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第1号

新しい会計検査の確立に向けて——若干の考察——
宮川 公男

宮川 公男(一橋大学教授)

 はじめに

 わが国の会計検査院をはじめとして,主要諸国の最高会計検査機関がいずれも,その検査業務を伝統的な合法性(legality),合規性(regularity),準拠性(compliance)といった基準にもとづく財務的監査から,経済性(economy),効率性(efficiency),有効性(effectiveness)の基準をも含めたもっと包括的な監査を志向する動きを見せていることは衆知のことである。このような動きにともなって,新しい検査手法の確立や情報システムの整備が今日重要な課題となっている。会計検査院においてもこの問題にとり組むべく1986年に会計検査問題研究会を設けて今日まで研究を続けており,筆者もそのメンバーの一人として参加してきたが,その研究成果をも踏まえて本稿では業績監査について若干の考察を行ってみたい。

 (注) 本稿では会計検査院および同院の行う会計検査以外については,auditに当る言葉として検査でなく監査という用語を用いることにする。もちろん検査で統一することも考えられるが,その用語が一般的に持つニュアンスを避けるために,あえて統一しなかった。

 1 包括的監査への動きの背景

 上述の包括的監査(comprehensive audit)に関連してはこれまでにさまざまな用語が用いられてきている。すなわち,英語ではfull scope audit, broad scope audit, expanded scope audit, performance audit, program audit, value for money (VFM) auditなどである。

 最高会計検査機関による会計検査がその観点を拡大させてきた背景には,現代社会における政府の役割,特に公共財の供給と,私的利害のコンフリクトの調整の役割の顕著な増大を反映した財政規模の拡大と,それにともなって政府が費消したお金に対してどれだけの価値が実現したかについての国民の関心が高まっていることがある。会計処理の適正さ,合規性や支出の合法性に主眼をおいた伝統的な検査から,経済性,効率性,有効性,政府プログラムの結果の評価,支出に見合った価値の実現などが拡大された検査視点として強調されるようになってきたのである。

 事後的な管理手段としての会計検査のこのような動向は,事前的な管理手段としての予算における機能の拡大と対応したものである。その意味でここで関連づけて考察されなければならないのはPPBS (Planning-Programming-Budgeting System)である。

 アメリカ連邦政府の予算改革の歴史は,マネジメントの道具としての予算が持つ三つの機能と関連づけて,統制中心主義,管理中心主義,計画中心主義という三つの段階が比較的明確に区分される。すなわち,1921年の「予算・会計法」の成立に続くほぼ15〜20年間,支出の統制や不正の防止といったことが焦点であった統制中心主義時代,1930年代後半のニュー・ディール時代以後顕著になった予算の管理機能重視の動きが,1949年の行政組織に関するフーバー委員会の勧告にもとづくパフォーマンス予算(performance budget)の登場によって頂点に達した管理中心主義時代,そして1960年代に出現したPPBSを主役とする計画中心主義の時代である。

 アメリカ連邦政府のPPBSはその後制度的には挫折したが,そのインパクトには絶大なものがあった。本稿の主題である業績監査(performance audit)の起源もPPBSと同じく1940年代のパフォーマンス予算にさかのぼることができ,組織,プログラム,活動,機能にもとづいた予算概念の再編成は,PPBSにとっても業績監査にとっても,ともに中核的な基盤をなすものである。

 PPBSの制度的挫折(決して実体的挫折ではない)の原因についてはさまざまな見解があり得ようが,筆者は一つの重要なポイントとして次のことを指摘したい。PPBSは理想的には全体として閉じた予算サイクルを志向したものといえるが,その実現には大きな基本的問題があった。すなわち,閉じたサイクルは,連邦議会およびそれに属する会計検査院(GAO)と,大統領府およびその下部機構としての行政機関との,立法府および行政府の全体を包含した巨大なものでなければならなかったのである。そしてそこでは,議会と大統領府との相互作用による政策計画と行政機関によるプログラム計画との関係,および行政機関内の内部監査・プログラム評価と会計検査院による外部監査との関係が大きな問題になる。そこで一方では,連邦議会のPPBSに対する関心には絶大なものがあり,議会に対する情報および分析支援能力の強化や会計検査院の活用が強調されるとともに,他方各省庁レベルではPPBSを自機関での閉じた管理システムの一環として位置づけようという動きもあった(労働省がその代表例)のである。

