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第12号

日本の会計検査院
−検査活動の日米比較−
持田 信樹

持田 信樹
(東京大学経済学部助教授 会計検査院特別研究官)

 1953年生まれ。東京大学経済学部卒業。経済学博士。92年より現職。この間,94年より会計検査院特別研究官に就任。日本財政学会,日本地方財政学会,国際財政学会に所属。財政学,地方財政論専攻。

 主な著書は,「都市財政の研究」東京大学出版会(単著)など。

 本稿の作成にあたり会計検査院審議室研究班の方々にはたいへんお世話になった。特に金刺保氏(上席審議室調査官),村井久美氏(研究企画官),清水淳哉氏(副長),帆刈信一氏(課長),佐藤信孝氏(副長)には日頃の議論や資料の作成・説明等を通して多大の示唆を受けた。記して謝意を表したい。また,ワシントンのGAO本部の方にも詳細にわたる説明をしていただいた。GAO職員の方々,特にDonald R. Drach, M. Thomas Hagenstad, John W. Hill, Jr. Thomas M. McCool, Rosalind Cowie, Boris L. Kachura, Derek B. Stewartの各氏には厚く謝意を表したい。

1.はじめに

 日本の会計検査院は,その存立の根拠を憲法第90条に置き,内閣から独立した最高会計検査機関として,予算循環過程の最終段階において,公的機関の会計責任を検証することを任務としている。会計検査院の活動は公共部門の腐敗や非効率の発生を抑えるのに貢献しており,その点での会計検査院の役割は大いに評価すべきである。

 ところで近年,日本では政策及び予算過程での事前の編成時に多くの関心が集まり,政策の結果を評価してそれ以降の改善にフィードバックすることが制度的にも風土的にも確立されていないことが問題となっている。このため制度的に独立性が保証され,評価に関する情報を収集する権限を保持している中立的な機関である会計検査院に,政策決定改善を目的とする「情報提供」機能の役割が強く期待されている。検査員の発行している研究誌『会計検査研究』を舞台にして,アメリカ合衆国会計検査院(United States General Accounting Office: GAO)のプログラム評価に代表される業績検査の本格的導入が様々な角度から検討されているのは,その端的なあらわれである。本稿では,こうした状況を踏まえて日本の会計検査院の検査活動の現状と課題について若干の考察を行うものである。筆者の専門は財政学であり会計検査については非専門家であるが,会計検査院審議室研究班のメンバーとの日頃の議論及び米国現地調査の成果として,本稿を上梓する。

 本稿の構成は以下のとおりである。2節では日本の会計検査院の検査活動の重点を把握する。このため過去26年間の決算検査報告の全掲記事項を「合規性」,「経済性・効率性」,「有効性」の観点別へと分類したうえで,各種報告書のレビューを行った。3節では「有効性」検査のケース・スタディとして国の補助金を受けて設置された自転車駐車場の管理運営に関する検査報告を紹介する。このため検査院の協力を得てヒアリングを行い,日本の有効性検査の特質を把握した。

 4節と5節では米国会計検査院の報告書を紹介する。GAOは議会の付属機関であり,報告書の75%は議会の要請に基づくものである。そのためプログラム評価で扱われるトピックスもカレントでかつ国家の抱える重要な問題である。4節ではGAOの報告書が政策決定過程に影響力を与えた最近の事例としてデリバティブのリスク管理についての評価を紹介する。5節では政策論争の場にある問題を取り上げた例として財政赤字削減措置に関する報告書を紹介する。このためワシントンにあるGAOを訪問し現地調査を行った(注1)。6節ではアメリカ現地調査の結果に基づき日本の会計検査院の課題をまとめる。

2.会計検査院の検査の観点

政策評価への移行は起きたか

 アメリカ,イギリスなどの先進国の会計検査機関では「合規性」検査,「経済性・効率性」検査といった伝統的な検査活動から,「有効性」の観点から目標達成度に重点を置いて評価するプログラム検査へと活動の重点を移している。

 日本の会計検査院がいかなる検査に重点をおいているかという問題については様々な見解があるが(注2),その統計的根拠は必ずしも明確ではない。今回の調査の初期段階で判明したのは,検査の観点の記述は昭和57年度決算検査報告から設けられ,昭和60年度からは検査報告の掲記事項の中からそれぞれの観点に該当するものが例示されるようになったこと(注3)であった。しかし,検査活動の傾向を把握するには最低でも20〜30年間,かつ個別例示ではなく全掲記事項を視野に入れた客観的事実に基づいて考察しなければならない。

 本稿では,そのために過去26年間の決算検査報告の全掲記事項(3853件)を観点別・事項別に分類した(注4)。その推計結果をまとめたのが図1である。第一に最も多いのは「合規性」検査であり,件数は2920,全掲記事項に占める割合は75.8%である。さらに事項別に分類すると「不当」がそのほとんどを占めている。第二に「合規性」検査についで多いのは「経済性・効率性」検査であり,件数は780,全掲記事項に占める割合は20.2%である。事項別に分類すると「不当」のウェートは小さく,「34,36条」及び「処置済」が中心となっている。第三に,最も少ないのは「有効性」検査であり,件数は153件,全掲記事項に占める割合は4%にすぎない。事項別では「特記事項」が登場しているのが目につく。

図1 掲載事項の観点別・事項別分類の推計

 この調査結果は受検機関が抱いている検査の観点のアンケート調査結果と概ね一致しており(注5),非公式ながら日本の会計検査院の検査活動の重点を反映していることが裏付けられている。すなわち,日本の会計検査院の検査活動は「合規性」検査から「経済性・効率性」検査への移行は起こったが,「有効性」検査への移行は現在進行中であるといえよう。次に観点別に掲記事項の内容をより具体的に検討して,長期的な傾向と問題点を明らかにしたい。

ソフト化する「合規性」検査

 各国の会計検査制度の根底には会計責任概念の変遷がある。歴史的な沿革からいうと,最初に発生したのが主権者から政府に委託された公金を保全するという財務会計責任(financial accountability)の概念であった。これを検証するために各国の会計検査院では会計経理が法律に従って適正に処理されているかという「合規性」の観点からの合規性検査(compliance auditing)及び財務諸表検査(financial auditing)が検査活動の中心となった。現在ではフランス会計検査院(La Cour Des Comptes)の検査活動にその具体例を見ることができる。フランス会計検査院は,先進国の最高会計検査組織のなかでは特異な存在であり,司法官の身分をもつ少数エリートが伝統的な合規性検査を行う。司法型組織として,米国のGAOに匹敵する影響力をもつ(注6)。

 日本においても,従来は公共工事のハード面について「合規性」の観点から検査し,不当事項として検査報告に掲記するというのが会計検査院の活動の主流の位置を占めていた。しかし昭和50年代後半以降,社会保障関係費の増大を背景として,アメリカに10数年のタイムラグをおいて,社会保障のソフト面に関する「合規性」検査に重点が移った。本稿では「合規性検査のソフト化」とこれを呼ぶことにする。

 昭和30年代から40年代前半にかけての高度成長期には,公共工事の施工や出来高が契約書・設計書・仕様書どおりであるかを検査して,これを不当事項として掲記するのが会計検査の重点であった。受検機関では農林水産・建設両省が主役の座にあった。しかし,コンクリート品質管理の向上,材料の工場製品化,設計・積算の標準化,受注者の慎重な施工などの要因によって(注7),農林水産・建設両省の公共補助工事における指摘件数は傾向的に減少してきた。筆者の推計したデータ・ベースによると「合規性」の観点から不当事項として掲記された件数は、昭和43年の173件から昭和52年の53件へと三分の一に減少している。その結果,図2に見られるように全掲記事項に占める「合規性」検査のウェートは昭和43年の94%から昭和52年の53%へとじつに40ポイントも低下した。農林水産・建設両省所管にかかわる不当事項も,昭和44年の137件から昭和51年の35件に激減した(注8)。

図2 観点別に見た掲載事項の変遷

 不適正な会計経理の摘発・防止にかかわる統制機能が半減したにもかかわらず,昭和50年代以降ふたたび復位した。それは農林水産・建設両省が主役の座を降り,文部・厚生両省の補助金にかかわる指摘がこれに代わって「合規性」検査の件数・金額の帰趨(すう)を決定する最大の要素になったからである。会計検査院は50年代後半に社会保障関係費の検査の充実を図るために,組織の改正や職員の配置転換を実施した(注9)。これによって従来から行われていた保険料の徴収などの検査がより徹底して行われる一方,新たに各種の保険の給付,生活保護費や医療費の支払など,社会保障関係費の検査領域が拡大した。

