK (1991), Options for Equality in State Pension Age, HMSO.

Takayama, N.(1992a), The Greying of Japan: An Economic Perspective on Public

Pensions, Kinokuniya (Tokyo) and Oxford University Press (Oxford).

高山憲之(1992b)『年金改革の構想』日本経済新聞社.

高山憲之(1992c)「女性の年金についての覚え書」『日本年金学会誌』12号.

高山憲之(1993)「年金制度改革・私案」『週刊東洋経済』8月28日号.

Takayama,N.(1994),"Preparing Public Pensions for an Old-Aged Society,"Japan Echo, 21, Special Issue.

Takayama, N.(1995a),"The 1994 Reform Bill for Public Pensions in Japan: Its Main Contents and Related Discussion," International Social Security Review,48(1).

高山憲之(1995b)「高齢社会の世代間分配をどうするか」『経済セミナー』1月号.

高山憲之・有田富美子(1995)「可処分所得の世代間分配」『経済研究』46(1).

山崎泰彦(1989)「年金法改正案は最善の選択肢か」『社会保険旬報』8月1日号.

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