 PPBSがもっぱら公共支出の経済学に基盤をおき,その政治学に目をつぶろうとした限りにおいて,上述の巨大な閉じたサイクルに含まれる政治過程の前に制度的挫折は必然であったといえる。そしてPPBSの基本的思想とそこで培われた分析的能力とは,その後行政プログラムの事後的評価,すなわちパフォーマンス(業績)監査へと大きく向けられることになったのである。

 PPBSの制度としての採用に性急に踏み切らなかったわが国の場合にも,基本的動向はアメリカの場合と同様である。国会と政府行政機関との関係,両者の情報・分析能力の相対的格差,会計検査院の国会および政府に対する相対的近接度などの日米間の相違を考えると,わが国の方が閉じた予算サイクルの形成が容易であると考えられる面もあるが,予算の政治学と経済学の間の隔絶は全く同様である。誰の便益であり誰の費用であるかを原則的に問題にしない経済学的便益費用分析は,意思決定の政治学の前にしばしば無力となるのである。かくしてわが国の大蔵省のPPBSに対する取り組みも,事前的な計画策定や予算編成よりも,事後的なプログラム評価と,予算編成へのそれからのフィードバックを強調する方向に変化していったのである。

 プログラム評価においては,異質的価値間の対立やトレードオフに関する政策決定上の問題に直接関わることなく,政策決定によるプログラム目標を与えられたものとして,それとの関連による評価に徹することができる。いうまでもなく,各省庁レベルにおいても,それぞれのプログラム内部で異質価値間でのプライオリティ決定の問題は存在する。しかしそれらの多くは行政的意思決定の問題として省庁のマネジメント・レベルで処理できる。

 このような省庁レベルでのプログラム評価に焦点が向けられることになると,国家機関の中でそれに責任を持つ最も適当な機関として会計検査院がクローズアップされてくるのである。その主要な理由は二つある。第一に,政府機関内,特に当該省庁の内部監査によるのでは,プログラム評価はプログラムの正当化(justification)になりやすく,客観性・独立性の要請が満足し難いことであり,第二には,以下に詳論するような会計検査における視野の必然的拡大によって,伝統的会計検査とプログラム評価とを密接不可分のものとするアプローチがこれからの会計検査のあり方と考えられるからである。本稿の主題はまさにそのような新しい会計検査の方向を明らかにすることである。そこでまず次節では国家機関全体での予算サイクルの中での会計検査院の役割について考察することとする。

 2 予算サイクルと会計検査

 前節で述べた閉じた予算サイクルを図示したものが図1である。ここでは予算を中心に,サイクルの四つの局面と,関係する国家機関とが図示されている。まず政策レベルでの意思決定を政策計画(policy planning)という言葉で表現し,その政策計画を実現するための施策とそれを構成する諸事業および活動に関する意思決定をプログラム計画(program planning)と名づけている。

 政策計画の主体は,民主主義の原則によれば国会であるが,実質的には議院内閣制の下で国会と内閣との相互作用によるものであり,しかもそこには諸行政機関からの情報・分析支援が強く働く。プログラム計画は,政策計画による政策決定を受けて主として政府行政機関の計画策定ユニットが策定するものであるが,実態的にはプログラム計画のアウトラインは政策計画における情報インプットとなっている。

 プログラム計画によって策定された個々の事業および活動は,諸行政機関および政府関係機関あるいは委任を受けた民間機関によって実施に移される。これがプログラム実施(program implementation)である。この実施プロセスは行政機関の管理・統制システムによる制御の下に行われる。