 年金の検査課を創設し,検査体制を強化している中で,過去最大の指摘額となっているのは(注10),昭和59年度決算検査報告から毎年不当事項として掲記されている「厚生年金保険の老齢厚生年金などの支給が適正でなかったもの」である。老齢厚生年金は65歳支給が原則であるが,60歳以上65歳未満で「在職」している場合には,厚生年金の被保険者として保険料を支払い,標準報酬月額の多寡によって老齢厚生年金を一部減額される。検査院の指摘は,厚生年金の適用事業所に「常勤」で勤務していながら被保険者になることをせず,保険料を支払わず,かつ年金を全額支給されている人がいることを問題とし,年金の過払と保険料の徴収不足の両面で不当事項として掲記したものである。

 米国のGAOでは社会保移関係費の増大を契機として社会福祉プログラムの有効性を検証するために議会の要請でGAOにプログラム評価が導入されるようになった。これに対して日本の会計検査院では,老齢厚生年金の検査に見られるように,経済性・効率性や有効性の検査に比較して,どちらかというと「合規性」の観点からの検査が基本になっている(注11)。今後,個々の会計経理が適正に行われているかを検査するだけでなく,事業の実施体制や制度に内在する問題点を抽出することにも重点をおいて検査を行うことを検査院には期待したい。

個別不当指向から事業改善指向へ

 資源を経済的・効率的に使用し管理するという管理会計責任(management accountability)を検証するための検査手法が,インプットを最小の金銭コストで調達したかという「経済性」検査及び一定のインプットから最大のアウトプットを生み出したかという「効率性」検査である。

 管理会計責任の具体例は1960年代前半の米国会計検査院の活動に見いだすことができる。第二次大戦期の帳票検査の崩壊ののち,GAOは第二代院長Warrenの決断により帳票検査を各省庁の内部監査に委ね,自らは会計原則の設定と財務管理手続と内部統制の妥当性の検査につとめるようになった。この時代のGAOは,合規性検査をベースにしながら,「経済性・効率性」検査へと活動領域を拡大した。しかし,国防関係の契約をめぐる厳しい検査からついに下院と衝突し,1965年のHolifield Hearingsと呼ばれる事態になった(注12)。

 日本の会計検査院の検査活動では,「合規性」検査から「経済性・効率性」検査への移行は起きている。図2は検査の観点の変遷をまとめたものである。「合規性」検査の割合は昭和43年度の94%から,平成元年の72%へと20ポイントも低下している。「経済性・効率性」検査は昭和43年には5%であったが,昭和53年度には37%というピークを記録したのち,20〜30%の割合を安定して維持している。その理由を探るために作成されたのが「経済性・効率性」検査の変遷を事項別に分類した図3である。

 図3によれば昭和53年度まではほぼパラレルに全事項が増えているが,それ以降は不当が極端に減って,意見表示・処置要求事項及び処置済が件数でみて急増している。特に処置済の増大には刮目すべきものがある。昭和50年代後半以降,「経済性・効率性」検査がいかに変化したかが理解されよう。それを一言でいうならば個別不当指向型から,より経済効果,改善効果の大きい事業改善指向への移行ということになる。

 このような検査指向の転換は直接的には農林水産,建設両省所管の公共補助工事における指摘件数の傾向的減少が引金となっており,こうした現状に対処するため新たな検査手法の開発を検査院が迫られたという事情がある。換言すると個々の事業の適否だけでなく,それを通じて制度そのものないしはその運営に起因する問題点の摘出や補助事業全体としての効率性,経済性の検証を目的とした検査に重点が移行したのである。

「経済性・効率性」検査の内訳

 検査指向の転換に対応して検査手法も変化した。公共工事のハード面について「合規性」の観点から検査していた時代には,検査テーマや事業種目を設定しないで,金額の大きいものを選んで不当事項を摘出する方式が主流であった。しかし50年代後半には年初に向こう1年間実施する検査テーマや事業種目などを設定して,実施検査においてそれに沿って集中的な検査を実施し,問題点を集約するという処置要求指向型の検査に主なマンパワーをふりむけ,残余を従来からの個別不当事項摘出型の検査に充てるという取組みが主流になった(注13)。

情報提供機能の量的不足

 政府が実施する事業が所期の目的・目標を達成しているかを問うプログラム会計責任(program accountability)を検証するための会計検査院の活動が,「有効性」(effectiveness)の観点から行われているプログラム検査(program auditing)である。前述の管理会計責任が行政組織の内部効率化を志向しているのに対して,プログラム会計責任は,ある政策が外部において最良の成果を生み出しているかを問う。プログラム検査に最も古くからそして積極的に取り組んできたのが米国会計検査院(General Accounting Office: GAO)である。

 GAOは行政府に対する議会の「番犬」(Watchdog)としばしば呼ばれる。番犬としての権限には行政のプログラムを評価(program evaluation)したり,勧告(recommendation)したり,公聴会で証言(testimony)したりする等がある。これらの活動はジョンソン大統領が提唱した「偉大な社会」計画や「貧困との戦い」プログラムの目的達成度に疑念をもつ議会がGAOにその評価を命じたことを契機に,第三代院長であったStaatsによって強力に推進された。そして1974年議会予算留保統制法によって連邦政府のプログラムを評価し,その結果を議会に勧告する法的権限が正式にGAOに与えられた。特に政策勧告権は議会機関の中ではGAOだけに与えられている権限である。

 日本の会計検査院の検査活動では「有効性」検査への移行は現在進出中である。「有効性」検査は,意見表示・処置要求事項を通じて行われることも少なくない。しかし「有効性」検査により直接対応しているのは「特記事項」であろう。検査の結果,予算の執行効率などの見地から適切とは認められない事態であるが,相手方の責にに帰することが適切でないため不当事項として批難することになじまず,また問題の根元が深い,あるいは高度の政治的判断を要するなどのため,各省庁等に対して当該会計経理についてあるいは法令,制度等に関して改善処置を要求する(院法34条,36条),あるいは法令,制度等に関し意見を表示する(院法36条)ということにもなじまず,国会,場合によっては国民全体にそれをどのように処理すべきかを選択するのが最も適切であるというような高度の判断を委ねることが必要とされる事態が発見されることがある。

 このような場合,その事態を会計検査院法施行規則第15条のその他必要と認める事項として「特に掲記を要すると認めた事項」の標題の下に検査報告に掲げて問題提起を行っている。これらは通称「特記事項」と呼ばれており,50年度検査報告から掲記されている。62年度検査報告からは,各所管又は団体別に掲記することを止め,新設の「第2章第3節 特に掲記を要すると認めた事項」にまとめて掲記されている(注14)。特記事項で検査院が期待した意図を満足していないと認められる事態が尚5年以上にわたり見受けられる場合は,重ねて特記事項(場合により改善処置要求又は意見表示)として提起される。

 図3には特記事項の推移が描かれているが,創設当初に比較すると近年では件数は減少傾向にあり,必ずしも十分に制度が利用されているとは言い難い現状であることは否定しえない。特に平成元年から平成4年にかけて一件も掲記されなかったことは理解に苦しむところである。「特記事項」は「特定検査対象に関する検査状況」(注15)と並んで情報提供機能の核をなすものであり,国民のニーズは極めて高いものと思われるので,会計検査院の一層の奮起を促したい。

3.「有効性」検査の特質

日米の有効性検査の相違点

 本節では決算検査のケーススタディを行い,日本の会計検査における有効性評価の理解の助けとしたい。一般にはあまり知られていないが,決算検査報告書に文章化されているものの背景には,膨大な作業量を伴う分析・評価や受検機関との緊張をはらんだ実務者同士のやりとり及び書簡上の議論が存在している。検査院内部の審議過程で,これらは定型的な表現に成型・加工されるため決算検査報告を読んだだけでは部外者にはほとんどわからない。ここでは有効性評価の一事例として国の補助金を受けて設置された自転車駐車場(以下「駐輪場」という。)の管理運営に関する検査報告(昭和63年,処置済)を紹介することにしたい(注16)。

 本題に入る前に日米の会計検査院における有効性評価の相違点を指摘しておくことが肝要であろう(注17)。桜田桂氏は次の諸点を指摘している。

(1)評価対象の把握:日本の会計検査院ではGAOのプログラム評価に見られるような施策の包括的評価というよりは,事業主体の責に帰すべきことがはっきりしており,現実的な改善策が取り得る指摘でなければ原則として決算報告に掲記されない。しかし検査報告の背後には施策全般にわたって広範かつ深く事態を見極めようとする努力がはらわれている。

(2)データの収集:GAOでは関連文献のサーベイや関係者からのヒアリングによってデータ収集が行われているが,日本の会計検査院は実地検査によって極力施策に対する原データを収集している。実地検査は有効性検査に関しても非常に有効な方法であるが,投入コストに比べて便益面での情報収集は不十分である。

(3)財政監督機能:GAOのプログラム評価では統制機能は考慮されず,フィードバック機能と情報提供機能が重視されている。これに対し会計検査院の有効性検査では,統制機能を前提にして事態改善のための処置を要求するというフィードバック機能を重視している。しかし,情報提供機能についてはあまり重視されていない。

駐輪場の管理運営の評価

 自転車利用の急激な増大に伴って駅周辺路上での自転車放置が社会問題になっている。建設省は駐輪場を設置する市町村に補助金を交付しているが,その中には駐輪場が設置されていながら,利用されていないスペースがあるのに,周辺の路上に自転車が放置されているものがある。これは設置された駐輪場の事業効果が充分に発現していない事態に相当することから,検査院による検査対象になった。国の補助を受けて設置されている一定規模以上の都市計画に基づき設置した駐輪場は全国で246箇所あるが,指摘を前提にした詳細な調査を行うため,調査対象の要件は次のように決定された。駐輪場が63年4月までに供用開始(検査時点で供用開始後1年以上経過)していること,駐輪場利用率が80%未満であること,概ね駅周辺300メートル以内に100台以上の放置自転車があるもの。刻々変動する状況を客観的に把握するため,過去1年間に市区町村が独自に調査したデータ,さらに実地検査後に期日及び調査方法を指示して都府県立会いのもとで市区町村が調査したデータなど複数回のデータを検討することとした。

 このような綿密な準備の後,会計検査院が75市区町村の駐輪場162箇所について実地検査を行ったところ,13市の14箇所において(駐車できる自転車台数の合計16200台,事業費27億8987万円),利用されていない駐車スペースが計8300台見受けられ,これら駐輪場に隣接する駅周辺の路上には相当数の自転車が放置されていた。検査報告では,放置されている自転車を駐車させることができるにもかかわらず利用されていない駐車スペース計5200台に相当する事業費9億2800万円(国庫補助金相当額4億2300万円)については事業効果が発現していない批難金額と算定した(注18)。

目的体系と業績基準値

 日本の会計検査院は,目的体型の把握に当たり,法令等で明文化されているものに限定し,会計検査院自身による目的の解釈を付け加えることはない。本件では事実関係について建設省と検査院との間の基本的な意見の相違はなかった。しかし事業効果の捉え方に関して両者の見解には大きな隔たりがあった。これは両者の目的体系の捉え方の相違に由来する。建設省が主張する事業効果は駐輪場の設置により,それまで徒歩で駅までアクセスしていた人が自転車を利用することにより通勤時間が短縮されることによる経済的効果,すなわち直接的便益を指す。建設省によれば,この直接的便益は検査院が事業効果が発現しているとして計算している金額(利用されているスペースに相当する事業費)の数倍に相当し,かつ投入した事業費をはるかに上回ることになる。建設省の主張は,自転車利用者の利便性に着目した費用・便益分析の素朴な応用例といえよう(注19)。

 これに対し会計検査院の立論は駐輪場の設置は自転車利用者の利便を目的とするものではなく「放置自転車の解消」であるという観点に立脚している。つまり特定の自転車利用者の利便を図るのではなく,通行上の障害となり,公共施設機能を低下させ,都市景観を阻害する駅周辺路上の放置自転車を解消することが補助金の目的であると捉えている(注20)。このため駐輪場の利用されていない駐車スペースと放置自転車台数のいずれか少ない方を批難台数とし,そのスペースに相当する事業費を批難金額として算定したのである。会計検査院の立論によれば,かりに駐輪場に利用されていないスペースがあっても,そのことだけで施設の全部あるいは利用されていないスペース全部を批難の対象とはしない。要するに,会計検査院は建設省のいう「間接便益」(ただし主目的)が阻害されていることを非難したのであって,数値化こそ行われなかったものの,検査報告の文章(批難金額)でそれを表現したのである。

実効可能な改善処置要求

 検査院の有効性検査の特徴は,単なる問題点の指摘ではなく事態の背景の説明,原因の分析,具体的で実効性のある改善策の提示をそろえたうえでの指摘である点にある。この検査では「放置自転車の解消」の達成度を駅前放置自転車の台数によって直接的に測定しているが,この指標は住民意識というコントロールし難い要素にも強く影響される。評価基準の選定では,通常は事業主体などがコントロールし,あるいは関与することが可能な指標が選ばれるが,この検査ではあえて目的達成度の直接的測定を重視してこれを評価基準にしている。

 駐輪場の立地そのものに問題があるのではないかという意見や10年程度先の需要を見込んで事業計画が立てられているものを設置後1年経過した時点で評価するのは時期尚早ではないかという慎重論が院内審議の過程で登場した。また162箇所の駐輪場を調査したが,指摘箇所は14箇所と少ないことも問題となった。放置自転車対策に関する既存の法令も自転車の放置禁止・撤去等に対しては有効な規程とはいい難いことが調査の結果判明したという(注21)。

 しかし,検査院の指摘は事業実施団体に不可能なことを求めることではなく,あくまでも事業の目的に合致し実現可能なものでなくてはならない。このため放置自転車が比較的解消され,駐輪場も有効に利用されている地方公共団体の例を分析・検討することが最後の決め手となった。その結果,条例を制定したうえで,放置禁止区域を設定したり,撤去の手続きを定め,強制的に即時撤去できる体制を整えていることが多いことが判明する。事態の原因は地方公共団体において駐輪場の利用を促進するための広報活動,駐輪場への誘導,放置自転車の監視・撤去を十分に行っていなかったこと,建設省において地方公共団体による駐輪場の整備計画の策定及び設置した駐輪場の管理運営などに対する指導が充分でなかったことにあった(注22)。

考察

 この検査の特徴は批難金額の算定方法にある。事業効果の評価という場合,通常は「作った施設がほとんど使われていない」などという表現で,事業完了後3年ないし5年以上経過したものについて30〜50%程度しか利用されていないというような場合が指摘の対象になることが多い(注23)。本件の場合,10年程度先の需要予測に基づいて施設の規模を決定している駐輪場が多いにもかかわらず,設置後1年しか経過していない箇所も評価の対象とし,利用率という面でも80%以下という高率の指摘基準をつくり,調査している。

 一般的に,会計検査院では公営住宅の新築空家等の場合のように「入居希望者がどれだけいるか」というような推計・事業計画の見込み違いを批難しなければならないため,より安全に幅を見て,既に相当の年月が経過して好転の見込みがなく,利用状況が悪いということで「失敗であった」ということが誰の目にも明らかになっているもののみを批難する傾向がある。しかし,本件の場合には現に周辺の路上などに自転車が放置されている状態が続いていて,駐輪需要そのものがないわけではないので計画そのものを批難するものではなく,放置自転車の利用者に対して駐輪場を利用させる適切な指導の有無という管理面を批難する形態をとっているので,たとえ計画目標年までいかに間があろうと,少々利用率が高かろう(注24)と指摘の対象にしている。

 つぎにGAOの報告書の紹介を行い,日米の検査活動の相違点をミクロレベルから明らかにしよう。

4.金融デリバティブのリスク管理及び規制の評価

 GAOの報告書が政策の立案・決定過程に影響力を与えた最近の例としては,金融デリバティブのリスク管理についての1994年の報告がある(注25)。GAOの報告書は,上院及び下院の銀行委員会(Banking Committee),上院のエネルギー・通商委員会の小委員会(Energy and Commerce subcommittee),上院及び下院の農業委員会(Agricultural Committee)の5つの委員会からの要請に基づいて行われた調査をまとめたものである。ワシントンのGAO本部で行った聴取によれば,デリバティブに関しては国民の関心が高くマスメディアでも取り上げられているので,議会の要請がくる前にGAOの側で調査が開始されていたことが分かった(注26)。

問題の背景

 1970年代の初頭,主要先進国がブレトンウッズ体制下の固定相場制度から変動相場制に移行して以来,外国為替相場のボラティリティーが高まった。金利自由化に伴って利子率のボラティリティーも高まった。金融デリバティブは,金利・為替及び商品価格の相場変動リスクを回避する手段として,国際的に急激に発達・普及してきた(注27)。デリバティブ取引の潜在的リスクを銀行監督当局に初めて認識させたのは,90年2月に起こった有力証券ドレクセル・バーナム・ランベース(Drexel Burnham Lambert)の系列会社の倒産であった。そして92年1月のコリガン・ニューヨーク連銀総裁の講演を契機にデリバティブに関するリスク研究が本格化した。しかし当初は深刻な損失事例がなかったこと,93年7月に民間金融専門家30人から構成されたGroup of Thirty(注28)の報告書Derivatives: Practices and Principleが楽観的な見通しを表明したこと等の事情により,一時緊張は緩和した。しかし94年4月には家庭用品大手のプロクター・アンド・ギャンブルが金利スワップに失敗し,1億5000万ドルの特別損失を出したため,アメリカでは一転して危機感が強まり,規制論議が活発になった。当事者である財務省・連邦準備制度理事会などの金融当局及び銀行は規制強化に反対しているが,議会では逆にデリバティブ取引を規制しようとしている。