図1 閉じた予算サイクル

 このようなプログラム実施のプロセスと結果は,関連するルールや計画と照合して監査され評価される。この監査と評価には,各行政機関の内部および行政府の内部(具体的には総務庁行政監察局)で行われるものもあるが,独立性と客観性の要求から外部機関としてこれを行うものが会計検査院である。この会計検査院の検査報告は,国の収入支出の決算書とともに内閣の手で国会に提出され,次のサイクルの諸段階にそれが反映されるものと期待される。

 以上のように国家機関全体としての閉じた予算サイクルを考えるとき,会計検査院のはたすべき役割はその最大限にまで拡大される。伝統的な会計検査は,このサイクルにおけるプログラム実施の段階を対象として行われてきたものである。それに対してこのサイクルでは,プログラム計画はいうまでもなく,政策計画までも監査対象となりうる。しかしながら,このような監査対象の拡大にともなう諸困難,特に前述したような政治プロセスの介入に加えて,監査技術の不完全さや未発達,データベースの未整備などを考えるとき,少なくとも政策計画の段階は除き,当面はプログラム計画の段階までの拡大にとどめるべきであろう。特に政策評価(policy evaluation)の問題は重要ではあるが,それは会計検査院とは別の(しかし密接な関係をもった)機関を必要とすると考えられる。

 会計検査院の組織もそうであるが,その業務は原則的には行政機関(省庁)別に編成され,報告もそれら機関の所管別のものが中心である。そこでわれわれは図1の全体的な予算サイクルに代えて,もっと現実的に省庁レベルでの閉じた予算サイクルとの関連で会計検査院の役割を再考してみることが必要である。図2がそのために描かれたものである。

図2 省庁の閉じた予算サイクルと会計検査院

 ここでは省庁レベルでの政策を具現化するための諸事業の集まりをプログラムと名付け,プログラム計画,プログラム実施,プログラム監査の三段階で閉じたサイクルを描いている。プログラムは諸事業の階層的体系であり,それを構成する諸事業はサブプログラム,さらにサブサブプログラム・・・と呼んでもよい。ここでのプログラム監査は,事業実施のプロセスの内部監査とプログラム評価を含むものである。

 会計検査院の会計検査は,いうまでもなく外部監査としてこの予算サイクルの外部にある。外部監査と異なる内部監査の一つの重要な特徴は,それが任意的な存在であるということである。わが国の組織風土としては公式的な内部監査体制はなじみにくく,監査は自己監査として各管理者の管理責任と考えられる傾向が強い。その意味で図2の予算サイクルは厳密には閉じたものとなっていない傾向があるのである。そこで会計検査院による外部監査は,望ましい閉サイクル機能を補強するものとしてきわめて重要な意義をもつものといえるのである。

 しかし,予算サイクルの中で以上のように位置づけられた役割を会計検査院が十分に果たしうるためには,会計検査の古典的視野を抜け出た広い視野が要求される。次節で検討するいわゆる3Eはその方向への出発点である。

 3 3Eの概念をめぐって

 はじめにも述べたように,拡大された監査を象徴する三つの言葉はEconomy,Efficiency,Effectivenessのいわゆる3Eである。この3Eの定義をめぐってはすでに多くの議論がある。中でもはじめの二つのE,すなわち経済性と効率性については,結局は区別が困難であるとして,経済性・効率性と一括して扱われることが通例となっているようである。例えば米国GAOの監査基準では,拡大された監査(expanded scope auditing)の三つの要素として,(1)財務的および合法規性,(2)経済性および効率性,(3)プログラム結果をあげている。ここで(3)のプログラム結果は有効性とほぼ同義と考えられる。また1986年のINCOSAIに提出された西ドイツ連邦会計検査院の基調報告では「経済性は効率性の不可欠の一部分」としている。会計検査院の会計検査問題研究会の中間報告書でも,「金銭タームで評価しうる場合を経済性,それ以外を効率性としたり,あるいは,資源の調達過程に係る評価を経済性,消費・管理過程に係る評価を効率性とする考え方等があるが,経営会計責任との関係でいえばいずれも公的機関というエージェンシー内部の資源管理に係るものであって,実務上も厳格に区分し難い面もあることから」,両者を一括して扱うとしている。