目的と手法

 このような背景のもとに,上院及び下院の5つの委員会からの調査依頼がなされ,GAOが金融デリバティブを調査することになった。報告書作成の第一段階はscopingと呼ばれているが,委員会からの調査依頼は店頭デリバティブのみに限定されていた。しかしGAOと議会スタッフとの交渉を経て,目的は次の5点の解明に決定された。

(1)デリバティブの利用状況とその本質

(2)デリバティブのリスク管理

(3)デリバティブ規制の問題点

(4)デリバティブに関する情報開示と会計基準

(5)デリバティブ取引と規制の国際的動向

 第二段階はdata collection and analysisである。このため連邦準備制度理事会(FRB),証券取引委員会(SEC)等の情報に基づいて15の主要ディーラー(銀行,ディーラー・ブローカー,保険会社)を選定し(注29),デリバティブ市場の規模,集中度などを把握するための詳細なサーベイを行った。リスク管理と規制に関しては,証券会社,銀行,年金基金,生命保険,業界団体,信用格付け機関,金融当局,国際機関などのインタビューを行った。ディスクロージャー強化と会計基準の整備に関しては,Generally Accepted Accounting Principleのレビューを行い,財務会計基準審議会(FASB)のスタッフと討論した。国際的なデリバティブ取引の情報把握のためオーストラリア,フランス,ドイツ,日本,シンガポール,スイス,イギリス各国の専門家にインタビューを行った。

 また7つの国際機関,すなわち国際決済銀行(BIS),欧州共同体(EC),証券監督者国際機構(IOSCO),世界銀行(WB),国際スワップ=デリバティブ協会(ISDA),経済協力開発機構(OECD),バーゼル銀行監督委員会(BCBS)の各々にインタビューを行い,デリバティブ規制の国際的側面について情報を収集した。

 第三段階はmessage developmentであり,分析されたデータから政策的含意が導かれる。デリバティブ規制はきわめて論争的なテーマなので,データを分析したものに規制当局者を始め会計検査院院長のBowsher自身も目を通し,出来上がったものに対しては各省庁の意見をもとめた。スタッフによって報告書が作成されると関係者が集められ3時間程度でレポートに目を通し,そのコメントを受けて修正が加えられた後,議会の各委員会の議長宛に提出されている。以下では報告書の主要部分を簡単に紹介しよう。

デリバティブ取引の急増と主要ディーラーへの集中化

 第2章ではデリバティブ取引の規模と特徴が統計とインタビューに基づいて分析されている。報告書は「デリバティブ取引には世界的な取引急増,少数ディーラーへの集中,金融的リンケージの強化といった特質があるので,突然の失敗や一部主要ディーラーの取引からの撤退が連鎖的に波及して流動性問題を引き起こし,さらには連邦政府が保証する金融機関や金融システム全体を深刻なリスクにさらす危険性がある」と述べ,デリバティブ取引のもつ潜在的なリスクを明瞭に指摘している。

表1 デリバティブ想定元本の推計(1989-92年)

単位:10億ドル

デリバティブの種類 1989 1990 1991 1992 比率(92年) 増加率
(89−92)
フォワード            
金利 $770 $1160 $1530 $2005
為替相場 2264 3277 4531 5510
フォワード小計 $3034 $4437 $6061 $7515 42% 148%
フューチャー            
金利 1201 1454 2159 3048
通貨 16 16 18 25
株価指標 42 70 77 81
フューチャー小計 $1259 $1540 $2254 $3154 18% 151%
オプション            
上場・金利 38760010731385
店頭・金利 450 561 577 634
上場・通貨 50 56 59 80
上場・株価指標 66 88 132 164
オプション小計 $953 $1305 $1841 $2263 13% 137%
スワップ            
金利 1503231230653851
通貨 449 578 807 860
スワップ小計 $1952 $2890 $3872 $4711 27% 141%
デリバティブ合計a $7198 $10172 $14028 $17643 100% 145%
デリバティブ合計b$4934 $6895 $9497 $12133    

(資料)GAO, FINANCIAL DERIVATIVES Action Needed to Protect the Financial System, GAO/GGD-94-133.

注:デリバティブ合計aは,為替フォードを含み,デリバティブ合計bは除外した合計。

 このため個別企業の財務報告や連邦準備制度の作成した9種類の既存データベースを加工して,表1にあるように,1992年末のデリバティブ取引の想定元本を独自に推計した。第一の事実発見はデリバティブ取引の急速な拡大である。わずか3年間でデリバティブ取引は2.5倍に増大し,92年末現在の全世界の想定元本は17兆6430億ドルに達している。運用対象別では金利が全体の62%,為替相場が37%,商品・株価は1%を各々占める。タイプ別ではフォワード(forwards)が42%,スワップ(swap)が27%,フューチャー(future)が18%,オプション(option)が13%である(注30)。

 第二の事実発見は,店頭デリバティブのディーリングの少数ディーラーへの集中である。日本のデリバティブ市場は参加者が限定されているが,アメリカの場合は銀行以外にも証券会社,生命保険,年金等の機関投資家及びブローカー・ディラーがディーリングを行っている。一方,エンドユーザーも500以上の銀行をはじめとして,証券会社,生命保険,州・地方政府,年金基金,商社など幅広い。しかし店頭デリバティブのディーリング業務は少数の金融機関に集中している。全世界の店頭デリバティブの想定元本の2分の1はアメリカに,さらにアメリカ国内についていうと銀行では上位7行に90%以上が,証券会社では上位5社に87%が集中している。

リスク管理の不備

 リスク管理の第一義的責任は規制当局ではなく,民間の取締役会及び上級管理者にある。強力なコーポレイト・ガバナンスこそリスク管理を成功させる条件である。しかし,主要ディーラーのリスク管理(注31)を調査対象とした第3章で,報告書は「リスク管理改善を促す措置は,民間にも連邦規制当局にもない」とリスク管理の不備を厳しく指摘している。

 1990〜92年にかけて規制当局は金融機関検査を行ったが,銀行のリスク管理に深刻な弱点があることが判明した。ところが1993年7月にGroup of Thirtyの報告書Derivatives: Practices and Principleがリスク管理改善のためのガイドラインを公表したのを境にして,様相が変わった。報告書の付録として約80のディーラー調査が行われた結果,「主要ディーラーは勧告の趣旨に沿ったリスク管理をより完全に行っている」と指摘したからである。これを受けて通貨監督庁(Office of the Currency)及び連邦準備制度(the Federal Reserve)もまた,Group of Thirtyの示したガイドラインとほぼ同じものを公表した。

 GAOは主要ディーラーにインタビューしたが,リスク管理改善はGroup of Thirtyと規制当局のガイドラインに従って順調に行われているとの回答をを得た。しかしGAOは綿密な調査に基づいて「Group of Thirtyの勧告には強制力がなく,また規制当局による銀行のためのガイドラインもごく一部の銀行にしか適用されていない」とリスク管理の不備を厳しく指摘している。

 事実,91年の連邦預金保険公社法の改正(Federal Deposit Insurance Corporation Improvement Act of 1991)の際,議会は金融機関倒産の原因のひとつがコーポレイト・ガバナンスの脆弱性にあると判断していた。このため同法では内部管理システムに対する包括的評価,独立性を保障された監査委員会の設置,外部監査による経営評価の三条件を大銀行に義務づけた。しかしFDICIAの求める3条件はかならずしもすべての主要のディーラーやエンド・ユーザーに適用されているわけではない。

デリバティブ規制の不整合

 規制当局によるリスク管理の手段は,情報開示,自己資本比率,検査の3つのである。この点に関し報告書は「店頭デリバティブの主要ディーラーに関する基礎的規制は存在しない」と述べ,規制の不整合と弱点を厳しく指摘している。

 第一に通貨監督庁(OCC)に監督されている銀行は年次検査を受けるが,証券会社や生命保険には監督官庁の検査がない。第二に銀行は信用リスクに備えるためのデリバティブの調整価値の8%相当の自己資本保持が義務づけられているが,証券会社及び生命保険にはそのような条件の義務づけがない。第三に当局に対する情報報告義務があるのは銀行と証券のみである。情報の内容も4半期ベースの想定元本にとどまり,取引相手の信用度やデリバティブ収入の源泉・金額などは含まれない。

 報告書が特に注目しているのは,規制の対象とならない店頭デリバティブのディーラー,すなわち証券・生保の活動の急増である。90年からの2年間,デリバティブ取引の成長率をみると銀行が41%であるのに対して生命保険は100%,証券会社は77%に達している。1987年10月のブラックマンデーや1992年のヨーロッパ通貨危機の経験が示しているように,金融的リンケージの増大と少数ディーラーへのデリバティブ取引の集中は,連鎖的な幅広い金融不安につながる危険性をもつ。ディーラーの債務不履行を防ぐため連邦政府が直接介入する必要はないものの,連邦準備制度(FB)には「最後の貸手」として流動性問題を解決する責任があり,納税者の負担に帰結する場合もある。

情報開示と会計基準

 第6章ではデリバティブに関する情報開示と会計基準が検討されている。アメリカではデリバティブ固有の会計基準があるのはフォワードとフューチャーのみであり,他は企業一般の会計基準が適用されている。特にエンド・ユーザーのリスク・ヘッジ活動に関する会計基準はきわめて不完全である。このため規制当局,ディーラー,エンドユーザーは信憑性のあるリスク情報を欠いている。財務会計基準審議会(FASB)は,これまでにリスクと公正価値に関した2種類の情報開示基準を公表してきた。最近では,より包括的な情報開示のため第3の基準を提案している。しかし情報開示を強化しても,それがデリバティブ用の会計基準そのものを代替するわけではない。FASBはデリバティブ取引に適用される包括的会計基準が必要であると判断し,86年頃から改定作業を始めた。しかしリスク・ヘッジ会計をめぐって意見が一致せず改定作業はあまり進捗していない。FASBはヘッジ会計問題の解決方法として時価主義(market value accounting)を俎上にのせてきたが,GAOの報告書が公表される段階では議論は収束をみていない。GAOは,時価主義を究極的には最良の会計基準であると位置づけつつも,新しい会計基準の導入には時間がかかり,短期的な実効性はあまり高くないと評価している。

勧告

 この報告書は議会,金融当局,財務会計基準審議会(FASB),証券取引委員会(SEC)に対して,次のような勧告を行っている(注32)。

(1)議会に対して

  • 証券取引委員会による証券会社・生命保険のデリバティブ取引の監督
  • 横断的な委員会の設置による監督基準の作成

(2)金融規制当局に対して

  • ディーラーに対する取引相手及び源泉別デリバティブ収入の報告の義務付け
  • 全般的リスクに対応した自己資本基準の改善
  • ディーラーのリスク管理の強化と経営責任の明確化
  • リスク管理の評価を含む包括的年次検査の実施

(3)財務会計基準審議会に対して

  • デリバティブ及び金融商品の公正価値に関するディスクロージャーの強化
  • 金融商品全般に適用される時価評価会計の促進
  • ディスクロージャー強化に対応した会計基準の作成

(4)証券取引委員会に対して

  • エンド・ユーザーのリスク管理体制の確立
  • 財務会計基準審議会による会計基準作成とディスクロージャー強化の促進

考察

 この節で紹介した報告書は,国民の間で関心の高まっているデリバティブ問題に会計検査院が真正面から取り組んだ成果である。たしかにGAOの調査・分析は現存する規制の不備と弱点はデリバティブ取引の急増に鑑みて,一刻も早く是正される必要があるという一点に収斂している。しかし,この報告書は他方で,「米国の金融サービス産業の競争力の源泉である革新と創造性は過剰な規制によって損なわれるべきではない」としている。GAOのスタンスは(1)金融システムの革新性・創造性と(2)金融システム全体の安全性・健全性とのバランス論であって,規制一辺倒ではない点に注意する必要がある。たとえ議会から要請があったからといって,事実を歪めたり,根拠の乏しい政策提言を行なえば,会計検査院の中立性・客観性が損なわれるという良識が働いているものと思われる。

 それに関連して会計検査院でなければ入手しえないような膨大なデータや特色あるヒアリングを行って,非常に信憑性の高いデータを提示していることもこの報告書の長所である。特にデリバティブのタイプ別の想定元本の推計は,議会審議や様々な報告書において必ずといってよいほど引用されており,情報提供機能の模範といえよう。

 さらに報告書の勧告が非常に合理的だと思う点は,デリバティブについて時価会計を整備する前に情報開示をまず優先させて,会計処理が確定する以前からまずディスクロージャーの充実を規制当局や財務会計基準審議会に勧告していることである。日本でも米国のようにまず十分な情報開示を優先させることが現実的である。

 勧告内容について規制当局及び金融界は反発したが,報告書の反響は大きく(注33),議会での各種法案の下敷となったことはいうまでもない。

5.財政赤字削減措置の評価

 GAOは財政赤字問題のようなタイムリーで政策論争の渦中にある問題を数多く取り上げているが,ここでは下院の政府運営委員会(Committee on Government Operation)委員長であるJohn Conyers, Jr.の依頼に基づいて作成された義務的経費の上限設定に関する報告書(注34)を紹介する。

問題の背景

 アメリカでは現在,義務的経費の上限設定をめぐる議論が活発になっている。問題の背景を簡単に要約しておく。財政赤字削減のための立法措置として,1985年,均衡予算及び緊急赤字統制法(Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act of 1985, 以下GRH法)が制定された。GRH法は1991年までに歳入と歳出を均衡させることを目標とし,その手段として逓減的な年次別赤字目標額の設定と大統領による自動的一律削減命令(sequestration)とが具体化された。しかしGRH法による削減は「一律的」ではなく項目数にして140,金額でいうと総支出の約60%にあたる経費を「自動的一律削減命令」の対象から除外した。年金生活者と所得保障給付の受益者という2大グループの既得権益を守ろうとしたため,義務的経費の削減は不徹底に終わった。

 1990年予算執行法(The Budget Enforcement Act,以下BER法)によって,裁量的経費には定額の上限(fixed-dollar cap)が設定された。議会は予算決議で予算の総枠を決めるが,それは上下両院の各歳出委員会ごとに配分される。行政管理予算局(Office of Management and Budget)は議会の動向をモニターして,成立した各歳出予算法が予算決議で決められt上限額を超過しないかどうかを監視する。もし超過額が発生した場合には各カテゴリーごとに歳出を一律削減する大統領のSequestrationが発動される。

 BER法による義務的経費の抑制手段にはReconciliation及び赤字中立的なPAYGO原則との2つがある。1974年議会予算法以後,議会は予算決議(budget resolution)において予算総額を決定するようになった。予算決議が義務的経費の削減を要求した場合,該当する歳出委員会はプログラム変更を含む法案を提出しなければならない。これをReconciliationという。義務的経費もReconciliationの対象となっていて,1980年以来11の調整法案が議会を通過している。PAYGO原則というのは,義務的経費の増額及び減税を実施するためには,ネットの赤字がゼロになるように,別の歳入増若しくは歳出削減を義務づけるという原則である。しかし純利子支出と社会保障関係費が対象外になり,PAYGO原則は適用されていない。国防費以外の裁量的経費の1991〜1993年にかけての年平均実質膨張率が5.3%であったのに対して,義務的経費のそれは11.6%であった。

 従来の義務的経費の抑制は裁量的経費に比べて不徹底であるので,義務的経費に上限を設定し,その拡大を抑制することに議会内外の関心が集まっている(注35)。

目的と手法

 この調査の目的は,

(1)義務的経費の予算上の地位と増大傾向を確認すること

(2)上限設定に関する既存の諸提案を比較検討すること

(3)上限設定の実施上の問題点を検査すること

の3つである。

 これらの目的を達成するためにデータの収集が行われた。義務的経費に関連した予算項目(1995会計年度,436項目)を抽出して,その中から膨張率が年率3.5%を超える11種類の義務的経費を調査対象にした。これらは1993年度における義務的経費の90%以上を占める。次に上限設定に関する諸提案を比較把握したうえで,それを統合したGAO独自の典型的上限Representative Capを設計した。既に議会に提案された上限設定に関する主要提案(注36)の共通点は,プログラムごとに設定される許容支出額がインフレ率と受益者数とによって決定されていること,インフレ率の指標として消費者物価指数を用いていること,一律歳出削減命令はあくまでラストリゾートとして位置づけ,それを回避するためのステップとしてReconciliationが重視されていることである。