 確かに両者の区別は難しい。しかしどちらか一方でなく両者を並列して用いるということは,概念的には区別できるからであり,したがって概念的な明確化を試みることは重要であろう。しかし,その上で実務上一括して扱うことが適当であるとすれば,その理由をも明らかにしなければならない。

 筆者は,大まかには経済性はインプットに焦点をおいた概念であり,これに対して効率性はインプットとアウトプットの関係に焦点をおいた概念であると思う。しかし以下ではより突込んだ考察によって三つのEを概念的に明らかにするためにまず図3を用いることにする。この図は後にも用いるために,当面必要なもの以上のものを含んでいるが,ここでは中央の大きな四角(これは一つの機関を想定している)の内部の三つの四角形に注目すればよい。それらはそれぞれ調達,変換(生産),供給という三つのプロセス(ないし活動)を表わしている。すなわち機関の外部から資源を取得して次の変換プロセスのためのインプットとする調達,そのインプットから所望のアウトプットを生み出す変換,そのアウトプットを機関外部に提供して所望の効果を生み出そうとする供給の三つのプロセスである。

図3 概念としての3E

 そしてこの図では,まず経済性は調達プロセスに関わり,所望のインプット資源を最小の金銭的コストで調達することを意味するものとされる。次に効率性は変換プロセスに関わり,所望のアウトプットについて,一定量を最小のインプットで,あるいは一定のインプットから最大量を生み出すことを意味し,これは狭義の生産性と同義である。最後に有効性は,供給のプロセスに関わり,提供されたアウトプットが所望の効果をどの程度達成したかを表わすものである。

 以上のような概念の整理についてコメントしておかなければならないことがいくつかある。

 第一に,ここでは効率性のみが純粋に機関内部的なものとしてとらえられ,基本的には技術的性格のものと考えられている。それはまさに生産関数の考え方である。しかし行政機関の「生産」活動の大半はサービス生産であり,その「生産」関数は技術的な性格とともに制度的および行動的要因をも含むものである。したがってそこでの効率性は純粋に技術的なものとはいえないが,しかし効率性を非財務的(非金銭的)資源に関わる変換効率と考えることが妥当であろう。

 第二に,経済性と効率性との区別があいまいである理由として,economyという言葉が「節約」として一般的に非金銭的資源の場合にも広く使用されるということがある。その一例が省エネルギーというような言葉である。われわれの厳密な用語法に従えば,これは非金銭的資源の費消における効率の上昇が,結果として金銭的資源の節約すなわち経済性の上昇を導くということになる。このように考えると効率性は経済性の一つの源泉であるということになろう。

 上述のことの持つ一つの示唆は,直接的な経済性と間接的な経済性を考える必要があるということである。わかりやすい例で自動車用のガソリンに対する支出の場合を考えると,ガソリンを安い値段で買ったために支出が節約されたとすれば,それは,直接的な経済性であり,キロメートル当りのガソリン消費が少なく上手に走行したために少ない消費量ですみ,そのために支出が節約されたという場合には,それは間接的な経済性であって,ここで根源的に評価されるべきものは効率性であろう。経済性を金銭的タームでの支出に関わるものとして,同じアウトプット(上例では走行距離)を少ない支出(上例ではガソリン代)で,と定義するとき,そこには効率性がその一部として包含されてしまうことを注意すべきなのである。

 第三に,図3では有効性はアウトプットと効果との関係に関わるものと定義されているが,このように供給プロセスのみでなく,その前段階の変換プロセス,さらには最初の調達プロセスをも含む全体のプロセスに関わるものとして定義することも可能である。前掲の自動車走行の例でいえば,効果は正しい目的地に到着することであり,アウトプットとの関係でいえば,有効性は正しい(例えば最短距離の,あるいは最短所要時間の)道順で目的地に着くことであるが,インプットと効果との関係で定義すれば,有効性は最小のガソリン消費量で目的地に到着することとなり,調達過程までさかのぼって有効性を定義すれば,最低のガソリン代で目的地に到着することとなる。しかし注意すべきことは,供給プロセスから他のプロセスをも含むように拡大するのにともなって,有効性の中に効率性,さらに経済性が包含された定義になっていくということである。

 次に古典的な監査基準である合法性,合規性,準拠性と3Eとの関係について考えてみよう。古典的基準はそれらの定義からも明らかなように,3Eと異なり,調達,変換,供給という図2の三つのプロセスのすべてに関わるものである。そしてそれらの基準の遵守は3Eの達成のための必要条件であり,その侵犯は非経済性,非効率性,非有効性の原因となる。したがって古典的基準と3Eの基準とは独立的・排他的なものではなく,単純に並列されるべきものではないというべきであろう。事実,会計検査報告においても,古典的基準と3E基準とが組み合わせて指摘されている事項が多いのである。

 さて,これまで考察の対象としてきた図3は,検査対象として一つの機関のみが関わる場合であるが,実際には当該機関の他に関係する機関が存在する場合が多い。すなわち当該機関の変換プロセスや供給プロセスが他の機関に委任されているような場合である。外注,委託,補助事業などの場合がこれに当る。図4はそのような場合の3Eの関わり方を示したものである。この場合には,当該機関の調達の経済性を検査するために,外部機関の経済性や効率性の検査にまで立ち入ったり(図の外部機関Aの場合),外部機関への供給およびその機関の供給の有効性を検査するために,その外部機関の効率性や有効性にまで立ち入る(図の外部機関Bの場合)ことが行われる。

図4 検査の対象と観点

 ここで実際によくあるケースとして,当該機関のインプットあるいは中間的アウトプットの調達において,その機能が十分でないものが調達されるということがある(例えば次節で触れる新潟大学のケース)。この場合,これまでの説明では経済性の基準で処理されることになるが,それよりもむしろ,所望のインプットないし中間的アウトプットが調達されていないということから,調達の有効性という基準で考える方がわかりやすいとも考えられる。

 このようなことがおこるのは,調達,変換のプロセスにもそれぞれ中間的目的ないし効果があり,したがってそれとの関係で調達および変換のプロセスでも有効性の基準を考えることができるからである。このように有効性の基準を最終的効果との関係のみで考えるのでなく,中間的効果についても認めることは,一般的な目的・手段の連鎖関係を前提とするとき,より実践的な方向といえるかも知れない。

 4 決算検査報告における指摘事項の考察

 以上のような概念整理は,たとえ一見それがいかに明解さを持つとしても,その実践的使用に関してのきびしいテストを受けなければならない。そのようなテストの最善の方法は,会計検査院の決算検査報告における事例説明と綿密な照合を試みることであろう。以下このような観点から『昭和62年度決算検査報告』について若干の検討を行ってみよう。

 まず,調達の経済性基準に反する最も明確な例として,国際協力事業団の国際航空運賃支払のケースがある。これは同事業団の国際協力促進の一環としての開発途上地域よりの研修員の受入れおよび同地域への専門家の派遣に係る国際航空運賃の支払いにおいて,いくつかある支払方式のうちで最も安い方式が選択されていなかったというものである。

 同じく調達の経済性基準に関する例として,法務省の仙台法務局ほか29官署において,変圧器の総容量を適切なものとする配慮がなかったために契約電力が過大になり,その結果電気料金の支払いが過大になっていたという指摘がある。また,これと全く同じことが雇用促進事業団についても指摘されている。同様に,郵政省の郵便局等で業務連絡用に使用するファクシミリの借料が格別の理由なく郵政局間で大幅に異なることから,割高な借料による契約の存在が指摘されている例がある。