 GAOが独自に提案しているRepresantative Capも基本的にはこれらの提案の長所を採っている。すなわち義務的経費をインフレーション及び受益者人口によって調整した前年度水準に抑制するのが,Representative Capの骨子である。例えば1995年度の許容支出額の計算を例にとると,前年度の義務的経費の実支出額を同年度の受益者数で割って単位コストが算定される。この受益者一人当たりのコストに,95年度の消費者物価指数の見積りと同年度の受益者数の見積もりとを乗じて支出許容限度額である上限が算出される。そして95年度の年度末に義務的経費の実支出額が上限と比較されて,前者が後者を超過していれば次年度の上限額から当該超過額が減ぜられる(注37)。つまりGAOが提案した「典型的上限」の特色は会計年度開始時に設定されるのではなく,年度末に設定されるLook-back sequesterタイプに属する。

 最後に行政予算管理局の職員及び11のプログラムに携わる専門家からヒアリングを行ったうえでパネルを組織し,GAOが設計した「典型的上限」を各プログラムごとに提示して,義務的経費に対する上限設定の予想される効果につき各省庁の見解を把握した。

義務的経費の上限設定の有効性

 報告書の中心部分は,第3番目の調査目的にある「上限設定の実施上の問題点」なので,それに関連する箇所を紹介する。

 このような結論を導くためにGAOは各省庁の担当者を対象とするパネルによって大量の情報を収集したうえで,非常に簡単な分析を行い,Representative Capの設定から最も影響を被る義務的経費は,同時に上限設定がプログラムの性格上困難な経費であるという,ほとんど反論の余地のない根拠を提示している。この分析の高い信頼性を裏付けているのは,上限設定が達成しうる量的な財政効果が各プログラム特有の諸性格(design characteristics)に左右されることにGAOが着目していることである。

 第一に資格要件(eligibility)の予測可能性はプログラムごとに異なる。受益者数とサービスが予測困難な場合,上限設定の財政的効果は正確に予測できない。11種類の義務的経費のうち7種類のパネルメンバーは適格要件の予測は困難であると回答した。障害保険(Disability Insurance Component:DI)の資格要件を満たすには身体的健康状態,職歴,所得等に関する包括的調査が必要であるため,節約額の見積には不確実性が伴うが,老齢・遺族保険(Old Age Survivors Insurance:OASI)の場合,人口学的予測に基づいて受益者数を正確に見積もることができる。

 第二は現金給付と非現金給付との相違である。メディケイド(Medicaid)やフォースターケア(Foster Care)のような非現金給付は概してニーズの予測が困難であるが,連邦政府が直接給付する一般公務員年金(Civil Service Retirement System:CRS)では給付額は給与と勤続年数によって算定される。

 第三の要因は連邦,州,地方及びその他サービス提供主体間の責任分担関係である。連邦諸省庁が受益者に影響を与えるような政策変更を行う場合,州をはじめとする実施上のパートナーがその目標に抵触する行動をとる可能性がある。事実,5つのプログラムは連邦政府が単独で運営しているが,残りのプログラムでは実施責任は分散している。複数の主体が費用を分担している場合にも,経費削減の影響がどこに帰属するかを正確に予測できない。

 第四の要因はプログラム間の相互依存関係である。義務的経費の多く−特にミーンズ・テストを必要とするもの−は受益者が重複している場合が多く,あるプログラムの政策変化が他のプログラムに対する需要に影響を与えやすい。7つのプログラムではこのような複雑な相互作用があるが,4つのプログラムでは独立(stand-alone basis)して運営される。

調査結果と議会の考慮事項

 1983年から1993年にかけて,7種類のプログラム(注38)の年平均実質膨張率は6.2%でかなり高かった。したがって,これらの経費は上限設定による削減対象になる可能性が高い。しかし,これらプログラムは制御困難な性質を多く帯びている。6つのプログラムでは適格者予測の不確実性,実施責任の分担,プログラム間の相互作用が指摘され,5つのプログラムでは非現金給付という点が,さらに3つのプログラムでは財源の分散という点が節約額の見積りを不確実にする。これに対し残りの4つのプログラム,すなわち諸年金と勤労所得税額控除(EITC)は予測が比較的容易である。しかし支出超過額自体は大きくない。

 したがって,義務的経費の上限設定はある程度の節約に貢献するであろうが,かりにそうだとしても経費膨張要因である適格条件や法律上の給付額の見直しが行われないかぎり,義務的経費の長期的な増大傾向に歯止めをかける効果はほとんどない。これが報告書の結論である。一律削減命令の効果がなく節約不足が発生すると翌年度の削減必要額に追加されるため,一律削減命令を繰り返す悪循環に陥る可能性がある。

 この報告書には勧告は含まれていず,情報提供機能に徹した内容になっている。しかし義務的経費を再検討するひとつの方法として,義務的経費がある目標値を超過した場合にプログラムの変更(適格条件や給付額の見直し)を自動的に議会審議にかけるという代替案をGAOは提示している。

考察

 GAOの分析は政策論争の場にある財政赤字問題を正面から取り上げたものである。しかし,この報告書はどのような歳出削減措置が望ましいかを決定しようとするものではなく,義務的経費の上限設定が実施された場合の効果を事前に予測するという情報提供機能に限定されている。また分析対象からReconciliationによって一律削減命令を回避する潜在的効果を除外し,義務的経費の上限設定が実施された場合に各省庁が直面する問題のみに焦点をしぼって,非常に単純な分析が行われている点がこの報告書の長所である。すなわち11のプログラムに携わる専門家から情報を収集したうえでパネルを組織し,GAOが独自に開発したRepresentative Capを各プログラムごとに提示して,義務的経費に対する上限設定の予想される効果につき,各省庁の意見を収集している。したがって報告書の結論も反論の余地のない客観的かつ中立的なもののみが記述されていて,高度の情報提供機能を果たしている(注39)。

 それと関連して,GAOの行う業績評価は常に議会からの要請を待って開始されるわけではなくて,GAO自身が重要であると考えるテーマについては「自律的」に調査活動を行っている。そもそもGramm-Rudman-Hollings法に関連して,最高裁は同法下でのGAOの役割を違憲とした。しかしGAOは独自の判断に基づき国民が重大な関心をよせる財政赤字問題を引続き取り上げ,優れた報告書を数多く作成している。GAOの報告書に見られるように財政において論争となったテーマについて中立的な立場で客観的な情報を提供していく姿勢は大切である。

6.むすび

 以上では日米の会計検査院の検査活動を比較してきたが,これと米国現地調査の結果を踏まえて(注40),日本の会計検査院の今後の課題をまとめよう。

情報提供機能の強化と伝統的検査の両立

 日本の会計検査院の検査活動の特質は,(1)合規性検査のソフト化,(2)個別不当指向から事業改善指向へ,(3)情報提供機能(有効性検査)の量的不足という3点に集約される(第2節)。いいかえると日本の会計検査院の検査活動は「合規性」検査から「経済性・効率性」検査への移行は起こったが,「有効性」検査への移行はスタートラインに立ったばかりであるといえよう。

 他方では,制度的に独立性が保証され,評価に関する情報を収集する権限を保持している中立的な機関である会計検査院に,政策決定改善を目的とする「情報提供」機能の役割を期待する気運が近年とみに高まっている(注41)。

 米国ではvoucher auditは各省庁に委ねられ,財務諸表検査も各省庁に置かれている監察総監(Inspector General)が行ったものをGAOがチェックする仕組になっている。今日,財務諸表検査は10%にすぎず,残り90%はプログラム検査で占められている。会計機関と検査機関の職務を分離して,検査機関として純化していったGAOは現代的な会計検査組織のモデルといえよう。

 しかし伝統的な会計検査の役割の重要性は少しも減じているわけではなく,合規性・正確性の伝統的検査によって公共部門の腐敗は抑えられ,その抑止効果は見逃せないものがある。米国でも復員軍人省や住宅・都市開発省のスキャンダルをきっかけに,連邦財務管理システムの改革がきわめて重視されている。事実,1982年のFederal Managers Financial Integrity Act及び1990年のChief Financial Officers Actという重要法案の成立にGAOは大きな貢献をした(注42)。

 根拠法である会計検査院法(注43)で伝統的な統制機能が義務づけられている日本では,社会保障関係費の膨張を背景として「合規性」検査のソフト化が進んでおり,情報提供機能の強化と伝統的検査の両立を図ることが現実的な選択だと思われる。現状では「合規性」,「経済性・効率性」及び「有効性」検査の比率は件数ベースで75:20:5となっていて偏りが見られるが(第2節),将来的には「有効性」検査による情報提供機能を大幅に強化するとともに,「合規性」検査による統制機能を合理化することが望ましい。