 次に文部省の新潟大学における核磁気共鳴断層撮影システムの購入に当たり,受領検査が不適切であったために,特別仕様で定められた機能が全く発揮できない状態で購入がなされたという事例があるが,これは所望のインプットが調達されていないという意味で調達の有効性が満足されていないケースに相当する。

 また,地方公共団体の行う道路事業に対する建設省の補助事業において,工事費の積算が適切でないために補助金が過大となっていたとの指摘があるが,これは関連外部機関(この場合地方公共団体)の調達の経済性を問題にしたものといえる。

 この例のように工事費の積算基準が実際の工事に見合っていないことによる調達の不経済の例は数多く,他にも農林水産省,運輸省,日本道路公団,首都高速道路公団,住宅・都市整備公団,日本国有鉄道清算事業団等が軒並み指摘を受けている。これらの場合いずれも,工事請負先等の民間機関における変換プロセスにおける効率性の実態に比して低い効率性を積算基準としていることが原因であり,外部機関の変換プロセスの非効率性を問題とするのではないにせよ,問題の本質は効率性にあり,調達の非経済性はその結果であるにすぎないといえる。実際にここで調査官に要求されている専門的能力はきわめて技術的なものであり,ここでの検査の中心的な観点は効率性にあると考えるべきであろう。

 検査報告において指摘される事項がきわめて多いものとして,補助金,給付金,貸付などが当該事業のターゲット以外の対象(人,機関,活動など)に供与されているというケースがある。その一例が厚生省の児童扶養手当の支給である。この手当は,父と生計を同じくしていない児童等についてその母または養育者に支給されるものであるが,児童が母の婚姻により母の配偶者に養育されていたり,児童の母または養育者が児童を監護または養育していないにもかかわらず受給していたものが,調査した受給者のうち4.7%もいたというのである。また,通商産業省の中小企業設備近代化資金貸付けにおいて,貸付対象にならない中古設備に対して貸付けが行われていたケースが指摘されている。このほか,厚生省の傷病手当金の支給,農林水産省の畜産総合対策事業における施設設置に対する補助金の支給,労働省の失業給付金の支給,地方公共団体の公営企業の地方債について公営企業金融公庫が当該地方公共団体に対して行う貸付け,中小企業事業団の中小企業高度化資金の貸付けなどにおいて同様の指摘がなされている。

 以上の諸例はいずれも事業のターゲット・グループないし対象事業について明確な規定があり,明らかに合規性の基準に触れるものであるが,その結果事業の目的が達成されず(あるいは目的の達成水準が低下し),所望の効果があげられていないという意味で有効性の基準を満たしていないものといえる。

 公共事業や公共サービスの供給において,そのターゲット・グループ,すなわち誰を受益者とすべきかはきわめて重要な問題である。そして実際の受益者グループとターゲット・グループとの間には完全な一致がないことがきわめて多い。むしろ一致が完全でないのが通例である。このような不一致は,上述の諸例のように合規性の基準に抵触する場合もあるが,事業目的にターゲット・グループとしての資格要件(eligibility)が明確でないために合規性が問題にならない場合も多い。しかし,いずれの場合にもターゲット・グループと実際の受益者グループとのずれは事業の有効性を損なうものと考えられるべきであり,有効性の監査における重要なポイントであるというべきであろう。

 ついでながら,以上のような事例の検討を通じてもう一つ感じることは,調達や供給のプロセスにおいて検査・調査・確認が十分でなかったために発生している不当事項の指摘が毎年きわめて多いことである。しかしながら,怠慢や不注意を別とし,また効率を一定とすれば,「十分な」検査・調査・確認を行うためには行政職員のマンパワーのインプットを余計に必要とするわけであるから,そのような指摘はインプットのコストを十分に考慮していないということができる。しかしいうまでもなく,これはそのような指摘が無意味であるとか,いわんや不適当であるということではなく,調達における供給者や供給における受給者側の不誠実や過誤などに対する抑止としても働き,将来の再発防止に貢献するという意義が十分に認められなければならない。これは会計検査自体のコストとベネフィットを考えるべきことをも示唆しているのである。