監査総資源の有効な活用

 日本の会計検査院では公会計監査職員のレベルアップのための講習会等を実施しているものの,INTOSAIの勧告や諸外国の検査院に見られるように内部監査の計画とか監査結果を入手して,これを評価し,それを検査に役立てることは行っていない。

 しかし,会計検査院が行っている調査対象は広範多岐にわたっているので内部監査の結果を利用して会計検査院の活動を軽減し,無用の重複を回避する努力が必要である(注44)。米国では,各省庁の内部監察機関である監察総監(Inspector General)はGAOが定めた監査基準に従って内部監査を行うことによってGAOと内部監査との重複をさけ,効果的な協力関係を持つべきであるということが法定されている。GAOとInspector Generalとの間では相互の情報交換も行われている。ドイツ連邦会計検査院(Federal Court of Audit:FCA)と内部監査機関との連携関係はアメリカ以上につよく,イギリス会計検査院(National Audit Office:NAO)でも内部監査機関との間で定期的に会議を開催し,監査報告や監査経過についての情報交換を行っている。

 「有効性」検査との両立をはかるにも,伝統的な統制機能を合理的に実施することが今後不可欠となるであろう。日本の会計検査院は内部監査の結果を具体的に把握して,これを評価し,それを会計検査に活用して,内部監査を含めた監査総資源の有効な活用を指向すべきだと思われる(注45)。

カレントで重要なテーマの選択

 米国のGAOは,行政府から独立した強力な調査権限をもっている。その予算は議会で決定され,各省庁(CIA, FRBを除く)はGAOが要求するとどのような資料も提出しなくてはならず,スタッフの採用も他の機関から独立して行われる。会計検査院長は議会が選んだ3人の中から大統領が任命するが,任期は15年で,就任後はいかなる政治的圧力からも自由である(注46)。

 このような独立性,特にComptroller Generalの強力なリーダーシップは,プログラム評価のテーマ選択にも反映している。たしかにイギリスのNAOと同じく米国のGAOは議会の付属機関であり,報告書の80%は議会からの要請に基づいて作成されている。しかし議会からの要請を座して待っているわけではなく,GAO独自の課題選択や調査活動を行うことが少なくない。特に現院長であるBowsherのリーダーシップは,われわれが想像している以上に強い。その点は本稿で紹介したデリバティブ規制と財政赤字削減措置に関する2つの報告書の作成プロセスを想起すれば充分であろう(第4節,第5節の「考察」部分)。

 GAOの組織は6つのdivisionから構成されるが,日本のように行政省庁別に対応したものではなく,現実の行政プログラム別に組織されていて,それぞれが更に検査領域別に36のIssue Areaにわけられている。スタッフの割当はIssue Area単位で毎年行われるが,その決定はBowsher院長自身が判断している(注47)。

 日本の会計検査院は内閣から独立しているが,国会にも属さない独立機関として位置づけられているため,法律にのみ従い,他者から影響されることなく検査活動を実行している。したがって,議会からの要請を受ける米国方式は日本にはなじまない恐れがあるが,何らかのかたちで議会の問題意識を反映することが望ましい。また検査院独自で課題の選択を行う場合には,トップダウン方式で問題点のサーベイを広く行って,カレントでかつ国家の抱える重要な問題を取り上げていくことが重要である。そして場合によってはプロジェクト分野別の組織編成をも視野に入れる必要があると思われる。

情報提供機能と人的資源管理

 日本の会計検査院では「有効性」検査への移行は始まったばかりであり,情報提供機能は量的に不足している。しかし会計検査院の「有効性」検査は質的に見ると十分にGAOのプログラム評価に匹敵し,分析の深さにおいて凌駕しているといっても過言でない。駐輪場の管理運営の評価で見たように,日本の有効性検査は単なる問題点の紹介ではなく,事態の背景の説明,原因分析,具体的で実行性のある改善策をそろえたうえでの指摘となっている(第3節)。

 しかし会計責任の追及が可能な施策のみに検査対象を限定する嫌いがあるので,過度に厳密な原因分析や指摘金額の計算に拘泥することなく,カレントで重要な問題を意識的にとらえようとする姿勢が大切である。GAOのプログラム評価では統制機能を考慮しないで,議会に対する情報提供機能とプログラム実施機関に対する勧告を通じたフィードバック機能に徹している。

 事実,GAOは93年度に979本の報告書を議会に提出し,190回の議会証言を行っている。それによる財政的便益は145億ドルと見積もられている。また勧告提案は1600以上にのぼり,その約4分の3は4年以内に実施される(注48)。プログラム評価へ検査活動を移行する過程では人的資源管理が最重要になることはGAOの歴史が証明している。1950年代のGAOは,100%が公認会計士によって構成されていた。現在のスタッフは4500人であるが,会計士は20%にすぎず,大多数は専門的経歴をもつスタッフで構成されている。この変革は内部の強力な抵抗によって15〜20年を要したが,外部からの専門家を雇ったり,中途採用をしたりしたのではなく,内部の人間を再教育したことが重要である(注49)。

 人的資源管理の方法にはイギリス会計検査院のように外部のコンサルタントに業務委託したり,フランス会計検査院のように高い専門的能力を有する者を高級官僚から中途採用する人事管理もありうる。しかし日本ではGAOのように検査院内部で再教育し,専門的能力を備えた人材を育成していくべきであり,研修システムの抜本的強化をはかることが望ましい。

注:

(1)米国現地調査は1994年9月に行われた。調査団の構成は宮川公男(財団法人統計研究会理事長,一橋大学教授),帆刈信一(会計検査院上席審議室調査官),大山博史(財団法人統計研究会調査部長)及び筆者である。調査結果全般については統計研究会『会計検査の現状の比較制度論的研究−米国を事例として−』1995年を参照されたい。

(2)代表的なものとして,桜田桂「プログラム評価とわが国会計検査院による事業・施策の有効性の検査」『会計検査研究』第3号及び金本良嗣「会計検査院によるプログラム評価−アメリカGAOから何を学ぶか−」『会計検査研究』第2号をあげることができる。本稿もこの2つの業績に負うところが大きい。

(3)会計検査院『この10年のあゆみ(1980〜1989)』1990年刊では昭和54年度に遡って,観点別に掲記事項が例示されている。

(4)掲記事項の分類・推計結果は,会計検査院事務総長官房審議室研究班の協力に基づいて筆者が行った非公式のものであり,会計検査院の公式見解ではない。

(5)受検機関及び学識経験者への調査としては日本システム開発研究所『パブリック・アカウンタビリティと会計検査に関する調査研究報告書』1991年3月が参考になる。それによれば「今までどの観点で検査されたことが多かったか」という質問に対して,全体では47.1%が「合規性」について検査されたことが多かったと答え,続いて「経済性・効率性(31.5%)」,「正確性(10.3%)」,「有効性(9.3%)」であった。有効回答数は607。

(6)統計研究会『会計検査の現状の比較制度論的研究』1994年,45〜66頁。

(7)会計検査院『この10年のあゆみ(1980〜1989)』1990年,303〜305頁。

(8)清水淳哉氏(現事務総長官房審議室研究班副長)のご教示による。

(9)厚生省関係の検査は以前は「厚生検査課」という一つの検査課が行っていたが,昭和59年に「上席調査官(厚生担当)」が創設され,事実上二課体制になった。62年12月にはそれを編成替えして「厚生検査第二課」とし,平成3年12月には「上席調査官(年金担当)が創設され事実上三課体制となり,職員も増員されて現在に至っている。

(10)平成3年度決算検査報告では支給不適切は4人,680万円でしかなかったが,新しい検査方法の導入によって,平成4年度には1421人,指摘金額は20億円に急増した。これに保険料の徴収不足分をあわせると,検査報告の指摘額の25%になる。

(11)沢田達也「米国会計検査院(GAO)のプログラム評価導入(4)」『会計と監査』1995年5月を参照。

(12)GAOの変遷については,つぎの文献が簡潔で便利である。Harry S. Havens, The Evaluation of the General Accounting Office: From Voucher Audits to Program Evaluations, 1990, GAO/OP-2-HP.

(13)会計検査院『この10年のあゆみ(1980〜1989)』,272〜279頁。

(14)昭和40年代においては,当局あるいは国会に問題を提起してその打開を図る必要がある場合,会計検査院はその所見表示の場を各所管,団体別の事項の冒頭に求めていた。しかし,これらの検査報告について「(ア)国民が重大な関心を寄せていると考えられるような投資効果発現遅滞の大きな事態が掲載されているとはいえない。(イ)掲載されている事項も,決算及び業務の概況に関する記述に埋没して,掲示しようとする事態が必ずしも浮き彫りにされているとはいえず,別途に説明や資料を求めないかぎり事態についての具体的な認識は得られず,批判の素材となし得ない。」という意見が聞かれ,特に(イ)の意見のうちには「殊更に明示を避け,具体性を欠く表現で概説に埋没させているような印象さえ受ける。概説というような漠たる場ではなく,もっと事態を明確にするように,その場と内容を考慮すべきである」というような批判さえある状況であった。そこでこれらの概説記述という方式を一歩すすめ,独立のグループを設けて事態を明確に掲記しようとするものが特記事項である。

(15)検査報告における掲記事項の一つとして「特定検査対象に関する検査状況」が施行規則第15条により平成2年検査報告から掲記されている。これは指摘又は問題提起には至らないが,国民の関心が極めて高い問題についての検査の状況を検査報告に掲記するものである。

(16)本説の記述は,本件を直接担当された佐藤信孝氏(現会計検査院防衛検査第3課)の懇切丁寧なご教示に基づいている。記して謝意を表したい。

(17)桜田桂「プログラム評価とわが国会計検査院による事業・施策の有効性の検査」『会計検査研究』第3号,1991年を参照。

(18)会計検査院『昭和63年度決算検査報告』210頁。

(19)この場合,駐輪場がつねに満車の状態で耐用年数の30年間利用された場合に予定される便益と現実に発生した便益との差額を投入金額と対比する考え方もありうる。

(20)駐輪場設置への補助金は,建設省都市局所管の街路事業の一環として交付されているため,法令・補助要綱・管理要領などは特に定められていない。しかし公表されている補助金の採択規準には「放置自転車の問題が深刻化している現状に鑑み,街路事業の一環として補助する」旨が明記されている。故に本件では会計検査院自信による目的の解釈を付け加えたものではなく,法令や公表資料で明文化されているものに目的を限定している。建設省都市局監修「都市局所管補助事業実務必携」による。

(21)放置自転車対策に関する法令としては「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」,「道路交通法」,「道路法」などがある。

(22)検査院の指摘に基づいて建設省は平成元年11月に都道府県等に対し通達を発するなどして,地方公共団体に駐輪場の利用の促進を図るための広報活動,駐輪場への誘導,自転車駐輪の規制の実施を行わせるとともに,駐輪場の管理運営について定期的に報告させ,その利用の促進を指導するなどの処置を講じた。

(23)佐藤信孝氏のご教示による。

(24)検査報告は,利用率71.3%という比較的利用率の高い箇所についても批難している。

(25)FINANCIAL DERIVATIVES Actions Needed to Protect the Financial System, GAO/GGD-94-133.

(26)報告書の作成プロセスについては,GAO本部のThomas M. McCool氏(Associate Director General Government Division)のご教示を参考にした。

(27)市場参加者は,相場変動リスクの危険回避,レバレッジ効果を利かせた投機,有利な資金運用・調達手段の確保等の諸目的をもってデリバティブ取引に参入する。取引の形態には,取引所を通さない相対取引で約定期間などを自由に設定できる店頭デリバティブ(over-the-counter,OTC)と,不特定多数の参加者が一カ所に集まって一定のルールのもとに取引する取引所デリバティブ(exchange-traded-derivative)との2種類がある。日本では後者が格段に多いが,国際的には顧客のニーズにきめこまかく対応した店頭デリバティブが市場を牽引している。

(28)Group of Tirtyは中央銀行,銀行,証券会社の代表及び学識経験者からなる民間金融専門家30人のグループ。

(29)GAOのサーベイ対象となった主要ディーラーは以下のとおり

 1 銀行:Chemical Banking Corporation, Citicorp, J. P. Morgan & Co., Inc., Bankers Trust New York Corporation, The Chase Manhattan Corporation, BankAmerica Corporation, First Chicago Corporation,

 2 証券:The Goldman Sachs Group, L. P., Salomon, Inc., Merrill Lynch & Co., Inc., Morgan Stanley Group, Inc., Shearson Lehman Brothers, INC.,

 3 生命保険:American International Group, Inc., The Prudential Insurance Company of America, General Re Corporation. (GAO,FINANCIAL DERIVATIVE, Appendixより)

(30)フォワード及びフューチャーは将来の価格を予想したうえで,前もって価格,数量,決済日を決めて取引する先物取引をさす。相場変動の危険回避及びレバレッジ効果を利かせた投機がその主たる目的である。フォワードは店頭で,フューチャーは取引所で取引される。オプションは通貨や債券を一定の基準価格で購入したり(コール・オプション),売却したりする(プット・オプション)権利をさす。前者は対象の市場価格が基準価格を超えた場合,後者は下回った場合に利益が発生する。ただしオプションはフォワード,フューチャーと違って権利行使はかならずしも義務ではない。購入者は利益が発生しない場合に権利を放棄することができ,損失は最初に売り手に支払ったプレミアムにとどまる。オプションの利用目的はフォワード,フューチャーと同じであるが,店頭取引・取引所取引のいずれの形態でも購入できる。スワップは異なる通貨を交換する取引や固定金利の借入れを変動金利と交換するなどの取引をさし,相場変動リスクの回避ないしは有利な資金運用・調達手段の確保を目的として店頭取引で成立する。他のデリバティブに比べて取引費用が高いため投機のための利用は一般的とはいえない。

(31)デリバティブのリスクには信用リスク(取引相手の債務不履行に起因する損失),市場リスク(債権や金利などの市場価格が期待と逆方向に変動した場合に財務内容が悪化するリスク),法的リスク(裁判所や規制当局の行動が,契約を無効にしたときに発生するリスク),運営リスク(システムの不備や人為的ミスによるリスク)の4種類がある。

(32)GAO, FINANCIAL DERIVATIVES, Chapter 8.

(33)GAO本部のThomas M. McCool氏(Associate Director General Government Division)によれば,報告書は当初15000部作成したが,リクエストが殺到して在庫切れになったという。

(34)GAO, BUDGET POLICY Issues in Capping Mandatory Spending, GAO/AIMD-94-155.

(35)例えば,1993年包括予算調整法(1993 Omnibus Budget Reconciliation Act)に付随して公布されたExecutive Order 12857において,義務的経費の目標値が設定された。

(36)The CSIS Strengthening of America Commission, Option for Implementing the Mandatory Cap, The Entitlement Control Act of 1994.

(37)報告書の付録には「典型的上限」を11の主要プログラムに適用した結果が掲載されている。それによれば10のプログラムで1990年の目標額を超過して支出されている。

(38)この7種類のプログラムに含まれるのは児童栄養補給(Child Nutrition),障害保険(DI),連邦公務員医療給付(FEHBP),フォスターケア(Foster Care),メディケイド(Medicaid),メディケア(Medicare)及び補足的所得保障(SSI)である。

(39)米国では日本に比べて予算編成に関する議会の主導権が強く(特に74年議会予算法以降),行政府が財政赤字削減に有効なイニシアティブを発揮できなくなっており,そのことが財政赤字拡大のひとつの要因になっている。したがって,日本の会計検査院にGAOの開発したRepresentative Capを財政赤字削減の手法として紹介することはそれ自体としてあまり有益とはいえない。

(40)この節は,統計研究会『会計検査の比較制度論的研究−米国を事例として−』1995年刊に依拠している。

(41)会計検査院に対する期待については,日本システム開発研究所『パブリック・アカウンタビリティと会計検査に関する調査研究報告書』1991年3月刊が重要である。

(42)GAOのJohn W. Hill ,Jr.氏(Director Accounting and Information Management Division)のご教示による。

(43)伝統的な合規性の検査の根拠は会計検査院法第29条第3号「法律,政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項の有無」である。

(44)この原則は会計検査院の国際組織であるINTOSAIの第8回国際会議で提起され,INTOSAIが定めたガイドラインでも取り上げられている。

(45)内部監査の現状については,会計検査院『第7回公会計監査フォーラム:内部監査と外部監査の連携』1994年刊を参照。

(46)Donald R. Drach氏(Deputy Director Office of International Audit Organization Liaison)のご教示による。

(47)Derek B. Stewart氏(Special Assistant to the Assistant comptroller General for Operations)のご教示による。

(48)M. Thomas Hagenstad氏(Director Office of Congressional Relations)のご教示による。

(49)教育および訓練に関する予算は支払給与総額の3.2%を占めており,ほぼ民間並の投資がなされている。1987年には研修施設がGAOの本部の建物内部に設立され,約50人の研修スタッフが活動している。Rosalind Cowie氏(Training Specialist Training Institute)のご教示による。

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