 5 業績監査へのアプローチ

 前節では3Eの概念を実際の会計検査の事例に照らしてその実践性についての検証を試みたが,かなりの程度までその実践性を認めることができるにせよ,なお異なった観点からのアプローチが必要とされているように思われる。そこで以下本節ではもう一つの異なった角度からの業績監査へのアプローチを考えてみたい。

 ここでの出発点は業績(performance)がいかなる要因によって決定されるかを考えることである。ここで再び前掲の図3に戻ってみよう。ここでの効果にもとづいて評価される業績は,四つの決定要因によって決定されると考えることができる。すなわち,目標G,オペレーションO,システムS,および環境Eである。この関係を

  業績=f(目標,オペレーション,システム,環境)=f(G, O, S, E)

と書くことができる。

 まず業績は実際の効果を目標と対比することによって評価されるものであるから,目標は第一の決定要因である。この目標(ここではプログラム目標)は,政策計画によって選択されたプログラムの計画,すなわちプログラム計画によって設定されるものである。

 次にプログラムの効果は,オペレーション,システムおよび環境の合成されたものである。オペレーションとはプログラムの実施業務の遂行であり,システムとは組織,標準業務手続き,管理機構,情報やコミュニケーションのシステムなど,オペレーションの行われる体制的枠組みである。プログラムの効果が,そのオペレーションやシステムだけでなく外的環境にも依存することは説明するまでもないであろう。

 以上のような業績の決定図式を出発点とするならば,業績監査がそこでのすべての決定要因に関わらなくてはならないことは自明であり,したがってそのアプローチをそれらの決定要因との関連で体系化するというアイディアも自然に生まれてくる。そこで以下では,業績監査を

 (1) 目標と環境の分析
 (2) オペレーションの監査
 (3) システムの監査

の三つの局面ないしアプローチから構成されるものとして,それぞれについて考察してみることにする。

(1) 目標と環境の分析

 各省庁は国会および内閣のレベルでの政策計画によって決定されたプログラムの目標を明確化し,その目標とプログラムのアウトプットとの関係,アウトプットとそのもたらす効果との関係を明らかにしなければならない。そのためには関連する法律,計画,予算書などからの情報が利用される。目標は業績監査の目的のために必要な明確さをもって規定されていないことが多いが,その場合にはその明確化のために調査官が関係省庁との対話の場を持つことが必要であることもあろう。このようにして明確化されたプログラム目標は,省庁内の関係者特に管理者層にほぼ一様に理解が行き届き,日常的行動の指針となっていなければならない。

 他方,目標は環境との関係で決定されるものであり,環境の変化に対して固定的ではない。目標設定の基礎にある計画においては必ず何らかの環境予測が前提となっており,目標の環境への適応性の確保を問題にするとともに,環境予測の妥当性の吟味と,予測誤差を業績評価においてどのように扱うかについても方針を明確にしなければならない。

 図3において以上のような目標と環境の分析の関わる部分を太線で浮き彫りにして示したものが図5である。

図5 目標と環境の分析

(2) オペレーションの監査

 オペレーションの監査は,プログラムの実施業務に含まれる諸活動がいかに適切に遂行されたかの監査である。すなわち,図6の太線部分で示されている調達,変換,供給の三つの基本プロセスで遂行される活動とそれらのアウトプットを対象とするものである。

図6 オペレーションの監査

 プログラムを実施する各省庁ないしその下部機構をそれぞれ一つの生産プロセスと見なせば,そのアウトプットは法令,規則,指令,調査,訓練,情報,助言,援助,補助等々の何らかの行政サービスであったり,道路,港湾,公園といったような公共財であったりする。このような生産プロセス全体にわたって諸活動が適正に,経済的かつ効率的に行われているか,そして計画されたアウトプットが実際に生産されているかということがここでの問題である。伝統的な検査の諸基準や3E基準がこのオペレーションの監査に関わるものであることは明らかであろう。

(3) システムの監査

 オペレーションはシステムというある枠組みの中で行われる。その枠組みとしては,業務遂行上の責任と権限の配分を定める組織機構,業務遂行の標準手続き,業務遂行上必要な情報の収集・処理・蓄積・伝達の仕組み,賞罰,教育訓練制度などがある。このようなシステムは,一言でいえば省庁の活動全体をその目標に向けてコントロールしていく仕組みである。業績監査は,多くの場合単にオペレーションの監査にとどまることはできず,システムの監査にまで進まなければならない。図7は図3におけるシステムの監査の対象部分を浮き彫りにしたものである。

図7 システムの監査

 業務遂行のために職員がいかに多大な努力を誠実に払ったとしても,システムが悪ければ十分な成果は得られない。組織内の責任や権限の配分およびそれにともなうべき情報の供給が適切でなければ,最適で遅滞のない意思決定が行われず,高い生産性の活動をもたらすことはできない。不適切な人事管理システムの下では目標適合的な人間行動は生まれず,無気力や逸脱的な行動がもたらされがちである。過去の経験や学習が適切に生かされるようなシステムがなければ,プログラム評価の高いコストは十分には償われない。

 このようなシステムの監査は業績監査において不可欠のきわめて重要性を持つものであるが,それは目標と環境の分析およびオペレーションの監査と密接な連携をもって行われなければ最大の効果をあげ得ない。システムの監査の詳細に入る前に,対象機関の目標とその外的環境とについての明確な理解と,いかに諸活動が行われているかについての十分な認識とがなければならないのである。

 システムの監査は現行の会計検査院法においては第36条にもとづくものとして行われるようになっている。その意見表示にはとりわけ客観性と適切性とが要求されるが,そのバランスの達成は決して容易ではない。システムの改善はオペレーションの改善よりもはるかに困難さの大きいものであり,その提案が良い反応をもって迎えられるためにはより広い視野を必要とするものである。

 以上,新しい業績監査へのアプローチについて考察してきたが,その推進のためには何といっても会計検査院の調査官に要求されるきわめて高度の能力をいかに養成していくかが最重要の課題であろう。それとともにすぐれた人材のリクルートが不可欠である。そのためには新しい会計検査の仕事がいかに重要な意義をもち,かつイクサイティングなものであるかについてのPRの必要性が強調されなければならない。

(参考文献)

〔1〕 会計検査院会計検査問題研究会『業績検査手法の検討(中間報告)』1987

〔2〕 同上『業績検査手法の検討(中間報告その2)』1988

〔3〕 西尾勝「効率と能率」『行政学講座』第3巻1976

〔4〕 会計検査院『昭和62年度決算検査報告』1988

〔5〕 宮川公男(編著)『PPBSの原理と分析』1969

〔6〕 山本清「政府部門における業績監査の国際比較と若干の考察」『会計ジャーナル』1987.12

〔7〕 ASOSAI 2nd International Seminar, Performance Auditing As a Means of Enhancing Public Accountability, 1985

〔8〕 INCOSAI XII, Performance Auditing, Sydney Australia, 1986

〔9〕 B. Geist(ed.), State Audit: Developments in Public Accountability, 1981

〔10〕 The Comptroller General of the United States,Standards For Audit Of Governmental Organizations, Programs, Activities, And Functions, 1981 Revision

〔11〕 United Nations, Handbook on Government Auditing in Developing Countries, 1977

〔12〕 Charles L. Schultz, The Politics and Economics of Public Spending, 1968(大川政三・加藤隆司訳『PPBSと予算の意思決定1971』)

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